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小石井家
麟太郎 15歳 一
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高校の昼休みは鐘の鳴る五分前から始まっている。
売店で、パンの争奪戦が始まるからだ。
廊下を駆ける生徒は、おしゃべりに興じている女子生徒を上手に交わしている。
「麟太郎、お前の父さん、結婚するんだってな」
人気の焼きそばパンを手に入れた悪友、寺沢滋が側に腰かけた。
小石井麟太郎は頷いて、弁当を広げる。
そうなると、お蔦婆さんの愛婆弁当も終わりだ。
「お蔦婆さんの引退さえなきゃな。
小石井家の胃袋を長年支えた功労者だ」
「俺の好物ー。
食い納めか」
悪友、柳谷隆一は黄色い卵焼きを一口つまむ。
麟太郎は、こら、と眼で諌めた。
焼きそばパンを頬張りながら、滋はにやにやとからかう。
「でもさ、若くてきれいな継母だろ。
そっちの方がよくね?」
「いいよなぁ、俺んちのばばぁも若いのと取り替えてくんねぇかなぁ」
「お前ら、他人事だと思って」
「他人事だもんな」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
顔合わせという名の見合いは、その月の末に行われた。
大企業の重役である父は、面喰いで女好きであることを憚らない。
麟太郎が五歳の時に病死した母も美しかった。
部下や仕事関係で知り合った女性たちと、一目惚れだとかで云い寄ってきた女性たちと、独身生活を謳歌していた。
それでも刃情沙汰にならないのは人徳故だと本人は胸を張る。
そんな父が、まさかの再婚。
はたして、レストランの個室に現れたのは、地味な女だった。
よく云えば流行にとらわれない、銀縁の眼鏡。
肩にかかるセミロングの髪は黒々と真っ直ぐ垂らしている。
就職活動ですか?な黒のスーツに白いブラウス。
靴も黒いパンプスだ。
肌はきれい。
だが、華がない。
一応、見合いのはず。
イヤリングも何も、装飾品がない。
なんでこんなのを選んだんだ。
歴代の彼女とタイプがかけ離れてるけど。
麟太郎が父親を盗み見ると、父親は破顔していた。
「初めまして、あきらさん。
私が小石井昌武(まさたけ)です。
これは愚息の麟太郎」
「はっ初めましてっ。
はっ早瀬あきらですっ」
緊張しすぎて真っ白な顔で、勢いよくお辞儀する女。
そして、目眩を起こしてくらくらしている。
麟太郎は、笑いを隠さない父親と、就職面接の女とを交互に見比べた。
「今日のところは顔合わせですからね。
美味しいもの食べて、楽しんでいってください」
昌武は《女殺し》と揶揄される笑顔で、あきらに席を勧めた。
あきらは真っ赤になっている。
勧められた席に腰を下ろした。
麟太郎と目が合い、頬を染めて笑顔を見せた。
大丈夫かな、この人。
昌武はあきらに出会ったきっかけの話をしている。
あきらは応じながら、勧められるままに盃を受け、食事をしていた。
食べ方が、きれいだな。
あきらは、麟太郎の視線に気づき、笑顔を返した。
「麟太郎さんは、箸の使い方がきれいですね。
お母様がきちんとされているんですね」
「あー、どうも……」
「すみません、こんなやつでして。
てか、俺の箸使いもなかなかでしょ」
「えっ、あっ、はいっ」
だから、親父、その笑顔やめろよ。
あきらさん、真っ赤になってんじゃん。
箸落としたじゃん。
麟太郎には、あきらが蛇に睨まれた蛙に見えてきていた。
売店で、パンの争奪戦が始まるからだ。
廊下を駆ける生徒は、おしゃべりに興じている女子生徒を上手に交わしている。
「麟太郎、お前の父さん、結婚するんだってな」
人気の焼きそばパンを手に入れた悪友、寺沢滋が側に腰かけた。
小石井麟太郎は頷いて、弁当を広げる。
そうなると、お蔦婆さんの愛婆弁当も終わりだ。
「お蔦婆さんの引退さえなきゃな。
小石井家の胃袋を長年支えた功労者だ」
「俺の好物ー。
食い納めか」
悪友、柳谷隆一は黄色い卵焼きを一口つまむ。
麟太郎は、こら、と眼で諌めた。
焼きそばパンを頬張りながら、滋はにやにやとからかう。
「でもさ、若くてきれいな継母だろ。
そっちの方がよくね?」
「いいよなぁ、俺んちのばばぁも若いのと取り替えてくんねぇかなぁ」
「お前ら、他人事だと思って」
「他人事だもんな」
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
顔合わせという名の見合いは、その月の末に行われた。
大企業の重役である父は、面喰いで女好きであることを憚らない。
麟太郎が五歳の時に病死した母も美しかった。
部下や仕事関係で知り合った女性たちと、一目惚れだとかで云い寄ってきた女性たちと、独身生活を謳歌していた。
それでも刃情沙汰にならないのは人徳故だと本人は胸を張る。
そんな父が、まさかの再婚。
はたして、レストランの個室に現れたのは、地味な女だった。
よく云えば流行にとらわれない、銀縁の眼鏡。
肩にかかるセミロングの髪は黒々と真っ直ぐ垂らしている。
就職活動ですか?な黒のスーツに白いブラウス。
靴も黒いパンプスだ。
肌はきれい。
だが、華がない。
一応、見合いのはず。
イヤリングも何も、装飾品がない。
なんでこんなのを選んだんだ。
歴代の彼女とタイプがかけ離れてるけど。
麟太郎が父親を盗み見ると、父親は破顔していた。
「初めまして、あきらさん。
私が小石井昌武(まさたけ)です。
これは愚息の麟太郎」
「はっ初めましてっ。
はっ早瀬あきらですっ」
緊張しすぎて真っ白な顔で、勢いよくお辞儀する女。
そして、目眩を起こしてくらくらしている。
麟太郎は、笑いを隠さない父親と、就職面接の女とを交互に見比べた。
「今日のところは顔合わせですからね。
美味しいもの食べて、楽しんでいってください」
昌武は《女殺し》と揶揄される笑顔で、あきらに席を勧めた。
あきらは真っ赤になっている。
勧められた席に腰を下ろした。
麟太郎と目が合い、頬を染めて笑顔を見せた。
大丈夫かな、この人。
昌武はあきらに出会ったきっかけの話をしている。
あきらは応じながら、勧められるままに盃を受け、食事をしていた。
食べ方が、きれいだな。
あきらは、麟太郎の視線に気づき、笑顔を返した。
「麟太郎さんは、箸の使い方がきれいですね。
お母様がきちんとされているんですね」
「あー、どうも……」
「すみません、こんなやつでして。
てか、俺の箸使いもなかなかでしょ」
「えっ、あっ、はいっ」
だから、親父、その笑顔やめろよ。
あきらさん、真っ赤になってんじゃん。
箸落としたじゃん。
麟太郎には、あきらが蛇に睨まれた蛙に見えてきていた。
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