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プロローグ

少年期3

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 ーーードーン!

「何だ!?」

   いつも見える光条と爆発には見慣れていたが、普段は宇宙空間の戦闘音が聞こえるなんてことはない。

   ジェスたち三人全員は、突然の爆発音に驚いた表情をした。

「奇襲攻撃!?  ‥衛星軌道からの降下か??」

「まさか、機動兵器を直接投入するとは・・・・だがこれでは捨て身のようなものではないか」

   戦闘に関する知識に優れたジェスが、瞬時に異変の招待を予測する。

   機動兵器を投入するという作戦は、確かに隠密性と奇襲性という意味ではリソラ戦線を動かす大きな要因になるかもしれない。

   だが、敵の本陣に補給もままならない状態で突入するということは、奇襲が失敗すれば勿論のことだが、仮に成功したとしても生き残る可能性が低い捨て身の作戦である。

   なぜなら、この時代で使われるSAスレイブ・アーマーは、内蔵電池では戦闘機動をすればせいぜい1時間足らずしか稼動できない。
   ゆえに衛星軌道上の母船から無線電力供給システムEPSで電力を賄うのだが、地上に降り立てば障害物や大気減衰などにより常時安定供給ができないからだ。
   その為、戦闘を続けるなら連合軍基地のEPS施設を奪取することが大前提である。

「革命軍もいよいよ手段を選ばないということですか‥」

「いずれにせよ、じきにここは戦場になる!  急ぎ避難だ!」

   士官候補生といえ正規軍人でない自分たちは有事の際、民間人を誘導しながら安全なシェルターへ避難するのがベターである。

   しかし、敵の降下は予想以上に早かった。

   ゴウウウウーー!

   建物上空付近に到着した革命軍のSAスレイブ・アーマーが、ブースター音を鳴らして飛行しながら、連射モードにしたビームライフルをこちらに向けて放った !

「くそっ!  攻撃だ! 伏せろ!!」

 ドゥイイイン!! ガガガッ !!  ドォォォン!!

   次々降り立つSAスレイブ・アーマーから放たれる無数の光条がジェス達のいる建物に命中して、様々な構造物が爆発と共に飛んでくる。
   それを回避しながらジェス達三人は走る。
   屋上から建物内部に入る扉。そこから近い場所にシェルターへ行く通路がある。
   曲がりなりにも軍管理施設。機動兵器の火力では直ぐに建物が崩壊したりはすまい。

「ひとまず建物にたどり着くまで走るぞ!!」

「わかりました!」

   俺達三人は誰一人欠けるわけにはいかない。いつか来る終戦の時まで生き残らないといけない。

   そう思いながらジェスは、少し遅れて走るセレナがちゃんと付いて来ているか振り返って確認した。


 ーーーーゴウウウウッ!

   振り返った時、ジェスの目に飛び込んできた光景はーーーー。

   ドックドックドック・・・。

   全てがスローモーションに見える。

   やけにゆっくりな自分の心臓の音がうるさく響く。

   走るセレナとデビッドの後ろに迫るSAスレイブ・アーマーーーー。

   向けられたライフルーーーー。

   一瞬視界いっぱいに広がった光の後ーーーー。

   それはセレナの直ぐ横に命中した。

   ドガァァァン!

「グゥッッ」

   激しい爆発。
   セレナが今まで聞いたことの無いような低いうなり声を上げながら、人形のようにこちらに向かって吹き飛んで屋上の床に叩きつけられた。

「セレナーーー!」

   すかさず二人はセレナに駆け寄った。

「か・・・ひゅう・・・」

   ジェスに抱き抱えられたセレナは口から血を吐きながら虫の息だった。
   セレナの直ぐ右隣後方で爆発したからだろうか、右半身の損傷が激しい。

  セレナの右手は二の腕の半分くらいから先が吹き飛んでなくなり、体の右半分は火傷で爛れていた。
 身体中に爆風で飛んだ破片が刺さり、右の眼球は熱によって固化して白く濁っていた。

「セレナっ!!」

   ジェスが呼びかけるが反応が無い。これだけの傷だ。いずれにせよこのままでは死んでしまうーーー。

   その時、ジェスの頭に一人の女性の声が響いた。

「あなたは生きて・・・真実を見て!!」

   それはかつて同じようにジェスに抱えられて亡くなった、一人の少女のものだった。

   セレナによく似た容貌の、セレナよりやや明るい青髪の少女。
   名をセアナという彼女は、セレナの実姉だった。
   そして彼女はジェスより一つ年上の、もう一人の幼馴染だった女性でありーーー。
   ジェスの初恋の人でもある。

   彼女は2年前、突然発病した病でジェスに看取られながら死んだのだ。

   その病気とは・・・。

  あらゆる生命は全て、生まれた時に持った自身のエーテルを消費して新陳代謝をしながら生きて行く。
 あらゆる物質の存在を司るその物質は自然界にも存在する。
   しかし、一定以上の高濃度エーテルに曝露するとそれはたちまち人間にとって毒となる。
   実際、大崩壊の時に発生したエーテルで一度人類は滅びかけている。
   そして、人類は遺伝子改良を繰り返すことにより、ある程度の自然曝露に耐えられるようになったのだ。

   尤も、遺伝子改良の代償として、生後直ぐに生体ナノマシン投与処理をしないと生きれない種族となってしまったのだが・・・,

   そして、彼女はある日突然、自然界にあるエーテルを自身に取り込んでしまう症状にかかった。
 未だ嘗て見たことないその症状に対処する術はなく、息を引き取ったのだ。

   死亡後検死が行われたが、結局その病気・・後にエーテル病と言われるその原因も対処法もわからないまま、本人の希望に沿って宇宙葬が行われた。

   仕方がないとはいえ、ジェスは当時の無力を呪った。
   あの時彼女が遺した言葉の意味は結局わからなかったが、いま再び腕の中でセレナが死のうとしている。

   絶対に死なせるわけにはいかない・・・。

   セレナを抱えている間にも次々と革命軍のSAスレイブ・アーマーが降りたって攻撃を始める。

   気づけば辺りの建物や整備中のSAスレイブ・アーマーなどが紅く燃え上がる、まるで地獄のような状況だ。

「しっかりしろ! ジェス!!」

「まだセレナちゃんは生きてるんだっ!生き残ることを考えろ!!」

   その言葉でジェスは意識を現実へ向けた。
 一瞬考えを巡らせて、セレナを助ける方法を考える。

   ここは前線基地の建物に近接している。
 シェルター内部のメディカルセンターに連れて行けば、部位欠損は治せないがある程度の傷は治るだろう。
 とりあえず応急に生存させることができる。

   だがこのままだったら例えシェルターに逃げきれてもいずれ制圧されるだろう。
 なんせ捨て身の作戦。この基地を制圧しないと敵も生きては帰れないのだから。

   こちらのSAスレイブ・アーマーが応戦するのは物理的に不可能・・・何故なら既に基地の地上ハンガーにあるこちらのSAスレイブ・アーマーが攻撃に遭っていて動ける状態じゃない。
 事態は絶望的だ。

   だがセレナをこのまま死なせるわけにはいかない。

   なんとかして敵を排除しないといけない。

「覚悟を決めるか・・・」

   ジェスは徐に腰に触れてベルトのようなものにぶら下がるホルスターに触れる。
 今日の実技の最後が白兵戦闘訓練だった為、これをつけっぱなしにしていたのが不幸中の幸いだった。

   「デビッド、セレナをメディカルセンターに。俺は敵のSAスレイブ・アーマーを排除する」

   そう言いながらジェスはぐったりするセレナをデビッドに預けた。

   「何馬鹿なこと言ってるんだ?! こっちのSAスレイブ・アーマーがハンガーで燃え盛ってるのにどうやって戦うんだ!!  まさか生身で戦うつもりじゃないだろ?!」

「残念だけどそのまさかだ」

「敵のSAスレイブ・アーマーは30機近くいるんだぞ! 死ぬつもりか?!」

「どのみちここで何とかしないとみんな死ぬ。俺は今度こそ大切な人を目の前でむざむざ死なせたくないんだ!  もとよりここで死ぬつもりはない!」

   激しい戦場の中で二人の男は黙って視線を互いに向ける。

   「・・・・わかった、セレナちゃんは俺が必ずメディカルセンターに届ける。 だから約束しろ。  ・・・死ぬな」

   「わかってる、約束だ」

   その言葉を受けてデビッドはセレナを抱えて走り出した。

   「ここは必ず護る。そしてこの戦いをみんなで終わらせる」

   そう言いながらジェスは腰についたホルスター付きのベルトのようなものに意識を集中する。

   血液中のナノマシンがを起動させるーーー。

   起動した瞬間にジェスの視界には沢山の情報がAR画像の様に表示される。

   そして、デビッドたちが建物の中へと入ったのを確認して・・・。

「・・・いくぞ!!」

   『戦闘支援システム  目為メナス  起動しますーーー』

   無機質な機械音声が脳内で響いた。




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