【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との

文字の大きさ
14 / 32

14.大激怒のヒューゴ

しおりを挟む
「窓がないのがね。仕方ないんだけど、長時間いる所じゃないって感じ」

「従業員や俺達も第四と第五は短い時間しか滞在しないようにしてますから」

「その方が正解だと思う」

「まだ暫くかかるんですよね」

「結構あるから・・持って帰らなきゃ良かったって後悔しそう」


 王都の中でも比較的裕福な人達平民が住んでいるこの辺りは、人通りもすでになく静まりかえっている。
 石畳を歩く四人の足音が響き、通り過ぎる家々の灯りがチラチラと見え隠れしている。

「明日もこの時間になるなら馬車を待たせておいた方が良さそうです」

「たった五分なのに?」

 ルーシーは吃驚して周りを見回した。

「この辺りは人通りもありませんし、五分あればなんでも出来ます。
大人数でかかられたら護衛二人では守りきれない」

「帰ったら父さんも同じことを言いそうだわ」

 ヒューゴとの攻防を想像して溜息を吐くルーシー。

「それにしても住宅街にあんなでっかい倉庫って、何度見ても違和感しかないんだけど。
街の人達はよく許してくれたわよね」


 閑静な住宅街に聳え立つ巨大で堅牢な倉庫は街の景観を損ねている気がする。

 倉庫が建設された頃この街を離れていたルーシーは、初めて倉庫を見た時吃驚しすぎてポカンと口を開けたまま動けなくなったのを今でも覚えている。

『街のみんなは逆に喜んでくれたぞ。
警備隊や夜警は平民の街を守ってくれないが、倉庫の前にいる警備員が異変を知らせてくれそうだって』


 そう言えばそうかもと何となく納得したルーシーだったが、確かに街の治安は良くなったらしい。
 と言うのも、どうやらヒューゴは警備員の交代時に街の巡回をさせているよう。

『まあ、警備だけだと身体が鈍るからな。行き帰りに街中を一周するだけでもいい運動になるだろ?』


 警備員の制服は街の人々に周知されており、巡回中に声を掛けられることもあると言う。


(持ちつ持たれつなのかしら)


 家に着くとヒューゴが腕を組んで玄関に仁王立ちしていた。

「こんな時間まで何やってんだ? 誘拐されたいか?」

「心配かけてごめんなさい。つい夢中になって時間を忘れてたの」


 無言でルーシーを睨みつけるヒューゴ。『じゃあ俺たちはここで』と言いつつ、すかさず逃げ出した護衛二人を横目に見ながら、


「アリス、お前は飯食ってさっさと休め。今日の仕事は終わりだ。
それと、明日は休みだ。仕事したらけつを引っ叩くからな」

「でも、あの」

「アリス、お疲れ様。しっかり休んでね、後は大丈夫だから」

 未だにルーシーを睨んでいるヒューゴと青い顔で立ち尽くすルーシーを交互に見ながらアリスは悄悄しおしおと屋敷に入って行った。

「俺の言いたい事は分かってるな」

「ええ、悪かったと思ってます。みんなに無茶させた「だけじゃないだろ!」」

「・・ごめんなさい」

「今朝俺はなんて言った?」

「青い顔してるって」

「で、この時間か?
俺はいつも言ってるよな、時間配分を間違えるなって。
昨日の夜と今日は違う。焦って無茶して肝心な時に動けなかったらどうすんだ?
これはお前と俺の戦いだが、メインになるのはお前だって事を覚えとけ!
大将が潰れたらおしまいなんだよ」

「ごめんなさい。食事を済ませて休みます」



 ヒューゴの後をついて食堂に行くと、二人分の食事の支度ができていた。

「ほら、さっさと食うぞ。倉庫から連絡が来たから全部並べといた」

(父さん、待っててくれたんだ)


 マルフォー家ではいつも一人で食事をしていた。

 待ってくれる人がいる、一緒に食事を出来る人がいる・・ルーシーは涙腺が緩むのを止められなかった。

しおりを挟む
感想 152

あなたにおすすめの小説

【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~

コトミ
恋愛
 結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。  そしてその飛び出した先で出会った人とは? (できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

【完結】婚約破棄に感謝します。貴方のおかげで今私は幸せです

コトミ
恋愛
 もうほとんど結婚は決まっているようなものだった。これほど唐突な婚約破棄は中々ない。そのためアンナはその瞬間酷く困惑していた。婚約者であったエリックは優秀な人間であった。公爵家の次男で眉目秀麗。おまけに騎士団の次期団長を言い渡されるほど強い。そんな彼の隣には自分よりも胸が大きく、顔が整っている女性が座っている。一つ一つに品があり、瞬きをする瞬間に長い睫毛が揺れ動いた。勝てる気がしない上に、張り合う気も失せていた。エリックに何とここぞとばかりに罵られた。今まで募っていた鬱憤を晴らすように。そしてアンナは婚約者の取り合いという女の闘いから速やかにその場を退いた。その後エリックは意中の相手と結婚し侯爵となった。しかしながら次期騎士団団長という命は解かれた。アンナと婚約破棄をした途端に負け知らずだった剣の腕は衰え、誰にも勝てなくなった。

《本編完結》あの人を綺麗さっぱり忘れる方法

本見りん
恋愛
メラニー アイスナー子爵令嬢はある日婚約者ディートマーから『婚約破棄』を言い渡される。  ショックで落ち込み、彼と婚約者として過ごした日々を思い出して涙していた───が。  ……あれ? 私ってずっと虐げられてない? 彼からはずっと嫌な目にあった思い出しかないんだけど!?  やっと自分が虐げられていたと気付き目が覚めたメラニー。  しかも両親も昔からディートマーに騙されている為、両親の説得から始めなければならない。  そしてこの王国ではかつて王子がやらかした『婚約破棄騒動』の為に、世間では『婚約破棄、ダメ、絶対』な風潮がある。    自分の思うようにする為に手段を選ばないだろう元婚約者ディートマーから、メラニーは無事自由を勝ち取る事が出来るのだろうか……。

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ
恋愛
「手柄をたてて君に似合う男になって帰ってくる」そう言って旅立って行った婚約者は三年後、伯爵の爵位をいただくのですが、それと同時に旅先で出会った令嬢との結婚が決まったそうです。 それを知った伯爵令嬢である私、リノア・ブルーミングは悲しい気持ちなんて全くわいてきませんでした。だって、そんな事になるだろうなってわかってましたから! 婚約破棄されて捨てられたという噂が広まり、もう結婚は無理かな、と諦めていたら、なんと辺境伯から結婚の申し出が! その方は冷酷、無口で有名な方。おっとりした私なんて、すぐに捨てられてしまう、そう思ったので、うまーくお断りして田舎でゆっくり過ごそうと思ったら、なぜか結婚のお断りを断られてしまう。 え!? そんな事ってあるんですか? しかもなぜか、元婚約者とその彼女が田舎に引っ越した私を追いかけてきて!? おっとりマイペースなヒロインとヒロインに恋をしている辺境伯とのラブコメです。ざまぁは後半です。 ※独自の世界観ですので、設定はゆるめ、ご都合主義です。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

処理中です...