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9.いざ入学式へ⋯⋯制服の意義って何?
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清々しい青空が広がる朝、新品の制服に袖を通した3人は、寮を出て入学式のある講堂に向かって歩きはじめた。
「レベッカはほっといて良いの?」
「迎えに行ったんだけどね、準備がまだだから先に行って欲しいって言われたの」
「朝、弱そうだし化粧とか時間かかりそうだもんね」
少し早めの時間に出たせいか空気は澄んでいて、道には人が殆どいない。
「森が近いからかなぁ、すごく良い匂いがする」
「流石、野生児ロクサーナだね。何日かしたら畑がなくて寂しいとか言い出しそう」
聖王国にいる時は、隙を見つけては庭師のガンツと畑や花壇を耕しているロクサーナは、薬草作りの名人と言われてシスター達に重宝されている。
(今日は午前中だけだからコントライェルバとシルフィウムを見に帰らないとな)
「この学園の制服って変わってるわね。今まで修練の間はシンプルなローブだったから、こんなデイドレスで勉強するなんて不思議だわ」
「落ち着かないしすごく窮屈」
ロクサーナが今、内緒で育てているのは毒消し草のコントライェルバと、避妊堕胎薬のシルフィウムで、どちらも少し前にようやく見つけた幻の薬草。
シルフィウムはもう少し育てば株分ができそうだと期待している。解熱作用・鎮痛・咳の緩和・消化不良の改善などにも有効なので流感の季節にはかなり役に立つはず。
(使う人は選ばなきゃだけど、子供と老人には最適だと思うんだよな~。コントライェルバなんて二度と手に入らない気がするし)
【ガンツがお水あげてたけど、魔力水が足りなくなりそう】
(了解、今日帰ったらすぐ魔力水作るね)
薬草の作り方は畑を耕して肥料を撒き、苗を植えて水魔法で散水するのが一般的な方法。
ロクサーナのやり方は土魔法で畑を耕しながら土に魔力を練り込み、肥料は最小限にとどめる。土に練り込む魔力と水に含める魔力のバランスが良いと薬効は倍増するが、その兼ね合いが難しい。
(薬草の種類や温度によって変えなきゃいけないんだよね)
手間はかかるがこの方法で育てると、初級ポーションの材料で中級ポーションが作れる。
(まあ、他の人には多分無理だから、私の趣味の世界って感じだけどね)
ロクサーナの夢は魔力や魔法のない世界でも作れる薬や、魔力がなくて生活魔法が使えない人用の魔導具の開発。
ロクサーナがポヤポヤと考え事をしているのはいつもの事で、サブリナとセシルは気にせず話をしていた。
「ロクサーナ、戻ってこ~い。講堂に着いたから受付に行こうよ」
「へ? うわぁ、人がいっぱいじゃん」
「新入生プラス保護者プラス使用人だもん。流石お貴族様!」
「セシルも貴族なんだから、言葉遣いに気をつけた方が良いわよ。それよりも、制服を改造⋯⋯着崩してる方ばかりね」
女生徒の制服は足首まで隠れるオフホワイトのデイドレスと、身体にピッタリとフィットしたグレーのジャケット。学年毎に色が変わる胸元の細いリボンは緑。
袖口や裾にレースの縁取りをする、バッスルやパニエでスカートに変化をつける、胸元のリボンを幅広のものに変える、大きな宝石のブローチをつけるなど⋯⋯学園の制服とは思えないほどの改造をしている生徒が大半を占めていた。
男子生徒は白いシャツとグレーのトラウザーズ、腹部にサッシュと呼ばれる紺色の飾り帯を巻いている。トラウザーズより濃い色のコートの胸元には学園のエンブレム。そして、胸元には緑のリボンタイ。
サッシュに刺繍を入れているのは全員で、リボンタイに宝石を付けたりクラバットに変えていたり。コートに刺繍を入れるのも当たり前らしく、コートの長さが極端に長いものもいる。
「まるでバニヤンみたい。あれってゆったりとした室内着なんだけどね~」
ロクサーナが呆れたように溜め息をついた。
「学園の入学式だよね~、お題ありのファッションショーかと思ったよ」
「なんだか場違いな気がしてきたけど、とりあえず受付に並びましょう」
手を加えていない制服の方が珍しく、受付の列に並んだ3人は非常に目立っていた。周りからジロジロと見られこそこそと陰口を言われている。
「まあ、なんのオリジナリティもないなんて」
(いや、制服だよ? オリジナリティとかいらんし)
「可哀想に。デザイナーを雇う費用さえないみたいだな」
(そこまでするなら制服要らなくない?)
受付の順番が来たようで、意味不明の針の筵から脱出するチャンス。
「入学許可証を」
無表情なホムンクルス(みたいな職員)が、右手でノートに何かを書き込みながら左手を出した。
「⋯⋯聖王国からの留学生?⋯⋯ ロクサーナ・バーラム⋯⋯サブリナ・セルバン⋯⋯セシル・ファーラム⋯⋯レベッカ・マックバーンは?」
「レベッカ・マックバーンは少し後から来るようです」
「えーっと、クラスは全員1年Aクラス。講堂の席は正面に向かって左側。次の人、入学許可証を」
受付から離れて講堂に向かいながら、微妙な空気に3人が顔を見合わせた。
「錬金術極めたくなっても、ホムンクルスだけは作らないって決めた」
「あれ、人間だったよね」
「多分」
大きく開いた講堂の入り口から中に入ると、案内役らしい男子生徒が声をかけてきた。
「君達、クラスは?」
胸元のリボンタイに赤い宝石を付けているので、多分2年生のはず。
「3人共Aクラスだって聞きました」
「それなら一番奥の列になる。席は自由だから好きなところに座って良いよ」
「ありがとうございます」
人を⋯⋯膨らんだスカートを⋯⋯避けながら奥に進み、空いている席に3人並んで座った。
「さっきの。ルビー?」
「レッドダイヤモンドだった」
「マジで!? あの大きさだと一体いくらするのか⋯⋯学園の制服に、屋敷が買えるほど高価な宝石。この国で商売したらカモがいっぱいかも」
(うっかり鑑定しちゃったから、超ビックリでまだ心臓がドキドキしてる。だって一番高ランクのファンシーレッドだったんだもん。叫ばなかった私を褒めて欲しい)
【ワァ、エライエライ。パチパチィ~】
(ありがとう。棒読みだけど⋯⋯もう、この国ってわけわかんない)
【絶対なんかやってるね~、調べてくる?】
(とりあえず自分で頑張ってみる)
【了解】
雛壇で生徒と教師が最終チェックを行う中、気の早い来賓がちらほらと壇上に出てくる。新入生は仲良しグループで固まって制服を褒め合ったり、赤や青のリボンをつけた生徒を見つけてキャアキャアと騒いでいた。
講堂の後方では大きな声で挨拶を交わしたり、使用人に指示を飛ばす保護者達。
「学園の入学式なんて初めてだけど、なんか滅茶苦茶騒がしい」
セシルの言葉にロクサーナとサブリナが頷いた。
席がほとんど埋まる頃、少し離れた場所から大きな叫び声が聞こえてきた。
「私だけ置いてくなんて酷いわ!」
ロクサーナ達から少し離れた場所で叫んだレベッカは、静まり返った講堂内の注目を一身に集めた。
「いつもいつも⋯⋯私だけ仲間外れにして、酷い」
(いや~、レベッカ劇場がはじまったよ。国外でもやるとは思わなかったな~)
「レベッカのあれ⋯⋯制服⋯⋯だよね」
見事な改造を施した制服らしきものを着たレベッカは、口元に両手の拳を当ててハラハラと涙を流していた。
「⋯⋯化粧が崩れてボロボロになってるって、教えたげた方がいいかな?」
「レベッカはほっといて良いの?」
「迎えに行ったんだけどね、準備がまだだから先に行って欲しいって言われたの」
「朝、弱そうだし化粧とか時間かかりそうだもんね」
少し早めの時間に出たせいか空気は澄んでいて、道には人が殆どいない。
「森が近いからかなぁ、すごく良い匂いがする」
「流石、野生児ロクサーナだね。何日かしたら畑がなくて寂しいとか言い出しそう」
聖王国にいる時は、隙を見つけては庭師のガンツと畑や花壇を耕しているロクサーナは、薬草作りの名人と言われてシスター達に重宝されている。
(今日は午前中だけだからコントライェルバとシルフィウムを見に帰らないとな)
「この学園の制服って変わってるわね。今まで修練の間はシンプルなローブだったから、こんなデイドレスで勉強するなんて不思議だわ」
「落ち着かないしすごく窮屈」
ロクサーナが今、内緒で育てているのは毒消し草のコントライェルバと、避妊堕胎薬のシルフィウムで、どちらも少し前にようやく見つけた幻の薬草。
シルフィウムはもう少し育てば株分ができそうだと期待している。解熱作用・鎮痛・咳の緩和・消化不良の改善などにも有効なので流感の季節にはかなり役に立つはず。
(使う人は選ばなきゃだけど、子供と老人には最適だと思うんだよな~。コントライェルバなんて二度と手に入らない気がするし)
【ガンツがお水あげてたけど、魔力水が足りなくなりそう】
(了解、今日帰ったらすぐ魔力水作るね)
薬草の作り方は畑を耕して肥料を撒き、苗を植えて水魔法で散水するのが一般的な方法。
ロクサーナのやり方は土魔法で畑を耕しながら土に魔力を練り込み、肥料は最小限にとどめる。土に練り込む魔力と水に含める魔力のバランスが良いと薬効は倍増するが、その兼ね合いが難しい。
(薬草の種類や温度によって変えなきゃいけないんだよね)
手間はかかるがこの方法で育てると、初級ポーションの材料で中級ポーションが作れる。
(まあ、他の人には多分無理だから、私の趣味の世界って感じだけどね)
ロクサーナの夢は魔力や魔法のない世界でも作れる薬や、魔力がなくて生活魔法が使えない人用の魔導具の開発。
ロクサーナがポヤポヤと考え事をしているのはいつもの事で、サブリナとセシルは気にせず話をしていた。
「ロクサーナ、戻ってこ~い。講堂に着いたから受付に行こうよ」
「へ? うわぁ、人がいっぱいじゃん」
「新入生プラス保護者プラス使用人だもん。流石お貴族様!」
「セシルも貴族なんだから、言葉遣いに気をつけた方が良いわよ。それよりも、制服を改造⋯⋯着崩してる方ばかりね」
女生徒の制服は足首まで隠れるオフホワイトのデイドレスと、身体にピッタリとフィットしたグレーのジャケット。学年毎に色が変わる胸元の細いリボンは緑。
袖口や裾にレースの縁取りをする、バッスルやパニエでスカートに変化をつける、胸元のリボンを幅広のものに変える、大きな宝石のブローチをつけるなど⋯⋯学園の制服とは思えないほどの改造をしている生徒が大半を占めていた。
男子生徒は白いシャツとグレーのトラウザーズ、腹部にサッシュと呼ばれる紺色の飾り帯を巻いている。トラウザーズより濃い色のコートの胸元には学園のエンブレム。そして、胸元には緑のリボンタイ。
サッシュに刺繍を入れているのは全員で、リボンタイに宝石を付けたりクラバットに変えていたり。コートに刺繍を入れるのも当たり前らしく、コートの長さが極端に長いものもいる。
「まるでバニヤンみたい。あれってゆったりとした室内着なんだけどね~」
ロクサーナが呆れたように溜め息をついた。
「学園の入学式だよね~、お題ありのファッションショーかと思ったよ」
「なんだか場違いな気がしてきたけど、とりあえず受付に並びましょう」
手を加えていない制服の方が珍しく、受付の列に並んだ3人は非常に目立っていた。周りからジロジロと見られこそこそと陰口を言われている。
「まあ、なんのオリジナリティもないなんて」
(いや、制服だよ? オリジナリティとかいらんし)
「可哀想に。デザイナーを雇う費用さえないみたいだな」
(そこまでするなら制服要らなくない?)
受付の順番が来たようで、意味不明の針の筵から脱出するチャンス。
「入学許可証を」
無表情なホムンクルス(みたいな職員)が、右手でノートに何かを書き込みながら左手を出した。
「⋯⋯聖王国からの留学生?⋯⋯ ロクサーナ・バーラム⋯⋯サブリナ・セルバン⋯⋯セシル・ファーラム⋯⋯レベッカ・マックバーンは?」
「レベッカ・マックバーンは少し後から来るようです」
「えーっと、クラスは全員1年Aクラス。講堂の席は正面に向かって左側。次の人、入学許可証を」
受付から離れて講堂に向かいながら、微妙な空気に3人が顔を見合わせた。
「錬金術極めたくなっても、ホムンクルスだけは作らないって決めた」
「あれ、人間だったよね」
「多分」
大きく開いた講堂の入り口から中に入ると、案内役らしい男子生徒が声をかけてきた。
「君達、クラスは?」
胸元のリボンタイに赤い宝石を付けているので、多分2年生のはず。
「3人共Aクラスだって聞きました」
「それなら一番奥の列になる。席は自由だから好きなところに座って良いよ」
「ありがとうございます」
人を⋯⋯膨らんだスカートを⋯⋯避けながら奥に進み、空いている席に3人並んで座った。
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(うっかり鑑定しちゃったから、超ビックリでまだ心臓がドキドキしてる。だって一番高ランクのファンシーレッドだったんだもん。叫ばなかった私を褒めて欲しい)
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(ありがとう。棒読みだけど⋯⋯もう、この国ってわけわかんない)
【絶対なんかやってるね~、調べてくる?】
(とりあえず自分で頑張ってみる)
【了解】
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講堂の後方では大きな声で挨拶を交わしたり、使用人に指示を飛ばす保護者達。
「学園の入学式なんて初めてだけど、なんか滅茶苦茶騒がしい」
セシルの言葉にロクサーナとサブリナが頷いた。
席がほとんど埋まる頃、少し離れた場所から大きな叫び声が聞こえてきた。
「私だけ置いてくなんて酷いわ!」
ロクサーナ達から少し離れた場所で叫んだレベッカは、静まり返った講堂内の注目を一身に集めた。
「いつもいつも⋯⋯私だけ仲間外れにして、酷い」
(いや~、レベッカ劇場がはじまったよ。国外でもやるとは思わなかったな~)
「レベッカのあれ⋯⋯制服⋯⋯だよね」
見事な改造を施した制服らしきものを着たレベッカは、口元に両手の拳を当ててハラハラと涙を流していた。
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