【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

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32.楽しんでる人は誰だ!?

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 巣の近くで薬草を焚いて、風魔法で煙を巣に向けて送り込んで放置。

『そろそろかな、この後は俺に任せてくれる?』

 少し離れた場所からレオンが働くのを眺めていたが、思ったよりも手際がいい。

(Aランクだもんね。やっぱり手慣れてる)

 後は巣の回収だなぁと呑気に見物していたロクサーナは、魔物の気配に気付いて立ち上がった。

(オウルベアだ、昨日も今日も熊型の魔物に遭遇するなんて⋯⋯やっぱりなんか変だな)

『ここは任せる』

『うん、行ってら~』

 煙を吸い込まないようにと、口を覆っているレオンのくぐもった声が聞こえる横を走り過ぎ、森の奥に進むとオウルベアのつがいがアルミラージを捕食していた。

(アルミラージって、角うさぎと言うより角のある犬って感じがする)

 食事に気を取られているオウルベアの風下に周り、剣を構えた。

(秋に獲物が少なかったとは思えないんだけど⋯⋯ 腹ペコの2頭は楽しめそうだね)

 身体強化をかけた後、剣に風を纏わせて走り出し雄の首を狙って一閃。何が起きたのか分からずに倒れた雄の横で、もう一頭のオウルベアが爪を振り下ろしてきた。

『グウォォォ!』

 雄叫びをあげて立ち上がったオウルベアの雌の目を目掛けて、アルミラージの死骸を投げつけた。

 咄嗟に避けて体勢を崩したオウルベアの右腕を切り落とした。

 アルミラージの血で見えなくなった目を瞑り、左手を振り回すオウルベアの攻撃を躱しながら背後に回り込んで首を切り落とした。

(また剣がダメになったか~、やっぱり大物はドワーフ見つけた後にしようかな)


 ここ半年の大物狙いで3本の剣が折れた。予備はまだ何本もあるが、強い付与をかけられないのは戦いにくい。

 冬の終わりにはスタンピードで初夏には海獣騒ぎと、イベントが目白押しなので時間が足りなくなりそうだと溜息をついた。

(武器を調達したいし、さっさと調査を終わらせないとね)

 刃こぼれした剣を見つめて、『レオンに関わっている暇なんてない』と再確認した。



 夕闇が迫る前にテントを張って竈門を拵えた。鍋・網・俎板・包丁・皿・カップ・野菜・パン・ベーコン・調味料⋯⋯どんどん出てくる器具や食材にレオンが目を丸くしている。

『いつもこうなの?』

『食事は基本だから』

 パチパチと木が爆ぜる音がして、鍋から温かそうな湯気が上がっている。その横でじゅうじゅうと脂を滴らせていた分厚いベーコンを、焼けたパンに挟んだ。

『美味そう! レタスとトマトと熱々ベーコンなんて⋯⋯もう、食べる前から最高としか言えないじゃん。うさぎ肉のシチューもあるし⋯⋯うぅ、ジルを嫁に欲し~い!』

 因みにこの兎肉⋯⋯オウルベアの近くで気絶していた間抜けなアルミラージだと言うのは秘密。

『女性差別反対、料理は男でもできるからね』



『オウルベアのつがいって、昨日もオウルベアだって言ってたよね⋯⋯やっぱりこの森は何かありそうだよ。
他所のギルドで聞いたんだけど、ここのスタンピードって時期も種類も決まってるのに原因が分かってないんだろ? 普通は瘴気溜まりだとかダンジョンだとか、理由が分かってるものなのに』

『この森は大型の魔物が多くて、奥は手付かずだからね』

『やっぱり、この森の奥の捜索は無理なのかなぁ。聖王国の討伐チームだってスタンピードの解決しか⋯⋯あれって、しないのかできないのか、どっちなんだろう。
聖王国って謎が多いから、精鋭部隊の実力が想像できないよ』



 帰り道で突然飛び出してきたワームを殺したレオンと、サクッとポイズンスネイクを倒したロクサーナ。

『反射神経いいね、全然慌ててないし』

『あまり小さいやつはむりだけど、そこそこの大きさなら、魔力が動くのがなんとなく分かるんだ。
ジルは毒なんて平気そうだね』

『少し毒耐性があるから』




 それからも粘るレオンに押し切られるようにして何回か一緒に依頼を受けて半月。今日は新年初の日の出を見に、2人でやってきた。

「あ~、お腹すいた~! 朝は俺が作るから、ジル⋯⋯いつものアレ、お願いしてもいいかな?」

 地面に座り込んだまま明るくなっていく空を見ていたジルが、チラッと振り返って《クリーン》と《浄化》をかけた後、《ヒール》を追加した。

「コカトリスの毒。ヒール代は朝食にオレンジを追加で」

「了解! コーヒーもサービスするよ!」

「えっ、いらない。レオンのコーヒーってめっちゃ苦くて胃にくるから、紅茶の方がいい」

 少しずつ料理を頑張っているレオンだが、練習をはじめて半月では『切って挟む』のが精一杯。なので朝食担当になっている。



「喉が渇いたからさあ、先にポットと水出してくれる?」

 料理担当のレオンが石を集めて竈門を作りながら声をかけた。

「骨付きのソーセージあるかなぁ、なんかガツンとした物食べたい気がするんだ~。あと、寒いからスープ作ってくれる? いつもの鍋持ってきてるよね」

 夜明け前から大型の魔物と戦っていたので、かなりお腹が空いたらしいレオンが鍋にも湯を沸かしはじめた。

 日の出を見に行きたいと思ったのはロクサーナで、それについていきたいと言いはじめたのはレオン。

 一緒に行動しはじめてまだ半月だが、レオンはかなりの甘えん坊のよう。

(家族とか使用人とかに可愛がられてきたのが、すごく分かる感じ。ちょっとセシルに似てる)

 ロクサーナがスープ用の野菜を切る横で、レオンは火に枝を放り込んでいる。

「アイテムバックってほんと便利だよね。今日も着替えとか持ってこずにすんだしさ。材料をいくらでも持ってこれるから、ご飯のメニューとかも色々選べるし、美味しいし。
普通は干し肉と硬いパンくらいで、荷物を減らそうとしてポットとか鍋を忘れたら、寒くても水を飲むしかないし。
デカい魔物を運ぶ必要がなくて楽ちんだし。ロクサーナがいない時は解体して持てるとこだけにして、残りは諦めないといけないんだから。ほんと感謝だよ⋯⋯あちっ!」

 不器用な手つきでお湯を注いだレオンが『まだまだだなぁ』と苦笑いを浮かべている。




「毒で思い出したんだけどさ、バジリスクが進化してコカトリスになったって本当だと思う?」

 朝食の後、真剣な顔で俯いてオレンジの皮を剥いているレオンは、剥けたはしからロクサーナに貢いでいる。

「どうなんだろう、バジリスクより猛毒で石化は両方持ってるけど、進化した理由を知ってからは、ありえない気がする」

 バジリスクは雄鶏の鳴き声が弱点の為、雄鶏が産んだ卵から生まれるコカトリスはバジリスクの進化系だと言われている。

「魔物は別だって言われそうだけど、雄は卵を産まない。産むならそれはもう雄じゃない。
見た事はないけど、コカトリスから更に進化した種で、アムフィシーンっていうのがいるって言うよね」

 コカトリスの尾羽に当たる部位からドラゴンの首が生えた『アムフィシーン』は毒と炎を吐き散らすかなり凶悪な魔物。

「討伐の記録もなくて古い資料にあるだけのやつだよね。見てみたいなぁ」

(レオンもキルケーのことを知ったら『見たい』とか騒ぎそうだなあ)

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