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第八章『最後の晩餐と安土饗応』

9『【真実】の安土饗応』

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「の……信長様、あと一刻程で家康様が、城に着くとのことですじゃ」

明智光秀は、はぁ、はぁと息を切らし安土城天主最上階まで急ぎ駆け上がってきた。


「であるか、ご苦労であったな光秀よ。

――いよいよ計画遂行目前であるな……

今までよう余のために尽くしてくれたであるぞ」信長は優しいげな目で光秀を見つめる。

「信長様におかれましては、天下万民のために今まで生きてこられ、そして天下万民のためにそのお命を捨てられる御決意。

……それに比べれば私めなど大したことありませぬじゃ」

「であるか。

……しかしそのために……お主の命も頂くことになるであるが……」

信長はそう言うと、悲しげな顔をした。

「信長様、その事はあまり気になさらぬよう。

武士はそもそもいつ何時、命を落とすかわかりませぬ。

しかも、この高齢のお爺を近畿の大将にまでしてくださって、それだけでもう感激至極、もう思い残すこともないですじゃ」

「であるか。

光秀よ、もう一度確認であるが、これから毎日家康を接待してもらうが……

――余が“その時が来たと”思いし時が来たらば――」

「はい、突然……宴席の間はいつも薄味なのに……

――信長様が突然、その日だけ「味が薄い!」激怒されるのですね」


――そうつまり、それが光秀を計画へ使わす合図である。

またその日だけ信長が「味が薄い」と、いつもと同じ味なのに激怒しても、家康から怪しまれることは無い。

何故なら、家康は家康の御膳、信長には信長の御膳が並べてあり、当然他の者が人の御膳を食べることはあり得ないので――

家康は「今日の信長様の御膳は、味が薄かったのだな」と思うだけだからである。


「――である。そしてその日、お主の饗応役を解任する。

そのあとはお主は邸に戻りて、翌日、朝飯の用意だけ下々に命じてから、早々に坂本城へ戻れ」

「かしこまりました」

「である。

そして余が宴席でお主に渡す――

“白紙の色紙”を伝令に渡すであるぞ」

「はい、それを紹巴どのに届いたのをもって、

――その十日後に愛宕山での秘跡……

『天下創世』の儀式を始めるのですね」

……天下創世の儀式とはいったい?


「である、それによって『エヴァンゲリオン』計画は、

――ついに始動するのである!」


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