53 / 229
第二章 魔導帝国オルテアガ編
冒険者ギルドにて 〜クラン視点〜
しおりを挟む
ハーティが冒険者ギルドを立ち去ってからしばらく時間が経った頃。
クランは、その端正な顔を曇らせていた。
クランは帝都リスラムの冒険者ギルドにおける責任者である。
全世界に影響力を持っている冒険者ギルドは、ある意味『女神教会』に匹敵するほど大きな組織である。
そして、その冒険者ギルドの総本部となっているのが、この魔導帝国オルテアガの帝都リスラムの冒険者ギルドであった。
因みに、都市規模が世界で最も大きい神聖イルティア王国の王都イルティアにある冒険者ギルドに本部を設けなかったのは、『女神教会』の総本部が王都イルティアに存在するからであった。
世界的な大組織である『女神教会』と『冒険者ギルド』が同じ都市にあると、権力集中が起こるということが懸念され、設立時に世界各国からの反発があったのだ。
そんな事情がある中、帝都リスラムの冒険者ギルドにおいて責任者という立場であるということは、実質クランという人物は世界中に発言力がある、高い地位を持った男であるということであった。
そんなクランの執務室は小国の国王が使う執務室をも勝るような豪華なものであった。
執務室には世界中探してもなかなか見つからないような高級素材や魔獣の剥製、そして国宝にもなりうるような骨董品などが置かれていた。
それらはかなりの数になっていたが、部屋の主人のセンスが良い為にそれぞれに調和が取れていて上品な空間を演出していた。
その部屋の中央に位置する、これまた豪華な執務机にクランは腰掛けて報告書に目を通していた。
絶世の美男子であるクランは、書類に追われてため息をついている姿ですら様になっていた。
「ここに書かれていることは事実なのか?」
クランは報告書の一文を人差し指で突きながら、報告書を持ってきた受付嬢に向かって尋ねた。
「かの有名な『煉獄盗賊団』の一団をあんなに美しい女の子が一網打尽にしたといわれても信じ難かったのに、隣国のイルティア王国からたった一人で旅をしてきたというのか」
「・・お気持ちは分かります。ですが事実です」
「しかも、本人は冒険者ですらなく、ただの通りすがりの魔導師だったというじゃないか」
「はい、登録受付用紙の記載も『魔導師』となっていましたし、これと言った武器も携帯していませんでしたので間違いないかと・・」
神聖イルティア王国の王都イルティアと魔導帝国オルテアガの帝都リスラムは隣国同士とはいえ千二百キロ以上離れている。
パーティで活動している冒険者であったり、優秀な護衛を雇っていた商隊ならばわからないでもないが、丸腰の魔導師でしかも絶世の美少女であるハーティが、盗賊や魔獣が跳梁跋扈している陸路をたった一人で旅していたという事実をクランは信じられないでいた。
尤も、ハーティが音速よりも速い速度で隣国から飛行してきたなど、だれも想像できるはずはなかったが。
「・・・まあ、下手な演技で隠していたが彼女は『収納魔導』の使い手であるみたいだから、相当な素質を持つ魔導師であるとは思うんだが・・・」
いくら金貨袋とはいっても、それを収納しうるだけの収納魔導の使い手は世界中を捜してもなかなか存在するものではなかった。
そもそも収納魔導の使い手になれるくらいの高度な魔導士であれば、わざわざ冒険者などという明日もわからない命の危険と隣り合わせな仕事を選ばなくても、世界中どこでも十分に裕福な暮らしができるはずだった。
それほど、この世界において『優秀な魔導師』というものは貴重な存在であったのだ。
「それと・・・」
「なんだ?」
突然言いにくそうな態度を示した受付嬢に、クランは怪訝な表情を向けた。
「彼女に魔導師の適正検査してもらったのですが・・・石板の魔導式が全て激しく発光したのです」
ガタッ!
「なんだと!!!!」
クランはあまりに驚愕な事実を聞いた為に、思わず立ち上がったのであった。
「あの『賢者の石板』を光らせたのか!」
「そうです・・」
「なんということだ・・・あれは魔導結晶の鉱床付近にある特別な鉱石板にマナ流入阻害の術式と流入したマナを光に変換させて放出する術式を隙間なく刻んだものだぞ!」
「魔導師としての素質が無ければ石板にマナを込めて発光させることすら困難だし、発光させたとしても石板にマナが行き渡るまでに光に変換されてしまう為に変換量を超えたマナを込めないと石板全体を光らせるなんてことは不可能なはずだ!」
「そもそも手を宛がった所からどれくらい光が広がったかでマナの放出能力を調べるものなのに、全部が光ったということは『測定不能』ということじゃないか!」
「・・いままで石板全体を発光させた魔導師はいらっしゃるんですか?」
「いるわけないだろう!今までいた魔導師で最も優れた人材でも石板の半分を光らせるのがやっとだったんだぞ!しかもその魔導師は今や一級冒険者として世界中で活躍している・・」
そう言うと、クランは眉間を指でつまみながら考え込みだした。
「・・・・リーシャ」
「はい?」
クランは目の前にいる先程ハーティに対応をした『リーシャ』という名の受付嬢の両肩に手を添えた。
「ひゃ!?」
突然の状況に、リーシャは顔を真っ赤にして驚いた。
「君が『ハーティ』の専属受付嬢として彼女の動きをよく見ておいてほしい!」
「彼女はおそらく、そう遠くない未来に必ず世界中に名を轟かせる冒険者になるだろう」
「なんとしても彼女をこの帝都リスラムの冒険者ギルドで囲い込まないといけない」
「お願いできるか?」
「は・・・・はひ・・」
リーシャは相変わらず顔を真っ赤にしながら、まるで壊れた人形のようにカクカクと首を縦に振っていた。
(それに・・・この僕が口説いても全く気にも留めない女性は初めてだ・・・)
クランはその容姿と立場で、今までどこに行っても出会った女性は皆クランに対して好意を抱いていた。
だから、今までどれだけ美しい女性に言い寄られたとしても、クランは『面倒だな』というくらいの感覚しか生まれなかったのだ。
そんなことから、クランはハーティのクランに対する反応で、生まれて初めての新鮮さと驚きを感じたのであった。
(美しくも謎を秘めた魅力的な女性・・・)
(僕はもっと彼女のことを知りたい・・・!)
(そして必ず僕に興味を持ってもらうぞ!)
クランは人生で初めて、女性に対して積極的にアプローチしようと思ったのであった。
クランは、その端正な顔を曇らせていた。
クランは帝都リスラムの冒険者ギルドにおける責任者である。
全世界に影響力を持っている冒険者ギルドは、ある意味『女神教会』に匹敵するほど大きな組織である。
そして、その冒険者ギルドの総本部となっているのが、この魔導帝国オルテアガの帝都リスラムの冒険者ギルドであった。
因みに、都市規模が世界で最も大きい神聖イルティア王国の王都イルティアにある冒険者ギルドに本部を設けなかったのは、『女神教会』の総本部が王都イルティアに存在するからであった。
世界的な大組織である『女神教会』と『冒険者ギルド』が同じ都市にあると、権力集中が起こるということが懸念され、設立時に世界各国からの反発があったのだ。
そんな事情がある中、帝都リスラムの冒険者ギルドにおいて責任者という立場であるということは、実質クランという人物は世界中に発言力がある、高い地位を持った男であるということであった。
そんなクランの執務室は小国の国王が使う執務室をも勝るような豪華なものであった。
執務室には世界中探してもなかなか見つからないような高級素材や魔獣の剥製、そして国宝にもなりうるような骨董品などが置かれていた。
それらはかなりの数になっていたが、部屋の主人のセンスが良い為にそれぞれに調和が取れていて上品な空間を演出していた。
その部屋の中央に位置する、これまた豪華な執務机にクランは腰掛けて報告書に目を通していた。
絶世の美男子であるクランは、書類に追われてため息をついている姿ですら様になっていた。
「ここに書かれていることは事実なのか?」
クランは報告書の一文を人差し指で突きながら、報告書を持ってきた受付嬢に向かって尋ねた。
「かの有名な『煉獄盗賊団』の一団をあんなに美しい女の子が一網打尽にしたといわれても信じ難かったのに、隣国のイルティア王国からたった一人で旅をしてきたというのか」
「・・お気持ちは分かります。ですが事実です」
「しかも、本人は冒険者ですらなく、ただの通りすがりの魔導師だったというじゃないか」
「はい、登録受付用紙の記載も『魔導師』となっていましたし、これと言った武器も携帯していませんでしたので間違いないかと・・」
神聖イルティア王国の王都イルティアと魔導帝国オルテアガの帝都リスラムは隣国同士とはいえ千二百キロ以上離れている。
パーティで活動している冒険者であったり、優秀な護衛を雇っていた商隊ならばわからないでもないが、丸腰の魔導師でしかも絶世の美少女であるハーティが、盗賊や魔獣が跳梁跋扈している陸路をたった一人で旅していたという事実をクランは信じられないでいた。
尤も、ハーティが音速よりも速い速度で隣国から飛行してきたなど、だれも想像できるはずはなかったが。
「・・・まあ、下手な演技で隠していたが彼女は『収納魔導』の使い手であるみたいだから、相当な素質を持つ魔導師であるとは思うんだが・・・」
いくら金貨袋とはいっても、それを収納しうるだけの収納魔導の使い手は世界中を捜してもなかなか存在するものではなかった。
そもそも収納魔導の使い手になれるくらいの高度な魔導士であれば、わざわざ冒険者などという明日もわからない命の危険と隣り合わせな仕事を選ばなくても、世界中どこでも十分に裕福な暮らしができるはずだった。
それほど、この世界において『優秀な魔導師』というものは貴重な存在であったのだ。
「それと・・・」
「なんだ?」
突然言いにくそうな態度を示した受付嬢に、クランは怪訝な表情を向けた。
「彼女に魔導師の適正検査してもらったのですが・・・石板の魔導式が全て激しく発光したのです」
ガタッ!
「なんだと!!!!」
クランはあまりに驚愕な事実を聞いた為に、思わず立ち上がったのであった。
「あの『賢者の石板』を光らせたのか!」
「そうです・・」
「なんということだ・・・あれは魔導結晶の鉱床付近にある特別な鉱石板にマナ流入阻害の術式と流入したマナを光に変換させて放出する術式を隙間なく刻んだものだぞ!」
「魔導師としての素質が無ければ石板にマナを込めて発光させることすら困難だし、発光させたとしても石板にマナが行き渡るまでに光に変換されてしまう為に変換量を超えたマナを込めないと石板全体を光らせるなんてことは不可能なはずだ!」
「そもそも手を宛がった所からどれくらい光が広がったかでマナの放出能力を調べるものなのに、全部が光ったということは『測定不能』ということじゃないか!」
「・・いままで石板全体を発光させた魔導師はいらっしゃるんですか?」
「いるわけないだろう!今までいた魔導師で最も優れた人材でも石板の半分を光らせるのがやっとだったんだぞ!しかもその魔導師は今や一級冒険者として世界中で活躍している・・」
そう言うと、クランは眉間を指でつまみながら考え込みだした。
「・・・・リーシャ」
「はい?」
クランは目の前にいる先程ハーティに対応をした『リーシャ』という名の受付嬢の両肩に手を添えた。
「ひゃ!?」
突然の状況に、リーシャは顔を真っ赤にして驚いた。
「君が『ハーティ』の専属受付嬢として彼女の動きをよく見ておいてほしい!」
「彼女はおそらく、そう遠くない未来に必ず世界中に名を轟かせる冒険者になるだろう」
「なんとしても彼女をこの帝都リスラムの冒険者ギルドで囲い込まないといけない」
「お願いできるか?」
「は・・・・はひ・・」
リーシャは相変わらず顔を真っ赤にしながら、まるで壊れた人形のようにカクカクと首を縦に振っていた。
(それに・・・この僕が口説いても全く気にも留めない女性は初めてだ・・・)
クランはその容姿と立場で、今までどこに行っても出会った女性は皆クランに対して好意を抱いていた。
だから、今までどれだけ美しい女性に言い寄られたとしても、クランは『面倒だな』というくらいの感覚しか生まれなかったのだ。
そんなことから、クランはハーティのクランに対する反応で、生まれて初めての新鮮さと驚きを感じたのであった。
(美しくも謎を秘めた魅力的な女性・・・)
(僕はもっと彼女のことを知りたい・・・!)
(そして必ず僕に興味を持ってもらうぞ!)
クランは人生で初めて、女性に対して積極的にアプローチしようと思ったのであった。
0
あなたにおすすめの小説
転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!
カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地!
恋に仕事に事件に忙しい!
カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。
日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。
両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日――
「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」
女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。
目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。
作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。
けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。
――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。
誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。
そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。
ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。
癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる