【完結】離縁したいのなら、もっと穏便な方法もありましたのに。では、徹底的にやらせて頂きますね

との

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29.はじまりの日

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 上級裁判所は身分および所有権に関する最重要事件や重大な犯罪を扱い、その他の軽微な犯罪などは下級裁判所で審理する。

 今回は上級裁判所で行われるが、(婚姻等については教会法で定められている為)裁判官の一人としてミューリア司教が立ち会う事に決まった。



 裁判当日は晴天に恵まれルーシーはこの日の為に新調した濃い緑と茶のデイドレスを着ている。
 慎ましやかに首まで隠し、レース飾りは襟元にほんの少しと手袋のみ。その代わりと言っては語弊があるが、ボディスとスカートには布と同色の緑と金糸で繊細な刺繍が施されている。



 法律家達が裁判官席に座り、陪審員も着席した。

 大量の訴状とそれに付随して提出された資料が三人の法廷役人によって運び込まれた。



「まず初めに言っておきたい。当初被告側から提出されていた三件の訴状、
 ・ガードナー男爵の国家反逆罪
 ・ルーシー・マルフォー伯爵夫人との離婚調停
 ・マルフォー伯爵家への資産の返還要求

は、既に取り下げとなっている。

従ってこの法廷ではヒューゴ・ガードナー男爵及びルーシー・マルフォー伯爵夫人から提出された訴状・・数は? えー、大量の訴状についてのみを扱う。

原告側弁護団、答弁を」


 第一ラウンド開催



「今回の案件は大きく分けて二つに分類されます。
ルーシー・マルフォー伯爵夫人からの、
 ・資産の返還要求
 ・婚約契約不履行
 ・婚姻無効請求
 ・名誉毀損
 ・慰謝料の請求

もう一つは、ヒューゴ・ガードナー男爵とガードナー商会への、
 ・名誉毀損
 ・冤罪
 ・業務妨害
 ・慰謝料請求

となります」


「契約不履行だの離婚だの巫山戯ないで!」


 イライザが立ち上がり叫んだ。裁判官がガベル木槌を叩いた。


「被告側は静粛に。離婚と婚姻無効は違いますし」


「婚約契約書には

 ・持参金
 ・花嫁代結納金(リューベルの別荘)
 ・妻への持参金返

の三点が明確に記載されています。

この中で履行されたのは持参金のみ。
花嫁代と持参金返しはなされておりません。

また、婚約契約書には
 ・マルフォー伯爵家が家の準備
 ・ガードナー男爵家が家具の準備
となっています。

尚、マルフォー伯爵家のタウンハウス及び別荘の改築・修繕費ですが、イライザ様とリチャード様の指示で行われた後全てガードナー男爵家に請求がなされています。

家の改築・修繕費は指示書・作業完了報告書・領収書の一覧が提出済みです。

ガードナー男爵家が準備する筈の家具ですが、イライザ前マルフォー伯爵夫人より
『平民の選ぶ家具は不服』
との申し入れがあり、イライザ様主導ガードナー家支払いで購入いたしました」


「被告弁護人、ここまでで反論は?」


「えっ? えーっと。はい、婚姻に際し購入した家具ですがその殆どをルーシー様は持ち帰られました。
これは契約違反になります。
早急に返却すべきかと考えます」

 ロンデリー子爵の発言にマルフォー一家が大きく頷いた。


「ガードナー男爵家としましては、婚約契約書に記載のマルフォー伯爵家のなすべき事、

・花嫁代(リューベルの別荘)
・持参金返し
・家の改築・修繕

は全てなされておらず、この時点で契約不履行とみなし家具の撤去を行なった次第です」

「反論は?」

「そっそれは、えーお時間を頂きたいと」

 しどろもどろのロンデリー子爵は横にいるリチャードを睨み『どうなってるんだ。払ってないのか?』と小声で叱りつけた。

「・・」

 冷や汗を拭いながら明後日の方を見るリチャード。


「でも婚姻は既に成立しているのですわ。今更婚約時の事を言うなんて非常識だとは思われませんこと?」


 イライザのぶっ飛んだ理論に裁判官達が絶句した。

「・・おっ思いませんな」



「次に婚姻後についてです。
持参金についてですが、書面をご覧頂ければお分かりいただけるようにあり得ない・法外な金額になっています。

ここに但書がありますが、『結婚後の生活費その他はマルフォー伯爵家が負担する為』とあります。

ところが、婚姻後の生活費は茶葉や小麦の一粒までルーシー様の個人資産から捻出されております。
マルフォー伯爵と前伯爵夫妻の購入品や遊興費、愛人への貢物も全てです。

こちらも購入者・購入場所・領収書・納品書・納品場所は全て提出しております」


「弁護人、反論は?」


「えー、これもお時間を頂きたいと」

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