転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

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第二章 魔導帝国オルテアガ編

旅立ちの時

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 皇帝との謁見が終わってから更に十日が過ぎた頃、いよいよハーティ達が帝都を去る日がやってきた。

「ハーティさん、それにユナさん達も・・ご滞在の時は大変お世話になりました」

 三人は『暁の奇跡亭』で最後の朝食を食べていた。

「・・すっかり我が家みたいに過ごしてきたから、ここを去ると思うと寂しくなるわね」

「そう言っていただけると嬉しいです!たくさん宿泊代も前倒しで貰いましたし、ハーティさんが泊まっていたお部屋は空けておきますから、いつでも泊まりに来てくださいね!」

「・・・でも本当にいいの?お金を払っているって言っても一部屋使えなくなるのは不便なんじゃ・・・」

「何を言っているんですか!帝都襲撃事件から帝国では徐々に『女神教』が浸透してきています。そして、帝国はこれから神聖イルティア王国と親交を深めていく予定みたいですし、王国からもたくさんの神官や信者が流れ込んでくるでしょう」

「そんな人たちにとってこの宿は『女神ハーティルティア』様が滞在した宿、いわば『聖地』となるんです!!!」

「おかげさまで間違いなくこの宿はこれから忙しくなりますよ!!」

 そう言いながらシエラは拳を握りしめていた。

「あなた思ったより商魂逞しいわね」

 シエラの様子を見て、クラリスがやれやれといったポーズをとった。

「それにしても、ユナさんに教えてもらった『ブースト』って本当にすごいですね!」

 シエラはそう言いながらトマトを真上に放り投げる。

 シタタタタタ!!!

 そして自由落下するトマトに向かって掌を手刀の要領で水平に往復させる。

 トトトト・・・。

 するとトマトは全く身がつぶれていない美しい断面でまな板の上へ綺麗に並べられた。

「こんな風に包丁いらず!!」

 今シエラが行った技を、もし普通の人間の首元へ行えば結果など語るまでもない。

「うちのシエラが凄いことに・・・・」

 それを見てジェームズは目を見開いていた。

「宿が盛況すればこれからいろいろなトラブルに見舞われる可能性があります。僅かな時間しかありませんでしたが、これからは私が教えた体術で宿を守ってくださいね」

「わかりました!」

 シエラは『黒の魔導結晶』の力によってマナの巡りを変えられた弊害に苦しめられていたが、ハーティの浄化魔導によって回復することができた。

 しかし、ハーティの浄化魔導によってマナの巡りも元通りとなってしまったので、ハーティは餞別としてシエラにユナへ施した時と同じ方法でマナの巡りを変えることにより、『ブースト』の魔導を使えるようにしてあげたのだ。

 獣人の中でも特にマナ出力の高いシエラは、ハーティの施術によって単純なマナ出力で言えばユナをも凌駕する程となった。

 そして、帝都を去るまでの間にユナはシエラへ基本的な体術や護身術を叩きこんだのであった。

 カランカラン・・・。

 シエラの曲芸披露が終わった頃に帝都の衛兵たちが『暁の奇跡亭』の食堂へと入ってきた。

 その衛兵たちは一糸乱れぬ動きでハーティ達へと敬礼する。

「『白銀の剣』の皆様!定刻となりましたのでお迎えにあがりました!!」

「別にそんな御大層なことして頂かなくてもよかったのに・・」

「いえ、『白銀の剣』の皆様は今や我ら帝国の英雄です!その英雄達のたびたち旅立ちとあらば、国を挙げてお見送りするのが当たり前です!!」

 ハーティ達は普通に帝都から出発しようと思っていたのだが、皇帝の厚意により帝都の中央広場で出発式を執り行うこととなったのだ。

 早速、衛兵の案内によりハーティ達は『魔導車』へと乗り込んだ。

 そして、見送りの為にあらかじめ同行をお願いしていたシエラとジェームズも『魔導車』に乗りこむ。

「ほえぇ!『魔導車』に初めて乗りました!!」

「これは・・すばらしいですね」

「あなた達くらい商魂逞しかったら、すぐに自前の『魔導車』くらい買えるようになるわよ」

「ええ、クラリスの言う通りですね」

 ブゥゥゥン・・。

 そして、『魔導車』が中央広場へ続くメインストリートへ出る。

 すると、そこには街道を挟むようにたくさんの帝都民が集まっていた。

「わぁぁ!すごい!!」

「・・ハーティさんの功績を考えれば、当然の結果ですね!」

 ワァァァァァ!!

「ハーティさん!!ありがとう!!!」

「ハーティちゃん!それにユナちゃんも!またいつでも『オークバラ串』食べにきなよ!」

「あたし、これから屋台の暖簾に『女神ご愛食の焼きそば』ってかく書くよー!」

「え・・・それはちょっと・・」

 ハーティは焼きそば屋台の店主の言葉を聞いて慄いていた。

「ああ、女神ハーティルティア様!!王国だけではなく帝都までも救って頂いて・・はぁ・・尊い」

「女神ハーティルティア様、『聖騎士』ユナ様!私どもはいつまでも敬愛しております!」

 広場へと進んでいく馬車に向かって様々な声がかけられ、中には『最敬礼』をする神官や信者もちらほらと存在していた。

「ふふ・・・これでこの世界で『女神教』を崇拝しない国は存在しなくなりましたね!」

「うう・・逃げ場がない」

「もう今さらでしょ。諦めなさいよ」

 そして、ユナが何気なく見送りの観衆を眺めていると、その中に冒険者の一団があった。

「ユナ様――――!お元気で!!」

「ユナ様のご尊顔・・はぁ!尊い!」

「はぁはぁ・・・ユナ様!またその冷めた眼差しで私を罵ってくださいね!!」

「ああ、ユナお姉さま!!『聖騎士』の鎧姿も美しいですが、冒険者の姿も素敵です!!」

「・・・ユナ、あなたのファンってどうしてあんなにわけ?」

「・・・聞かないでください」

 クラリスの指摘にユナはただ俯くばかりであった。

 そして、ハーティ達はその冒険者の一団の中に見知った顔を見かけた。

「ハーティ様!ユナ様!お元気で!!」

「帝都を救ってもらった恩、忘れないんだな!」

「次の町でのご活躍、期待していますよ!」

「『ブラックスミス』のみなさん!お元気でーーー!!」

 その後も大勢の帝都民に見送られ、『魔導車』はとうとう中央広場へと到着したのであった。

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