【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

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46.一石三鳥の作戦なのだ

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 人為的スタンピードの原因を調べる為に帝国に来たとしか聞いていないレオンには、危険を冒してまで城に潜入する理由が分からない。

「ここまでは仕事で、この後は僕の趣味?」

「⋯⋯はあ? 趣味で城に行って何するつもりだよ!?」

「大型魔獣を相手にしてると、剣ってすぐ折れちゃうんだよね」

「帝国の武器狙いってこと? 盗みはダメだからな」

「戦場とかで落ちてりゃ拾うけど、わざわざ盗むわけないじゃん。正当な方法で手に入れられるのにさ⋯⋯城の地下にドワーフが捕まってるんだ~。彼等をドワーフの村に連れてく約束してるから、その報酬にゲットするのだよ」

 魔法を使わないでやる冒険者稼業は金がかかると呟いたロクサーナは、呆然としているレオンに向けて指を突きつけた。

「あげないし売らないからね⋯⋯貸すのも断る」

(ドワーフを助けて帝国にひと泡吹かせてやれる⋯⋯一石二鳥の作戦なのだ! 武器も手に入れるから一石三鳥じゃん)



 今はドワーフの作る武器で他国より有利に侵略し続ける帝国だが、その前は各国から魔法士や聖女を誘拐して国力を上げてきた。

(そのせいで聖王国は今みたいな体制になっちゃったんだよね~)

 帝国に奪われる前に力のある魔法士や聖女を確保したい聖王国は、10歳の神託で魔法の才能ありとされた子供を、成人するまでと言いながら魔法契約で縛る。

 その後、『見習い』の文字が外れる時に、ほぼ強制的に再契約させているが、当人たちは気付いてもいない。

(成人したから自由だ~って、みんな浮かれてるけどさ、あのブローチや杖に所有者登録した時点で再契約になってるんだよね。聖王国、怖し! 人でなし~!)

 人権を無視した帝国や聖王国のやり方に一発喰らわせるのが、ロクサーナの念願のひとつ。

 ロクサーナが10歳の時に『期間限定』と言う契約ができたのは、教会幹部を口八丁手八丁で説得してくれたジルベルト司祭のお陰なので、期間満了の後は感謝の意を込めて、フリーで仕事を受けるつもりでいる。

 成人するまでだけは。

(聖王国は『成人までの契約だ!』って言ってるんだから、その後は知らないもんね~。いや~、鑑定のレベルが高くて助かったよ。聖王から下賜されたダイヤモンドがギラギラのブローチを鑑定出来なかったら⋯⋯ガクガクブルブル⋯⋯)

 食べられる草なのか毒はないのか、腐ってないのか腐りかけでもお腹を壊さずに済むレベルなのか。

 山のように積まれたガラクタの中から壊れていない物をロクサーナに探させるのは、教会の使用人達の楽しい遊びのひとつで、制限時間内に見つけなければお仕置きあり⋯⋯。

 毎日、何度も何度も(鑑定とは知らずに)使っている間に、練度が上がった鑑定魔法にロクサーナは助けられてきた。

(今なんて、微細な情報とかまで分かるから、人の鑑定だけはやめたもんね。プライバシーは大事ですぅ)



「ロクサーナの武器は狙わないけど、城には付いて行くから」

「僕はジル。薬師のニーナでもいいけど、ロクサーナとは呼ぶな。それと、『待て』ができないなら、実家のママのお膝の上に飛ばすよ?」



【って、偉そうに宣言したのにねぇ】

【レオン~、後ろにいるよね~】

(ふん!)



 建国記念の祭り当日、隠蔽魔法をかけた2人が城の通用門を前に立っていた。

「フィンリーの話ではもうすぐ通いの使用人が馬車に乗って出てくるはず。手を離した後は見つけられないから、門の中に転移するまでは離さないで」

「分かった」

 ロクサーナの右手をしっかりと握り直したレオンが頷いた。

 チラチラと雪が落ちはじめたのに気付いたロクサーナが空を見上げて『チッ』と舌打ちをしたのは、ここ数日晴れ上がった空のおかげで乾いていた道に、大粒の雪が跡をつけはじめたから。

(やだなぁ、足跡でバレそうじゃん)

 開いた門の中までは転移するが、その後はできる限り魔力を温存したい。

 ぼっちのロクサーナは大人数で転移した事がないので、ドワーフの転移は6回はかかる予定。しかも、途中で戦闘になればどれだけ魔法を使う事になるか分からない。

(帝国兵は『疑わしきは殺ってしまえ』が鉄則だから、こっちは余力を残しとかないと⋯⋯もしもの時は城を破壊するつもりだし)



「開いた! 行くよ」

 ぎゅっと手を握って門の中に転移し急いで物陰に隠れると、馬車の中から門を開けた兵士に手を振るメイド達の声が聞こえてきた。

「お疲れさま~」

「祭りに行くんだろ? 楽しんでこいよ」

「お土産買ってくるね~」

 呑気なやり取りの後でギギっと音を立てて門が閉まり、『また雪かよ! 今年は多いよなぁ』と文句を言いながら立ち去っていった。

「さて、行きますかね」

 ロクサーナとレオンが初めに向かうのは、厩舎の近くにある倉庫。人の気配に注意しながら砂利道を走り、倉庫の鍵を開けて中に入った。

「うわぁ、ごちゃごちゃじゃん。さてさて予備の魔導具はどこですか~⋯⋯むむ⋯⋯むむむ⋯⋯」

「ああ、ロクサ⋯⋯ジル、あったよぉ」

 予備の魔導具は、荷物に隠れていた奥の棚に並べられているのを発見。棚の鍵を解除し、魔導具にいくつか細工をしてレオンに向き直ったロクサーナが最終確認をした。

「本当にいいんだね。帝国兵は『見つけたら問答無用で殺る』が鉄板だから、隠蔽が解けても気配を察知されても瞬殺される。運良く生きて捕まえられても、拷問のスペシャリストがいらっしゃ~いって言うし」

 それは運良くとは言わない気がするが⋯⋯レオンの気持ちは揺るがなかった。

「俺は周辺の魔導具を壊して、城の外で待機だよね」

「私が作ったやつは持ったよね。アレなら帝国兵の武器では壊せないから、見つかったら速攻で使って。絶対に戦って切り抜けてやる~とかって男気出さないで!
それと、何があっても絶対に僕を探さないで。僕は絶対に捕まらないから」

「納得できないけど、了解した」



 二手に分かれるレオンが手を離す直前に、ロクサーナを抱きしめた。

「ちょ! な、なにやってんだよ」

「なんかこういうのってよくない? 恋人同士の緊迫した戦⋯⋯グホッ!」

「よくないわぁぁ! もう行くから」

 手を離したから、ロクサーナがどこにいるのかレオンには分からない。

「じゃ、後でな」

 倉庫を飛び出して行くレオンの後からロクサーナも続いて飛び出した。

(ウルウル、頼んだ!)

【了解! 僕に任せて。嫌だけど、任せてね~】

 レオンの上を飛んでいるウルウルはレオンの護衛。火魔法を使うレオンなら風魔法が役に立つはず。

(レオン、ウルウルに嫌われてるんだ⋯⋯初めて知ったよ)




 城の中は前回来た時と同じで陰気臭い。無骨な石造りで、壁には松明を設置するホルダーが定間隔で並んでいる。

(魔力の節約?⋯⋯その割に皇帝や貴族のいるとこは派手派手なんだよね)

 城の一番奥にある階段から一度上に上がらないと、地下牢に向かう階段に辿り着けない作りになっているので、歩きだと結構時間がかかる。

 剣を下げた兵士やメイドを避けて厨房の前を走り抜け、広い階段を駆け上がると人の声が聞こえてきた。

「⋯⋯れでは、北のウィレムスはそろそろだな」

「今回の議題は、デヴァルーがメインだな。そうな⋯⋯」

 胸に数多くの勲章をつけた将校達が通り過ぎ、廊下の角を曲がるのを待ってから再び走り出した。

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