36 / 47
小競り合いのようです
しおりを挟む「冒険者ギルドに研修......わたしも行きたいのは山々ッスけど、休暇は今日までなんですよ」
王都の中央通りを歩きながら、セリカは夕焼けに染まる空を残念そうに見上げた。
王国軍騎士の休暇は不定期で、彼女も今日が終わればまた仕事が始まってしまう。
「ごめんティナ、実はわたしも一度実家に帰らなくちゃいけなくて......、ギルドの研修は行けそうにないんだよ」
申し訳なさそうに手を合わせるクロエ。
でも、大手ギルドの協力が得られるかもしれない絶好のチャンスはこの先もう巡ってこないかもしれない。
幸いわたしは今週いっぱい予定も無く、研修に打ち込める。
「まあしょうがないか、元々言い出したのはわたしだし、休暇を使って行ってくるわ」
ちょっと心細いけど、1人で行くしかないか。
「ごめんねティナ~! ティナを1人にするなんてもう二度としたくないんだけど、今週ばっかりは勘弁してー!」
「あんたは過保護の親か! 大通りなんだから離れなさいよ~ッ!」
このいつものやり取りがしばらくできないのは少し寂しいけど、最初の頃に戻ると思えば――――
「――――いい度胸してんじゃねえか!! こっち向けオイッ!!」
人垣を突き破って、怒声が響き渡った。
なにごとかと思い慌てて騒ぎの中心部へ向かうと、案の定揉め事が発生しているようだった。
「なあ兄ちゃん、俺は一応王都じゃ名の知れた冒険者なんだよ。クラスレベル42の上位冒険者に指摘するたあ何様だ!?」
鎧に身を固めたいかつい男が叫ぶ。
その相手は黒髪黒目の、端正な顔立ちをした青年。
青年は地面に落ちたタバコを指差し言った。
「人様に迷惑を掛けるなと教わんなかったか? お前の振る舞いで非喫煙者はもちろん、マナーを守っている喫煙者の方まで迷惑してんだよ」
どうやら、全身鎧の冒険者がタバコを路上に捨て、それを見た青年が注意したことが騒動のキッカケのようだ。
「お前どこの者《もん》だ? 見ない風貌だがあんま善人ぶってんなよア"ァ"ッ?」
男の持つメイスが石畳を叩き砕く。
マズい......、完全武装した上位冒険者じゃいくらなんでも相手が悪すぎる。
だけど、男の威嚇に身じろぎすらせずに青年は続けた。
「どこの者かと聞かれてもなぁ......、それこそこの世界より東の果て――――日の出るところだから、この国の人間は知らないと思うぜ」
淡々と返答を並べる青年は、どこか纏う雰囲気が違うように思えた。
黒髪黒目、東の果てから来る者......。王都に配属されたばかりの頃にフォルティシア中佐と話した民族と特徴が一致していた。
「ここより東に国なんてねえよ、その寝ぼけた頭かち割ってやるから目ぇ覚ましなッ!!!」
大質量のメイスが豪腕によって振られた。
急いで駆けたけど間に合わない! しかし、上位冒険者の放った一撃が青年の頭を潰そうとした瞬間だった......。
――――ギィンッッ――――!!!
根本から砕けたのは青年の脳天ではなく、幾多のモンスターを葬ったであろう歴戦のメイスの方だった。
「なっ......!?」
破片がきらめく中で見えたのは、自衛程度にしか使えなさそうな1本のナイフ。
青年の持つ貧弱そうな武器が、重量系武器を粉砕していたのだ。
普通なら絶対にありえない、思考する間もなく青年は全身鎧の男へ肉薄した。
「――――ああ言い忘れてたけどよ、俺もこう見えて同じ"冒険者"なんだ。あんたクラスレベル42だっけ?」
青年はレベルアップしたわたしでも捉えきれない速度でナイフを操ると、大衆がまばたきするほどの時間で男の防護魔法が付与《エンチャント》された鎧を、野菜でも切るかのようにバラしてしまった。
尻もちをついた男が、バラバラになった鎧を一瞥してから青年の顔を見上げた。
「てめえッ......! 何者だよ!?」
フル装備、それもレベル40以上の冒険者をここまで圧倒するなんてかつてのベルクートでも無理だ。
この人いったい......。
「俺は王都に住み込むしがない冒険者だよ。あと、これに懲りたらもうタバコポイ捨てすんなよ」
黒髪の青年はタバコを拾うと、そのまま場を去ってしまった。
「ヒャア~......、今の人凄かったッスね。あんなナイフでどうやったんでしょう」
セリカも感嘆の声を上げる。
「わたしもよくは見えなかったわ」
「クラスレベル62のティナさんでも完全には見えなかったんですか......、相当ですね」
「わたしなんて全然見えなかったよ~。でも、なんかナイフに魔力が入ってたよ」
元アンチマジック大隊なだけあり、クロエはナイフに込められた魔力をすぐに看破したらしい。
どっちにしろ、冒険者は敵にするより味方にしといた方が良さそうね。
0
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規
NagiKurou
ファンタジー
「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」
国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。
しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。
「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」
管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。
一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく!
一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。
スキル【土いじり】でパーティを追放された俺、開墾した畑からダンジョンが生えてきた。
夏見ナイ
ファンタジー
「役立たず」の烙印を押され、パーティを追放されたアルフォンス。彼のスキルは戦闘に不向きな【土いじり】。失意の彼は都会を離れ、辺境の地で静かに農業を営むことを決意する。
しかし、彼が畑を耕すと、そこから不思議なダンジョンが生えてきた!
ダンジョン内では、高級ポーションになる薬草や伝説の金属『オリハルコン』が野菜のように収穫できる。地味だと思われた【土いじり】は、実はこの『農園ダンジョン』を育てる唯一無二のチートスキルだったのだ。
噂を聞きつけ集まる仲間たち。エルフの美少女、ドワーフの天才鍛冶師……。気づけば彼の農園は豊かな村へ、そして難攻不落の要塞国家へと発展していく。
一方、彼を追放したパーティは没落の一途を辿り……。
これは、追放された男が最強の生産職として仲間と共に理想郷を築き上げる、農業スローライフ&建国ファンタジー!
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~
夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。
全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった!
ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。
一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。
落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜
あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」
貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。
しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった!
失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する!
辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。
これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる