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75.うっかりさんなチョコひとつ
「おはようございます!」
爽やかな笑顔で挨拶をしたメリッサだったが全員から冷ややかな目が帰ってきただけだった。
「おい! 船のトラブルってどう言うことだよ!」
「私はその前にこっちに来ていたので何も聞いておりませんの。あ、皆さんはこちらでお飲み物をお出ししますわね。軽食なども準備しておりますから⋯⋯え? もちろんございます。デクスター、こちらの方はボリュームのあるお料理を希望されてるそうだから、ロジャーに準備するように伝えてね。エリオットは他の方のご希望をお聞きして」
テキパキとメリッサが戦闘要員の世話をする間にケニスがメイルーン達を奥のテントに案内した。
「商会長がすぐに対処するはずですからそれまで少しゆっくりなさってくださいませ。朝食は召し上がられましたか? 少し暑くなってまいりましたし冷菓や珍しい果物、冷やしたシャンパンなども準備しております」
途端に機嫌の良くなったステファン&三人衆はソファにどっかりと座り込んで『シャンパンを持ってこい』とケニスに言いつけた。メイルーンは一番端の1人掛けのソファに陣取ったがワッツは立ったままでケニスを凝視していた。
「メイルーン司教様は如何なされますか?」
ケニスの使用人とは程遠い物腰に気を良くしたのかメイルーンがケニスに名前を聞いてきた。
「ケニスと申します」
「ケニスか、ではフルボディの赤ワインをもらおう」
「畏まりました。ワッツ卿もお掛けになられませんか? 宜しければお飲み物をお持ちいたします」
「ん、ああ。シャンパンで」
「畏まりました」
優雅な所作で礼をしたケニスが視界から消えるまで片時も目を離さなかったのはメイルーンとワッツの2人とも。
(ヤバいなぁ、メイルーンもハリータイプが好みだって忘れてた)
セオドアがメイルーンの元に行った経緯を思い出したメリッサはデクスター達の手伝いをしながら内心で舌打ちをした。
初めて会ったエリオットやデクスターよりもケニスの方が信用できると思っていたのが言動に出ていたと気付いたメリッサは、一瞬で公爵家の悪魔と教会の蛆虫の息子の関心をゲットしたケニスに溜息をついた。
(チョコレート作戦⋯⋯私の采配ミスで既に失敗かも)
その頃本土の港には第二騎士団が詰めかけて大騒ぎになっていた。
「遅いじゃねえか! 超ビビったんだからな」
文句を言っているのは勿論平民のルーカスでペコペコと頭を下げているのは現侯爵で特別級の裁判官リチャード・メイソン。
「今度裁判所行ったらお前が何歳までおね⋯⋯」
「わあわあ! マジですまん。出がけに『職務権限を外れてる』とか言い出しやがったバカがいたんだ。これでも超特急で来たつもりなんだからな」
馬を変えながら休みなく走ってきたメイソンがぺこぺこと頭を下げる光景を騎士団が遠巻きに眺めていた。
「噂には聞いてたけど、モートン商会の商会長はマジヤバい」
「俺、平民を見る目が変わりそう」
「んじゃ、あとは頼んだからな。お前のヘマで娘っちに何かあったらタダじゃおかねえ」
捨て台詞を残したルーカスが戦闘要員12人を引き連れて船に乗り込んだ。
船が無事に動き出すのを見つめていたメイソンがパチンと両頬を叩いて気合を入れた。
「さて、はじめるか」
ダメ元でエマーソンに飲み物や軽食をテーブルに運んでもらうと初めは不満そうな顔をしていたメイルーンは機嫌を直しアレコレと用事を言いつけはじめた。
「先日移動してきた教会の料理人は質がイマイチでねぇ。これはカ◯ピ海のキャビアだね、川を遡上するチョウザメを捕らえるから良いとか塩が違うとか言われてるが⋯⋯うん、これはいい」
「流石メイルーン司教様は良くご存知でいらっしゃいます。現地からの直送品でございますのでお口にあってようございました」
どうやら蘊蓄を垂れるのが好きらしいメイルーンのツボをうまく押さえてくれたらしい。
「君は『美味礼讃』という本を知ってるかい? その中でトリュフは『台所のダイヤモンド』と表現さ⋯⋯」
「媚薬としての効能があるって言うやつだろ?⋯⋯試してみたくてもここじゃあねえ」
既にかなりの酒が入っているソーンが話を遮りわざとらしいお強請りをはじめ、漁獲量が減りはじめ価格が高騰しはじめているキャビアも一緒に頼むように言いだした。
「お帰りの際では傷んでしまうかもしれませんので商会長が戻りましたらお屋敷にお届けできるか聞いてまいりますね」
(遅いなあ、トラブルでもあったかな)
2艘目の気配もない海をチラ見しながら料理を運んだメリッサは料理を一気に出すことに決めた。
「肉料理を一気に出して下さい。その次は魚料理の順でお願いします」
あまり肉料理を好まないワッツ以外は鴨のローストや仔牛の煮込みを気に入ったようで、牛肉のパテ&ソリールや仔牛のブラン・マンジェなど⋯⋯出てくる料理の全てを平らげていった。
底の抜けたグラスでも使っているのかと思う勢いで酒が消えていく間、ステファンとモブ三人衆は肉料理に夢中になっていた。
エマーソンが近くに行くたびに捕まえては蘊蓄を垂れるメイルーンはいくら飲んでも顔色ひとつ変わらないが、エマーソンに伸びる手がしつこくなっていった。
ワッツは退屈そうにシャンパンをちびりちびりと飲みながらケニスの働く姿を追いかけ続けている。
(次の船とかゲームとか忘れてない?)
全員が気に入ったのは『ロッシーニ風』と呼ばれる料理。厚めに切った牛ヒレ肉にフォアグラのソテーを積み重ねトリュフを削ったもので、流石にこれにはワッツも手を伸ばしていた。
「作り立てには勝てないがこれはこれでなかなか」
「麦の若葉で作ったソース、ソース・ヴェルトを添えた淡水魚の水煮とウナギのサラジネでございます」
デクスターがワッツの前に好物のウナギ料理を運んだ。
エリオットが肉料理を取り分けている横でワッツの皿にウナギのサラジネをデクスターがサーブしていると初めてワッツの目がケニスから離れた。
纏わりつくような粘着質の視線を感じながらサーブし終わったデクスターにワッツが遠慮がちに問いかけた。
「君も商会員かな?」
「デクスターと申します。ご要望などおありでしたら何なりとお申し付けください」
緊張した面持ちのデクスターが余計な一言を付け加えサービススプーンを持ったままチラリとワッツを見ると、じっとりとした目つきでガン見しているのに気付いて一気に汗が吹き出した。
(これ、ヤバくねえか? 墓穴掘ったかも)
爽やかな笑顔で挨拶をしたメリッサだったが全員から冷ややかな目が帰ってきただけだった。
「おい! 船のトラブルってどう言うことだよ!」
「私はその前にこっちに来ていたので何も聞いておりませんの。あ、皆さんはこちらでお飲み物をお出ししますわね。軽食なども準備しておりますから⋯⋯え? もちろんございます。デクスター、こちらの方はボリュームのあるお料理を希望されてるそうだから、ロジャーに準備するように伝えてね。エリオットは他の方のご希望をお聞きして」
テキパキとメリッサが戦闘要員の世話をする間にケニスがメイルーン達を奥のテントに案内した。
「商会長がすぐに対処するはずですからそれまで少しゆっくりなさってくださいませ。朝食は召し上がられましたか? 少し暑くなってまいりましたし冷菓や珍しい果物、冷やしたシャンパンなども準備しております」
途端に機嫌の良くなったステファン&三人衆はソファにどっかりと座り込んで『シャンパンを持ってこい』とケニスに言いつけた。メイルーンは一番端の1人掛けのソファに陣取ったがワッツは立ったままでケニスを凝視していた。
「メイルーン司教様は如何なされますか?」
ケニスの使用人とは程遠い物腰に気を良くしたのかメイルーンがケニスに名前を聞いてきた。
「ケニスと申します」
「ケニスか、ではフルボディの赤ワインをもらおう」
「畏まりました。ワッツ卿もお掛けになられませんか? 宜しければお飲み物をお持ちいたします」
「ん、ああ。シャンパンで」
「畏まりました」
優雅な所作で礼をしたケニスが視界から消えるまで片時も目を離さなかったのはメイルーンとワッツの2人とも。
(ヤバいなぁ、メイルーンもハリータイプが好みだって忘れてた)
セオドアがメイルーンの元に行った経緯を思い出したメリッサはデクスター達の手伝いをしながら内心で舌打ちをした。
初めて会ったエリオットやデクスターよりもケニスの方が信用できると思っていたのが言動に出ていたと気付いたメリッサは、一瞬で公爵家の悪魔と教会の蛆虫の息子の関心をゲットしたケニスに溜息をついた。
(チョコレート作戦⋯⋯私の采配ミスで既に失敗かも)
その頃本土の港には第二騎士団が詰めかけて大騒ぎになっていた。
「遅いじゃねえか! 超ビビったんだからな」
文句を言っているのは勿論平民のルーカスでペコペコと頭を下げているのは現侯爵で特別級の裁判官リチャード・メイソン。
「今度裁判所行ったらお前が何歳までおね⋯⋯」
「わあわあ! マジですまん。出がけに『職務権限を外れてる』とか言い出しやがったバカがいたんだ。これでも超特急で来たつもりなんだからな」
馬を変えながら休みなく走ってきたメイソンがぺこぺこと頭を下げる光景を騎士団が遠巻きに眺めていた。
「噂には聞いてたけど、モートン商会の商会長はマジヤバい」
「俺、平民を見る目が変わりそう」
「んじゃ、あとは頼んだからな。お前のヘマで娘っちに何かあったらタダじゃおかねえ」
捨て台詞を残したルーカスが戦闘要員12人を引き連れて船に乗り込んだ。
船が無事に動き出すのを見つめていたメイソンがパチンと両頬を叩いて気合を入れた。
「さて、はじめるか」
ダメ元でエマーソンに飲み物や軽食をテーブルに運んでもらうと初めは不満そうな顔をしていたメイルーンは機嫌を直しアレコレと用事を言いつけはじめた。
「先日移動してきた教会の料理人は質がイマイチでねぇ。これはカ◯ピ海のキャビアだね、川を遡上するチョウザメを捕らえるから良いとか塩が違うとか言われてるが⋯⋯うん、これはいい」
「流石メイルーン司教様は良くご存知でいらっしゃいます。現地からの直送品でございますのでお口にあってようございました」
どうやら蘊蓄を垂れるのが好きらしいメイルーンのツボをうまく押さえてくれたらしい。
「君は『美味礼讃』という本を知ってるかい? その中でトリュフは『台所のダイヤモンド』と表現さ⋯⋯」
「媚薬としての効能があるって言うやつだろ?⋯⋯試してみたくてもここじゃあねえ」
既にかなりの酒が入っているソーンが話を遮りわざとらしいお強請りをはじめ、漁獲量が減りはじめ価格が高騰しはじめているキャビアも一緒に頼むように言いだした。
「お帰りの際では傷んでしまうかもしれませんので商会長が戻りましたらお屋敷にお届けできるか聞いてまいりますね」
(遅いなあ、トラブルでもあったかな)
2艘目の気配もない海をチラ見しながら料理を運んだメリッサは料理を一気に出すことに決めた。
「肉料理を一気に出して下さい。その次は魚料理の順でお願いします」
あまり肉料理を好まないワッツ以外は鴨のローストや仔牛の煮込みを気に入ったようで、牛肉のパテ&ソリールや仔牛のブラン・マンジェなど⋯⋯出てくる料理の全てを平らげていった。
底の抜けたグラスでも使っているのかと思う勢いで酒が消えていく間、ステファンとモブ三人衆は肉料理に夢中になっていた。
エマーソンが近くに行くたびに捕まえては蘊蓄を垂れるメイルーンはいくら飲んでも顔色ひとつ変わらないが、エマーソンに伸びる手がしつこくなっていった。
ワッツは退屈そうにシャンパンをちびりちびりと飲みながらケニスの働く姿を追いかけ続けている。
(次の船とかゲームとか忘れてない?)
全員が気に入ったのは『ロッシーニ風』と呼ばれる料理。厚めに切った牛ヒレ肉にフォアグラのソテーを積み重ねトリュフを削ったもので、流石にこれにはワッツも手を伸ばしていた。
「作り立てには勝てないがこれはこれでなかなか」
「麦の若葉で作ったソース、ソース・ヴェルトを添えた淡水魚の水煮とウナギのサラジネでございます」
デクスターがワッツの前に好物のウナギ料理を運んだ。
エリオットが肉料理を取り分けている横でワッツの皿にウナギのサラジネをデクスターがサーブしていると初めてワッツの目がケニスから離れた。
纏わりつくような粘着質の視線を感じながらサーブし終わったデクスターにワッツが遠慮がちに問いかけた。
「君も商会員かな?」
「デクスターと申します。ご要望などおありでしたら何なりとお申し付けください」
緊張した面持ちのデクスターが余計な一言を付け加えサービススプーンを持ったままチラリとワッツを見ると、じっとりとした目つきでガン見しているのに気付いて一気に汗が吹き出した。
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