29 / 47
人材確保
しおりを挟む――――アクエリアスコロシアム 王国軍臨時医療キャンプ内。
個室になったテントで、わたしは簡易ベッドに腰掛けていた。
目論見は完全に失敗した。故郷を救えず、今では悪しきテロリストとして終焉を待つだけ。
エーテルスフィアも破壊され......っというかあの金髪と一緒に壊したんだけど、兵器を盾に政府と交渉というのはもう不可能だろう。
結局――――姉さんにも迷惑掛けちゃったな......。
わたしが後の祭りに浸っていると、テントの布越しに名前が呼ばれた。
「ミーシャ・センチュリオン、王国陸軍連隊長、アルマ・フォルティシア中佐が面会を希望している。大丈夫だな?」
任意という名の強制面会なので、たとえ嫌でも肯定の意を示す。
軍の士官がなんの用だろうか、やられるかもしれない悲痛な拷問や罵詈雑言を覚悟し、その軍人をテントへ入れた。
「面会に応じてくれたこと感謝する、王国軍のアルマ・フォルティシア中佐じゃ。まあまずは座って話そうではないか」
予想に外れてというか下回ってというか、現れたのは小柄で華奢な女性。
口調もやわらかく、とても軍人には見えない。
「それにしても可愛らしいネコミミと尻尾じゃのー、今年でいくつになる?」
「......13です」
「なるほどのー、部下からは炎魔法の使い手と聞いておるが、どの程度使えるんじゃ?」
新手の尋問だろうか......身構えていた分ホっとしてしまうが、ブラフの可能性もあるので警戒はやめない。
「炎は武器に付与したり、弓のように具現化して遠距離攻撃もできます。」
「応用も自由というわけか、やはりおぬしで決まりじゃな」
決まり? 一体なんの......。
「なーにそう身構えんでもよい。単純な話じゃ、わしの部下にならんか?」
「は?」
意味がわからなかった、敵であるわたしを部下に?
妙な策略かもしれないし、そもそも目的が意味不明すぎる。
「わたしはあなたの敵であり、テロリストですよ? 死刑か終身刑の隠語ですか?」
「隠語もヘチマもありはせん。ここで頷くか、"拷問されて牢屋へ生涯ぶち込まれるか"の2択じゃて」
背筋に嫌な悪寒が走る、心臓を握られたような感覚とはこういうことを言うんだろう。
目の前で怪しく微笑む女性士官は、硬直するわたしに続けて言い放った。
「おぬしは確かに罪を犯した、国家反逆罪を犯したテロリストとして明日にでも極刑が決まるじゃろう」
「ッ! だったら――――!!」
立ち上がった瞬間、女性士官は行動を読んでいたように両手首を抑え、わたしを後ろのベッドへ押し倒した。
天井の照明を背に、身動きの取れなくなったわたしへ問いかける。
「残念ながら王国に優秀な人材を遊ばせる余裕は無い、使えるものは何でも使い、借りられるならば汚れた猫の手も借りたいんじゃよ」
「それでわたしに......?」
「嫌なら嫌で別にかまわん、その代わりおぬしは生産性の無い肉袋として牢で一生を過ごすか、裁判で死刑となる」
"死"という単語に本能が無意識に恐怖する。
覚悟していたはずなのに怖い、この期に及んで死にたくないと体が叫ぶように震えだす。
「まだ判断材料が足りぬか? ではおぬしが今回テロに加担した理由、アラル村の安全保障についてじゃが......」
どこでそれを知ったのだろう、けれどその口から語られた内容は予想だにしていなかったもの。
「今回の事件で、世論は軍の駐屯地増設を強く望むことが予想される。同時に亜人保護区の現状を広めれば、保護区への駐屯派が多数を占めるじゃろう」
王国の人的資源が沸騰したわけでもなさそうなのに、なぜここまで押してくる?
この士官は本当にわたしをどうしたいんだ。
「お前がもしもわしの部下になるというなら、駐屯派の意見が増えるよう働きかけてやろう」
上から押さえていた腕を離し、女性士官はわたしの耳から頬までを優しく撫でた。
「なぜそこまでするの? 王国軍の人的資源が減ってるわけじゃないんでしょ?」
「おぬしのように若い芽はいつだって国の貴重な宝なんじゃよ、今回の事件を償って余りあるほどに使い潰した方が、戦略的にはプラスになるというだけじゃ」
この士官の本当の目的はわからない、けど村から魔物の脅威が去るのなら......。
たとえ利用されるとしても、知らずに利用されてた今までより、知ってて利用されるこれからの方がよっぽどマシだ。
「――――わかった、あなたの条件を呑む。その代わりアラル村の安全保障を確固たるものにしてもらいたい」
ここで変われなければそれこそ動物的、人間的な死だ。
猫の手どころか、わたしは体から魂までも差し出させられる、だけど後悔や後ろめたさは無い。
「心得た、おぬしの故郷は我々王国軍に任せよ。立場や扱いは追って伝える。改めてよろしく頼むぞ、ミーシャ・センチュリオン騎士候補生」
利害の一致、今日をもってネロスフィアからは離脱。次の就職先は魔法王国の軍隊か......。
ベッドから離れたフォルティシア中佐が、出口を前にピタリと止まった。
「ああそれと......"人的資源"という言葉は今後あまり使わんでくれ、わしの中の『最高に胸クソ悪い言葉リスト』に入っとるんじゃ」
兵士を消耗する数字として見る士官が、珍しい話だ。
肯定すると中佐は静かに退室していった。
「これからこき使われるだろうな......」
ベッドに横たわる。
元々投げ捨てた命だ、毒を食らわば皿までも。こうなったらとことん進み続けるしかないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~
軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。
そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。
クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。
一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。
世界最弱と呼ばれた少年、気づけば伝説級勇者でした ~追放されたので気ままに旅してたら、全種族の姫たちに囲まれていました~
fuwamofu
ファンタジー
魔力量ゼロの落ちこぼれとして勇者パーティを追放された少年リアン。
絶望の果てに始めた自由な旅の中で、偶然助けた少女たちが次々と彼に惹かれていく。
だが誰も知らない。彼こそが古代勇者の血を継ぎ、世界を滅ぼす運命の「真なる勇者」だということを──。
無自覚最強の少年が、世界を変える奇跡を紡ぐ異世界ファンタジー!
ブラック企業で心身ボロボロの社畜だった俺が少年の姿で異世界に転生!? ~鑑定スキルと無限収納を駆使して錬金術師として第二の人生を謳歌します~
楠富 つかさ
ファンタジー
ブラック企業で働いていた小坂直人は、ある日、仕事中の過労で意識を失い、気がつくと異世界の森の中で少年の姿になっていた。しかも、【錬金術】という強力なスキルを持っており、物質を分解・合成・強化できる能力を手にしていた。
そんなナオが出会ったのは、森で冒険者として活動する巨乳の美少女・エルフィーナ(エル)。彼女は魔物討伐の依頼をこなしていたが、強敵との戦闘で深手を負ってしまう。
「やばい……これ、動けない……」
怪我人のエルを目の当たりにしたナオは、錬金術で作成していたポーションを与え彼女を助ける。
「す、すごい……ナオのおかげで助かった……!」
異世界で自由気ままに錬金術を駆使するナオと、彼に惚れた美少女冒険者エルとのスローライフ&冒険ファンタジーが今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる