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(11)アリスの失踪
だが、その幸せに突然、影が差した。昨日、いつもなら夕方に「ただいまー!」と笑顔で帰ってくるアリスが、帰ってこなかった。眞哉はソファに座り、彼女のストッキングを握りしめて待った。夜が更け、時計が深夜を過ぎても、ドアの開く音は聞こえない。アリスどこ?
心臓がドクドクと鳴り、不安が胸を締め付けた。仕事が遅くなっただけだよね?
彼はスマホを手に取り、彼女にメッセージを送った。「アリス、遅くなるの? 大丈夫?」 だが、返信はない。既読にもならない。
朝が来ても、状況は変わらなかった。部屋は静かで、彼女の香りだけが残っている。眞哉はクローゼットを開け、黒ストッキングを手に取った。いつもなら、彼女の匂いを嗅げば心が落ち着くのに、今日は違う。アリスがいない。彼女がいなければ、この聖域すら色褪せる。
眞哉はソファに座り、膝を抱えた。アリス、何かあった?
彼女の笑顔、彼女の「君、ほんとストッキング好きだね」という声が、頭の中で反響する。だが、同時に、別の考えが忍び込む。もし帰ってこなかったら?
その想像だけで、胃がキリキリと締め付けられた。 彼は再びストッキングを顔に押し当て、深く息を吸った。だが、彼女の匂いすら、いつもより薄く感じられた。
もう待っていられなかった。 探さなきゃアリスを。眞哉は立ち上がりショートパンツに黒ストッキングのままアパートを出た。アリス…どこに… 外の空気は冷たく、秋の風がストッキングの足を撫でる。だが、その感触も、彼女がいない今は心を温めなかった。
まず向かったのは、彼女が働いていると言っていたコンビニだった。公園を抜け、住宅街を歩く。道行く人の視線が、黒ストッキングを履いた足にチラチラと向くが、気にする余裕はなかった。アリス、そこにいる? コンビニに着くと、カウンターにいるのは見知らぬ女性だった。眞哉は震える声で尋ねた。
「あの…桂木アリスさん…今日…いますか?」
カウンターの女性は首を振った。
「桂木アリスさん? ここバイトいっぱいいるし、昨日入ったばっかりだから判らないわ。ごめんなさい。」
しかたなく、次に、彼女と初めて出会った公園へ向かった。あの銀杏の木の下、広場のベンチ、トイレでの至福の瞬間。彼女が「静かな場所、大切にしようね。」と言った場所だ。もしかしてそこに。公園に着くと、秋の陽射しが木々の葉を照らし、ブランコが小さく揺れている。だが、ベンチにも小道にも、彼女の姿はない。黒ストッキングの輝きも、どこにも見えない。アリスはいない。
眞哉はベンチに座り、自分のストッキング足をなぞった。アリスどこに行ったの? 不安が胸を締め付け、涙がこぼれそうになる。彼女のストッキングを愛でたあの時間、彼女の太ももに触れた至福。それが、彼女がいなければ何の意味も持たないことに、改めて気づいた。アリス、君がいないと僕…。彼はスマホを取り出し、彼女に何度もメッセージを送った。「アリス、どこ? 大丈夫? 帰ってきて。」 だが、返信はない。
公園を離れ、彼女が行きそうな場所を思いつくまま歩いた。カフェ、駅の周辺。黒ストッキングの女性を見かけるたび、心臓が跳ねたが、どれもアリスではなかった。ストッキングの感触が、歩くたびに彼を支えたが、それだけでは埋められない空虚が広がっていく。
夕暮れが近づき、空がオレンジに染まる。眞哉はアパートに戻ったが、ドアは閉まったまま。アリスの気配はない。部屋に入り、クローゼットから彼女のストッキングを取り出し、顔に押し当てた。
“アリス…君の…匂い…”
だが、その匂いすら薄れ、彼女の不在を強調するだけだった。
“帰ってきてお願い!”
眞哉の心は、彼女への依存と不在の恐怖で引き裂かれていた。絶対に探し出す。だが、どこかで、彼女がもう戻らないかもしれないという恐怖が、静かに忍び寄っていた。眞哉は孤独に打ちひしがれながら、食事も摂らず風呂にも入らず眠りについた。
翌朝、部屋のドアをノックする音が響いた。眞哉は一瞬、アリス!?と跳ね起きたが、ドアの向こうから聞こえたのは男の声だった。
「佐々木眞哉君、いるかね? 警察だ。ドアを開けてくれ。」
心臓が凍りついた。 警察…? なんで…? 彼は震える手でドアを開けた。
二人の警察官が立っていた。一人は中年男性で、もう一人は若い女性だった。
「佐々木眞哉君だね? 君の家族から捜索願いが出されている。心配しているんだよ。」
中年警察官の声は落ち着いていたが、眞哉の頭は混乱でいっぱいだった。家族? 母さん? 彼らに「心配」と言われても、ボールに盛られた食事や「性犯罪者」「変態」という言葉しか思い出せなかった。
「僕は、桂木アリスさんと暮らしています。帰りません。」
眞哉は、はっきりと拒否したが、警察官は首を振った。
「君、未成年だろ? 親元に帰らないと。桂木アリスさんという人が、この部屋の主?」
警察官の視線が、部屋に散らばるストッキングやアリスのトレーナーに一瞬止まった。眞哉はゴクリと唾を飲み、
「それは、桂木アリスさんの。ただ、彼女一昨日の晩から帰ってこなくて。」と答えた。
今度は、女性警察官がメモを取りながら尋ねた。
「その桂木アリスさんとは、どういう関係なの? 何か知ってることは?」
眞哉は震える声で、彼女とは一緒に暮らす前から知り合いだったこと、彼女はコンビニで働いていると言っていたこと、そして、探しても見つからなかったことを話した。
“アリス、いまどこにいるの”
話す度に、胸が締め付けられた。
警察官たちは部屋を軽く調べ、アリスのクローゼットやキッチンを見回した。
「とりあえず、君は家に帰るんだな。家族が待ってる。」
中年警察官の言葉に、眞哉の体が硬直した。
“家? あの…地獄に…?”
母さんと椿の冷たい目が頭に浮かび足がすくんだ。
「嫌だ。帰りたくないです。ここにいます。」
眞哉は声を震わせた。だが、女性警察官が穏やかに、でも有無を言わさず言った。
「君、未成年なんだから家に帰るのは当然。荷物なにかある?」
もう選択肢はなかった。
眞哉はアリスの黒ストッキングを握りしめ、警察の車両に乗った。アパートのドアが閉まる音が、心に重く響いた。アリス、絶対に見つけるから。ストッキングの感触が、唯一の支えだった。
心臓がドクドクと鳴り、不安が胸を締め付けた。仕事が遅くなっただけだよね?
彼はスマホを手に取り、彼女にメッセージを送った。「アリス、遅くなるの? 大丈夫?」 だが、返信はない。既読にもならない。
朝が来ても、状況は変わらなかった。部屋は静かで、彼女の香りだけが残っている。眞哉はクローゼットを開け、黒ストッキングを手に取った。いつもなら、彼女の匂いを嗅げば心が落ち着くのに、今日は違う。アリスがいない。彼女がいなければ、この聖域すら色褪せる。
眞哉はソファに座り、膝を抱えた。アリス、何かあった?
彼女の笑顔、彼女の「君、ほんとストッキング好きだね」という声が、頭の中で反響する。だが、同時に、別の考えが忍び込む。もし帰ってこなかったら?
その想像だけで、胃がキリキリと締め付けられた。 彼は再びストッキングを顔に押し当て、深く息を吸った。だが、彼女の匂いすら、いつもより薄く感じられた。
もう待っていられなかった。 探さなきゃアリスを。眞哉は立ち上がりショートパンツに黒ストッキングのままアパートを出た。アリス…どこに… 外の空気は冷たく、秋の風がストッキングの足を撫でる。だが、その感触も、彼女がいない今は心を温めなかった。
まず向かったのは、彼女が働いていると言っていたコンビニだった。公園を抜け、住宅街を歩く。道行く人の視線が、黒ストッキングを履いた足にチラチラと向くが、気にする余裕はなかった。アリス、そこにいる? コンビニに着くと、カウンターにいるのは見知らぬ女性だった。眞哉は震える声で尋ねた。
「あの…桂木アリスさん…今日…いますか?」
カウンターの女性は首を振った。
「桂木アリスさん? ここバイトいっぱいいるし、昨日入ったばっかりだから判らないわ。ごめんなさい。」
しかたなく、次に、彼女と初めて出会った公園へ向かった。あの銀杏の木の下、広場のベンチ、トイレでの至福の瞬間。彼女が「静かな場所、大切にしようね。」と言った場所だ。もしかしてそこに。公園に着くと、秋の陽射しが木々の葉を照らし、ブランコが小さく揺れている。だが、ベンチにも小道にも、彼女の姿はない。黒ストッキングの輝きも、どこにも見えない。アリスはいない。
眞哉はベンチに座り、自分のストッキング足をなぞった。アリスどこに行ったの? 不安が胸を締め付け、涙がこぼれそうになる。彼女のストッキングを愛でたあの時間、彼女の太ももに触れた至福。それが、彼女がいなければ何の意味も持たないことに、改めて気づいた。アリス、君がいないと僕…。彼はスマホを取り出し、彼女に何度もメッセージを送った。「アリス、どこ? 大丈夫? 帰ってきて。」 だが、返信はない。
公園を離れ、彼女が行きそうな場所を思いつくまま歩いた。カフェ、駅の周辺。黒ストッキングの女性を見かけるたび、心臓が跳ねたが、どれもアリスではなかった。ストッキングの感触が、歩くたびに彼を支えたが、それだけでは埋められない空虚が広がっていく。
夕暮れが近づき、空がオレンジに染まる。眞哉はアパートに戻ったが、ドアは閉まったまま。アリスの気配はない。部屋に入り、クローゼットから彼女のストッキングを取り出し、顔に押し当てた。
“アリス…君の…匂い…”
だが、その匂いすら薄れ、彼女の不在を強調するだけだった。
“帰ってきてお願い!”
眞哉の心は、彼女への依存と不在の恐怖で引き裂かれていた。絶対に探し出す。だが、どこかで、彼女がもう戻らないかもしれないという恐怖が、静かに忍び寄っていた。眞哉は孤独に打ちひしがれながら、食事も摂らず風呂にも入らず眠りについた。
翌朝、部屋のドアをノックする音が響いた。眞哉は一瞬、アリス!?と跳ね起きたが、ドアの向こうから聞こえたのは男の声だった。
「佐々木眞哉君、いるかね? 警察だ。ドアを開けてくれ。」
心臓が凍りついた。 警察…? なんで…? 彼は震える手でドアを開けた。
二人の警察官が立っていた。一人は中年男性で、もう一人は若い女性だった。
「佐々木眞哉君だね? 君の家族から捜索願いが出されている。心配しているんだよ。」
中年警察官の声は落ち着いていたが、眞哉の頭は混乱でいっぱいだった。家族? 母さん? 彼らに「心配」と言われても、ボールに盛られた食事や「性犯罪者」「変態」という言葉しか思い出せなかった。
「僕は、桂木アリスさんと暮らしています。帰りません。」
眞哉は、はっきりと拒否したが、警察官は首を振った。
「君、未成年だろ? 親元に帰らないと。桂木アリスさんという人が、この部屋の主?」
警察官の視線が、部屋に散らばるストッキングやアリスのトレーナーに一瞬止まった。眞哉はゴクリと唾を飲み、
「それは、桂木アリスさんの。ただ、彼女一昨日の晩から帰ってこなくて。」と答えた。
今度は、女性警察官がメモを取りながら尋ねた。
「その桂木アリスさんとは、どういう関係なの? 何か知ってることは?」
眞哉は震える声で、彼女とは一緒に暮らす前から知り合いだったこと、彼女はコンビニで働いていると言っていたこと、そして、探しても見つからなかったことを話した。
“アリス、いまどこにいるの”
話す度に、胸が締め付けられた。
警察官たちは部屋を軽く調べ、アリスのクローゼットやキッチンを見回した。
「とりあえず、君は家に帰るんだな。家族が待ってる。」
中年警察官の言葉に、眞哉の体が硬直した。
“家? あの…地獄に…?”
母さんと椿の冷たい目が頭に浮かび足がすくんだ。
「嫌だ。帰りたくないです。ここにいます。」
眞哉は声を震わせた。だが、女性警察官が穏やかに、でも有無を言わさず言った。
「君、未成年なんだから家に帰るのは当然。荷物なにかある?」
もう選択肢はなかった。
眞哉はアリスの黒ストッキングを握りしめ、警察の車両に乗った。アパートのドアが閉まる音が、心に重く響いた。アリス、絶対に見つけるから。ストッキングの感触が、唯一の支えだった。
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