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26.小さな恋の・・
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「ローガンがシンデレラとおねえちゃんをたすけたらいいよ!!」
意外なところから声がした。いつもは大人しく部屋の隅で絵本を読んでいるヘンリーが顔を赤らめて膝に絵本を置いたままミーシャを見つめた。
「だって、シンデレラとおねえちゃんはきょうだいだもん」
「じゃあ、シンデレラといじわるなおねえちゃんもたすける。そしたらいじわるじゃなくなるね」
何故かローガンがサムズアップしながらドヤ顔で話を纏めた。ヘンリーは大人しく再び本を読みはじめたが合間にチラチラとミーシャを見ているが、エラとミーシャはキラッキラの目で『素敵!』とばかりにローガンを見つめている。
ソフィーやナニー達の見立てではヘンリーはミーシャに片想い中だがミーシャとエラはローガンに夢中。ローガンはと言えば海賊で頭がいっぱいで女の子達の戦いには気づいていない。
「みんな、お客様にご挨拶できる?」
「あー、でっかいおじちゃんだー」
「わるもの? きょじんはわるものだよー」
「あら、私のお客様に失礼な事を言ったのは誰かしら。残念、今日は秘密のおやつはなしね」
「ごめんなさい。おじちゃんゴメン」
「おじちゃんも変えるとパーフェクトだったなぁ」
「んー。おちゃくさま、ごめんなさい?」
「お客様の名前はアントリム様。男の子はかっこよく女の子は可愛くご挨拶できるかしら?」
「「「アンチョニユさま、こんにちわ」」」
可愛い挨拶をした子供達が1人として怯えていない事に吃驚したレオだが自分の名前がカミカミだったことに気付き思わず笑いそうになった。
「こんにちわ、俺の名前はちょっと言いにくいからレオと呼んでくれるかな?」
レオが大きな身体に似合わない大人しめの声で挨拶を返した。緊張のせいか若干顔が引き攣っている。
「レオさま?」
「そう、宜しく」
「レオさまってでっかいね。うちのとーちゃんよりでっかいひと、はじめてみた」
「げんかん、はいれた?」
「りんごちゅぶちぇる?」
物おじしない子供達の質問攻撃に慣れないレオはどうすればいいのかわからずソフィーに助けを求めた。
「少なくとも玄関は問題なく入れてたわ。林檎は・・潰せそうだけど勿体無いから禁止」
「えー、つまんなーい」
「じゃあ、シーラの4回分のオヤツと交換でお願いする?」
「ダメダメダメ。オヤツのほーがいい。つぶれたりんごはたべれないもん」
「食べ物を大切に出来て偉いわ」
「ねえ、かいぞくになる? いまからおひめさまをたすけるんだけど、ぶかにしたげようか?」
無謀な船長ローガンが魔王・ベルセルク・ゴリアテの異名をとる巨人を海賊にスカウトした。
ソフィーに忠告されていた(揶揄われていた)ものの本当に声がかかるとは思っていなかったレオは返事に戸惑い子供達をぐるりと見回した。子供達はキラキラの目でレオを見上げ怯えていたナニー達は困惑の表情を浮かべたまま立ちすくんでいる。
(えーっと、これマジで誘ってる? この場合どうすれば良いんだ?)
子供達の期待を受けて動揺しているレオの固く強張った顔はナニー達には『子供達の図々しいお願いに怒ってる』ように見え、子供達を避難させなくてはいけないと思いつつも足がすくんで動けなかった。
「ぷっ、ぶふふっ。ごっごめん。レオ様は・・ぐっくふっ・・海賊になった事がないみたい。ローガンが一緒に遊びたいって思うなら「はなしあいだね! できないことをむりやりさせちゃだめなんだよね。レオさまはなにができるの?」」
レオの困惑する姿に堪えきれなくなったソフィーに笑われたのは恥ずかしかったが、漸く返事ができそうだと体勢を立て直したレオはローガンの前にしゃがみ込んだ。
「海の戦いやお姫様の救出はやったことがないが、剣なら使える」
「きゅうちゅちゅってなに?」
「救出。助け出す事」
「じゃあ、にわでけんのれんしゅうは?」
「お姫様達はどうするんだい?」
「うーん、あとでたすける。おんなのこはローリーさんがあそんでくれるから」
あからさまにガッカリする女の子達をよそに張り切るローガンの提案を聞いてレオが初めてナニー達に目を向けた。
「そっ、そうね。怪我をしないように気をつけるってローガンが約束できるなら」
「じゃあ決まりだな。もうすぐお昼になるってソフィーが言ってたから、まずは戦場になる庭を案内してくれるかな?」
「うん!」
レオの手を掴み元気良く庭に出て行くローガンの後ろから男の子達が続き、ナニーの中で一番勇気がありそうなステイシーがその後ろをついて行った。心配そうな顔で3人の後ろ姿を見送ったローリーがソフィーの所にやって来た。
「ソフィー、大丈夫かしら。貴族の方でしょう?」
「大丈夫。レオは見た目は迫力があるけど子供に怪我をさせるような人じゃないわ。騎士修道会の方だしね。知り合いの方から頼まれて保育学校のことを聞きにいらしたそうなの」
「修道会の・・では聖職者の方なんですね。それなら安心ですわ。敬虔な神の僕なら力無いものにも優しいはずですもの。人を見かけで判断したのは間違いでした」
(レオは敬虔とは言えなさそうだけど優しいのは間違いないと思う。怖がらせないようにゆっくりと話していたし、ローガンの前で膝をついて話してたし)
「多分だけど怖がられる事に慣れてるから用心しながら遊んでくれるわ。レオを昼食に招待したからちょっと厨房に行ってくるわ。お昼ご飯を忘れた子供はいた?」
「いえ、みんな持ってきてました」
保育学校では昼食とオヤツは原則持参になっているが偶に忘れてくる子がいる。家庭の事情で持って来れない日は朝子供を連れてきた親から聞いて学校で準備をする事にしている。
「レオ様は随分と大柄な方ですが今からで準備は間に合いますかしら?」
お昼に厨房で準備するのは飲み物くらい。
「どうにもならなかったら急いで調達しなくちゃだけど、お腹いっぱいにならなくても文句を言ったりしないし子供を丸呑みにしたりもしないと思うわよ」
ソフィーの冗談に漸くローリーが笑顔を見せた。
「一昨日からさっきまでとても失礼な態度をとってしまいました。後で謝らなくてはいけませんね」
「そうしてもらえたら喜んでくれると思うわ」
「ソフィーは怖くなかったんですか?」
意外なところから声がした。いつもは大人しく部屋の隅で絵本を読んでいるヘンリーが顔を赤らめて膝に絵本を置いたままミーシャを見つめた。
「だって、シンデレラとおねえちゃんはきょうだいだもん」
「じゃあ、シンデレラといじわるなおねえちゃんもたすける。そしたらいじわるじゃなくなるね」
何故かローガンがサムズアップしながらドヤ顔で話を纏めた。ヘンリーは大人しく再び本を読みはじめたが合間にチラチラとミーシャを見ているが、エラとミーシャはキラッキラの目で『素敵!』とばかりにローガンを見つめている。
ソフィーやナニー達の見立てではヘンリーはミーシャに片想い中だがミーシャとエラはローガンに夢中。ローガンはと言えば海賊で頭がいっぱいで女の子達の戦いには気づいていない。
「みんな、お客様にご挨拶できる?」
「あー、でっかいおじちゃんだー」
「わるもの? きょじんはわるものだよー」
「あら、私のお客様に失礼な事を言ったのは誰かしら。残念、今日は秘密のおやつはなしね」
「ごめんなさい。おじちゃんゴメン」
「おじちゃんも変えるとパーフェクトだったなぁ」
「んー。おちゃくさま、ごめんなさい?」
「お客様の名前はアントリム様。男の子はかっこよく女の子は可愛くご挨拶できるかしら?」
「「「アンチョニユさま、こんにちわ」」」
可愛い挨拶をした子供達が1人として怯えていない事に吃驚したレオだが自分の名前がカミカミだったことに気付き思わず笑いそうになった。
「こんにちわ、俺の名前はちょっと言いにくいからレオと呼んでくれるかな?」
レオが大きな身体に似合わない大人しめの声で挨拶を返した。緊張のせいか若干顔が引き攣っている。
「レオさま?」
「そう、宜しく」
「レオさまってでっかいね。うちのとーちゃんよりでっかいひと、はじめてみた」
「げんかん、はいれた?」
「りんごちゅぶちぇる?」
物おじしない子供達の質問攻撃に慣れないレオはどうすればいいのかわからずソフィーに助けを求めた。
「少なくとも玄関は問題なく入れてたわ。林檎は・・潰せそうだけど勿体無いから禁止」
「えー、つまんなーい」
「じゃあ、シーラの4回分のオヤツと交換でお願いする?」
「ダメダメダメ。オヤツのほーがいい。つぶれたりんごはたべれないもん」
「食べ物を大切に出来て偉いわ」
「ねえ、かいぞくになる? いまからおひめさまをたすけるんだけど、ぶかにしたげようか?」
無謀な船長ローガンが魔王・ベルセルク・ゴリアテの異名をとる巨人を海賊にスカウトした。
ソフィーに忠告されていた(揶揄われていた)ものの本当に声がかかるとは思っていなかったレオは返事に戸惑い子供達をぐるりと見回した。子供達はキラキラの目でレオを見上げ怯えていたナニー達は困惑の表情を浮かべたまま立ちすくんでいる。
(えーっと、これマジで誘ってる? この場合どうすれば良いんだ?)
子供達の期待を受けて動揺しているレオの固く強張った顔はナニー達には『子供達の図々しいお願いに怒ってる』ように見え、子供達を避難させなくてはいけないと思いつつも足がすくんで動けなかった。
「ぷっ、ぶふふっ。ごっごめん。レオ様は・・ぐっくふっ・・海賊になった事がないみたい。ローガンが一緒に遊びたいって思うなら「はなしあいだね! できないことをむりやりさせちゃだめなんだよね。レオさまはなにができるの?」」
レオの困惑する姿に堪えきれなくなったソフィーに笑われたのは恥ずかしかったが、漸く返事ができそうだと体勢を立て直したレオはローガンの前にしゃがみ込んだ。
「海の戦いやお姫様の救出はやったことがないが、剣なら使える」
「きゅうちゅちゅってなに?」
「救出。助け出す事」
「じゃあ、にわでけんのれんしゅうは?」
「お姫様達はどうするんだい?」
「うーん、あとでたすける。おんなのこはローリーさんがあそんでくれるから」
あからさまにガッカリする女の子達をよそに張り切るローガンの提案を聞いてレオが初めてナニー達に目を向けた。
「そっ、そうね。怪我をしないように気をつけるってローガンが約束できるなら」
「じゃあ決まりだな。もうすぐお昼になるってソフィーが言ってたから、まずは戦場になる庭を案内してくれるかな?」
「うん!」
レオの手を掴み元気良く庭に出て行くローガンの後ろから男の子達が続き、ナニーの中で一番勇気がありそうなステイシーがその後ろをついて行った。心配そうな顔で3人の後ろ姿を見送ったローリーがソフィーの所にやって来た。
「ソフィー、大丈夫かしら。貴族の方でしょう?」
「大丈夫。レオは見た目は迫力があるけど子供に怪我をさせるような人じゃないわ。騎士修道会の方だしね。知り合いの方から頼まれて保育学校のことを聞きにいらしたそうなの」
「修道会の・・では聖職者の方なんですね。それなら安心ですわ。敬虔な神の僕なら力無いものにも優しいはずですもの。人を見かけで判断したのは間違いでした」
(レオは敬虔とは言えなさそうだけど優しいのは間違いないと思う。怖がらせないようにゆっくりと話していたし、ローガンの前で膝をついて話してたし)
「多分だけど怖がられる事に慣れてるから用心しながら遊んでくれるわ。レオを昼食に招待したからちょっと厨房に行ってくるわ。お昼ご飯を忘れた子供はいた?」
「いえ、みんな持ってきてました」
保育学校では昼食とオヤツは原則持参になっているが偶に忘れてくる子がいる。家庭の事情で持って来れない日は朝子供を連れてきた親から聞いて学校で準備をする事にしている。
「レオ様は随分と大柄な方ですが今からで準備は間に合いますかしら?」
お昼に厨房で準備するのは飲み物くらい。
「どうにもならなかったら急いで調達しなくちゃだけど、お腹いっぱいにならなくても文句を言ったりしないし子供を丸呑みにしたりもしないと思うわよ」
ソフィーの冗談に漸くローリーが笑顔を見せた。
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