【完結】結婚した途端記憶喪失を装いはじめた夫と離婚します

との

文字の大きさ
77 / 97

75.うっかりさんなチョコひとつ

「おはようございます!」

 爽やかな笑顔で挨拶をしたメリッサだったが全員から冷ややかな目が帰ってきただけだった。

「おい! 船のトラブルってどう言うことだよ!」

「私はその前にこっちに来ていたので何も聞いておりませんの。あ、皆さんはこちらでお飲み物をお出ししますわね。軽食なども準備しておりますから⋯⋯え? もちろんございます。デクスター、こちらの方はボリュームのあるお料理を希望されてるそうだから、ロジャーに準備するように伝えてね。エリオットは他の方のご希望をお聞きして」

 テキパキとメリッサが戦闘要員の世話をする間にケニスがメイルーン達を奥のテントに案内した。

「商会長がすぐに対処するはずですからそれまで少しゆっくりなさってくださいませ。朝食は召し上がられましたか? 少し暑くなってまいりましたし冷菓や珍しい果物、冷やしたシャンパンなども準備しております」

 途端に機嫌の良くなったステファン&三人衆はソファにどっかりと座り込んで『シャンパンを持ってこい』とケニスに言いつけた。メイルーンは一番端の1人掛けのソファに陣取ったがワッツは立ったままでケニスを凝視していた。

「メイルーン司教様は如何なされますか?」

 ケニスの使用人とは程遠い物腰に気を良くしたのかメイルーンがケニスに名前を聞いてきた。

「ケニスと申します」

「ケニスか、ではフルボディの赤ワインをもらおう」

「畏まりました。ワッツ卿もお掛けになられませんか? 宜しければお飲み物をお持ちいたします」

「ん、ああ。シャンパンで」

「畏まりました」

 優雅な所作で礼をしたケニスが視界から消えるまで片時も目を離さなかったのはメイルーンとワッツの2人とも。

(ヤバいなぁ、メイルーンもハリータイプが好みだって忘れてた)

 セオドアがメイルーンの元に行った経緯を思い出したメリッサはデクスター達の手伝いをしながら内心で舌打ちをした。

 初めて会ったエリオットやデクスターよりもケニスの方が信用できると思っていたのが言動に出ていたと気付いたメリッサは、一瞬で公爵家の悪魔と教会の蛆虫の息子の関心をゲットしたケニスに溜息をついた。

(チョコレート作戦⋯⋯私の采配ミスで既に失敗かも)



 その頃本土の港には第二騎士団が詰めかけて大騒ぎになっていた。

「遅いじゃねえか! 超ビビったんだからな」

 文句を言っているのは勿論平民のルーカスでペコペコと頭を下げているのは現侯爵で特別級の裁判官リチャード・メイソン。

「今度裁判所行ったらお前が何歳までおね⋯⋯」

「わあわあ! マジですまん。出がけに『職務権限を外れてる』とか言い出しやがったバカがいたんだ。これでも超特急で来たつもりなんだからな」

 馬を変えながら休みなく走ってきたメイソンがぺこぺこと頭を下げる光景を騎士団が遠巻きに眺めていた。

「噂には聞いてたけど、モートン商会の商会長はマジヤバい」

「俺、平民を見る目が変わりそう」

「んじゃ、あとは頼んだからな。お前のヘマで娘っちに何かあったらタダじゃおかねえ」

 捨て台詞を残したルーカスが戦闘要員12人を引き連れて船に乗り込んだ。

 船が無事に動き出すのを見つめていたメイソンがパチンと両頬を叩いて気合を入れた。

「さて、はじめるか」



 ダメ元でエマーソンに飲み物や軽食をテーブルに運んでもらうと初めは不満そうな顔をしていたメイルーンは機嫌を直しアレコレと用事を言いつけはじめた。

「先日移動してきた教会の料理人は質がイマイチでねぇ。これはカ◯ピ海のキャビアだね、川を遡上するチョウザメを捕らえるから良いとか塩が違うとか言われてるが⋯⋯うん、これはいい」

「流石メイルーン司教様は良くご存知でいらっしゃいます。現地からの直送品でございますのでお口にあってようございました」

 どうやら蘊蓄を垂れるのが好きらしいメイルーンのツボをうまく押さえてくれたらしい。

「君は『美味礼讃』という本を知ってるかい? その中でトリュフは『台所のダイヤモンド』と表現さ⋯⋯」

「媚薬としての効能があるって言うやつだろ?⋯⋯試してみたくてもここじゃあねえ」

 既にかなりの酒が入っているソーンが話を遮りわざとらしいお強請りをはじめ、漁獲量が減りはじめ価格が高騰しはじめているキャビアも一緒に頼むように言いだした。

「お帰りの際では傷んでしまうかもしれませんので商会長が戻りましたらお屋敷にお届けできるか聞いてまいりますね」

(遅いなあ、トラブルでもあったかな)

 2艘目の気配もない海をチラ見しながら料理を運んだメリッサは料理を一気に出すことに決めた。

「肉料理を一気に出して下さい。その次は魚料理の順でお願いします」



 あまり肉料理を好まないワッツ以外は鴨のローストや仔牛の煮込みを気に入ったようで、牛肉のパテ&ソリールや仔牛のブラン・マンジェなど⋯⋯出てくる料理の全てを平らげていった。

 底の抜けたグラスでも使っているのかと思う勢いで酒が消えていく間、ステファンとモブ三人衆は肉料理に夢中になっていた。

 エマーソンが近くに行くたびに捕まえては蘊蓄を垂れるメイルーンはいくら飲んでも顔色ひとつ変わらないが、エマーソンに伸びる手がしつこくなっていった。

 ワッツは退屈そうにシャンパンをちびりちびりと飲みながらケニスの働く姿を追いかけ続けている。

(次の船とかゲームとか忘れてない?)

 全員が気に入ったのは『ロッシーニ風』と呼ばれる料理。厚めに切った牛ヒレ肉にフォアグラのソテーを積み重ねトリュフを削ったもので、流石にこれにはワッツも手を伸ばしていた。

「作り立てには勝てないがこれはこれでなかなか」



「麦の若葉で作ったソース、ソース・ヴェルトを添えた淡水魚の水煮とウナギのサラジネでございます」

 デクスターがワッツの前に好物のウナギ料理を運んだ。

 エリオットが肉料理を取り分けている横でワッツの皿にウナギのサラジネをデクスターがサーブしていると初めてワッツの目がケニスから離れた。

 纏わりつくような粘着質の視線を感じながらサーブし終わったデクスターにワッツが遠慮がちに問いかけた。

「君も商会員かな?」

「デクスターと申します。ご要望などおありでしたら何なりとお申し付けください」

 緊張した面持ちのデクスターが余計な一言を付け加えサービススプーンを持ったままチラリとワッツを見ると、じっとりとした目つきでガン見しているのに気付いて一気に汗が吹き出した。

(これ、ヤバくねえか? 墓穴掘ったかも)

感想 4

あなたにおすすめの小説

夫は私を愛していないそうなので、遠慮なく離婚します。今さら引き止められても遅いです

藤原遊
恋愛
王妃付き護衛騎士である夫に、「お前を愛したことはない」と告げられた。 理由は単純。 愛などなくても、仕事に支障はないからだという。 ──そうですか。 それなら、こちらも遠慮する必要はありませんね。 王妃の機嫌、侍女たちとの関係、贈り物の選定。 夫が「当然のように」こなしていたそれらは、すべて私が整えていたもの。 離婚後、少しずつ歯車は狂い始める。 気づいたときにはもう遅い。 積み上げてきた信用は、静かに崩れていく。 一方で私は、王妃のもとへ。 今さら引き止められても、遅いのです。

幼馴染に振られたので薬学魔法士目指す

MIRICO
恋愛
オレリアは幼馴染に失恋したのを機に、薬学魔法士になるため、都の学院に通うことにした。 卒院の単位取得のために王宮の薬学研究所で働くことになったが、幼馴染が騎士として働いていた。しかも、幼馴染の恋人も侍女として王宮にいる。 二人が一緒にいるのを見るのはつらい。しかし、幼馴染はオレリアをやたら構ってくる。そのせいか、恋人同士を邪魔する嫌な女と噂された。その上、オレリアが案内した植物園で、相手の子が怪我をしてしまい、殺そうとしたまで言われてしまう。 私は何もしていないのに。 そんなオレリアを助けてくれたのは、ボサボサ頭と髭面の、薬学研究所の局長。実は王の甥で、第二継承権を持った、美丈夫で、女性たちから大人気と言われる人だった。 ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。 お返事ネタバレになりそうなので、申し訳ありませんが控えさせていただきます。 ちゃんと読んでおります。ありがとうございます。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※十章を改稿しました。エンディングが変わりました。

王子に婚約破棄されて国を追放「魔法が使えない女は必要ない!」彼女の隠された能力と本来の姿がわかり誰もが泣き叫ぶ。

佐藤 美奈
恋愛
クロエ・エルフェシウス公爵令嬢とガブリエル・フォートグランデ王太子殿下は婚約が内定する。まだ公の場で発表してないだけで、王家と公爵家の間で約束を取り交わしていた。 だが帝立魔法学園の創立記念パーティーで婚約破棄を宣言されてしまった。ガブリエルは魔法の才能がある幼馴染のアンジェリカ男爵令嬢を溺愛して結婚を決めたのです。 その理由は、ディオール帝国は魔法至上主義で魔法帝国と称される。クロエは魔法が一番大切な国で一人だけ魔法が全然使えない女性だった。 クロエは魔法が使えないことに、特に気にしていませんでしたが、日常的に家族から無能と言われて、赤の他人までに冷たい目で見られてしまう。 ところがクロエは魔法帝国に、なくてはならない女性でした。絶対に必要な隠された能力を持っていた。彼女の真の姿が明らかになると、誰もが彼女に泣いて謝罪を繰り返し助けてと悲鳴を上げ続けた。

なんでも思い通りにしないと気が済まない妹から逃げ出したい

木崎優
恋愛
「君には大変申し訳なく思っている」 私の婚約者はそう言って、心苦しそうに顔を歪めた。「私が悪いの」と言いながら瞳を潤ませている、私の妹アニエスの肩を抱きながら。 アニエスはいつだって私の前に立ちはだかった。 これまで何ひとつとして、私の思い通りになったことはない。すべてアニエスが決めて、両親はアニエスが言うことならと頷いた。 だからきっと、この婚約者の入れ替えも両親は快諾するのだろう。アニエスが決めたのなら間違いないからと。 もういい加減、妹から離れたい。 そう思った私は、魔術師の弟子ノエルに結婚を前提としたお付き合いを申し込んだ。互いに利のある契約として。 だけど弟子だと思ってたその人は実は魔術師で、しかも私を好きだったらしい。

辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~

紫月 由良
恋愛
 辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。  魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。   ※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

隠れ蓑婚約者 ~了解です。貴方が王女殿下に相応しい地位を得るまで、ご協力申し上げます~

夏笆(なつは)
恋愛
 ロブレス侯爵家のフィロメナの婚約者は、魔法騎士としてその名を馳せる公爵家の三男ベルトラン・カルビノ。  ふたりの婚約が整ってすぐ、フィロメナは王女マリルーより、自身とベルトランは昔からの恋仲だと打ち明けられる。 『ベルトランはね、あたくしに相応しい爵位を得ようと必死なのよ。でも時間がかかるでしょう?だからその間、隠れ蓑としての婚約者、よろしくね』  可愛い見た目に反するフィロメナを貶める言葉に衝撃を受けるも、フィロメナはベルトランにも確認をしようとして、機先を制するように『マリルー王女の警護があるので、君と夜会に行くことは出来ない。今後についても、マリルー王女の警護を優先する』と言われてしまう。  更に『俺が同行できない夜会には、出席しないでくれ』と言われ、その後に王女マリルーより『ベルトランがごめんなさいね。夜会で貴女と遭遇してしまったら、あたくしの気持ちが落ち着かないだろうって配慮なの』と聞かされ、自由にしようと決意する。 『俺が同行出来ない夜会には、出席しないでくれと言った』 『そんなのいつもじゃない!そんなことしていたら、若さが逃げちゃうわ!』  夜会の出席を巡ってベルトランと口論になるも、フィロメナにはどうしても夜会に行きたい理由があった。  それは、ベルトランと婚約破棄をしてもひとりで生きていけるよう、靴の事業を広めること。  そんな折、フィロメナは、ベルトランから、魔法騎士の特別訓練を受けることになったと聞かされる。  期間は一年。  厳しくはあるが、訓練を修了すればベルトランは伯爵位を得ることが出来、王女との婚姻も可能となる。  つまり、その時に婚約破棄されると理解したフィロメナは、会うことも出来ないと言われた訓練中の一年で、何とか自立しようと努力していくのだが、そもそもすべてがすれ違っていた・・・・・。  この物語は、互いにひと目で恋に落ちた筈のふたりが、言葉足らずや誤解、曲解を繰り返すうちに、とんでもないすれ違いを引き起こす、魔法騎士や魔獣も出て来るファンタジーです。  あらすじの内容と実際のお話では、順序が一致しない場合があります。    小説家になろうでも、掲載しています。 Hotランキング1位、ありがとうございます。