【完結】婚約してる? 婚約破棄した? ところであなたはどなたですか?

との

文字の大きさ
17 / 65

17.誰かが叱ってやらなきゃ

しおりを挟む
「一番悪いのは勿論私。責任は私にある」

 ソフィーが背筋を伸ばしてグレッグを見つめた。ハンナは心配そうな顔でソフィーとグレッグを交互に見遣った。

「理由は?」

「調査不足と指示不足」

「もっと詳しく」

 グレッグがソファにもたれソフィーを見つめたが、普段の優しい雰囲気はかけらも見えない厳しい表情をしている。

「王都の一等地に近い場所にあれだけのタウンハウスを構える資産を持っているにしては男爵達の連れてきた使用人の数が少なすぎる。なのに何も調査せず仕事を請け負ったから」

「正解。今までが順調だったからって気を抜き過ぎだな。追加で言うなら私生活に問題があるやつを雇ったままで放置していたのも減点対象だ。ソフィーは甘すぎる、ハンナも同意見だと思うぜ?」

「えっ? 私に話を持ってこないで。ソフィーがすごく頑張ってるって知ってるよ」

「ハンナの冷徹で計算高い思考はソフィーに不足してるとこだ。これ、褒めてるんだからな」

「それ、ぜんっぜん褒められてる気がしないんですけど」

 ニヤニヤと笑うグレッグを睨んだハンナがぶつぶつと不満を言った。

「どーゆー訳かソフィーは一度受け入れたら全面的に信頼する妙な性癖があるからなあ。その上能天気で、かなり大雑把な性格をしてるのに今まで無事だったのが不思議なくらいだ」

「あっ、それあるある。可愛いなーとは思うしお陰でこっちまでパワーを貰うけどハラハラする時があるの」

 背筋を伸ばしたまま無表情でグレッグの叱責を受け止めているソフィーにグレッグが更に追い打ちをかけた。

「婚約者殿から返事来てないんだろ? 相手の事も調べてないはず」

「・・それは・・返事待ちというか」

「ちょい調べてみたが奴はかなりの問題児だぜ。他国の貴族相手の詐欺だ、この男爵の件より面倒な事になるかもだし、そいつ以外にも引っかかった奴がいないとも限らんぞ。
という事で男爵の件は速攻で片をつけてソフィーの元親達をきっちり締め上げようぜ」

 ソフィーはアリシアと養子縁組を済ませているのだから元親達が馬鹿な事をしでかしても大した事はないと楽観視していた。何しろ2回とも失敗しているのだから。
 それに、そんなに何度も騙される人なんて見つけられない筈とも思っていた。

「2度ある事は3度ある。なら、3回やったなら4回目もあるだろ?」


「男爵が身分詐称していれば簡単に片付くけど、もし本当に男爵だった場合はどうするの?」

 毒親の件でどんどん青褪めていくソフィーを見てハンナが話題を元の男爵の話に戻した。


「手口からいって初めてじゃないのは間違いなさそうだから男爵の足取りを洗う。まずは貸家の使用人に話を聞いてみる。
夜にまた来るからそん時にジュードの報告書を見せて貰う」

「それ迄に貴族名鑑調べてくるわね」

「よく似た名前のやつもチェックしといてくれ。名前を騙る時には身近な奴の名前を利用する場合があるからな。そうすりゃあれこれ話す時辻褄を合わせやすくなるんだ」

「りょーかい」

「ソフィー、あんまり落ち込むなって。いい勉強になったって思えるように結果を出しゃいい」

「うん。グレッグありがとう」

「落ち込ませた本人が発破掛けてもねえ。説得力に欠けるわよねー」

 ソフィーを元気付けるようにハンナがソフィーの顔を覗き込んでにっこりと笑った。

「しょうがねえだろ? 誰かが叱ってやんなきゃソフィーは直ぐに腹の中に溜め込んで自分を責めてドツボにハマるんだから」



 グレッグとハンナが調査に出かけ仕事部屋に1人になったソフィーは、はぁっと大きな溜め息を吐いた。

(あー、マジでやらかした。浮かれ過ぎてたのかも)

 会社の業績は順調で念願の保育学校も軌道に乗りつつある。6歳の時ステラに拾ってもらってから沢山の人の善意の中で生活していたと感謝している。

(能天気で大雑把・・ホントにグレッグの言う通り。周りに助けて貰う事に甘え過ぎてた。細かい事に気を配れるようにならなくちゃ)


 気持ちを切り替える為ソフィーはコーヒーを淹れた。紅茶を淹れるのは得意だがソフィーのコーヒーは(ハンナ曰く)泥水のよう。その不味さが気持ちをシャキッとさせてくれるからと寝不足の時や気持ちが落ち込んだ時に利用している。

(うげっ、まっずーい。今日も罰ゲームにピッタリの仕上がりだわ)

 苦くて臭いコーヒーのお陰(?)で痛む胃を抑えながら机に向かいひたすら書類を片付けていく。カフェを作る予定のアパートは購入価格で揉めていたがまずますの金額で落ち着いた。
 最近増えている持ち込み物件の資料を確認しながら『要検討・保留詳細確認・却下』と分類していった。

(ここってスラム街が近いからちょっと厳しいなあ。でも確かラングストンの話に・・)


 男爵とのトラブルや謎の婚約者の件で浪費される時間を考慮してソフィーが一心不乱に仕事を進めていると遠慮がちなノックが聞こえてドアが開かれた。
 入ってきたのはいくつかの資料を頼んでいた事務員のサラ。基本は1階の店舗で受付を担当している事務員の一人で、分厚い眼鏡をかけて栗色の髪を一つに纏めた大人しい女性。

「あの、ここ3ヶ月の社員の勤怠表と会計書類をお持ちしました。あと、リアムに作業日報を頼まれたので一緒に・・」

 サラは両手一杯に書類を抱え階段を登ってきたようで少し息を切らしていた。

「ありがとう、えーっと机には置くとこがないから・・こっちに貰うわね」

 机いっぱいに書類を広げていたソフィーは立ち上がってサラから書類を受け取った。

「思ったより沢山あるわね。これだけの資料を抱えて階段を登るのは大変だったでしょう?」

「いっ、いえ、あの。何か問題でもありましたか? 私にお手伝いできることがあれば・・」

「大丈夫よ。ありがとう」



 ハンナが戻ってきた時には眉間に皺を寄せて再びコーヒーを淹れているソフィーに遭遇した。

「ソーフィー、罰ゲームの理由は何かなー?」

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

婚約を奪った義妹は王太子妃になりましたが、王子が廃嫡され“廃嫡王子の妻”になりました

鷹 綾
恋愛
「お姉様には、こちらの方がお似合いですわ」 そう言って私の婚約者を奪ったのは、可憐で愛らしい義妹でした。 王子に見初められ、王太子妃となり、誰もが彼女の勝利を疑わなかった――あの日までは。 私は“代わり”の婚約者を押し付けられ、笑いものにされ、社交界の端に追いやられました。 けれど、選ばれなかったことは、終わりではありませんでした。 華やかな王宮。 厳しい王妃許育。 揺らぐ王家の威信。 そして――王子の重大な過ち。 王太子の座は失われ、運命は静かに反転していく。 離縁を望んでも叶わない義妹。 肩書きを失ってなお歩き直す王子。 そして、奪われたはずの私が最後に選び取った人生。 ざまあは、怒鳴り声ではなく、選択の積み重ねで訪れる。 婚約を奪われた姉が、静かに価値を積み上げていく王宮逆転劇。

ルヴェを侮辱した義妹は宮廷を追放されました ― 王妃クシェは最高の名誉職です ―

鷹 綾
恋愛
モンフォール公爵家の嫡女アデルは、王宮で王妃クシェという名誉職を務めていた。 王妃の就寝の儀礼で寝間着を差し出す――ただそれだけの役目。 しかしそれは、王妃の私室に入ることを許された宮廷で最も名誉ある地位の一つだった。 かつてアデルは王太子の婚約者だったが、側室の娘である義妹カミーユが甘い言葉で王太子を誘惑。 婚約は奪われ、アデルは宮廷で静かにクシェの役目を続けることになる。 だがある日、義妹は新たに与えられた王妃の朝の儀礼――ルヴェを聞いて嘲笑した。 「王妃の着替え係?そんなのメイドの仕事でしょう」 その一言で宮廷は凍りつく。 ルヴェとクシェは、王や王妃の私室に入ることを許された最高の名誉職。 それを侮辱することは、王妃そのものを侮辱することと同じだった。 結果―― 義妹は婚約破棄。 王太子は儀礼軽視を理由に廃太子。 そして義妹は宮廷から追放される。 すべてを失った義妹は、やがて姉の地位を奪おうと画策するが――。 一方、王妃の最側近として静かに宮廷に立つアデル。 クシェという「王妃に最も近い名誉職」が、やがて王国の運命を動かしていく。 これは、宮廷儀礼を知らなかった者が転落し、 その意味を理解していた者が静かに勝つ物語。

襲ってきた王太子と、私を売った婚約者を殴ったら、不敬罪で国外追放されました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」と言われたので別れたのですが、呪われた上に子供まで出来てて一大事です!?

綾織季蝶
恋愛
「貴女じゃ彼に不釣りあいだから別れて」そう告げられたのは孤児から魔法省の自然管理科の大臣にまで上り詰めたカナリア・スタインベック。 相手はとある貴族のご令嬢。 確かに公爵の彼とは釣り合うだろう、そう諦めきった心で承諾してしまう。 別れる際に大臣も辞め、実家の誰も寄り付かない禁断の森に身を潜めたが…。 何故か呪われた上に子供まで出来てしまった事が発覚して…!?

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

【完結】悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?

鏑木 うりこ
恋愛
アリシアは6歳でどハマりした乙女ゲームの悪役令嬢になったことに気がついた。 楽しみながらゆるっと断罪、ゆるっと領地で引き篭もりを目標に邁進するも一家揃って病弱設定だった。  皆、寝込んでるから入学式も来れなかったんだー納得!  ゲームの裏設定に一々納得しながら進んで行くも攻略対象者が仲間になりたそうにこちらを見ている……。  聖女はあちらでしてよ!皆様!

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

処理中です...