それでもあなたは異世界に行きますか?

えと えいと

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第1章

②異世界転生という名の救済を

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「…はぁ…救済ですか」

「そっ!救済!」

あなたにとって異世界転生とは?
という質問に俺は素直な気持ちで答えた。
しかし、俺の担当役員である古崎 乃々華ふるさき ののかは、俺の答えにあまりピンとしなかったのかキョトンとしている。

…いや、キョトンとしてるっていうか、無表情なのはいつものことか。

冷たく刺さるように反応のない彼女を置いて俺は話を進める。

「異世界転生って言うのはさ…ある意味今の社会における夢だと思うんだよ!夢!ラブコメだって青春学園モノのアニメだってバトル漫画だって…全部人間の描いた夢と希望だと俺は思うんだ!」

「…はい、それで?」

「SFだってそう、例えば空飛ぶ車だったり映像が空中に映し出されるメガネだって…全部俺たち人間が夢に見た技術、現代のスマートフォンだってそうだろ?多分昔の人はこういう世界を夢見てた…その一部が今に反映されているんじゃないかな?って!」

「…は、はぁ」

「そんでさ、そんでさ!異世界転生っていうのも、そのひとつの夢なんだろうなって俺はこの生活の中で感じたわけ!のんびりとした自然や街並み…そして、エルフや魔族といった人間とは違う別の魅力を持った人々…そんな理想郷について質問されたら…そりゃーね、って言うしかないかなーって!それで俺は…」

「…で?」

「で…で?って言われても…それが俺の意見であって…それ以上のことは…」

熱く語った俺の話は完璧に熱を失う
冷静に冷徹に冷酷に
感情というものを捨て全てを客観的に論理的に話を聞く彼女の雰囲気が部屋全体を包み込んだ。

「…浅はか…としか言いようがありませんが…あなたにとっての異世界転生とは救済という名のということでよろしいですか?」

「ちょ、さすがにその言い方は厳しすぎない!?俺だってここに来て結構長い時間考えたんだぞ!?初めてここに訪れてからずっと…」

「本日の面談は以上です…というか、面談自体も今回で最後ですね。約束通りここでの生活はもう終わりです。お疲れ様でした」

「乃々華さん待ってくださいよ!俺は別に逃げ口だと思ってはなくて…」

「あなたには…」

異世界転生なんてする資格は一切ありません。
諦めて自宅に帰ったらどうですか?

古崎乃々華はそう言葉を吐き捨て
部屋から姿を消した。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「………で、今回の面談で完成したこのレポートをそのまま俺に提出しに来たわけ…か」

「はい。え、私何かおかしいことしました?」

無機質な白い部屋に無数に散らばるプリントたち
今は人はほとんどいないものの、人が働いているであろうことが分かるデスクとパソコン、そしてファイルの数々
残った職員は各々の作業を進めていた。

そんな部屋の最奥に座る男は、古崎乃々華の書いた書類に目を通し
気まずそうに冷や汗をかいていた。

資料に一通り目を通した男は
空いている片手で頭をかき、タイヤの着いた椅子をひとつ持ってくる。

「とりあえずお前座れ…」

「はい」

「お前さー…言いたいことは分かるけどよー?ここまで冷たく自分の考え否定されて、そのまま反論をするタイミングすら与えずに面談終わらせたらあかんでしょ…」

「こう言われて帰るなら、それはそれでいいんです。異世界転生をやすやすと行って後悔してる人だって沢山います。たぶん」

「なんだお前そのたぶんって…」

「異世界転生した人と話す方法なんてまだありません。なのでした人の後はどうなるかは正確な情報はありません。つまり分からないということです」

「……わかんねぇのに後悔してるって言ってんじゃんお前さんよ」

「だからたぶんって言ってます」

「…はぁ、そうですねそうですねぇ…確かにそうでした…」

部屋に響く男の大きため息
その溜息に反応してか、残って作業をしていたものの1人である若い小柄の女性が手を止めた。

「もーーー、2人ともうるさいですよ!作業に集中できません!また乃々華ちゃんやらかしたんですかー?」

彼女はショートカットキーを慣れた手つきで押し、キーボードから手を離す。

ハキハキとした声は部屋中に響きわたり、正直この場で1番うるさいのは彼女…
櫻井 彩葉さくらい いろは自身である。
 
「またってなんですか、私は普通に仕事をこなして…というより彩葉さんが1番うるさいです」

「乃々華ちゃん堅物だからこうなるのはしょうがないですよー…だから私が今回の人は受け持つって言ったのに!」

「お前もお前で仕事に粗が多すぎてミス多発するだろー、どうしてこの施設の女性役員はこうも異色揃いというかなんというか…」

「ここの1番の問題児はあなたですけどね、先輩」

「そーだそーだ!1番変人に異色とか言われたくないです」

「はぁ!?お前らまたそうやって俺の事バカにしてよぉ!?一応俺はお前らの先輩なんだからもう少し…」

ワイワイガヤガヤ…と、様々な意見が部屋を飛びかいはじめる。

「…うるさっ」

離れた場所に座るもう1人の職員
いつも通りの日常に慣れた1人の少年は作業を続けるためにヘッドホンを耳につけた。

うるさくない時間は無い
そんな様々な思考と意見を持った人達が集まるここは…

ここは人類の新たな希望
異世界転生研究室

「END」

人々を救うこともあれば蹴落とすこともある
ここでは、そんな異世界転生という存在を専門とした人々が働いていた。

「…はぁ………まぁいい、とりあえず…だ、お前は中原さんを呼び止めて、また複数回の面談の機会を与えろ。多分まだ間に合うしな」

すると、話の区切りを見て
先輩は
鈴村 叶すずむら かなえは話を戻し改めて資料に目を移した。

「………………はい」

先輩からの一言に対して不満が口からこぼれそうになるが
下唇をかみどうにか抑え込む。

私にだってやり方がある
考えがある
理想がある
でも…それは通用しなかった。
その現実を教え込まれたような感覚が私の中で響き始めた。

ここでの仕事歴は先輩の方が圧倒的に長い。救ってきた人数も私より沢山いる。
…なんなら、私はまだ…1人も…

私の正義は…考えは
いつか誰かの心を救えるのだろうか。

後悔のないように
クライアントをサポートする。

これは、理想を求めてきたものに後悔のない選択が時間を作ることを目的とした
とある施設での物語

それぞれの理想と現実が入り交じる場所での…そんな物語
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