転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

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第三章 商業国家アーティナイ連邦編

『旋風』

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「拙者、名を『ハンゾウ』と申す。我ら冒険者パーティ『旋風』のリーダを任されているのでござる。『一級冒険者』の英雄達に会えて光栄でござる」

『ハンゾウ』と名乗った男は、二十代前半くらいの切れ長な目が特徴的な見た目をしており、隠密での近接から中距離の強襲攻撃を行う戦闘スタイルを得意とした『カームクラン民族』特有の『忍』と呼ばれる全身黒一色で統一された独特の恰好をしていた。

 その装束は『カームクラン民族』が好んで着る着物と雰囲気は似ているが、袖は短くなっており、そこから鎖帷子が見えており、手には籠手が装着されている。

 また、足には足袋を履いており、短く切りそろえられた赤茶色をした髪が目立つ頭部には鉢金が巻かれていた。

 ハンゾウは自分の自己紹介を終えると、隣に立っている少し小さめの身長の女の子の背中に手をやった。

「こやつは拙者と六つ歳の離れた妹でござる。共に冒険者として活躍しているのでござる」

「私の名前は『ほむら』と言います。見たところ、皆さんほむらと歳の近い女の子なのに『一級冒険者』として活躍されていると聞きまして、とっても驚きです!今回は足手まといにならないように頑張りますのでよろしくお願いします!」

 そう言いながら、『ほむら』と名乗った少女は一礼した。

 彼女もまた『忍』の装束を着ていたが、全身黒装束であるハンゾウに比べて露出度の多いもので、全体的に茶色系統の色をしていた。

 上半身は着物のように前合わせの服になっており、その上から胴当てを装着している。

 その袖はハンゾウとおなじようにノースリーブ丈になっており、二の腕半ば程まで鎖帷子が伸びていた。

 下半身は動きやすいようにショート丈のパンツを履いており、そこからすらりとのびる健康的な足は履いているハイカットブーツまで腕と同じように鎖帷子を装着していた。

 そして、腰の背中側に横向きで縦並びに装着された二つの鞘には、自身の武器である一対の小太刀が収まっていた。

 兄であるハンゾウと同じく髪と瞳は赤茶色をしており、肩口でまっすぐ切りそろえられた後ろ髪は、小豆色の紐でまとめられた真ん中部分の一房だけが腰まで伸びており、真ん中で分けられた前髪の下には兄と同じデザインの鉢金が見え隠れしていた。

「最後に、彼が『旋風』の後方支援担当の『クウゼン』でござる」

『クウゼン』の名で紹介された三十代前半くらいの見た目をした坊主の男が名乗るために姿勢を正す。

 シャラン・・。

 それにより、彼が右手に持っている錫杖から音が鳴った。

「某は『僧侶』として後方支援を担当している『クウゼン』と申す。此度はよろしく頼む」

『僧侶』は『女神教』における『神官』に近い役割を持つが、正式に『神社庁』に属する訳ではない。

 この世界における『僧侶』というのは、現代日本の仏教における『僧侶』とは異なり、光属性魔導を会得するために『女神教』の教義を学びながら独自の厳しい修行を達成した者に与えられる一種の称号に近い意味合いを持つ。

 また、『神官』と異なり、『僧侶』は修行の過程で様々な属性の攻撃魔導も会得するので、実際の戦闘スタイルはどちらかと言うと『魔導士』寄りである。

『クウゼン』は坊主なので髪色はわからないが、眉と瞳がグレーであり、年齢的に白髪でないことを考えるとかなりの魔導の使い手であることが伺えた。

 その身なりについては『僧侶』らしく直裰じきとつの上から袈裟を身に付けて、足には足袋に草履を履いていた。

「ところで其方のお嬢、何だかとても見覚えのある顔をしているが、どこかで会ったことがあるのだろうか?」

『クウゼン』は顎に手をやってハーティの顔をまじまじと見ながら尋ねた。

「き、気のせいじゃないですか!?あ、たまに『女神像』に似ているとか言われたりしますがどうですかね!本当にたまにですけどね!うふふふふ!」

「うーむ、そうか・・そう言われれば確かに『女神ハーティルティア像』に似ているな。それで見覚えがあったのか・・」

「うふふ!『女神像』に似ているなんて恐縮です!・・・はぁ・・」

『僧侶』として常日頃から『女神像』を見ているクウゼンからの指摘を何とか誤魔化せたことで、ハーティは胸を撫で下ろした。

 その後『旋風』の三人が挨拶を終えると、続いてハーティ達も自己紹介を済ませた。

「さて、お互い顔合わせも済んだことじゃし、早速報酬の話になるのじゃが、今回は緊急で『ワイバーン』を殲滅する依頼となるので、通常の討伐系クエストとは異なって一人あたり金貨百枚の一律報酬となるのじゃ」

「それはかなり高い報酬でござるな」

「やった!新しい魔導銀ミスリルの小太刀が買えますね!」

「某は清貧を心がけているのだが、母上の住む家の瓦を葺き替えてやれる・・」

「じゃあ討伐部位を残さなくって良いから、思いっきりぶっ放してもオッケイってことね!」

「『ぶっ放してもオッケイ』じゃないわよ!あなた絶対に手加減しなさいよ!『ワイバーン』を討伐する前に地図を描きかえないといけなくなるわよ!」

「ミウさん、『ワイバーン』が出現した場所から周囲百キロ以内に人が住んでいる集落はないですよね?」

「いやいや、『カームクラン』がモロに入っておるのじゃ!何だか物騒な言葉が出てきておったが絶対駄目じゃからな!」

「っち・・ミウさんのケチ・・」

「こやつ舌打ちしおったぞえ・・・」

『旋風』のメンバーは既に高額の報酬額を聞いて皮算用を始めていたが、全員が貴族かつ今までのクエスト報酬でお金を余らせている『白銀の剣』の三人はどちらかと言うと討伐数による報酬じゃない為に、遠慮なしで『ワイバーン』を蹴散らせる事を喜んだ。

「まあ、それは冗談なんだけどね。そうと決まれば早速出発しましょう!」

「「おー!」」

「まったく冗談に聞こえなかったぞえ・・・」

「ち、ちょっと待ってください!『ワイバーン』の出現場所までもあるんですよ!野営の準備とか、馬車の手配は・・」

 ほぼ手ぶら状態で出発しようとする『白銀の剣』の三人を見て、ほむらが慌てて制止する。

「あ、そういえば『旋風』の皆さんの移動手段を考えないといけませんね!」

 ハーティが思い出すように手を鳴らすと、そのままクラリスに意味深な視線を送る。

 そして、その視線を受けたクラリスがこくりと頷いた。

「ときに『旋風』のみなさん」

「「「??」」」

は得意ですか?」

 そう言いながら、クラリスはニヤリと悪どい笑みを浮かべた。
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