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第二章 生徒会編
『聖騎士』シエラとの模擬試合3
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「・・ということで先輩からのアドバイスです!」
シエラ様は、細い人差し指を立てながらウィンクをしました。
『アドバイス・・・ですか?』
「はい、アリアさんはできるだけ小規模で魔導を放とうとするきらいがあるようです」
「・・ですが、魔導というものは、そもそも術式によって自然に巻き起こす現象が定義されたものです」
「魔導を発動する術者のマナ出力によって発動威力は確かに変わりますが、術式に定義された根本的な性質は変えられません」
「わかりやすく言えば、魔導の術式でその最低限となる係数と発動規模が定められている以上、それに掛け合わせるマナ出力を幾ら抑えても、威力を加減するのは難しいわけです」
「けど、アリアさん。なにも貴女は魔導の発動に拘らなくてもいいのですよ?」
「・・・残念ながら私は元々放出系魔導の才能が絶望的に無い黒髪の種族。故に具体的にアリアさんに伝えることは難しいですが・・」
歴史書によると、シエラ様は千年前にハーティルティア様と出会うまでは魔導の才能が全く無い黒髪の獣人で、実家の小さな宿を手伝う只の町娘だったそうです。
今の白銀に輝く『聖騎士』としての姿を見ていると、そんな過去があったなんて全く想像がつかないのですが・・・。
「アリアさんはかつての私と同じように黒髪を持つ人間。ですが、ナラトスの力を受け継ぐ存在でもあります・・・であれば話は単純です」
そういうと、シエラ様は私に掌をかざしました。
「アリアさん、貴女なら『魔弾』を放てるはずです」
「!?」
シエラ様の言葉に私は瞠目しました。
『魔弾』とは魔導士が詠唱を用いずに、ただ掌からマナを放出するだけというシンプルな技です。
そして、魔弾の威力と大きさは術者が掌から放出したマナの量に比例すると言われています。
つまり、体内に蓄積したマナを放出するのに長けた髪色の明るいような魔導士程、多くのマナを放出できるので魔弾の威力が高くなるということです。
ただ、魔弾は詠唱魔導よりも圧倒的にマナ消費効率が悪く、それなりに魔導に長けた魔導士が放つ魔弾でも、せいぜい格闘術の打撃に打ち勝てるかというくらいの威力と言われています。
それなら普通に詠唱魔導を放ったほうがマシなので、魔弾といえば魔導士が詠唱を使わないで済む咄嗟の牽制に使うくらいの使い道しかないものなので、現在では殆ど使用されていない失われた術です。
そして、マナを体外に放出することができない暗色の髪を持つ人間は、通常であれば魔弾を放つことはできません。
ですが、それはあくまで対人戦闘であったらという話で、現代の魔導機甲や飛行魔導神殿に装備されている『魔導収束砲』などは、発動機によって生み出される高出力のマナを収束して放つという意味では魔弾の一部と解釈されています。
「魔弾はただ純粋に自分の生み出したマナをそのまま体外に放つ技です。確かに術式を用いない分効率は悪いですが、その代わりに直感的に威力を制御できます」
「そして、そもそもマナの効率なんてものを考慮しなくてもいい程莫大なマナ出力を持つ『神族』と『邪神』同士との闘いに於いては、魔導よりも魔弾による戦いの方が圧倒的に多く用いられたのです」
「ということで、アリアさん。早速私に向かって魔弾を放ってください」
『っ!?いきなりそんなこと言っても・・一体どうすれば・・』
シエラ様の言葉に私は狼狽えました。
「大丈夫です。アリアさんは体に漲るマナを私にぶつける気持ちで力をこめてください」
『そんなことを言われても!!私には無理です!!』
私がそう言うと、シエラ様はすっと目を細めました。
その瞬間、『メルティーナ』のコクピットに満たされた空気がぐっと冷たくなったような錯覚を感じました。
「そうですか・・なら、少々手荒ですが・・これしかありませんね!!」
ダァァァァン!!
シエラ様はそう言いながら、自らの足元を片足で力強く踏み抜きました。
ドォォン!!!
それと同時にシエラ様の周囲に巨大なクレーターが生まれ、抉られた複数の巨大な岩盤が浮き上がりました。
「はぁぁっ!!」
そして、シエラ様はその岩盤に向かって、目にも止まらない速さで次々と華麗な回し蹴りを放ちました。
ドドドドドォォォン!!
すると、シエラ様の蹴りによって凄まじい速度で飛ばされた複数の岩盤が、空気の摩擦によって赤熱しながら発射されました。
『!?』
それらはまっすぐに、私たちの戦いを傍観していたレオン様たちの方へ向かっていきます。
『っ!?駄目!?』
ドクンッ!!
その瞬間、私の鼓動が高鳴り、再び『ブースト』が発動しました。
全てがスローモーションに見える世界で、私は高速で魔導コンソールを操作します。
ティリッ!ティリッ!ティリッ!・・・!!
それにより『メルティーナ』の火器管制魔導が発動し、私が向ける視線の先、赤熱した岩盤が次々とロックオンされていきます。
ギウゥゥゥン!!
『はぁぁぁぁ!!』
そして、『メルティーナ』が両掌の手根部を突き合せると、十数条のマナによる光線がそこから放たれ、それぞれの岩盤へと軌道を曲げながら吸い込まれて行きます。
チュドォォォォン!!!
直後、凄まじい閃光と爆音と共に、シエラ様の放った全ての岩盤が爆散しました。
『はぁ・・・はぁ』
私の呼吸に合わせて『メルティーナ』の肩部が動きます。
『・・・っ!!一体何だ!この爆発は!!』
『シエラ様が地面を踏み抜いたような動きをした直後、視界が真っ赤に染まりましたわ!?』
『アリアちゃんが・・攻撃した・・?』
『お兄様!今の爆発は何なのですか!?』
どうやら、レオン様達にはシエラ様が自分たちに向かって岩盤を放った事、そして私がそれを魔弾で爆散させた様子は視認できなかったようです。
パチパチパチパチ・・・。
そして、一部始終を見ていたシエラ様が拍手をしながらこちらに視線を向けました。
「さすがナラトスを受け継ぐ者ですね。まさか一度ですべての礫を退けるとは思いませんでした」
『っ!!どうしてこんな事をしたのですか!!』
私はシエラ様の行動に腹を立ててしまったのか、『聖騎士』様相手に不敬となってしまうことなんてすっかり忘れてシエラ様に非難の言葉を投げかけました。
しかし、シエラ様は私の様子を気にしていないと言わないばかりに微笑みました。
「ふふ・・大丈夫ですよ。もしアリアさんが岩盤を止め損ねたら・・貴女の大切なお友達にぶつかる前に私がすべて消滅させていましたから」
『・・っ!!』
私はシエラ様の言葉に息を吞みました。
どうやら、シエラ様は敢えてレオン様達を襲うような動きをして、私に潜在する能力を引き出そうと考えたようです。
『・・・・っ!十五分経過!!両者そこまで!!』
直後、ジーク教官の号令によってシエラ様との模擬試合が終了しました。
「・・・アリアさん、今日は強引な手段を使ってしまってごめんなさい。けれど、貴女にはどうしても魔弾を使えるようになってほしかったのよ」
そう言いながら、シエラ様はゆっくりと頭を下げました。
「っ!?そんな!?頭を下げないでください!!」
私はあたふたとしながら必死に制止します。
「いいえ、どうであれアリアさんの大切な人達を利用するような脅しをかけてしまったのは許されることではありません」
シエラ様は一度伏せた目を上げて、再び私に微笑みました。
「けれど、私はどうしても魔弾を習得してほしかったのです」
「これで、あなたと『メルティーナ』の戦いに、さらなる幅が増えた筈です」
「アリアさん、これから貴女にはいろいろな試練や運命が立ちはだかるでしょう」
「もしかしたら、私達と同じようにこれから永い時を生きなければいけないかもしれません」
「・・そのとき、アリアさんはどうかこの世界と・・大切な主、ハーティさんを護ってくださいね」
『シエラ様・・』
「よろしく頼みますよ・・ニアールの遺産、そしてナラトスの遺志を受け継ぐ者として」
そう言いながら微笑み続けるシエラ様は、心の底からこの世界の安寧を願う女神のような温かさを滲ませた表情をしていました。
シエラ様は、細い人差し指を立てながらウィンクをしました。
『アドバイス・・・ですか?』
「はい、アリアさんはできるだけ小規模で魔導を放とうとするきらいがあるようです」
「・・ですが、魔導というものは、そもそも術式によって自然に巻き起こす現象が定義されたものです」
「魔導を発動する術者のマナ出力によって発動威力は確かに変わりますが、術式に定義された根本的な性質は変えられません」
「わかりやすく言えば、魔導の術式でその最低限となる係数と発動規模が定められている以上、それに掛け合わせるマナ出力を幾ら抑えても、威力を加減するのは難しいわけです」
「けど、アリアさん。なにも貴女は魔導の発動に拘らなくてもいいのですよ?」
「・・・残念ながら私は元々放出系魔導の才能が絶望的に無い黒髪の種族。故に具体的にアリアさんに伝えることは難しいですが・・」
歴史書によると、シエラ様は千年前にハーティルティア様と出会うまでは魔導の才能が全く無い黒髪の獣人で、実家の小さな宿を手伝う只の町娘だったそうです。
今の白銀に輝く『聖騎士』としての姿を見ていると、そんな過去があったなんて全く想像がつかないのですが・・・。
「アリアさんはかつての私と同じように黒髪を持つ人間。ですが、ナラトスの力を受け継ぐ存在でもあります・・・であれば話は単純です」
そういうと、シエラ様は私に掌をかざしました。
「アリアさん、貴女なら『魔弾』を放てるはずです」
「!?」
シエラ様の言葉に私は瞠目しました。
『魔弾』とは魔導士が詠唱を用いずに、ただ掌からマナを放出するだけというシンプルな技です。
そして、魔弾の威力と大きさは術者が掌から放出したマナの量に比例すると言われています。
つまり、体内に蓄積したマナを放出するのに長けた髪色の明るいような魔導士程、多くのマナを放出できるので魔弾の威力が高くなるということです。
ただ、魔弾は詠唱魔導よりも圧倒的にマナ消費効率が悪く、それなりに魔導に長けた魔導士が放つ魔弾でも、せいぜい格闘術の打撃に打ち勝てるかというくらいの威力と言われています。
それなら普通に詠唱魔導を放ったほうがマシなので、魔弾といえば魔導士が詠唱を使わないで済む咄嗟の牽制に使うくらいの使い道しかないものなので、現在では殆ど使用されていない失われた術です。
そして、マナを体外に放出することができない暗色の髪を持つ人間は、通常であれば魔弾を放つことはできません。
ですが、それはあくまで対人戦闘であったらという話で、現代の魔導機甲や飛行魔導神殿に装備されている『魔導収束砲』などは、発動機によって生み出される高出力のマナを収束して放つという意味では魔弾の一部と解釈されています。
「魔弾はただ純粋に自分の生み出したマナをそのまま体外に放つ技です。確かに術式を用いない分効率は悪いですが、その代わりに直感的に威力を制御できます」
「そして、そもそもマナの効率なんてものを考慮しなくてもいい程莫大なマナ出力を持つ『神族』と『邪神』同士との闘いに於いては、魔導よりも魔弾による戦いの方が圧倒的に多く用いられたのです」
「ということで、アリアさん。早速私に向かって魔弾を放ってください」
『っ!?いきなりそんなこと言っても・・一体どうすれば・・』
シエラ様の言葉に私は狼狽えました。
「大丈夫です。アリアさんは体に漲るマナを私にぶつける気持ちで力をこめてください」
『そんなことを言われても!!私には無理です!!』
私がそう言うと、シエラ様はすっと目を細めました。
その瞬間、『メルティーナ』のコクピットに満たされた空気がぐっと冷たくなったような錯覚を感じました。
「そうですか・・なら、少々手荒ですが・・これしかありませんね!!」
ダァァァァン!!
シエラ様はそう言いながら、自らの足元を片足で力強く踏み抜きました。
ドォォン!!!
それと同時にシエラ様の周囲に巨大なクレーターが生まれ、抉られた複数の巨大な岩盤が浮き上がりました。
「はぁぁっ!!」
そして、シエラ様はその岩盤に向かって、目にも止まらない速さで次々と華麗な回し蹴りを放ちました。
ドドドドドォォォン!!
すると、シエラ様の蹴りによって凄まじい速度で飛ばされた複数の岩盤が、空気の摩擦によって赤熱しながら発射されました。
『!?』
それらはまっすぐに、私たちの戦いを傍観していたレオン様たちの方へ向かっていきます。
『っ!?駄目!?』
ドクンッ!!
その瞬間、私の鼓動が高鳴り、再び『ブースト』が発動しました。
全てがスローモーションに見える世界で、私は高速で魔導コンソールを操作します。
ティリッ!ティリッ!ティリッ!・・・!!
それにより『メルティーナ』の火器管制魔導が発動し、私が向ける視線の先、赤熱した岩盤が次々とロックオンされていきます。
ギウゥゥゥン!!
『はぁぁぁぁ!!』
そして、『メルティーナ』が両掌の手根部を突き合せると、十数条のマナによる光線がそこから放たれ、それぞれの岩盤へと軌道を曲げながら吸い込まれて行きます。
チュドォォォォン!!!
直後、凄まじい閃光と爆音と共に、シエラ様の放った全ての岩盤が爆散しました。
『はぁ・・・はぁ』
私の呼吸に合わせて『メルティーナ』の肩部が動きます。
『・・・っ!!一体何だ!この爆発は!!』
『シエラ様が地面を踏み抜いたような動きをした直後、視界が真っ赤に染まりましたわ!?』
『アリアちゃんが・・攻撃した・・?』
『お兄様!今の爆発は何なのですか!?』
どうやら、レオン様達にはシエラ様が自分たちに向かって岩盤を放った事、そして私がそれを魔弾で爆散させた様子は視認できなかったようです。
パチパチパチパチ・・・。
そして、一部始終を見ていたシエラ様が拍手をしながらこちらに視線を向けました。
「さすがナラトスを受け継ぐ者ですね。まさか一度ですべての礫を退けるとは思いませんでした」
『っ!!どうしてこんな事をしたのですか!!』
私はシエラ様の行動に腹を立ててしまったのか、『聖騎士』様相手に不敬となってしまうことなんてすっかり忘れてシエラ様に非難の言葉を投げかけました。
しかし、シエラ様は私の様子を気にしていないと言わないばかりに微笑みました。
「ふふ・・大丈夫ですよ。もしアリアさんが岩盤を止め損ねたら・・貴女の大切なお友達にぶつかる前に私がすべて消滅させていましたから」
『・・っ!!』
私はシエラ様の言葉に息を吞みました。
どうやら、シエラ様は敢えてレオン様達を襲うような動きをして、私に潜在する能力を引き出そうと考えたようです。
『・・・・っ!十五分経過!!両者そこまで!!』
直後、ジーク教官の号令によってシエラ様との模擬試合が終了しました。
「・・・アリアさん、今日は強引な手段を使ってしまってごめんなさい。けれど、貴女にはどうしても魔弾を使えるようになってほしかったのよ」
そう言いながら、シエラ様はゆっくりと頭を下げました。
「っ!?そんな!?頭を下げないでください!!」
私はあたふたとしながら必死に制止します。
「いいえ、どうであれアリアさんの大切な人達を利用するような脅しをかけてしまったのは許されることではありません」
シエラ様は一度伏せた目を上げて、再び私に微笑みました。
「けれど、私はどうしても魔弾を習得してほしかったのです」
「これで、あなたと『メルティーナ』の戦いに、さらなる幅が増えた筈です」
「アリアさん、これから貴女にはいろいろな試練や運命が立ちはだかるでしょう」
「もしかしたら、私達と同じようにこれから永い時を生きなければいけないかもしれません」
「・・そのとき、アリアさんはどうかこの世界と・・大切な主、ハーティさんを護ってくださいね」
『シエラ様・・』
「よろしく頼みますよ・・ニアールの遺産、そしてナラトスの遺志を受け継ぐ者として」
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