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第九章 なんでやねん
03.こんな顔だったかなぁ
この世界に帰って来て1週間。実里の最大の悩みは、他人の費用で暮らしているせいで居心地が悪く落ち着かない事。
かと言ってホテルの費用を自分で払って住み続けるのは現実的ではないし、ウィークリーマンションもやはり家賃が高すぎた。
アパートを借りるしかないと決めてから不動産屋さんに入るまでに3日かかったが、大人しそうな社員さんが担当になり、事情を話すと⋯⋯預貯金審査が使えると言う。
『このアパートは女性前提で、大家さんが常に1階の管理人室におられるので安心だと思います。一度お話ししてみられてはいかがですか?』
駅から徒歩20分だが、距離がある分家賃が少し安く設定されている。築年数が浅く3階の角部屋が空いていて、室内も綺麗で問題ない。駅とアパートの真ん中辺り、徒歩10分程度の所に大型のショッピングモールがある。
大家さんも感じが良くて即決した。
『大変だったねえ。ショッピングモールが出来てからは土日が少し騒がしい時もあるけど、普段は静かだから落ち着いて過ごせるはず。管理人室にいるから、何かあったらいつでも相談してね』
ネットの回線が開設されていたのですぐに仕事⋯⋯在宅でできるデータ入力の仕事を見つけることができたので、とりあえずの生活基盤が整った。
(収入は少ないけど、外で働くのはまだ怖いし)
引っ越してから半年⋯⋯少しずつ仕事が増えて貯金に手をつけずに済むようになった頃、悩みの種が乗り込んできた。
仕事をしていた実里の部屋に珍しく管理人室から電話がかかってきた。
「今管理人室の前に、実里ちゃんのご両親と兄姉だって言う人が来てるんだけどね、部屋番号を教えろって言われてて。一応お断りはしたんだけど、本人に聞いてくれって⋯⋯どうする?
部屋には入れたくないが、他に思いつく場所がない。仕方なく部屋番号を伝えてもいいと言おうとすると、管理人さんが止めてきた。
「どうするのかって聞いといてあれなんだけどね⋯⋯部屋に案内するより、ショッピングモールの中のファミレスに行った方が良いんじゃないかな」
「⋯⋯えーっと、やっぱりそんな感じですか?」
「うん、実里ちゃんのご家族を悪く言いたくはないんだけどね。なんて言うか、おばさんの勘?」
「ありがとうございます。すぐ下に降りてファミレスで待ち合わせをしようって伝えます。でも、騒ぎになったらごめんなさい」
「大丈夫だよ、私は慣れてるから。あんまり騒ぐようなら警察を呼ぶって言ってあげるからね。警察はここが女性専用だって知ってるから、連絡すると結構早く来てくれるから」
「はい、よろしくお願いします」
電話を切って財布と携帯と鍵を持ち、玄関をしっかり施錠して階段をゆっくりと降りて行った。
(熊に口が達者なチビすけって言われてたもん。あの人達なんか怖くない⋯⋯この世界は『人は皆平等』なんだから!)
実里が両親と最後に会ったのはほんの数ヶ月前だが、体感では9年以上前。
端正な顔立ちで俳優のようだと言われていた父親と、華やかな顔立ちとスタイルの良さが評判の母親。
父親似で目鼻立ちが整った兄は母親のお気に入りで、天使のような美貌が健在の姉は父親と仲が良い。
鷹揚な態度で右手を上げた父親、少し困り顔で管理人のおばさんにお礼を言う母親。
携帯の画面をタップしながら実里にチラッと目を向け、片方の口角を上げるだけの笑顔を見せた兄。腕を組んで大袈裟な溜め息を吐いた姉は『仕方ないわね』と言いたげに首を振った後で満面の笑みを浮かべた。
(こんな感じだったっけ?)
昔の実里は彼らを自慢の家族だと言いながら、理由の分からない焦燥感に駆られていた。家族から疎まれている気がするのは勘違いで、粗略に扱われたと思うのは思い違い。仲間外れにされたと腹を立てるのは心得違い。
ご飯はみんなと一緒に食べているんだから仲間外れなわけがない。
会話に入れないのは実里が話題を見つけられないからで、お出かけに置いて行かれるのは荷物持ちさえできない子供だから。服や持ち物が全部兄や姉のお古なのは末っ子だから。
地味な顔に引け目を感じているからわざと強気なふりをして、こっちを見てくれないからわざと傲慢な態度をとってみた。
(見て見てちゃんの幼児みたいじゃん)
構って欲しいと言って泣き、関心を引きたくておもちゃを投げる⋯⋯それで関心を引けるのは何歳までだろうか。
(この人達は変わんないけど私が変わったから、この人達の顔が嘘くさく見えるんだ。ご機嫌をとって関心を引くのはもうやめないとね)
「久しぶり、連絡もせずにいなくなるから探したんだよ~」
「お久しぶりです。この先のショッピングモールの1階にファミレスがあるから、話があるならそこで待っててくれない?」
「ええっ? 久しぶりに会えた家族なのに部屋に入れてくれないの?」
姉お得意の、正論で罪悪感を植え付ける方法は母親譲り。
(ファザコンだからか母さんとは仲が悪いのに、性格は似てるんだよね)
表向きは仲良くしているが陰では悪口を言ってばかりの母と姉。
「悪いけど荷物がいっぱいだから部屋が狭くて⋯⋯5人は無理」
「わざわざ会いに来た家族にそれはないだろ? 2時間以上かかったから母さん達も疲れてるんだぞ」
兄として家族を心配するふりをするのは父親とよく似ている。そのくせ自分が一番『美味しいとこどり』するテクも瓜二つ。
「それは申し訳ないけど、本当に座る場所がなくて」
「なになに~、慰謝料でお買い物とかかな~」
少し実里の顔を覗き込むようにして笑顔を見せる姉。日本人は感情が分かりにくいと言うけれど、長年一緒に暮らしてきたこの人達の表情ならよく分かる。
(知りたいんだよねー。いくら貰っていくら残ってるのか)
両親は⋯⋯簡単に人に騙されそうな実里が心配だから家に帰って来いと言い、帰って来たついでに家の用事をしていくのは娘として当然の事。実里が無駄遣いで使い果たすより家族の為に使うべき。見事な三段活用をぶちかましてくる。
兄姉は⋯⋯結婚して家族がいる自分達は忙しいから、独身の実里が親の面倒をするのは当然の事。独身なら時間も金も自由にできるのだから、育ててもらった恩を返せば良い。どうせ結婚できないんだから。両親と似たり寄ったりの暴論をしたり顔で吐いてくる。
「買い物したんじゃなくて、部屋で仕事をしてるから。ここで話してると迷惑だからファミレスで話そう」
かと言ってホテルの費用を自分で払って住み続けるのは現実的ではないし、ウィークリーマンションもやはり家賃が高すぎた。
アパートを借りるしかないと決めてから不動産屋さんに入るまでに3日かかったが、大人しそうな社員さんが担当になり、事情を話すと⋯⋯預貯金審査が使えると言う。
『このアパートは女性前提で、大家さんが常に1階の管理人室におられるので安心だと思います。一度お話ししてみられてはいかがですか?』
駅から徒歩20分だが、距離がある分家賃が少し安く設定されている。築年数が浅く3階の角部屋が空いていて、室内も綺麗で問題ない。駅とアパートの真ん中辺り、徒歩10分程度の所に大型のショッピングモールがある。
大家さんも感じが良くて即決した。
『大変だったねえ。ショッピングモールが出来てからは土日が少し騒がしい時もあるけど、普段は静かだから落ち着いて過ごせるはず。管理人室にいるから、何かあったらいつでも相談してね』
ネットの回線が開設されていたのですぐに仕事⋯⋯在宅でできるデータ入力の仕事を見つけることができたので、とりあえずの生活基盤が整った。
(収入は少ないけど、外で働くのはまだ怖いし)
引っ越してから半年⋯⋯少しずつ仕事が増えて貯金に手をつけずに済むようになった頃、悩みの種が乗り込んできた。
仕事をしていた実里の部屋に珍しく管理人室から電話がかかってきた。
「今管理人室の前に、実里ちゃんのご両親と兄姉だって言う人が来てるんだけどね、部屋番号を教えろって言われてて。一応お断りはしたんだけど、本人に聞いてくれって⋯⋯どうする?
部屋には入れたくないが、他に思いつく場所がない。仕方なく部屋番号を伝えてもいいと言おうとすると、管理人さんが止めてきた。
「どうするのかって聞いといてあれなんだけどね⋯⋯部屋に案内するより、ショッピングモールの中のファミレスに行った方が良いんじゃないかな」
「⋯⋯えーっと、やっぱりそんな感じですか?」
「うん、実里ちゃんのご家族を悪く言いたくはないんだけどね。なんて言うか、おばさんの勘?」
「ありがとうございます。すぐ下に降りてファミレスで待ち合わせをしようって伝えます。でも、騒ぎになったらごめんなさい」
「大丈夫だよ、私は慣れてるから。あんまり騒ぐようなら警察を呼ぶって言ってあげるからね。警察はここが女性専用だって知ってるから、連絡すると結構早く来てくれるから」
「はい、よろしくお願いします」
電話を切って財布と携帯と鍵を持ち、玄関をしっかり施錠して階段をゆっくりと降りて行った。
(熊に口が達者なチビすけって言われてたもん。あの人達なんか怖くない⋯⋯この世界は『人は皆平等』なんだから!)
実里が両親と最後に会ったのはほんの数ヶ月前だが、体感では9年以上前。
端正な顔立ちで俳優のようだと言われていた父親と、華やかな顔立ちとスタイルの良さが評判の母親。
父親似で目鼻立ちが整った兄は母親のお気に入りで、天使のような美貌が健在の姉は父親と仲が良い。
鷹揚な態度で右手を上げた父親、少し困り顔で管理人のおばさんにお礼を言う母親。
携帯の画面をタップしながら実里にチラッと目を向け、片方の口角を上げるだけの笑顔を見せた兄。腕を組んで大袈裟な溜め息を吐いた姉は『仕方ないわね』と言いたげに首を振った後で満面の笑みを浮かべた。
(こんな感じだったっけ?)
昔の実里は彼らを自慢の家族だと言いながら、理由の分からない焦燥感に駆られていた。家族から疎まれている気がするのは勘違いで、粗略に扱われたと思うのは思い違い。仲間外れにされたと腹を立てるのは心得違い。
ご飯はみんなと一緒に食べているんだから仲間外れなわけがない。
会話に入れないのは実里が話題を見つけられないからで、お出かけに置いて行かれるのは荷物持ちさえできない子供だから。服や持ち物が全部兄や姉のお古なのは末っ子だから。
地味な顔に引け目を感じているからわざと強気なふりをして、こっちを見てくれないからわざと傲慢な態度をとってみた。
(見て見てちゃんの幼児みたいじゃん)
構って欲しいと言って泣き、関心を引きたくておもちゃを投げる⋯⋯それで関心を引けるのは何歳までだろうか。
(この人達は変わんないけど私が変わったから、この人達の顔が嘘くさく見えるんだ。ご機嫌をとって関心を引くのはもうやめないとね)
「久しぶり、連絡もせずにいなくなるから探したんだよ~」
「お久しぶりです。この先のショッピングモールの1階にファミレスがあるから、話があるならそこで待っててくれない?」
「ええっ? 久しぶりに会えた家族なのに部屋に入れてくれないの?」
姉お得意の、正論で罪悪感を植え付ける方法は母親譲り。
(ファザコンだからか母さんとは仲が悪いのに、性格は似てるんだよね)
表向きは仲良くしているが陰では悪口を言ってばかりの母と姉。
「悪いけど荷物がいっぱいだから部屋が狭くて⋯⋯5人は無理」
「わざわざ会いに来た家族にそれはないだろ? 2時間以上かかったから母さん達も疲れてるんだぞ」
兄として家族を心配するふりをするのは父親とよく似ている。そのくせ自分が一番『美味しいとこどり』するテクも瓜二つ。
「それは申し訳ないけど、本当に座る場所がなくて」
「なになに~、慰謝料でお買い物とかかな~」
少し実里の顔を覗き込むようにして笑顔を見せる姉。日本人は感情が分かりにくいと言うけれど、長年一緒に暮らしてきたこの人達の表情ならよく分かる。
(知りたいんだよねー。いくら貰っていくら残ってるのか)
両親は⋯⋯簡単に人に騙されそうな実里が心配だから家に帰って来いと言い、帰って来たついでに家の用事をしていくのは娘として当然の事。実里が無駄遣いで使い果たすより家族の為に使うべき。見事な三段活用をぶちかましてくる。
兄姉は⋯⋯結婚して家族がいる自分達は忙しいから、独身の実里が親の面倒をするのは当然の事。独身なら時間も金も自由にできるのだから、育ててもらった恩を返せば良い。どうせ結婚できないんだから。両親と似たり寄ったりの暴論をしたり顔で吐いてくる。
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