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第二章 魔導帝国オルテアガ編
皇帝への謁見
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「わぁ・・・これが『魔導車』」
衛兵に案内されるままハーティ達が宿屋から出ると、そこには馬車で言うと四頭立て程の大きさになる大型の『魔導車』が停まっていた。
ガチャ・・。
「どうぞ、お乗りください」
衛兵に促されて三人が『魔導車』に乗りこむと、内装は非常に豪華で内部は八人程が座っても十分広いスペースの対面座席があった。
「さすが、皇帝陛下お抱えの『魔導車』はレベルが違うわね」
「『魔導車』ってどんな内装なのかなって思っていたけど、神聖イルティア王国の馬車とあまり変わらないのね!!」
「・・・ハーティさんは世界でも有数の高貴な身分の御方ですし、マクスウェル殿下の馬車にもよく乗ってらっしゃいましたしね」
「・・皇帝陛下の『魔導車』に乗ってそんな反応をする二人に驚きだわ・・」
三人がそう話している間に御者が運転席のコンソールについた球体に両手で触れてマナを込めると、『魔導車』はゆっくりと走り出した。
そして、『魔導車』が走り出して程なくすると、先日戦いの舞台となった宮殿の内部へと進んで行った。
今まで皇帝が謁見の間として使用していた宮殿最上部は先日の戦いで失われてしまった為、現在修復作業中である。
なので、ハーティ達は今まで舞踏会として使用されていた大広間の中でも一番豪華な部屋を改造して急誂えした仮の謁見の間に通されることとなった。
その内装は仮とは言っても皇帝陛下と謁見をするという目的から、元の謁見の間と遜色が無い程豪華なものであった。
そして、皇帝に入室を促された三人は、現在皇帝陛下の前で頭を垂れて跪いていた。
皇帝陛下の左右には軍務卿であるクウォリアスと宰相、そして財務卿が直立不動で立ち並んでいた。
「ハーティ、そしてユナと言ったな・・よくぞ参られた。皆面をあげよ」
玉座に鎮座する赤髪の皇帝がそう言うと、三人が跪いた体勢から顔を上げた。
「まずは、此度帝都で発生した未曾有の事態に対し、この帝都を救ってくれた事をこの国を治める主として心より感謝する」
「「「勿体なきお言葉でございます」」」
皇帝の言葉に三人は無難な定型文を返した。
「で、あるからして此度の武勲に対してそなた達には褒美を渡したいと思っている」
「何でも好きに申すがいい」
「まずはハーティ。そなたは何が望みだ?」
「・・・私はあくまで自分の目的と友人を救うために戦っただけです。なので褒美は望みません」
「ほう、褒美はいらぬ・・か。だが帝都を救ってもらった以上、何らかの褒美は出さねばならぬのだがな・・」
皇帝はそう言うと、何故か頬を染めながら咳払いをした。
「こほん、取り繕った話はこの際無しにしよう。ハーティ、そなたが我が帝国に来る前にどう言う人生を歩んできたかは聞き及んでいる」
「ハーティ・・いや、ハーティ元オルデハイド侯爵令嬢と言うのが正しいか」
皇帝の言葉にハーティは目を見開いた。
「そなたは神聖イルティア王国を去る際に貴族としての身分を捨ててきた。違うか?」
「・・はい、私は一応そのつもりです」
「そなたは王国に戻れば生きづらいのも承知している。その点、我が国は『女神教』がそこまで浸透していないが故、そなたのやんごとなき事情にもある程度対処できるはずである。そこで・・だ」
そこまで言うと、皇帝はその先を言うものか躊躇うような素振りを見せた。
「余はそなたを妃として迎えたいのだが・・どうだろうか」
ズモモモモ・・・。
シタッ!
「ぐふっ!」
皇帝の言葉を聞いたハーティは、ひとまず自分の右隣で跪いたユナから放たれた殺気を察知される前に、常人では視認できない速度の手刀をユナへお見舞いして牽制しておいた。
ザワザワ・・。
そして、帝国側の重鎮達も突然の皇帝の言葉に戸惑っているようであった。
「お・・お戯れを」
「戯れてはおらぬ。余はあの時『女神』となったそなたを見て恋に落ちたのだ。貴族の身を捨てたとはいえ、そなたは元侯爵令嬢。余の妃になるのに問題はあるまい」
皇帝はやけに『元』侯爵令嬢であると強調して表現していた。
「何よりそなたは『救国の女神』。民衆はそなたが妃になる事を大いに喜ぶであろう」
しかし、その言葉を聞いた宰相が慌てて口を開く。
「恐れながら申し上げます、陛下。ハーティ嬢は自身で貴族の身を捨てたと仰られていますが、あの神聖イルティア王国がそんなことを認めるはずが御座いません。『女神ハーティルティア』がこの世界を創造したと信じてやまない彼の国にとっては、寧ろイルティア国王よりも高貴な身分と認識していることでしょう」
「そんな中で陛下がハーティ嬢を娶った上で、彼女が『オルデハイド侯爵令嬢』ということが知れ渡れば、間違いなくイルティア王国との全面戦争になります!」
「それは昔に我が国が侵略戦争を仕掛けた時とは訳が違います。その時はイルティア王国が総力を挙げて最後の一人になるまでハーティ嬢を奪還すべく兵をけしかけてくるはずです!おそらく世界中の『女神教』を崇拝する国々も戦いに参加して、戦争は全世界に及ぶことになります!」
(え、何それ怖い)
(当たり前です。もしこの赤髪野郎がハーティさんを娶ろうとするなら、私だって刺し違えてでも帝国を滅ぼします)
(こら、ユナ)
二人は周りに聞こえない声量で会話した。
「と、とにかくです!大変名誉で私にはもったいない限りですが、謹んでお断りします!」
「・・何故であるか。そなたが『元オルデハイド侯爵令嬢』であることは国を挙げて秘匿する。そなたには余の伴侶として十分な帝国貴族の爵位を与えても構わない。それでも妃にはならぬというのか!」
「・・はい」
ハーティは静かに頷いた。
「・・やはり、『マクスウェル殿』がいるからであるか・・?」
ハーティは皇帝の言葉を聞いてこてりと首を傾げた。
「え??何故今『マクスウェル』の名前が挙がったんでしょうか?恐らく私が王国から消えたことで彼との婚約も解消されたと思うんですが・・・」
その言葉を聞いた皇帝はやれやれと言った感じで目頭へと手をやった。
「・・・他国の王子とは言え、同情するぞ・・『マクスウェル殿』」
衛兵に案内されるままハーティ達が宿屋から出ると、そこには馬車で言うと四頭立て程の大きさになる大型の『魔導車』が停まっていた。
ガチャ・・。
「どうぞ、お乗りください」
衛兵に促されて三人が『魔導車』に乗りこむと、内装は非常に豪華で内部は八人程が座っても十分広いスペースの対面座席があった。
「さすが、皇帝陛下お抱えの『魔導車』はレベルが違うわね」
「『魔導車』ってどんな内装なのかなって思っていたけど、神聖イルティア王国の馬車とあまり変わらないのね!!」
「・・・ハーティさんは世界でも有数の高貴な身分の御方ですし、マクスウェル殿下の馬車にもよく乗ってらっしゃいましたしね」
「・・皇帝陛下の『魔導車』に乗ってそんな反応をする二人に驚きだわ・・」
三人がそう話している間に御者が運転席のコンソールについた球体に両手で触れてマナを込めると、『魔導車』はゆっくりと走り出した。
そして、『魔導車』が走り出して程なくすると、先日戦いの舞台となった宮殿の内部へと進んで行った。
今まで皇帝が謁見の間として使用していた宮殿最上部は先日の戦いで失われてしまった為、現在修復作業中である。
なので、ハーティ達は今まで舞踏会として使用されていた大広間の中でも一番豪華な部屋を改造して急誂えした仮の謁見の間に通されることとなった。
その内装は仮とは言っても皇帝陛下と謁見をするという目的から、元の謁見の間と遜色が無い程豪華なものであった。
そして、皇帝に入室を促された三人は、現在皇帝陛下の前で頭を垂れて跪いていた。
皇帝陛下の左右には軍務卿であるクウォリアスと宰相、そして財務卿が直立不動で立ち並んでいた。
「ハーティ、そしてユナと言ったな・・よくぞ参られた。皆面をあげよ」
玉座に鎮座する赤髪の皇帝がそう言うと、三人が跪いた体勢から顔を上げた。
「まずは、此度帝都で発生した未曾有の事態に対し、この帝都を救ってくれた事をこの国を治める主として心より感謝する」
「「「勿体なきお言葉でございます」」」
皇帝の言葉に三人は無難な定型文を返した。
「で、あるからして此度の武勲に対してそなた達には褒美を渡したいと思っている」
「何でも好きに申すがいい」
「まずはハーティ。そなたは何が望みだ?」
「・・・私はあくまで自分の目的と友人を救うために戦っただけです。なので褒美は望みません」
「ほう、褒美はいらぬ・・か。だが帝都を救ってもらった以上、何らかの褒美は出さねばならぬのだがな・・」
皇帝はそう言うと、何故か頬を染めながら咳払いをした。
「こほん、取り繕った話はこの際無しにしよう。ハーティ、そなたが我が帝国に来る前にどう言う人生を歩んできたかは聞き及んでいる」
「ハーティ・・いや、ハーティ元オルデハイド侯爵令嬢と言うのが正しいか」
皇帝の言葉にハーティは目を見開いた。
「そなたは神聖イルティア王国を去る際に貴族としての身分を捨ててきた。違うか?」
「・・はい、私は一応そのつもりです」
「そなたは王国に戻れば生きづらいのも承知している。その点、我が国は『女神教』がそこまで浸透していないが故、そなたのやんごとなき事情にもある程度対処できるはずである。そこで・・だ」
そこまで言うと、皇帝はその先を言うものか躊躇うような素振りを見せた。
「余はそなたを妃として迎えたいのだが・・どうだろうか」
ズモモモモ・・・。
シタッ!
「ぐふっ!」
皇帝の言葉を聞いたハーティは、ひとまず自分の右隣で跪いたユナから放たれた殺気を察知される前に、常人では視認できない速度の手刀をユナへお見舞いして牽制しておいた。
ザワザワ・・。
そして、帝国側の重鎮達も突然の皇帝の言葉に戸惑っているようであった。
「お・・お戯れを」
「戯れてはおらぬ。余はあの時『女神』となったそなたを見て恋に落ちたのだ。貴族の身を捨てたとはいえ、そなたは元侯爵令嬢。余の妃になるのに問題はあるまい」
皇帝はやけに『元』侯爵令嬢であると強調して表現していた。
「何よりそなたは『救国の女神』。民衆はそなたが妃になる事を大いに喜ぶであろう」
しかし、その言葉を聞いた宰相が慌てて口を開く。
「恐れながら申し上げます、陛下。ハーティ嬢は自身で貴族の身を捨てたと仰られていますが、あの神聖イルティア王国がそんなことを認めるはずが御座いません。『女神ハーティルティア』がこの世界を創造したと信じてやまない彼の国にとっては、寧ろイルティア国王よりも高貴な身分と認識していることでしょう」
「そんな中で陛下がハーティ嬢を娶った上で、彼女が『オルデハイド侯爵令嬢』ということが知れ渡れば、間違いなくイルティア王国との全面戦争になります!」
「それは昔に我が国が侵略戦争を仕掛けた時とは訳が違います。その時はイルティア王国が総力を挙げて最後の一人になるまでハーティ嬢を奪還すべく兵をけしかけてくるはずです!おそらく世界中の『女神教』を崇拝する国々も戦いに参加して、戦争は全世界に及ぶことになります!」
(え、何それ怖い)
(当たり前です。もしこの赤髪野郎がハーティさんを娶ろうとするなら、私だって刺し違えてでも帝国を滅ぼします)
(こら、ユナ)
二人は周りに聞こえない声量で会話した。
「と、とにかくです!大変名誉で私にはもったいない限りですが、謹んでお断りします!」
「・・何故であるか。そなたが『元オルデハイド侯爵令嬢』であることは国を挙げて秘匿する。そなたには余の伴侶として十分な帝国貴族の爵位を与えても構わない。それでも妃にはならぬというのか!」
「・・はい」
ハーティは静かに頷いた。
「・・やはり、『マクスウェル殿』がいるからであるか・・?」
ハーティは皇帝の言葉を聞いてこてりと首を傾げた。
「え??何故今『マクスウェル』の名前が挙がったんでしょうか?恐らく私が王国から消えたことで彼との婚約も解消されたと思うんですが・・・」
その言葉を聞いた皇帝はやれやれと言った感じで目頭へと手をやった。
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