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あきらの同窓会
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トイレから出ると、廊下に樋川が立っていた。
混んでるのかな、とトイレを振り返る。
「な、早瀬」
「なに?」
「うまく、いってるのか?
その、年上の亭主と」
昌武の顔が浮かび、赤面する。
妄想を打ち消すように手をぱたぱたと振った。
樋川がずい、とあきらに近づく。
あきらは後退る。
壁に背中がついてしまった。
樋川は距離を縮め、あきらは肩を抱かれていた。
「俺、やっぱりお前が好きだよ」
「な」
信じられない力で抱き寄せられる。
顔が近い。
胸に手を添えられた。
両手でぐい、と突き放す。
樋川の手のひらの感触が不快だった。
「あらぁ、お安くないわね」
志筑が歩いてきた。
あきらは慌てて離れる。
「やっぱり、おじいさんじゃ満足できないって訳?
こんな所で軟派して、早瀬さんもやるわね」
「な……」
樋川がにやにやしている。
思い出した。
彼は、サッカー部の主将をしていて、人気があった。
だから、女子なら全員自分を好きだと思い込んでいる節があった。
しかしその頃、あきらは恋愛に疎かった。
「おあいにくさま。
主人はそれはそれは私を大事にしてくれるわ。
そもそも、女子大の同窓会だと知らせてきたのはそちらじゃなかったかしら。
志筑さんが何人侍らせようが自由ですけど、誰でもそうだと思われちゃたまらないわ」
志筑と樋川はぽかんとしている。
大人しいあきらが、反論するとは思わなかったらしい。
「私は主人一筋ですからっ」
それだけ云うとバッグを掴み、料亭を出た。
駅までの道すがら、後悔に苛まれていた。
思いついたことをそのまま口に出すなと、父親からよく云われていたのだ。
しかも、ちゃんと挨拶せずに中座してしまうなんて。
社会人なのに。
「早瀬さん」
夏海が追いかけてきた。
あきらは中座したことを詫びた。
夏海は首を横に振る。
「志筑さん、樋川くんのこと好きだったみたいね」
「そ、そうなの?」
「私も例外ではないけどね。
……樋川くんて、モテてたから、告白した子は片っ端から遊ばれてたらしいの。
一度きりの子もいたし、何度も呼び出された子もいたし。
……卒業してから知ったんだけどね」
そんな漫画みたいな展開があったとは。
あきらはつくづく世間知らずだと思った。
本当に、のんびりぼんやりだわ。
「私は告白できなかったクチだけどね。
だから、嫌な思いしなくて済んだんだけど。
志筑さんはあの通り美人だから、樋川くんも気に入ってたんでしょ、ずるずる付き合ってたみたい。
結婚は、出世に有利な相手を選んでね」
「美人て大変……」
「それは早瀬さんもよ。
だから志筑さんは妬んで苛めてたのよ」
「私?
美人じゃないし、苛められてもないよ?」
夏海は呆れたように笑った。
「志筑さんも浮かばれないわね」
さすがに今日のは皮肉だとわかったが。
波風のない自分の高校生活がなんだかきらめいて感じられた。
云い返せたしな。
志筑があきらの想像以上の人物だと知るのは、後日、昌武のFa◯◯bookに写真を送ってきたことで明らかになる。
同窓会の和やかな写真に混じって、樋川に抱きつかれていたのも入っていたのだ。
「あきら」
あきらは蒼白になる。
浮気なんてしていないのに決定的な証拠のようだ。
昌武はにやにやしている。
樋川もあの時企むような笑い方をしていたが、昌武の笑顔とはやはり違った。
「釈明させてあげよう。
たくさん言い訳しなさい。
ベッドでね」
昌武がウインクした。
志筑に感謝すべきか、迷うあきらであった。
混んでるのかな、とトイレを振り返る。
「な、早瀬」
「なに?」
「うまく、いってるのか?
その、年上の亭主と」
昌武の顔が浮かび、赤面する。
妄想を打ち消すように手をぱたぱたと振った。
樋川がずい、とあきらに近づく。
あきらは後退る。
壁に背中がついてしまった。
樋川は距離を縮め、あきらは肩を抱かれていた。
「俺、やっぱりお前が好きだよ」
「な」
信じられない力で抱き寄せられる。
顔が近い。
胸に手を添えられた。
両手でぐい、と突き放す。
樋川の手のひらの感触が不快だった。
「あらぁ、お安くないわね」
志筑が歩いてきた。
あきらは慌てて離れる。
「やっぱり、おじいさんじゃ満足できないって訳?
こんな所で軟派して、早瀬さんもやるわね」
「な……」
樋川がにやにやしている。
思い出した。
彼は、サッカー部の主将をしていて、人気があった。
だから、女子なら全員自分を好きだと思い込んでいる節があった。
しかしその頃、あきらは恋愛に疎かった。
「おあいにくさま。
主人はそれはそれは私を大事にしてくれるわ。
そもそも、女子大の同窓会だと知らせてきたのはそちらじゃなかったかしら。
志筑さんが何人侍らせようが自由ですけど、誰でもそうだと思われちゃたまらないわ」
志筑と樋川はぽかんとしている。
大人しいあきらが、反論するとは思わなかったらしい。
「私は主人一筋ですからっ」
それだけ云うとバッグを掴み、料亭を出た。
駅までの道すがら、後悔に苛まれていた。
思いついたことをそのまま口に出すなと、父親からよく云われていたのだ。
しかも、ちゃんと挨拶せずに中座してしまうなんて。
社会人なのに。
「早瀬さん」
夏海が追いかけてきた。
あきらは中座したことを詫びた。
夏海は首を横に振る。
「志筑さん、樋川くんのこと好きだったみたいね」
「そ、そうなの?」
「私も例外ではないけどね。
……樋川くんて、モテてたから、告白した子は片っ端から遊ばれてたらしいの。
一度きりの子もいたし、何度も呼び出された子もいたし。
……卒業してから知ったんだけどね」
そんな漫画みたいな展開があったとは。
あきらはつくづく世間知らずだと思った。
本当に、のんびりぼんやりだわ。
「私は告白できなかったクチだけどね。
だから、嫌な思いしなくて済んだんだけど。
志筑さんはあの通り美人だから、樋川くんも気に入ってたんでしょ、ずるずる付き合ってたみたい。
結婚は、出世に有利な相手を選んでね」
「美人て大変……」
「それは早瀬さんもよ。
だから志筑さんは妬んで苛めてたのよ」
「私?
美人じゃないし、苛められてもないよ?」
夏海は呆れたように笑った。
「志筑さんも浮かばれないわね」
さすがに今日のは皮肉だとわかったが。
波風のない自分の高校生活がなんだかきらめいて感じられた。
云い返せたしな。
志筑があきらの想像以上の人物だと知るのは、後日、昌武のFa◯◯bookに写真を送ってきたことで明らかになる。
同窓会の和やかな写真に混じって、樋川に抱きつかれていたのも入っていたのだ。
「あきら」
あきらは蒼白になる。
浮気なんてしていないのに決定的な証拠のようだ。
昌武はにやにやしている。
樋川もあの時企むような笑い方をしていたが、昌武の笑顔とはやはり違った。
「釈明させてあげよう。
たくさん言い訳しなさい。
ベッドでね」
昌武がウインクした。
志筑に感謝すべきか、迷うあきらであった。
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