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アラル村救援
しおりを挟む「改めて救援に感謝します、わたしはアラル村自警団団長、ナーシャ・センチュリオンです」
村中央の集会所、即席で設けられた会議室で、わたしたちはナーシャと名乗ったキャットピープルの女性から自己紹介を受けていた。
ネコミミと長いシッポさえ無ければ、この人はきっと普通の人間にしか見えないと思う。
「状況はご覧になった通りです、森から出現していた【オーガ】に自警団が対処していたのですが、その隙に村が別働隊による奇襲を受けました。あなた方が駆けつけてくれなければ死者が出ていたでしょう」
ナーシャさんはギリッと歯を食いしばった。
「あの、備えとしての防衛部隊は村にいなかったんですか?」
「我々は軍隊ではありません......、オーガ1体ですら追い返すのに精一杯なんです。とてもそんな余力はありません」
亜人保護区に王国軍は常駐していない。
駐屯地が置かれれば、亜人を侵略するというメッセージになりかねないと主張する人間も多いらしい。
けど現実は、こうして保護区からの要請が来ても、王都からでは間に合わないのが実情だった。
「王国軍の駐屯は、やはり難しいのですか?」
「中央の自治政府も反対しています、もう一度人間に虐殺されるのではと......。そのツケは、わたしたち自警団や森に近いキャットピープルの住民が払っているのに」
世論や政治は正直よく分からない。
でも、現場の人たちが相当苦労しているのは伝わった。
「せめてあの子がいれば......」
地図を広げたナーシャさんが、ボソリとつぶやいた。
その言葉に、敏感なクロエが反応する。
「あの娘?」
「あ、いえ! なんでもありません、それより森へ逃げたオーガなんですが――――」
妙に取り繕うように、ナーシャさんは地図上の沿岸近い森を指した。そこは、村からあまり離れていないように見える。
「ここには昔エルフの村がありましたが、今ではもう全滅し、魔物の群生地となっています。あなた方王国軍には、我々と共にこの森へ向かっていただきたいのです」
「森か......、難しいな」
ルクレール戦車長が眉をひそめた。
「戦車長、わたしたちの魔導戦車では深い森に突入するのって無理でしたよね? どうするんッスか?」
魔導戦車もまだまだ発展途上なのか、セリカによるとどうやら運用は平原に限られてしまうらしい。
少しの間重苦しい空気が満ちる中、ルクレール戦車長が顔を上げた。
「......邀撃《ようげき》を行おう、ティナ・クロムウェル騎士長とクロエ・フィアレス。そして自警団の方々でオーガを森からおびき出し、出てきたところを我々の戦車で叩きます」
オーガに並の剣や弓は通らない。
しかし倒すのは無理でも、引きつけるくらいならできるかもしれなかった。
「クロムウェル騎士長、貴官に依存は?」
村に入った時助けを求めてきた亜人の少女が脳裏をよぎる。
もうこれ以上......、ここの人たちの未来は奪わせない。
「依存ありません! オーガ討伐のため最善を尽くします!」
「わたしも依存なーし」
相変わらずマイペースに手を挙げるクロエ。でも、さっきスケルトンメイジの魔法から守ってくれたこともあり、その言葉はとても心強かった。
「我々も異論はありません、魔法を使える者も何人か付け、信号弾も用意します」
自警団の人たちも一斉に立ち上がり、意気軒昂で各々の武器を手に持った。
◇◇
今回オーガをおびき出すにあたり集まった戦力は、キャットピープルの自警団から15人に、わたしとクロエを含めた計17人、それに加え火力支援に魔導戦車という布陣だ。
「こちら誘引部隊、オーガが通ったとおぼしき痕跡を確認、送れ」
薙ぎ倒された木々を前に、通信用魔導具で待機中の戦車に情報を伝える。
魔導具の数が足りないからある程度密集して索敵してるけど、自警団を名乗るだけあって彼らは規律統制されていて、こちらとしてもやりやすくて助かる。
《こちら戦車、了解した。引き続き待機する、送れ》
「了解、終わり」
我ながら飾り気のない声で通信を閉じる。
とりあえず倒された森林と荒れた道を辿ってるんだけど、わたしとクロエは進むこと自体に苦戦していた。
「ひゃっ!? もーまた草ー?」
辟易した表情でプリーツスカートから伸びた脚を気にするクロエが、ガサガサと草の根をかき分けていた。
わたしやクロエのような女性騎士は、動きやすくするためにスカートが制服になっている。
当然露出しているので、草が脚に当たるとくすぐったくてしょうがない。
でも軍ってこういうところは保守的なので、言っても変えてくれないんだろうなー。
なんて思いながら、若干湿った空気の森林を進んでいたその時だった――――
「へっ、うわあッ!?」
突然響いたのはクロエの叫び声。
慌てて見れば、彼女の華奢な体は何本もの根っこ......っというより触手にがんじがらめにされていたのだ。
「何っ......!? これ」
触手の主は地面に潜っていたのか、クロエを持ち上げたまま食中植物のような外見で土の中から現れる。
クロエも抵抗しているけど、触手の数が多いのと、粘液みたいなのが付着しててなすがままにされていた。
「やっ......! 離っ......せッ!」
触手はクロエの手足をガッチリ固め、粘液付きの触手で体中をいじりまわしていた。
「待って! 今助けるから!」
剣を手に、わたしは手前の触手へ斬り掛かるも、次から次に伸びてきていくら切断しても全然近づけない。
「んっ......く、ナイフさえ取れれば――――やぁッ!?」
黙らすように、クロエの服に触手が入り込む。
もうなんかこれ以上時間を掛けたら大変なことになる気がし、わたしは右手の剣に加え、ファイティングナイフを持った二刀流、倍の手数でもって強行突破。
「はあああッ!!!」
クロエを拘束していた触手を一気に斬り刻み、ようやく彼女を開放した。
「ケホッケホッ! うへ~体中ベタベタ......、絶対今日の占い最悪だよ~」
駆け寄ってみると、どうやら外傷があるわけでもなく、付着した粘液と不快感が凄まじそうなだけのようだ。良かった......。
一旦退こうかと思った矢先、再生途中だった食虫植物の触手が再びこちらへ迫る。
「『ファイアボール』!!」
だけどその触手はわたしたちに届かず、あっという間に本体ごと紅蓮の炎に包まれた。
自警団の隊長、ナーシャさんの繰り出した炎属性魔法だ。
「大丈夫ですか!?」
「クロエがベタベタになったくらいです、あいつは?」
「【フードプラント・エルフ】といって、触手で相手を捕まえて対象の魔力を吸う魔物です。元々ここに住んでいたエルフが魔王軍に改造された姿なんでしょう」
魔法に反応した他のメンバーも集まってくる。
でもそれと同時、別の存在が奥の岩影から巨体を現した――――。
「ゴアアアアアアアアァァァァッッ!!!」
魔法に反応したのであろう異形......。
王国危険指定ランク『C』、樹木のような腕を下げた魔王軍の怪物、今回の討伐対象であるオーガだった。
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