転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

文字の大きさ
166 / 229
第四章 エルフの国リーフィア編

『リーフィア』の晩餐会2

しおりを挟む
「ぐっ!」

「ああ・・神々しい・・!」

「ふつくしい・・!」

 気づけば、その場にいた『エルフ』達が次々とグラディウスのように膝をついて悶絶していた。

「おおぉぉう・・・・」

 そして、リフィアスは言葉にならない声を上げながら身体を小刻みに振るわせていた。

「リフィアス?ちょっと、あなた女王として人様に見せられない顔に・・・」

「敬愛する主様あぁぁぁぁ!!」

 むにょん!

「ぶごフッ!!」

 ハーティは最後まで言葉を発する前にその豊満な胸に包まれた。

「はぁぁ!あるじさまあるじさまあるじさまあぁぁ!すぅぅぅはあはあ!クンカクンカクンカ!すうはあすうはあ!」

「むごお!ふごふご!」

 ハーティは自分の顔面からリフィアスを引き剥がそうとするが、興奮したリフィアスが無意識に『ブースト』を発動しているようでなかなか剥がれない。

 それこそ本気を出したらいい話なのだが、加減をどうしたらいいかわからないハーティは、仕方なく再会した時と同じようにペシペシとリフィアスの腕にタップするしかなかった。

「リフィアス様、ハーティルティア様が苦しそうです!」

 致し方なく、ユナが無礼を承知でリフィアスをハーティから引き剥がした。

「あんっ!」

 ハーティから引き剥がされたリフィアスは頬を上気させながら名残惜しそうな声をあげた。

「・・リリス様も大概でしたがリフィアス様も危ないですね・・まあ気持ちはわからなくもないですが・・」

 ユナは額の汗を拭いながら呟いた。

「ああ、わたくしとしたことが!敬愛する主様があまりにも美しすぎるので、我を失ってしまいましたわ」

 リフィアスは今だに上気している頬に手を添えながらため息を吐いた。

「それにしても、グラディウスさんが言っていた『エルフの掟』と言うのは何なの?」

「ああ、その事ですか?敬愛する主様は『エルフ』が敬虔な『女神教』信者であるのはご存知ですよね?」

「それは・・まあ。だけど『エルフ』独自の教義で信仰していると聞いたことがあるわ」

「はい、わたくし達『エルフ』が信仰を捧げる『女神教』においては『女神ハーティルティア像』や絵画に描かれた『女神様』に対して祈りを捧げることを固く禁じているのです。それは、この『リーフィア』建国の時にわたくしが『エルフの掟』として定めました」

「どうしてそこまでして『私の像』を作ったらいけないの?」

 ハーティの問いにリフィアスは然もありなんと言う様子で答えた。

「そんなの、敬愛する主様の至高で唯一無二である美しさを、たかが彫刻や絵画ごときで再現するなど不可能だからです。不完全な主様に祈りを捧げるなど、わたくしにとっては冒涜以外のなにものでもありませんわ!」
  
「わたくしは五千二百年ぶりに主様のお姿を拝見して、改めて私の選択が間違いではなかったと痛感しましたわ!」

「え・・そんな理由?」

 ハーティはリフィアスの考えに若干引いていた。

「因みに、こっそり『女神像』を手に入れたり、彫刻した『エルフ』はどうなるんですか?」

 リフィアスはクラリスの質問に不敵な笑みをしながら答えた。

「偶像崇拝は『エルフ』にとって最大の禁忌です。破ったものは『掟』に従って『リーフィア』から追い出された上で二度とこの地を踏むことは許されなくなります」

(シグルドはそこまでの覚悟で『はぐれエルフ』になった訳ね・・)

 ハーティが帝都で知り合った『エルフ』のことを思い起こしていると、既に会場入りしていた二アールとナラトスがやってきた。

 二アールは濃紺のロングヘアをハーフアップに結い上げ、サテン生地の紫色をしたエンパイアラインのドレスを見に纏っていた。

 対してナラトスは漆黒のロングヘアに合う全身黒色のスリーピースを着こなしており、襟や袖口には金糸で緻密な刺繍がなされていた。

 そして、その胸元を演出するクラバットは、二アールのドレスと同じ紫色であった。

 二アールをナラトスがエスコートする形で現れた二人は、誰が見ても特別な関係に見えた。

「っく!なんだかお似合いな二人で悔しいわ!」

 クラリスが無駄に悔しがる中、ナラトスがリフィアスに話しかけた。

「リフィアスよ。会場の皆が呆けているぞ?事態を収拾したほうがいいのでは?」

「それもそうですわね。わたくしとしてはいつまでも主様を愛でたいのですか、晩餐会を始めなければなりませんものね」

「愛でたい・・」

「では、気を取り直して敬愛する主様。どうぞ壇上へ」

 そう言いながら、リフィアスはハーティの手を取った。

「へ!?いや!あそこは玉座でしょ!?リフィアスの席じゃないの!?」

 咄嗟に指摘したハーティの言葉を聞いて、リフィアスはこてりと首を傾げた。

「え?玉座ですよ?ですから、あそこはわたくしの主である敬愛する主様の席ですよ?わたくしは元より主様と再会するまで『代理』で『リフィアス』を治めていたにすぎないので」

「いやいや!私はただ『邪神』から世界を守る為に旅をしている冒険者よ!?いきなり一国丸ごと任されても困るわ!」

「うふふ、主様が『ただの冒険者』とはお戯れを。この世界で主様のことを自分より下に置く人間が、一体何人存在するでしょうか」

「・・うぐ!でも無理なものは無理よ!私には荷が重いわ!」

 ハーティは必死にリフィアスの話を断ろうとしたが、リフィアスは尚も食い下がってきた。

「大丈夫ですわ。敬愛する主様は『神界』であっても『君臨すれども統治せず』であったじゃないですか」

「ですから、『リーフィア』でもややこしい政は、わたくしや側近に任せて頂いたら良いのです」

「どのみち敬愛する主様程の『神格』であれば、勝手に世界がついてきますよ。主様は『神界』の時代から今まで全ての頂点に立つ運命なのです。もはや主様の意思でどうこうできるものじゃありません」

 リフィアスの言葉を聞いてハーティはがっくしと項垂れた。

「私はただ普通の女の子として平穏に生きたいだけなのに・・」  

「うふふ、それはどう考えても不可能ですね」

「ハーティが『普通の女の子』とか片腹痛いわ!」

「無理ですね」

「まあ、無理であろうな」

「絶対無理ね」

 皆に否定されたハーティは涙目になった。

 それに畳み掛けるようにリフィアスがハーティを説得する。

「それに、敬愛する主様が上に立っていただかないと、皆が立場がなくなって困ります。この世界は主様が頂点に立って頂くのが一番丸く収まるのです。というわけて、えい!」

 リフィアスは自分の頭に戴いたティアラを手に取ると、そのままハーティの頭にひょいと載せた。

「ああ!」

「今『リーフィアの冠』は敬愛する主様に返還されました。証人はこの場に集まる国の要人の皆様です。この瞬間をもって、『エルフの国リーフィア』は『女神の国リーフィア』となります!」

「「「ワアアアア!!」」」

「「「女神様万歳ハイルア・イルティア!!」」」

 パチパチ!!

「「「女神様万歳ハイルア・イルティア!!」」」

 ただ晩餐会に招待されただけだと思っていたハーティは、リフィアスによって強引に一国の主に祭り上げられてしまった。

そして、歓声の上がる会場の中、リフィアスが一瞬曇った表情になったことに気づく者は居なかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...