魔法王国軍の日常 〜上級冒険者に追放された少女は、レベル0から本気で生き抜いてやると決意したようです〜

たにどおり

文字の大きさ
10 / 47

森林突破戦

しおりを挟む
 
 ――――森の入り口付近。

 待機中だった魔導戦車は再びエンジンを唸らせ、いよいよ無理無茶無謀の行動に出ようとしていた。

「操縦は?」
「問題ありません、どんな悪路でも突破できますよ」

 念入りに、戦車のコンディションを乗組員に確認していく。
 ルクレール2曹が戦車長にあって、欠かすことのできない作業だ。

「弾は?」
「対戦車榴弾をいつでも発射可能ッス!」

 答えは通常にして最高のそれ、各員の報告を受け、ルクレール戦車長は速やかに判断を下した。

「よし、これより我々は孤立した友軍の救援へ向かう! 火事の恐れから許可あるまで主砲の使用は禁止。オーガを射程に据えるまでは《魔導機関砲》を撃ちまくれ!」

 森林地帯の突破、オーガに76ミリ砲をブチ当ててやるため、この血税の塊を動かすのだ。

「戦車前進ッ!!」

 履帯が湿原をひっくり返し、怪物のような轟音が響いた。
 眼前に広がる森林へ突っ込み、小川を頼りに北の海岸を目指す。
 最初こそ順調だったものの、障害はすぐに現れた――――

「前方! フードプラント・エルフ多数! 行く手が阻まれています!」
「報告にあった触手野郎か、戦車の前に立ちふさがるとは良い度胸だ! その心意気に答えるぞ!!」

 ルクレール戦車長が上部の魔導機関砲、セリカが砲塔同軸のそれを動かし、前方の触手群へ向けた。

「撃てッ!!」

 青色の弾幕が張られ、触手はノコギリを振り回されたかのように引き裂かれていく。

 上級魔道士にすら匹敵する火力に加え、超重の車体が地面ごと踏みつぶしていくのだ。
 その光景はさながら"伐採"と"整地"、小川を砕き下りる様は、オーガ顔負けと言って良い。

「こんな川下りもなかなかねえぞ! 今日の風呂はさぞ染みるだろうなあ!!」
「染みるってアザじゃないですかそれぇ! 下手に喋ったら舌を噛みそうッス!」
「優秀な操縦手とヘルメットに感謝しろよ! 飛ばせとばせ!!」

 激しい振動に揺られ、魔法弾をばら撒きながら戦車は突き進む。
 途中、何度もフードプラント・エルフに阻まれるが、そのことごとくが引き裂かれるか踏み潰され、土へと還される。

 潮の香りが鼻を触った辺りで、ルクレール戦車長は通信を行う

「こちら戦車! 海岸へ接近した、信号弾で場所を教えられよ、送れ」

 しばしの交信の後、上空高くに赤色の信号弾が打ち上げられた。
 方角は北北東、もうすぐそこだ。

「操縦手! オーガを補足したら一瞬でいいから停止。合図は俺が肩を蹴ったらだ」
「了解」
「聞いたなセリカ? 戦車が一瞬停まったその隙に撃て! 一発で仕留めろよ」
「難しいッスね~、でもまっ――――当ててご覧にいれますよ」

 戦車というのは動きながら撃っても当たらないのだ。
 チャンスは少ない、僅かな停車の瞬間が許された攻撃時間だった。

 ◇◇

 咆哮を上げながら追撃してくるオーガを背に、わたしたちは無我夢中で走っていた。
 必死に、とにかく距離を詰められないように小川を蹴る。

「支援はまだなのですか!? このペースではもうすぐ追いつかれてしまいます!」

 汗を浮かべるナーシャさんが、並走しながら聞いてくる。

「既にこちらへ向かっています! 我々はこのまま海岸の方へ――――ッ!?」

 こちらの進路を塞ぐように、フードプラント・エルフが壁を作る。
 魔王がいないのに魔物がここまで連携するなんて、聞いたことがない。
 けどそれは後、詠唱を開始したナーシャさんが前へ出た。

「任せてください! 『ファイアボール』!!」

 火炎に包まれる植物群、でも水辺のせいか全てを燃やし切れず目標は健在。
 粘液まみれの触手が槍のように突っ込んできた。

「クロエっ!!」
「了解ティナ!!」

 闇ギルドとの実戦でレベルが一気に上がったこともあり、触手の動きがとても遅く見える。
 大量の触手の壁をさばき、開いた道にクロエが勢いよく突撃。

「開け――――――――ろぉッ!!!」

 クロエ渾身の右ストレートが炸裂し、触手の本体を殴り飛ばした。
 これでもレンジャー騎士と格闘徽章持ち、壁を崩すくらいなら十分だ。

 《こちら戦車! 海岸へ接近した、信号弾で場所を教えられよ、送れ》

 やっと来た! 間に合いそうな希望に、わたしは喜々として通信を取る。

「これより信号弾を発射し、直進します! 正直もうギリギリです!」
 《了解、位置を確認して全速で駆けつけよう!!》

 ナーシャさんから貰った信号弾を真上へ掲げ、引き金を引く。
 真っ赤な信号弾が輝き、わたしたちの位置をさらけ出した。

「ゴアアアアアアアアァァァァッッ!!!!!」

 咆哮が背中を叩く。
 わたしたちは小さな滝を飛び降り、とうとう森を抜けた。
 僅かに直進した先に待っていたのは、しかし想像よりも厳しい現実。

「嘘でしょ......」

 そこは大洋に面した断崖絶壁、わたしたちは完全に追いつめられた。
......いや! それでもまだ可能性はある。

「クロエ、合図で飛び降りるから泳ぐ準備して。ナーシャさんもです」
「えっ、マジ!? ここから飛び降りるの!?」

 真っ先に嫌がったのはクロエ。
 確かに高いし怖い、けれどもう選択肢なんて残ってない。

「大丈夫よ、今は夏に近いからまだ温かいはず」
「いや、でも......わたし浅いプールくらいでしか泳げないんだよ!? もし溺れたら――――」

 陸軍では泳げない者が多い。
 承知の事実だ、それでも悲劇的な最後を待つよりはマシだ。
 わたしはクロエの震える手を握りしめ、叫んだ。

「わたしが必ず助ける!! ペアとして、友達として! クロエがわたしを守ってくれるように―――――――わたしもクロエを必ず助けるから!!!」

 潮風が強く吹き、お互いの髪をなびかせた。
 説得している間にも、オーガは森を抜けてこちらへ迫ってくる、もう時間が無い!

「クロエさん! ティナさんを信じてあげてください! 同じ騎士として、ティナさんの想いを!!」

 途端、わたしの手は温かい手に思いっ切り握り返された。
 黒髪を揺らしたクロエが、覚悟を決めたのだ。

「いくわよ! ――――3ッ!」

 一斉に踏み出す。

「2ッ! ――――――――1!!」

 蒼天に、おそろいのドッグタグを下げ、手を繋ぎながら一緒に飛び降りる。

「今ッ!!!」

 オーガの拳が絶壁を叩き壊した。
 ほぼ同じタイミングで森から飛び出した魔導戦車が、砲塔をオーガへ向ける。

『撃てッ!!!』

 オーガの右側面に走り出た戦車が、突き出た76ミリ砲から対戦車榴弾を轟音と共に撃ち出した。
 オーガの魔法すら弾く巨体が、上半身ごと一発で消し飛んだ。

 戦闘の終了を見届けた直後、わたしの体は吸い込まれるように海中へと沈んだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

​『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規

NagiKurou
ファンタジー
​「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」 国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。 しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。 「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」 管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。 一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく! 一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。

スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。

夏見ナイ
ファンタジー
「役立たず」の烙印を押され、パーティを追放されたアルフォンス。彼のスキルは戦闘に不向きな【土いじり】。失意の彼は都会を離れ、辺境の地で静かに農業を営むことを決意する。 しかし、彼が畑を耕すと、そこから不思議なダンジョンが生えてきた! ダンジョン内では、高級ポーションになる薬草や伝説の金属『オリハルコン』が野菜のように収穫できる。地味だと思われた【土いじり】は、実はこの『農園ダンジョン』を育てる唯一無二のチートスキルだったのだ。 噂を聞きつけ集まる仲間たち。エルフの美少女、ドワーフの天才鍛冶師……。気づけば彼の農園は豊かな村へ、そして難攻不落の要塞国家へと発展していく。 一方、彼を追放したパーティは没落の一途を辿り……。 これは、追放された男が最強の生産職として仲間と共に理想郷を築き上げる、農業スローライフ&建国ファンタジー!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

処理中です...