病弱設定されているようです

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第七章 ただいま準備中

02.エルフで美魔女なイリスは怖いけど

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「⋯⋯⋯⋯んん~、く⋯⋯くっさ~い!」

 ガバッと起き上がった実里は部屋をぐるりと見回して首を傾げた。

「えーっと、ここはどこぞ? いや⋯⋯分かってる、分かってるけど⋯⋯なんで戻ってきた? 前回といい今回といい、別世界に飛ばされるタイミングが分かんないよお!」

 ミリーとして一番に確認しないといけないのは、今がいつかと言う事。

 見た目はあまり変わっていない気がするが微妙な時間のズレでも、トラブルが発生する危険がある。

 部屋の中は記憶にある通りだが、物をほとんど持っていなかったミリーの部屋がビフォーアフターとなるはずがなく、これだけで状況を把握するのは不安しかない。

(うっかりやらかしたら、熊に突っ込まれて色々ダダ漏れになる。イリスにバレたら袋の鼠だよ~)

 願わくば11歳のあの日、実里の世界に突然お里帰りした日に戻っていたい。

 それより前に戻って同じ事をもう一回やるのは正直めんどくさいし、あの日より先に飛んできたとしたらその間ミリーが何をしてたのか知るまでは身動きが取れないから。

(手っ取り早いのはギルドに顔を出す事だけど、天国も地獄もそこにあるって感じだし~)

 時間のズレがないならギルドは天国。仕事の続きが出来てみんなの顔も見れるから。

 数日でもズレがあれば違和感に気付いてシモンが突っ込んでくるはず。ねっちょりじっくり問い詰めて、丸裸にしようとしてくるのはレオンと言う名の熊。疑問が解決するまでイリスの徹底的な調査が開始されるのは疑問の余地がないので地獄まっしぐら。

(猫ならまっしぐら~って笑えるけどぉ、ぽやっとしたどちて坊やの斜め上からの質問とか、脳筋な熊のどすこいな突撃とか、エルフ族と美魔女のハーフからの妖艶な自白魔法とか⋯⋯ギルドって結構な魔窟じゃん)





「だから、セオじいんとこに来たの」

「何が『だから』なんか説明もせんで、分かるわけがないんじゃがのう。まあ、何やらわからん事を言い出すんはミリーらしいで」

 腰掛けている木箱の隅にトントンとキセルを打ち付けて、火種を落としたセオじいが『よっこらせ』と立ち上がった。

「ターニャ婆んとこにでも顔を出そうかのう。何やらミリーに話がある言うとったで」

 返事を待たずにゆっくりと歩き出したセオじいの後ろ姿を見つめていたミリーが、ぴょこっと立ち上がって歩き出した。

(ターニャ婆とセレナさんなら大丈夫な気がする。4歳の時からの付き合いだもん)

 セオじい・ターニャ婆・セリナの3人と会ったのは、ミリーが初の行商(?)に出た時。それ以来、まるで親戚の子に対するように可愛がってもらっている。

「セオじい、刺繍糸が届いたってセリナさんに伝えてね」

「んー」

「セオじい、珍しい茶が手に入ったんだが、気が向いたら寄ってくれよな」

「んー」

 のんびりゆっくり歩くセオじいに町の人が声をかけ、返事に似た音を出しながらセオじいが手をひらひらと振るのはいつもの風景。

(もう一回、この風景が見れて良かった。次に消える時はちゃんと挨拶とかして、覚悟して消えたいなぁ。中途半端になってる事業の引き継ぎは終わらせて、特許だの貯金だのの目録とかも作って。本物のミリーをよろしくって言って、ありがとうって言うの)

 セオじいの向こうに晴れた空とポッカリ浮かぶ雲が見える。排ガスも煤煙もない空は澄み切っていて、夜にはこぼれ落ちそうな星が瞬くはず。

 ミリーの世界は不便なことが多く理不尽な事も多いけれど『とても楽しくて幸せだったなぁ』と実里の世界に戻ってみてしみじみと思った。

(優しくしてくれた人達に巡り会えた幸運に感謝を。勇気をくれた人達に敬意を)

 セオじい達も熊達もアーノルドやビリーも、実里じゃないミリーに会った時に大切にしてくれると確信できる。

(実里臭ガッツリのミリーは口も悪いし銭ゲバの仕事マニアだけど、ホントのミリーはすっごく可愛いんだもん。あんな暮らししてたのにプリンセス・オブ・プリンセスって感じで、ちょっとヒロインっぽい天然臭はするけど、あざとくなさそうだし、逆ハーを狙いそうな気配もしないし⋯⋯)

「ミリー! 店を通り過ぎて、どこに行こうってんだい?」

「あ!」








 ターニャ婆の店の奥⋯⋯ちびっ子なミリー用のスツールに腰掛けたミリーは、目の前のテーブルに置かれたクッキーの皿に恐怖を感じていた。

(尊敬する守銭奴なターニャ婆がこの店でいっちばんお高いクッキーを! 値切る客は箒で叩き出し、ぼったくる商人は泣き出してちびるまで説教する⋯⋯私の目標で憧れのターニャ婆がお高いクッキーを無料で!)

 それはもう恐怖しかないシチュエーション。

「王立学園の入学試験の日程が発表になったって知ってるかい?」

 フルフルと首を横に振るミリーは、ターニャ婆の話の意味が掴めないでいた。

「えーっと、誰か入学するの? 私の知ってる人?」

「何言ってんだい。ミリーが入学するに決まってんだろ? もう直ぐ12歳になるんだから、入学準備をはじめ⋯⋯って、まさかまだ申し込みをしてないなんてこたぁないだろうね!?」

「し、してない(はず)」

 侯爵家がミリーを学園に入学させるはずがない。

(対外的には病弱設定だし、家の中では妖精扱いのネグレクトだもん。それよりも⋯⋯まさか、ミリーがミッドランド侯爵家の病弱二女だってバレてるの!?)

「はあ? 何やってんだい! 申し込みは明後日までなんだから、さっさと申し込みしといで」

「⋯⋯(バレてないみたい)でもぉ、私、平民だしぃ」

「平民だから入学試験に行くんじゃないか。お貴族様も試験は受けるけど、そいつはクラス分けの為だから名前さえ書けりゃ入学できる。
でも、平民は試験で篩にかけられる。ミリーならお高い入学金やら授業料も払える。試験だって真面目にやる気になりゃ赤子の手を捻るようなもんさ」

「褒めてくれるのは嬉しいけどぉ、お金は次の事業で消えちゃうしぃ、なんなら足りないかなぁって思ってたりだしぃ。お仕事が忙しくてそれどころじゃないとかぁ」

 王立学園に入学するなどとんでもない。ミッドランド侯爵家の者に遭遇するとは思わないが、誰と誰が繋がっているかも分からないのだから。

(今更試験だの授業だのはめんどうだし、お貴族様の世界には興味ないしね)

「イリス様もミリーが学園に行くのは賛成だって仰ってた。ほら!」

 バンと音を立てて机に置かれたのは学園の入学願書。

「いや~、でもね~。う~ん、来年ならもしかしたら⋯⋯」

「ほ~、イリス様に来年受けますって言えんのかい?」

「言えまちぇん。熊ならともかく美魔女なエルフには⋯⋯申し込みに行ってきま~⋯はぁ」

 願書を片手に渋々歩き出したミリーはまだ知らない。ミッドランド侯爵家の居間でユーフェミアが呟いた一言を。




「わたくしが学園の臨時講師を? マナー講師⋯⋯わたくしの教えるマナーについてこれる令嬢がおられるのか楽しみですわ」

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