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プロローグ

動き出す暗躍2

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「アマテラス、機関七十パーセント、第三戦速!」

「EBシールド、左舷集中展開!」

「座標演算進捗十五パーセント!」

 艦橋ブリッジのクルー全員が座標演算の進捗を示すプログレスバーに注目する。

 船体が大きく被弾損傷すると相対超光速度航法跳躍が不可能になる為、時間との闘いになる。

 機動戦艦アマテラスの速力は連合国家宇宙軍艦船の中でも指折りのものだが、ユーリアシスがいる以上ロードランナーを盾代わりに航行しなければならず、艦隊から離れないように速力を落とさないといけない。

 しかし殿になる艦船が敵艦隊の接近を妨害している為、何とか持ちこたえている状況だ。

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 マックスウェル中佐は巡洋艦ロードランナー5659の艦長である。

 量産型艦船は艦船ごとに固有艦名を設けない為、艦識別番号が末尾に付いた艦名となる。

 ロードランナー5659は機動戦艦アマテラス脱出の為に殿を務めることとなった。

「ロードランナー5659取舵回頭九十度!」
「EBシールド前方集中展開!」

「エネルギーラインを主砲メインコンデンサに接続、粒子加速器展開、主砲発射用意!」

 機関士の制御により、軍用艦船用のメインバッテリーであるイ型液化グラビディウム電池から主砲へと電力が供給される。

 戦闘機動のために機関出力を上げながらEBシールドを展開しつつ主砲を連続使用すると著しくバッテリーを消費する。

 相対超光速度航法跳躍を行うには概ねバッテリー全量の六十パーセントを使用するため、電源管理は重要な戦略要素である。

 砲撃手ガンナーは浮遊座席に備え付けられた銃型のコントローラー握る。

「主砲! 撃てー!」

 ビシュウー!

 直後、砲門の粒子加速器から光条が発射される。

 しかし、お返しと言わんばかりに撃たれた複数の敵艦からの砲撃が運悪く連続で命中する。

 数発をEBシールドで防御したものの、シールド出力を超えた砲撃が貫通し、重力式跳弾装甲を破壊したことにより船体が被弾した。

 被弾した場所は赤くドロドロに溶けて泡立っていた。

 ビービー!

 船橋にけたたましいアラームが響き渡る。

「左舷バッテリーユニット被弾! 左舷機関停止! 破損区域自動消火、隔壁閉鎖!」

「乗員五名が宇宙空間に吸い出されました!」

 船橋で次々と明らかになる絶望的な状況にマックスウェル中佐は独り言ちた。

「もはやこれで相対超光速度航法跳躍は使えまい・・・・もはやこれまでか・・」

 ズドォォォォン!

 ロードランナー5659の船内が再び大きく揺れた。

「右舷にも被弾! 損傷率増大!右舷機関出力も低下! 船内生命維持機構に支障発生!船内気圧低下十五パーセント毎時!これ以上隔壁を閉鎖しても復元は不可能です! 艦長!総員退避を具申致します!」

「・・・この広い宇宙のどこに逃げると言うのかね・・・」

 その後の言葉を続けることは叶わないままロードランナー5659は爆散した。


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 機動戦艦アマテラスの跳躍演算は七割ほど完了していた。

 敵艦隊は機動戦艦アマテラスを含めた敗走艦へ距離を詰めながら砲撃している。

 敵艦隊も一部が敗走艦隊へ回頭しながら追いかけていた。

 軍用戦艦の巡航機関であるグラビディウム機関は船体後方から強力な斥力を発生させて推進力を生む。

 船体後部に向けての砲撃は一見すれば有利に思えるが、この強力な斥力により射線が捻じ曲げられる為にEBシールドがなくても非常に命中しにくい。

 ゆえに防御力だけで言えば敗走側のほうが遥かに高い。

 機動戦艦アマテラスはEBシールドを後方集中展開して航行し、敵の砲撃に耐えていた。

「・・・しかし、一体どの勢力が・・・」

(・・といっても考えられるのは火星自治国家しかありえない・・か)

(停戦条約で争いが無くなった間に何らかの方法で火星側しか自由に相対超光速度航法跳躍を使えない状況を生み出し、満を辞して奇襲といったところか)

 ユーリアシスは機動戦艦アマテラスの座標計算進捗を示すプログレスバーを眺めながら思案していた。

 自分の為に宇宙に散って行く国民を目の前にしてユーリアシスの心は悲しみに満たされていた。

「何度戦場に赴いても慣れぬ景色だ・・・」

「やはり、人類は争わないと生きていくことができぬのか・・・」

 ユーリアシスが瞳を潤ませながらそう独言ていた直後、ようやく跳躍座標演算が完了したという知らせがあった。

「機動戦艦アマテラス、跳躍演算完了しました!」

「すぐに戦線を離脱せよ!!」

 グローリアスの声と共に機動戦艦アマテラスは相対超光速度航法跳躍シーケンスを開始する。

「巡航機関停止! アンチクァンタム亜空間機関始動!」

 巡航機関を停止したアマテラスの先端部分が少し突き出すように伸びた後にまるで傘を開いたように、その伸びた先端が広がる。

 広がった船首から複数のスラスターのようなものを展開する。

 アンチクァンタム亜空間機関は反物質燃料を消費して意図的に前方空間の暗黒物質エーテルを対消滅させることにより空間密度を変化させて亜空間への転移を可能にする相対超光速度航法跳躍専用の推進機関である。

 また、亜空間では自艦の前方空間を対消滅させることによる空間的な空隙への自然復元力を利用して爆発的な推進力を得る。

 その機関は非常に大型で、数キロある船体の大部分を占める。

 これゆえに船体は大型化してしまい、船内空間を圧迫し乗員数も数百人程度となってしまうのだ。

 ちなみに一度の相対超光速度航法跳躍で搭載されたバッテリーの半分以上と反物質燃料を大量に消費する為、補給無しでの航行は一度のみ可能である。

 つまりは正確に座標を計算して、確実に補給と帰還が約束された目的地へ航行しなければならない。


「EBシールド周囲展開最大! 慣性減衰装置イナーシャルダンパー最大! 前方空間歪曲開始! 亜空間突入加速開始します!」

 操舵士ナビゲーターの声と共に艦内放送が始まる。

『本艦は間もなく相対超光速度に到達します。 総員着座ベルト着用の上衝撃に備えて下さい』

 直後スクリーンが赤方偏移による赤色の閃光で満たされる。

 船内時間は加速するにつれて遅くなるために船内で体感する亜空間突入までの時間はかなり長く感じられたが、客観的にみた機動戦艦アマテラスは赤く輝きながら一瞬で姿を消した。

 ミリフュージアが乗る旗艦が無事亜空間突入完了したのを確認すると、艦隊は次々とアンチクゥアンタム亜空間機関を始動し戦闘宙域を離脱した。

 とは言え、奇襲攻撃により連合宇宙軍第一艦隊の半数は宇宙の藻屑となった・・・。


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 奇襲作戦が終わった戦闘宙域で、真紅の艦船が漂っていた。

 その艦橋で佇む金髪の男がいた。

 身長二メートルを超える巨体にがっちりとした体形、顎に少しの髭を湛えた渋くも魅力的な容姿の男は豪華な軍服に身を包んでいた。

 彼が搭乗する真紅の機動戦艦『ナラトス』は戦闘機動を終了し機関を低出力機動アイドルした後に通信回線を開く。

「アレクス・フォン・アルブレスト中将であります。戦況の結果を奏上致します、陛下」

 アレクスは空中に投影された金髪の美丈夫を確認すると、片膝をついて利き手の拳を胸に当て頭を垂れた。

「面を上げよ」

「はっ!」

 尊大な態度で話すこの美丈夫は先の大戦で停戦条約を結んだ旧革命軍の最高指導者であるジル・グレイル・ジャーナリスである。

 停戦協定後に地球連合国家に国家として認められた後は火星自治国家の総督的立場であった。

「して、アマテラスあやつはどうなった」

「はっ、敵の総旗艦であるアマテラスは残念ながら相対超光速度航法跳躍で戦線を離脱しました。 敵艦隊は敗走しておりましたが、二千五百あまりを撃沈。 残りは同じく取り逃がす形となりました。 申し訳ございません」

 そういいながらアレクスは平伏する。

「構わぬ。賢者の匣を無きものにした上で連合国家が相対超光速度航法跳躍を使うということは完全に予想外であった。 だが我々が有利であることは変わらぬ」

「我々が数多の攻性防壁による犠牲の上、人脳直結ハッキングを行い賢者の匣を破壊した今、相対超光速度航法跳躍は独自の高度座標演算装置『アルハザード』を持つ我々のみが使うことができる」

「まことにその通りであります。我々が有利であることは変わりません」

「アレクス中将」

「はっ」

「これより機動戦艦ナラトス率いる第四艦隊は近郊のアーセナル地球圏外縁宇宙港を奪取の上補給線を確保せよ」

「御意!」

「これより第五、第六艦隊を地球最大の軍事拠点である月に向け相対超光速度航法跳躍させる。そして地球連合国家へ独立を宣言する!」

「いよいよ我々火星の悲願が達成される時がきますな!」

 そういいながらアレクスは咽び泣いた。

「クックック・・・待っていろよ地球人! 足元にひれ伏すのは次は貴様たちだ」

「フフフ・・ハハハハハ!!」

 通信モニターからナラトス艦内へジルの邪悪な笑みが響き渡っていた。

 その後、ジル・グレイル・ジャーナリスは大通信衛星ダリウスを経由して全宇宙へ停戦協定破棄の上、宣戦布告を行った。

 ジルは火星自治国家などという地球の属国としての扱いを甘受していたのはこの時の為であったと述べ、新たに『太陽系統一帝国』を名乗り、火星の最大都市『アーカム』を帝都と指定し自身を皇帝と名乗った。

 太陽系統一帝国は太陽系全域を制圧し、火星の真なる独立と人類統一国家樹立を目指してこの機会を窺っていたのだった。

 太陽系統一帝国は人脳直結による高度ハッキングにより全宇宙の相対超光速度航法跳躍の座標演算を担う賢者の匣の機能を破壊。

 これにより地球連合国家は、惑星間などの固定座標を取得するか相手から送られてきた現在位置座標を元に通常のANPUによる長時間の演算処理を行う以外に相対超光速度航法跳躍を行う術を失った。

 一方太陽系統一帝国は帝都アーカムに独自の高度演算システム『アルハザード』を開発。一方的な軍事行動を可能にした。

 宣戦布告と供に太陽系統一帝国は地球連合国家最外縁の軍事的拠点『アーセナル宇宙港』を制圧。

 二個艦隊およそ五万隻余りを地球圏最大の軍事工廠でありグラビディウムの産地でもある月の衛星軌道付近に相対超光速度航法跳躍で送り込み、奇襲作戦を行った。

 先の奇襲を受けながらも戦闘宙域より無事に離脱した機動戦艦アマテラス以下第一艦隊残党は地球衛星軌道へ後退。

 地球および月を防衛する為に月面駐留艦隊の出撃と艦隊の集結を始めた。

 この奇襲作戦により地球連合国家は歴史上最大の危機を迎えることとなる。

 そして、人類史上最大の犠牲者を出すことになる『第二次星間大戦』の幕開けであった・・・。

 これは太古の昔より続く人類の戦いの歴史に巻き込まれていく、若き英雄たちの物語である。



 -プロローグ  完-



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