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彼の周りには

2日目 彼の周りには③

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「ぬぁあぁぁぁあ、もう!どないしよう!!」

なんか最近春樹の様子が変だ!
いくらメッセージを送っても返事をしてくれない…
俺はめちゃくちゃ寂しいよ…
あいつに未読無視とか…あーもう!うさぎメンタルの俺にはきつい!死ぬぞ!
普段は動画とかおもしろ画像とか送ったとしてもちゃんと反応くれるし
相談にも乗ってくれるし…
逆に「一秋!ゲームやろーぜー!」ってゲームとか向こうから誘ってきてくれたり…
なにの、ここ数日一切連絡が取れない…
まじなんで??
うーん…

「電話…かけてみるか…??」
普段、俺は無断に急な電話はかけない
緊急事態とか即座にかけないといけない時以外は、基本的に「今暇?」「ちょっと電話しないー?」など、必ずアポをとる。
んだから、結構パってかけちゃう人いるけど、あーいう人たち普通にすげぇわって思ってしまう。
え?チキンなだけだろだって?
ち、チキンじゃねぇし!
俺なりの思いやりなだけだし!
別に、相手が通話中で「不在着信」って出た時の気まずさが耐えれなくてかけてないとかそんなんじゃないし!

…でも、そんな俺でも今回に関してはかけるべきな気する
もし、春樹が事故とか事件に巻き込まれて携帯の返信ができていないのであったら…
考えるだけでゾッとする

春樹がいなかったら、俺は今ここにいない。
あいつが心配だ。

「よし、かけよう」

決意が固まった俺は春樹に電話をかけた。

ピロリロリン♪
ピロリロリン♪
…(たのむ…出てくれ…一生のお願いだ…)

「はい、春樹です」
(!?!?!)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おい!未読魔さんよ!心配したんだからな!!!?なんで返事しなかったんや!」
耳が痛い
突然大きな声が耳の中にダイレクトに入ってくるのはほんとにびっくりする

(これが…一秋さんか)

知らない声
とてもうるさい
でも、とても聞き慣れた声
安心する声だ
冬華さんの声を聞いた時とおなじ感情が湧き上がってくる
とても、懐かしい感情が

「えっと…あの…その…ごめんなさい」

「おう、謝ってくれたから許す。でも、なんで返信してくれなかったん??正味な話めちゃ寂しかったんやからな…」

「…信じてくれるから分からないけど、話しをきいて欲しい。お願いします。」
俺は、この一秋さんにはちゃんと全て話したいと思った。
この懐かしさを感じる感情が、この人には話しても大丈夫って言っている。だから、話したい。

「…やっぱり…何かあったんだな。よしわかった、春樹の話したいこと全部話してくれ。ゆっくりでいいからよ」
口調は軽い
普段も明るい人なんだろう
だけど、この突然の話なのに、しっかり心配してくれる。信じてくれる。

僕の忘れてしまったものは
想像以上に大きなものだったことをこの時理解した。
こんなにも大切なものを、忘れてしまった自分が憎いと思ってしまった。

「実は…こんなことが…」
僕は一秋さんに全て話した
家族以外の人を覚えていないということ
もちろん、君も
冬華さんも忘れいるということを
そして、言うはずのなかった忘れてしまったことに対する感情も無意識にくいからこぼれていた
きっと、彼だからこぼしてしまったんだろう。そう考えるしか無かった

「…え、えっとー…つまり?事故に巻き込まれて、記憶喪失なった。それで家族以外の人の記憶がなくて、来ていたメッセージの返信をしていいのかわからなかった…と」

「そういうことに…なります」

「…え、俺のことも忘れてるの?」
電話越しに聞こえる声は、いつの間にかあの明るさと騒がしさを失っていた
「はい…」

「冬華のことも…か?」

「覚えてないんです…」

「…」
とうとう、何も聞こえなくなってしまった。
「え、まってごめん、ちょっとだけミュートにしていい?」

「あ、はい、どうぞ」
その後5分間ほど放置されるのであった
~~~~~~~~~~~~~~~~~
おいまてよ
おいおい
いやまぁ、確かに俺は全部話してくれっていったぜ?
なんでも話してくれって感じで聞いたぜ?
まさかの記憶喪失…
え、普通に俺たちのこれまでの思い出…全部忘れちったってことだよな
え、うん
泣く
うん、ごめんなさいちょっと泣かせてもらいますね、はい

「うっそだろ…まじかよ…え…もうむり、ぴえん」

辛すぎてやばたにえんなんですけども
なんかふざけてるようにしか見えんと思うけど、こう…その…多少ふざけないと精神がもたんのよ…
心にヒビが入るレベルじゃない、砕け散ってチリになるレベルでやばい…

…え、夢じゃないよなこれ

一秋は自分の内ももを強つつねってみた
「いだだだだだだだ!!!!!」

…現実だわ
悪い夢じゃないわ
春樹ゲージが切れたことにより俺の精神が見せてる幻覚じゃなかったわ

…まじかよ

春樹と俺は誰よりも長い付き合いだと自負している。
俺と春樹が出会ったのは中学二年生のクラス替え
最初は気に入らなかった。
誰が見ても優しい人
いい人
信頼できる人
とても人望があるやつだった。相談もよく受けているのも見ていた。
だからこそ、なにか裏がある
そう思い詮索していた。
「どんな女の子が好み?」「どんな食べ物が好き?」「家では何してるん?」
色々話した
色々質問した
春樹の裏の顔がいつか見れることを信じて近くにいた。

でも、裏なんてなかった。
常に真っ直ぐなあの瞳に俺は裏なんてないと思うようになり、詮索をやめて心の底から友達になりたいと思った。
それに…あの問題が起きた時春樹は…
て…考えすぎると時間がすぐに飛んじまう
考えるのはやめよう
これまでに春樹は俺の言葉を信じてきてくれた。素直に聞いてくれた。
だから今度は
春樹の言葉を信じる番だ
「あの時」の恩返しとまでは言わない
だけど、親友としてできることをする
ただそれだけだ

(…まぁ、本当は発狂したいくらい寂しいけどね!!!!!)
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「おまたせ、待たせてすまなかったな!」
ミュートから帰ってきた一秋さんの声は
明るさを取り戻していた
もちろん騒がしさも

「いえ、こちらこそすみません…ほんとに…」

「あーもう、その敬語やめろ!気持ち悪い!記憶がないなら教えておくけど俺とお前は親友だ。素直に腹割って人生を共に歩んできた相棒だ。今は覚えてないかもしれない、なら今から覚えろ」

「…そう、なんですか」
やっぱり、この懐かしい感情がある人は信用できるし、記憶を失う前に自分を支えてくれていた人達なんだろう。
冬華さんも、自分のことを大切にしてくれている
一秋さんも、こうやって記憶が無い僕と真剣に向き合ってくれる
僕の周りには…素敵な人ばかりだ

「そうだ、んまぁ、今は慣れないかもしれない。だけど、俺にはこれからは隠し事は無し!辛いことがあったら俺に相談に来いよ。」

「え…いいんですか?そんなこと」

「だーかーら!敬語やめろ!もー!次言ったら今から家凸るからな!お前が記憶をなくしても俺は覚えてる。何度でも話してやる。いつでも、俺との思い出、忘れる前の記憶を全部話してやるよ。」

「…ありがとう、一秋さん」
心が、暖かい
懐かしい声に
優しい気持ち
記憶をなくして1人で抱え込んでいた自分に差し伸べられた手は、想像以上に大切なものだった。
記憶に無いのに、何も知らないのに、一秋を親友だと思える。本当に不思議だ。

「さんもいらん!一秋でいいよ。ほんとこそばゆくってたまらん…」

「わかった、一秋。改めてよろしくな」
目の前にいるなら、握手をしたい
いや、欲を言うなら抱きしめて欲しい…かな
きっと、この一秋の温もりは、懐かしいものに違いない
僕はこの懐かしいものが大好きだ。
だから、記憶をなくした今、この懐かしいを大切にしよう。

「おう!改めてよろしくなー!」

彼と今度
ちゃんとあって話したい
昔の思い出話を
懐かしい話を聞きたい
懐かしい表情が見たい
覚えてなくても
それでも、感じたい

「あ、てか春樹?記憶をなくしてから冬華に会ったか?」
懐かしさを噛み締めていたが
一秋の声で現実に戻ってきた。

しっかり話なくては…

「一応、冬華さんとは病院で…」

「んまぁ…1度もあってなかったら殴りに行こうと思ったけど、一応あってはいるのか…」

きっと彼は、冬華さんと僕の関係を詳しく知っている。
だからこうやって冬華さんのことと僕のことを心配してくれているのだろう。

「うん、でも、それ以降は何も連絡もしてない…」
彼女からあの後連絡は1度もなかった
決して無視していた訳では無い
本当に何も連絡がなかった

「「また、私に恋してね」」

あの発言があったものの、彼女からの動きはない
何をしているのか、何を考えているのか
僕と彼女はどんな関係だったのか
どんなことを話していたのか
彼女のあの言葉は本気なのか…
過去を覚えていない僕には
信じようにも、心から信じることは難しかった。

「…忘れてたんだろうから、一つだけ伝えておく。1度だけしか言わないからな。」
一秋は真剣な声で僕の心に直接語りかけるように話した。

「冬華さんは、お前のことを1番知っている存在だ。これからいっぱい色んな話をするだろう。だからこそ、これだけは言っておく。彼女はお前のことが大好きで仕方ないんだ。俺もお前のことが大好きだが、比にならない。彼女以上にお前のことを大切に思っている人はきっと存在しないだろう。だから、絶対に無下にするな、そして最優先で彼女のことを考えろ。そしたらきっと、何かわかことがあるから。」

「彼女のことを…最優先に…」
僕は、一秋と電話するまでは
「彼女にはもっといい人がいる」そう考えていた。しかし、一秋が言うことが本当なら、彼女の気持ちというものは無下にするということは人として最低な行為だと言える。
本当に…受け入れていいのだろうか
そんな不安は今は決消えない。
でも、一秋の言葉は信じたい
彼女の言葉は…きっと本物だ
だから僕は…

「一秋、俺、冬華に今電話してみる」
彼女のことをもっと知る。
電話をかける前に決意したことを
動きにする時が、今なんだ。

「いい判断だ。何かわからないことがあったら俺に連絡を入れてくれ。ブラジルでもアメリカでもどこにいてもお前に会いに行ってやる」
…ありがとう、一秋
もうお腹いっぱいって思えるほど
君から勇気と愛をもらったよ

「うん、ありがと親友。俺頑張ってくる」

「おうよ、頑張れよ!じゃあな!」

プツン…
ツーツー

そして僕は電話を切り、すぐに電話帳にある彼女の電話番号を打ち込んだ

「彼女を知りたい、話がしたい」
ただ、その一心で
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