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第二章 魔導帝国オルテアガ編

レゾニア男爵家

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 クラリスに急かされた二人はリーシャに指名依頼受注の意思を伝えると、クラリスが用意した馬車に乗って、帝都郊外にあるレゾニア男爵家へと向かった。

 そして、馬車で小一時間ほど揺られてハーティがうたた寝をしかけていた頃にレゾニア男爵家へと到着したのであった。

 帝都郊外にある敷地は、とても男爵家のものとは思えないほど広大なものであった。

 そして、宮殿といっても過言ではないような豪邸が敷地の外からでも確認できた。

「・・・ふぁあ・・・危うく眠ってしまうところでした」

「・・・あたしの家の屋敷を見てそんな呑気なことを言う人を初めて見たわ・・・」

 祖父の時代に魔導具開発で大成して建築されたレゾニア家の屋敷を初めてみた人間は、今まで漏れなく驚きの声を上げていた。

 しかし、帝都では知られていないが神聖イルティア王国上位貴族の一員であったオルデハイト侯爵家の屋敷も王国内有数の豪華さであった為、二人はレゾニア家の屋敷を見てもさほど驚きはしなかった。

「本当にあなた達何者なのよ・・・」

 そして、三人が乗った馬車は敷地に入るとまっすぐに魔導機甲マギ・マキナの開発をするための機材が置いてある倉庫へと向かった。

 その倉庫は外観こそ何の変哲もないものであったが、中に踏み入れた瞬間にものすごい数の魔導コンソールと床に転がったケーブルが入り乱れた研究室の光景がハーティとユナの目の前に広がった。

「・・・屋敷もそうでしたが、とても男爵家とは思えない設備ですね」

「あたしの家であるレゾニア男爵家は世界中に輸出される魔導具の特許技術を沢山生み出して成功した家だからね。資産だけは帝国貴族の中でも有数の多さよ」

「魔導具を作るのって儲かるんですねー。あ、そういえばクラリスさんの魔導機甲マギ・マキナはどこにあるんですか?」

「・・・本体は敷地内の別の倉庫に置いてあるわ。本体がかなり大きいからこの部屋には入らないのよ」

「この部屋は主に動力関係を製作するための研究室になっているわ」

「どのみち魔導機甲マギ・マキナの動力をなんとかしないといけないし、先にそれを見てもらおうとして案内したのよ」

 そういうと、クラリスは部屋の中央に設置してある大型の魔導機械を指差した。

「これこそあたしが開発していた魔導機甲マギ・マキナ用の動力となる『マギフォーミュラ・マナ・ジェネレーター』よ!」

 クラリスが得意げに紹介した魔導機械を、ユナは至近距離からまじまじと見ていた。

「・・すごい、複雑な魔導式が一面に刻まれています・・それにこれは純粋魔導銀ピュア・ミスリルで出来ているようですね」

 そして、すぐさまその魔導機械を見て思った自身の見解を漏らしていた。

「ご明察。その複雑な魔導式を発動させることで周囲のエーテルからマナを生み出して動力にするのよ!」

 そう言いながらクラリスはつつましい胸を張った。

「へえー、何だかよくわからないけど凄いんですね!」

 前世は魔導具など存在しない太古の昔を生き、その有り余る能力で物事を何でも自分でこなしてきたハーティは、今世でもお嬢様であったから自分で魔導具に触れることもなかった為に極度の魔導具音痴であった。

 なのでいくら素晴らしい魔導具を見ても薄っぺらい感想しか言えないのであった。

「そうそう、ハーティ。これを見てくれる?」

 クラリスはそう言うと、部屋の隅に置かれた塊の上に被せられた布を一気に取り払った。

「・・これは!!」

 布が取り払われ明らかになった物をみて、ユナが目を見開いた。

「これはあたしが帝国から買い取ったものと、もともとレゾニア家にあった魔導銀ミスリルを集めた物よ。全部で五百キロほどあるわ」


「ごひゃく・・・!!」

 その言葉にハーティは言葉を詰まらせた。

「・・・それほどの魔導銀ミスリル・・集めるのに一体いかほどのお金がかかるのか・・」

 ユナもまた驚きの言葉を発した。

 いくらイルティア王国きっての財を持っているオルデハイト侯爵家といえ、これほどの量にもなる魔導銀ミスリルは持っていない。

 改めて、クラリスが今までに魔導具で稼いだ財産の多さに二人は驚いた。

「ちなみにあたしが開発しているこの『マギフォーミュラ・マナ・ジェネレーター』も魔導銀ミスリルで出来ていて、重さは大体四百キロほどよ。で、これをまるごと神白銀プラティウムで作りたいってわけ。これくらいあればできそう?」

 クラリスの言葉を聞いたハーティは目の前にある魔導機械と魔導銀ミスリルの塊をまじまじと見比べる。

「・・・はい、たぶん大丈夫だと思います」

 ハーティの言葉を聞いてクラリスは満面の笑みを浮かべた。

「ありがとう!これであたしの夢も叶うかもしれないわ!」

「・・ちなみにこれくらいの神白銀プラティウムを集めるには何か月くらい掛かるの?」

 クラリスの質問に対してハーティは首を傾げた。

「・・・へ?集める?今から神白銀プラティウムかと思ったんですが・・」

 その言葉に対して、クラリスが怒りの表情を露わにし始めた。

「あなた達馬鹿にしているの?神白銀プラティウムってどうやってよ!?」

神白銀プラティウムの錬金は数多の研究者が夢に見て挫折したものよ?神様にでも恵んでもらうって話?あたしそんなふざけた話をするためにあなた達を連れてきたわけじゃないんだけど・・・」

 クラリスの二人を馬鹿にするような言葉を聞いて、ユナは額に青筋を出しながら怒りに震えていた。

「・・・信じないなら結構です。これ以上ハーティさんを馬鹿にする人間などに手を貸す暇などないですから」

「え?え?」

 ユナがそう言うと、二人の剣幕に困惑していたハーティの手を取って屋敷を後にしようとしていた。

「待って!あたしが悪かったわ!お願い!信じるからあたしに力を貸してちょうだい!!」

 クラリスの悲痛な叫びを聞いて、ユナは静かに溜息を吐いた。

「・・・いいでしょう。これから始まる『神の技』となる奇跡の所業をその節穴な目でしかと括目するのですよ」

「・・・なんだか言葉に棘があるわね・・まあいいわ。本当にというならお願いするわ。資材関係はこのままでいいの?」

「はい。大丈夫ですよ」

「ハーティさん。この阿呆にハーティさんが一体どんな尊い存在なのかを知らしめるためにも御身の真実の姿を晒してはいかがでしょうか」

「うーん・・なんだか言葉の中にユナの欲望もちょっと感じるけど・・・まあ今からすることを一部始終目撃されるなら隠しても仕方ないしね・・わかったわ」

 そう言いながら、ハーティは髪を束ねている髪飾りに手をかけた。

 ユナはそれを見て既に『最敬礼』の姿勢で待ち構えていた。

「なぜ今まで誰も成しえなかった神白銀プラティウムを私たちが簡単に調達できるのか・・・」

 ハーティは言葉と共に髪飾りを外すと、自身に発動していた擬態魔導が解除されていくのを感じた。

 そして、ハーティの体から淡い白銀の光が溢れ、その桃色の髪が根元から徐々に美しい白銀色へと変わって行った。

 瞳やまつ毛までもが美しい白銀に染まった彼女は、この世の『美』を究極までに集約した文字通り『女神』の容貌であった。

「・・それは、私がかつてこの世界を創造した『女神ハーティルティア』の転生体だからです」

 『女神化』したハーティの姿を目の当たりにして、クラリスは尻餅をつきながらへたり込んだ。

「・・・・う・・嘘でしょ」

 クラリスは女神化したハーティを、その大きく見開いた目で見ていた。

 そして、その体は小刻みに打ち震えていた。
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