【短編】ザ・ライジング・猿～the Rising “salu”～日本史上最大のサクセスストーリーはここから始まった！

13『the Rising “salu”(ザ・ライジング・猿)』

夢から覚めた秀吉は、
「信長様が亡くなられたのは、間違いないのじゃな？」
軍師・黒田官兵衛に確認する。

「はい、他の伝令も信長様が本能寺で討たれたと」

「の、信長様……」
秀吉は誰憚はばかることなく陣中で、うわ～んと、声を上げて泣き出した。
「儂は儂は信長様の家臣でずっといたかったですじゃ。。
信長様が儂を拾ってくださったから今の儂がありますのじゃ。。
信長様がいなくなっては、この世に生きる張り合いがないですじゃ。。

いつもいつも信長様に誉められるのが、誉められるのが……
儂の儂の……生き甲斐でしたのに……

儂は信長様の随一の忠臣でございます、かくなるうえは儂も天国にお供しますじゃ……」

「……殿、お嘆きになるのは分かりますが……」
いつも冷静沈着な官兵衛が口を挟む。
「信長様には申し訳ないですが……
これは殿、秀吉殿にとっては好機かと――」

「……好機？」

「もちろん、今の我が軍の状況……
前には中国最強毛利軍、後ろには信長様を打ち破って意気軒昂な明智軍という、
まさに絶体絶命『前門の虎、後門の狼』状態ですが……」

「そうじゃろう……その何が好機か？」

「はい、しかしこの難局を見事突破できますれば――天が開けます」

「天が開ける……とは？」

「――秀吉殿のその手で、天下を掴み取ることができる！
――ということであります」


「……その手で天下を掴み取る……」

官兵衛の言葉に、自らの手を見る秀吉。

一、二、三、四、五、……そして六！

しっかり六本ある自らの右手の手のひらを、秀吉はグッと力強く握りしめる。


「もちろん、殿にその気が無ければ無理な話ですが……」

官兵衛のその言葉に反応し、
おもいっきり手を前に突き出し、手のひらを大きく開け、官兵衛に見せつける秀吉。

秀吉は一瞬……
あの時の信長の優しさを思い出し……
少し目をうるませながら官兵衛に言った。

「何を言っておるのじゃ官兵衛よ！

――儂は天に選ばれし者じゃ！

ほれ、その“証拠”に……




――皆より指が一本多いではないか！！


この絶体絶命の難局を必ずや打破し、
儂が信長様に代わって、
この天下の主となろうぞ――！！」