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80.ミュウのお悩み相談相手は
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「奴の武器は多分⋯⋯アイオロスから借りた『風の皮袋』だと思うんだ。風神のアイオロスがグラウコスに手を貸した理由は分かんないけど、セイレーンの歌声を運ぶって言うと、それくらいしか思い当たらないから。
でね、『風の皮袋』を取り上げたグラウコスには攻撃手段がないから、簡単に捕まえられるはず⋯⋯違ってたらその時考えるつもり」
海に沈むロクサーナをジルベルト司祭が見つけた時の様子からして、ほぼ間違いないと推測している。
ロクサーナの予測では⋯⋯ 海に沈みかけた時に包みこんだという気泡は、風に乗ったセイレーンの歌声を皮袋に詰めて運んだもの。
死に至らせるには時間が足りなかったのだろうが、グラウコスはロクサーナを死の眠りに落とすつもりだったはず。
「リラの音色で目が覚めたから、セイレーンのテクなのは間違いない。で、セイレーンとグラウコスには繋がりがなかったはずだけど、スキュラにならある。やっぱり共通の敵がいる女同士の結束は硬いって事だねぇ」
セイレーンの歌声から逃れる方法は、過去に2つ証明されている。
オデュッセウスがやった蜜蝋で耳栓をする方法と、吟遊詩人がやったリラをかき鳴らして歌を打ち消す方法。
「だから、ミュウはジルベルト司祭にリラを弾くように言ったんだよね」
【そう、あの時点だとアレしか方法がなかったからね】
理不尽な理由でキルケーに怪物にされたスキュラと、キルケーのせいで命を落としたセイレーンの共通の敵⋯⋯キルケー。
セイレーンの遺体が縛り付けられた島のそばに、カリュブディスとスキュラの棲む海域がある。
「シーサーペントを海に嗾けてたのがこの2人だろうとは思ってたんだけど、まさかグラウコスを使って仕返ししてくるとは思わなくて⋯⋯あの時は、みんなを驚かせてごめんね」
【ホントはさ、グラウコスくらいならどうにでもなったんだよね。でも、あれが最善だったと思ってる】
「うん、ありがとう」
ロクサーナが唯一特別な思い入れをもつ人間、ジルベルト司祭が助けに向かっているならと⋯⋯ミュウ達はギリギリまで手を出さないことに決めた。
【(ジルベルト司祭の本気は、きっとロクサーナの成長と進化に繋がるはず)】
ミュウ達や他種族のドワーフ達だけでは、手に入れられない世界がロクサーナにはあると考えた精霊達の苦渋の決断だった。
「なんであの領域に加害者と被害者が固まってるのかとか、シーサーペントを嗾けてたのは何故なのか⋯⋯理由が分かんないから、グラウコスをプチって潰す時に問い詰める。んで、スキュラ達に直談判しようと思ってる」
【ジルベルトには知らせないって言うんだろ?】
「バレたら叱られそうな⋯⋯てか、私の仕事のやり残しみたいな感じだし?」
6年やってきた仕事で、中途半端に終わったのはリューズベイの一件だけ。それ以外はほぼ瞬殺してきただけに、そのまま放置しておくのは心残りがありすぎる。
(スキュラ達が新しいネタを考えて、港になんかやってきても嫌だし)
「決行は明日、ジルベルト司祭が出勤した後ね!」
【ロクサーナを囮にするのはなんだかなぁ。なんかすごい無茶しそうで嫌なんだけど⋯⋯】
「大丈夫だよ! 相手は海神って言っても予言しかできないから、風の布袋だけどうにかすればいいんだもん」
カチッ
「さてと、村長さんとこに寄ってから、今日のアラクネのお茶会の準備してくるね」
ドワーフ達の作業小屋に向かって走るロクサーナの姿が見えなくなった途端、ミュウがピッピの背中に飛び乗った。
【さ~て、氷漬けにしようか?】
【だって、ピッピお約束したんだもん】
【奴は、人誑しだけじゃなく精霊誑しだもんな。で、どうするよ?】
カイちゃんが全員の顔を見回した。
【面白そうだからピッピの好きにやらせるに1票入れるぜ】byクロちゃん。
【僕は反対に1票かな。ロクサーナが叱られるだけだもん】byウルウル。
【ロクサーナの味方だから、反対モグッ】byモグモグ。
【反対しようかな】byルル。
【賛成しようかな】byミイ。
【ピッピの応援3票で、反対が3票。なら俺は⋯⋯無投票だな。って事で、ミュウの投票で決まるが、どうするよ?】byカイちゃん。
精霊達の中で誰がと決めているわけではないが、一番初めにロクサーナを見つけギリギリだった生命を繋いできたからか、ミュウがほぼリーダーのようになっている。
【⋯⋯ううっ、くそお! 先に1票入れとくんだった~】
ロクサーナを囮にしたくないが、ジルベルトが参加するのも気に入らない。
【⋯⋯(海に落ちた時だって、ジルベルトがいなきゃ僕が飛び込んでたのに⋯⋯そしたらセイレーンの歌なんて聞かせてなかったんだから!)】
ロクサーナには人間との関わりも必要だと思いつつも、ジルベルトとの距離が近付いていく気配に日々モヤモヤが募っているミュウ。
【夜までに考える! ピッピ、勝手なことをしたら氷河に連れてくからな!!】
転移で消えたミュウがいた場所を、首を傾げたまま見つめているピッピが呟いた。
【えーっと、ピッピなんかした? 氷河はちょっと嫌かも~】
【ヤキモチだな】
【拗ねてんだよ】
【ミュウ、お餅焼いたの?⋯⋯ピッピも食べたい】
ミュウが転移した先は山の上のドラゴンの巣。
【ミュウちゃん、どうしたの?】
【⋯⋯別に。ゴン太は?】
【う~ん、どこかなあ。お腹が一杯になったら帰ってくるんじゃないかな?】
産まれるまでまだ時間がかかりそうな卵のそばにいるのはいつもドラ美で、ゴン太はここ最近は特にふらふらと飛び回っていることが多い。
【それでいいの?】
【だって、必ずここに帰ってくるって知ってるもん。それにね、レアな餌を見つけると必ず持って帰ってくれるの。食べるのを我慢してるから、涎だらけなんだけどね~】
ふふっと笑ったドラ美が『秘密だよ』とウインクして、ミュウの顔を覗き込んだ。
一番大事だって教えてくれてるみたいだから、普段は何をしていても構わないんだと嬉しそうにしている。
【ロクサーナがミュウに教えてくれてるみたいにね】
【⋯⋯ロクサーナは違うし】
【そうかなぁ。よ~く考えてみるといいよ。ロクサーナは甘えるのが下手だし、距離の掴み方が分かんなくて逃げる方を選ぶけど、わかりやすい子だから。
ロクサーナがここ一番って時に頼るのは誰かな~? 『助けて』って言う勇気はなさそうだけど、心には誰かが思い浮かぶはずだよね~】
【⋯⋯ここ一番⋯⋯助けて?】
ロクサーナが窮地に陥る状況は考えたくもないが、もしそんなことがあったら⋯⋯ロクサーナは誰を頼るのか。
【ありがとう! ちょっとモヤモヤが消えた気がする】
パタパタと機嫌よく羽を動かしたドラ美がにっこりと微笑んだ。
【ミュウは誰にも負けてないからね、自信を持って】
ミュウが広場に戻ってきた時には、ロクサーナは地下室で作りかけの魔導具を弄っていた。
「ミュウ、マンゴスチンって知ってる? 果実の外皮は黄色の染料にもなるけど、粉末にしたら下痢・赤痢・皮膚病の薬になるんだ。でね、葉っぱでお茶を作ってみたから一緒に飲まない?」
マンゴスチンは柔らかい果肉で香りが良く、さわやかな甘味で上品な味わい。デリケートな食感を楽しめる生食の他に、ジュースやゼリーにしても美味しい。
「痛みやすいからなかなか手に入らなかったんだ~」
【戻ってきたのが、なんで分かったの? 姿消してたのにさ】
「へ? だってミュウだもん」
覗き込んでいた魔導具から顔を上げ、不思議そうな顔で首を傾げたロクサーナが、『変なの』と言いながら立ち上がり、お茶を淹れはじめた。
【決めた! 1票は⋯⋯】
でね、『風の皮袋』を取り上げたグラウコスには攻撃手段がないから、簡単に捕まえられるはず⋯⋯違ってたらその時考えるつもり」
海に沈むロクサーナをジルベルト司祭が見つけた時の様子からして、ほぼ間違いないと推測している。
ロクサーナの予測では⋯⋯ 海に沈みかけた時に包みこんだという気泡は、風に乗ったセイレーンの歌声を皮袋に詰めて運んだもの。
死に至らせるには時間が足りなかったのだろうが、グラウコスはロクサーナを死の眠りに落とすつもりだったはず。
「リラの音色で目が覚めたから、セイレーンのテクなのは間違いない。で、セイレーンとグラウコスには繋がりがなかったはずだけど、スキュラにならある。やっぱり共通の敵がいる女同士の結束は硬いって事だねぇ」
セイレーンの歌声から逃れる方法は、過去に2つ証明されている。
オデュッセウスがやった蜜蝋で耳栓をする方法と、吟遊詩人がやったリラをかき鳴らして歌を打ち消す方法。
「だから、ミュウはジルベルト司祭にリラを弾くように言ったんだよね」
【そう、あの時点だとアレしか方法がなかったからね】
理不尽な理由でキルケーに怪物にされたスキュラと、キルケーのせいで命を落としたセイレーンの共通の敵⋯⋯キルケー。
セイレーンの遺体が縛り付けられた島のそばに、カリュブディスとスキュラの棲む海域がある。
「シーサーペントを海に嗾けてたのがこの2人だろうとは思ってたんだけど、まさかグラウコスを使って仕返ししてくるとは思わなくて⋯⋯あの時は、みんなを驚かせてごめんね」
【ホントはさ、グラウコスくらいならどうにでもなったんだよね。でも、あれが最善だったと思ってる】
「うん、ありがとう」
ロクサーナが唯一特別な思い入れをもつ人間、ジルベルト司祭が助けに向かっているならと⋯⋯ミュウ達はギリギリまで手を出さないことに決めた。
【(ジルベルト司祭の本気は、きっとロクサーナの成長と進化に繋がるはず)】
ミュウ達や他種族のドワーフ達だけでは、手に入れられない世界がロクサーナにはあると考えた精霊達の苦渋の決断だった。
「なんであの領域に加害者と被害者が固まってるのかとか、シーサーペントを嗾けてたのは何故なのか⋯⋯理由が分かんないから、グラウコスをプチって潰す時に問い詰める。んで、スキュラ達に直談判しようと思ってる」
【ジルベルトには知らせないって言うんだろ?】
「バレたら叱られそうな⋯⋯てか、私の仕事のやり残しみたいな感じだし?」
6年やってきた仕事で、中途半端に終わったのはリューズベイの一件だけ。それ以外はほぼ瞬殺してきただけに、そのまま放置しておくのは心残りがありすぎる。
(スキュラ達が新しいネタを考えて、港になんかやってきても嫌だし)
「決行は明日、ジルベルト司祭が出勤した後ね!」
【ロクサーナを囮にするのはなんだかなぁ。なんかすごい無茶しそうで嫌なんだけど⋯⋯】
「大丈夫だよ! 相手は海神って言っても予言しかできないから、風の布袋だけどうにかすればいいんだもん」
カチッ
「さてと、村長さんとこに寄ってから、今日のアラクネのお茶会の準備してくるね」
ドワーフ達の作業小屋に向かって走るロクサーナの姿が見えなくなった途端、ミュウがピッピの背中に飛び乗った。
【さ~て、氷漬けにしようか?】
【だって、ピッピお約束したんだもん】
【奴は、人誑しだけじゃなく精霊誑しだもんな。で、どうするよ?】
カイちゃんが全員の顔を見回した。
【面白そうだからピッピの好きにやらせるに1票入れるぜ】byクロちゃん。
【僕は反対に1票かな。ロクサーナが叱られるだけだもん】byウルウル。
【ロクサーナの味方だから、反対モグッ】byモグモグ。
【反対しようかな】byルル。
【賛成しようかな】byミイ。
【ピッピの応援3票で、反対が3票。なら俺は⋯⋯無投票だな。って事で、ミュウの投票で決まるが、どうするよ?】byカイちゃん。
精霊達の中で誰がと決めているわけではないが、一番初めにロクサーナを見つけギリギリだった生命を繋いできたからか、ミュウがほぼリーダーのようになっている。
【⋯⋯ううっ、くそお! 先に1票入れとくんだった~】
ロクサーナを囮にしたくないが、ジルベルトが参加するのも気に入らない。
【⋯⋯(海に落ちた時だって、ジルベルトがいなきゃ僕が飛び込んでたのに⋯⋯そしたらセイレーンの歌なんて聞かせてなかったんだから!)】
ロクサーナには人間との関わりも必要だと思いつつも、ジルベルトとの距離が近付いていく気配に日々モヤモヤが募っているミュウ。
【夜までに考える! ピッピ、勝手なことをしたら氷河に連れてくからな!!】
転移で消えたミュウがいた場所を、首を傾げたまま見つめているピッピが呟いた。
【えーっと、ピッピなんかした? 氷河はちょっと嫌かも~】
【ヤキモチだな】
【拗ねてんだよ】
【ミュウ、お餅焼いたの?⋯⋯ピッピも食べたい】
ミュウが転移した先は山の上のドラゴンの巣。
【ミュウちゃん、どうしたの?】
【⋯⋯別に。ゴン太は?】
【う~ん、どこかなあ。お腹が一杯になったら帰ってくるんじゃないかな?】
産まれるまでまだ時間がかかりそうな卵のそばにいるのはいつもドラ美で、ゴン太はここ最近は特にふらふらと飛び回っていることが多い。
【それでいいの?】
【だって、必ずここに帰ってくるって知ってるもん。それにね、レアな餌を見つけると必ず持って帰ってくれるの。食べるのを我慢してるから、涎だらけなんだけどね~】
ふふっと笑ったドラ美が『秘密だよ』とウインクして、ミュウの顔を覗き込んだ。
一番大事だって教えてくれてるみたいだから、普段は何をしていても構わないんだと嬉しそうにしている。
【ロクサーナがミュウに教えてくれてるみたいにね】
【⋯⋯ロクサーナは違うし】
【そうかなぁ。よ~く考えてみるといいよ。ロクサーナは甘えるのが下手だし、距離の掴み方が分かんなくて逃げる方を選ぶけど、わかりやすい子だから。
ロクサーナがここ一番って時に頼るのは誰かな~? 『助けて』って言う勇気はなさそうだけど、心には誰かが思い浮かぶはずだよね~】
【⋯⋯ここ一番⋯⋯助けて?】
ロクサーナが窮地に陥る状況は考えたくもないが、もしそんなことがあったら⋯⋯ロクサーナは誰を頼るのか。
【ありがとう! ちょっとモヤモヤが消えた気がする】
パタパタと機嫌よく羽を動かしたドラ美がにっこりと微笑んだ。
【ミュウは誰にも負けてないからね、自信を持って】
ミュウが広場に戻ってきた時には、ロクサーナは地下室で作りかけの魔導具を弄っていた。
「ミュウ、マンゴスチンって知ってる? 果実の外皮は黄色の染料にもなるけど、粉末にしたら下痢・赤痢・皮膚病の薬になるんだ。でね、葉っぱでお茶を作ってみたから一緒に飲まない?」
マンゴスチンは柔らかい果肉で香りが良く、さわやかな甘味で上品な味わい。デリケートな食感を楽しめる生食の他に、ジュースやゼリーにしても美味しい。
「痛みやすいからなかなか手に入らなかったんだ~」
【戻ってきたのが、なんで分かったの? 姿消してたのにさ】
「へ? だってミュウだもん」
覗き込んでいた魔導具から顔を上げ、不思議そうな顔で首を傾げたロクサーナが、『変なの』と言いながら立ち上がり、お茶を淹れはじめた。
【決めた! 1票は⋯⋯】
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