【歪んだ世界の女神様】黒ストッキングを履いた僕だけの彼女

白うさぎ

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(12)奈落の底に突き落とされ

 家に着くと、母さんが玄関で待っていた。だが、彼女の目は鋭く冷たさだけを放っていた。
「やっと見つかったのね…。」
 彼女の声には安堵より苛立ちが混ざり、眞哉を「人」として見ていないようだった。椿はリビングの奥からチラリと顔を出し、すぐに目をそらした。 
 “…やっぱりここは地獄だ…”

 警察官が母さんに事情を説明し、「眞哉君、しばらく家で落ち着かせてください。」と告げた。母さんは無言で頷き、警察官が去ると眞哉を怒鳴りつけた。
「これ以上、面倒をかけないようにしなさい。」 
 眞哉は部屋に入りドアを閉めた。アリスのストッキングを握りしめ、ベッドに倒れ込んだ。 
 “…アリスいまどこに…”
 彼女の失踪理由はわからない。事故か、それとも何か別の理由か。眞哉は彼女のストッキングを顔に押し当て、彼女の匂いを求めた。だが、匂いは既にしなかった。

 程なくして、母さんが部屋のドアを乱暴に開けた。
「眞哉、もう勝手なことできないようにするからね。」
 彼女の声は刺々しく、そして捲し立てた。
「学校さぼって。まともに通学すると思ったら、今度は女の子に性器を露出。挙句の果てには、家出して警察に面倒かけるわ。もう、眞哉と普通に暮らすことなんてムリ。」

 彼女は、クローゼットから彼の服すべてを引っ張り出し、眞哉の手からもアリスのストッキングを奪い取ると、ゴミ袋に無造作に詰め込んだ。
「ホント気持ち悪い。ストッキングなんか握りしめて何なの。」 
「やめて! それ…アリスの…」
 眞哉は叫んだが、母さんの手が彼の頬を叩いた。鋭い痛みが顔に走り、涙がこぼれた。「黙りなさい! お前はもう息子として扱わない。」 
 母さんの言葉は、まるで彼の存在を完全に否定する刃だった。アリスのストッキングも奪われ、眞哉の心は崩れ落ちた。

 ただ、これだけでは済まなかった。母さんは眞哉に下着を含め全部脱ぐように命じ、裸にさせた。羞恥と恐怖が胸を締め付ける。そして庭の物置から古い足枷を持ち出し、錆びた金属を眞哉の足首に取り付けた。重い鎖がカチャリと音を立て、眞哉は完全に自由を奪われた。これではトイレにも行けないし、お風呂場にも行けない。行けてせいぜいキッチンか、部屋の前の庭くらいだ。眞哉は、泣きながら懇願した。
「許して、母さん…。」
 しかし、母さんは冷徹に言い放った。
「犯罪者の言葉なんか、聞く耳持たない。もう面倒なんか起こさせないからね。」
 椿はその一部始終をドアの隙間から覗き見、「キモ…ほんと最悪…」と呟いた。

 そして、食事はさらに酷くなった。ご飯とおかずの残りに味噌汁をかけたものが入ったボールが部屋の床に置かれる。箸もスプーンもフォークもない。眞哉はそれを震える手で口に運んぶ。味はなく、ただ胃を満たすだけの行為だった。
 “…僕は犬以下だ…”

 排泄すら、人間らしい扱いはなかった。部屋の中に置かれたバケツで用を足す。そして、近所が寝静まった深夜になると、母さんが庭にスコップを置き、「そこに穴を掘りなさい」と命じる。秋の冷たい風が裸の肌を刺す中、眞哉は震えながら庭の土を掘り、出来上がった穴に排泄物を捨て土をかぶせる。その際、ちょっとでも声を出そうものなら、平気で蹴飛ばされた。何も身に着けていない体に硬い靴での蹴り。反抗は認められなかった。
 もちろん、シャワーすら浴びせて貰えず、庭の土と皮脂と糞尿で全身が汚れた。あまりにも臭くなると、庭での排泄処理の際、ホースから水をぶっかけられる。冷たい水が肌を刺し、裸の体は震えた。

 椿はというと、深夜、眞哉が庭で穴を掘っているときチラリと侮蔑の目を向ける。妹の前で男性器すら隠すことも許されず、その汚いない体を晒しながら、自分の排泄物を処理する。
 “…僕はもう…人間じゃない…”

 排泄物の処理を終え、床に倒れるように寝転がると、涙が頬を伝う。眞哉は、もう考える気力すら残っていなかった。アリスの温もりですら、遠い幻となり、はっきり思い出せない。

 日にちの感覚も薄れて行き、ある夜、珍しく何時かは判らないが、深夜に玄関のドアが開く音がした。そして母さんでも、椿でもないの聞きなれない重たい足音が家の中に響いた。 
 “…誰…?” 

 眞哉の心臓がドクンと跳ね、恐怖が胸を刺した。母さんの声がリビングから聞こえる。「あなた、帰ったの。」
 続いて、聞きたことのある男の声が響いた。
「ああ…で、アイツは? 」
  声は低く、怒りを孕んでいた。 
 “父さん…?”
 間違いない眞哉の父さんだ。あの瞬間湯沸かし器の父親が帰ってきた。なんで今頃、帰って来たんだろう? 恐怖が全身を駆け巡り、足枷の鎖がやけに重く感じられた。父さんもあのことを知ってるんだろうか?

 ドアが乱暴に開き、父さんが顔を覗かせた。背が高く、肩幅の広い姿。スーツは皺だらけで、ネクタイは緩んでいる。目には疲れと苛立ちが混ざり、眞哉を見下ろす。
「眞哉、お前。」 
 声は冷たく、まるで知らない人間を見るようだった。眞哉は裸の体を隠そうと膝を強く抱えたが、汚れた肌と臭いが羞恥を煽る。
「…父…さん…」 
 声は震え、すぐに途切れた。
「お前、なんで性犯罪なんか犯したんだ!」 
 父さんの声が低く響き、怒りが滲む。
「学校で女生徒に露出だと。しかも家出までして警察沙汰とは。」

 彼は一歩近づき、眞哉の髪の毛を掴み、拳で顔を殴った。痛みが走ると同時に口の中が切れ血の味がした。
「聞いたぞ。しかも女が履くストッキングだけで近所をうろつくなんて、金玉つぶしてやろうか。」
 父さんの目は、母さんや椿の侮蔑を超え憤怒に燃えていた。
「…違う…僕の話を聞いて…」
 眞哉は弁解しようとしたが、その言葉は父さんの蹴りに遮られた。重い蹴りが今度は男性器を打ち、これまで経験したことのない激痛で体が飛び跳ねる。床に倒れ、足枷がジャラと鳴った。

「言い訳すんな。このクソガキ!」
 父さんの声が家中に響き、今度は腹に蹴り込まれた。痛みは体の中で干渉し合い、口からは泡、下からは尿が流れ出した。
「お前みたいな奴は家族じゃねえ!」
 もう一発、腹に蹴りが入る。
「…うう…」
 眞哉は嗚咽を発した。そして父さんに許しを乞うた。
「…ご め ん な さ い……も う や め……」 

 その声はか弱く、下手すれば聞き取れないほど小さかった。しかし、父さんの形相は変わらず怒声が続く。
「やめろだと? 全部お前が悪いんだろうが。」 
 父さんは眞哉の髪を掴み、引きずり上げる。裸の体が宙に浮かぶ。足枷の鎖はカチャカチャと悲鳴を上げる。
「もう人間としての扱いなんかしないぞ。自分のしでかしたこと反省しろ!」
 その言葉が、眞哉の心を突き刺した。
 “そうか、やっぱり僕は人間じゃないんだ”

 痛みと恐怖の中で、意識が薄れていった。ここは虚無の世界。僕が存在してはいけない世界。そして父さんは、眞哉をありったけの力で床に叩きつけた。
 “僕は完全に意識を失った”
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