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第二章 ミッドランド侯爵家に産まれて
02.意外ですが余裕で生活できてます
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部屋を出たミリーは暗い廊下を歩き、使用を禁止されているドアの前に仁王立ちした。このドアはミリーの部屋がある北の棟と屋敷を繋ぐ唯一の扉で、マーサの退職後は常に施錠されている。
ドンドンドン⋯⋯ドンドンドン⋯⋯
頑丈そうなドアは、3歳児のミリーが叩いても小さな音しかしないはずだが、何故か驚くほど大きな音がした。
(素手で叩いたくらいじゃ聞こえないと思ったから、石を持ってきたんだよね~。毎日腕立てやぶら下がり健康法をやってる3歳児⋯⋯趣味は畑を耕して柵に登る事! まだまだ叩けるから、覚悟しやがれ~)
両手で持った石でひたすらドアを叩き続けていると、あまりの煩さに業を煮やしたメイドがドアを開けた。
「今日は忙しいんです。こんなとこで遊んでないで、部屋で静かにしていて下さい!!」
「今日は食事が届いてないから、いつ届くのか聞きたくてドアをノックしていただけ」
「⋯⋯食事?」
「そう、あのカッチカチのパンとチーズ。鍵さえ掛かっていなければ自分で取りに行けるけど、そっちには行けないからドアを叩いたの。まあ、自分で取りに行った時はカッチカチじゃないパンを探すけど」
「と、届けるわよ! だから大人しくしてなさい」
「ちゃんと食事が届いた日には大人しくしてたわ。私が餓死したら⋯⋯あの陰険ジジイにあなた達は何をされるのかしら。ご希望なら先に御愁傷様って言っておくけど?
あ! もう少し真面な食事にして欲しくなったら、その時もドアを叩くかも」
それ以来、カッチカチだけど毎日食事が届けられている。
ミリーの生家であるミッドランド侯爵家は建国以来の長い歴史を持ち、常に国の中心で活躍し続けている高位貴族。
王都から馬車で2日の場所にある領地は広大な上に肥沃で、歴代の勤勉な家礼が侯爵家に富と権威を引き寄せ続けている。
宮廷や議会で辣腕を振るっては『王国にミッドランド侯爵家有り』と言われ、妖艶な婦人と可憐な令嬢が社交界やサロンで常に羨望の的となってきた。
難航していた他国との取り引きを見事に終結させ、長年の問題だった塩不足を解消したのは外交手腕に長けた三代前の当主。
隣国の王子を捨てて伯爵家の嫡男と『真実の愛』を貫き、駆け落ち同然に結ばれたのは『天使の降臨』とまで言われた50年ほど前の令嬢。
その他にもミッドランド侯爵家に関する多くの逸話が小説になり、劇場で演じられ⋯⋯今もなおモラヴィアス王国で大人気を博している。
それらの評判が嘘か真か⋯⋯虚構か現実かは定かではないが、侯爵家の者は『眉目秀麗』で『才気煥発』な者ばかりだと長い間賞賛され続けている。
貴族至上主義のこの国。この世の春を最も満喫している高位貴族は他を見下し高慢なのが当たり前で、よくある事と言うべきか残念な事に『温厚篤実』や『一視同仁』と言う言葉とは縁がない者の方が多い。
過去の逸話に対する真偽も含め、世間での評価が侯爵家の面々に当てはまるのかどうか⋯⋯ミリーへの待遇を思い出すと、少なくとも現当主夫妻が『性格も温厚で誠実』だと言われているのは、摩訶不思議と言わざるを得ない。
(ほぼ間違いなくお金の力だね~。それさえあれば情報操作なんて簡単だし、功績を買うのだって余裕っしょ)
火が使えないちびっ子ミリーは(生では)食べられないじゃがいもだが、土に埋めた種芋からは元気な葉が出て、すくすく成長している。食べられないじゃがいもを実里が張り切ってお世話している理由は⋯⋯。
「ふっふっふ。食えぬなら、売ってしまえお芋ちゃん⋯⋯。この牢獄から外に出られる通用門を既に見つけてあるんだ~。ドナドナされたいでしょ? されたいよね~。頑張って大きくなるんだよ~」
西側の庭の奥を探検していた時に見つけた扉は草に覆われて半分朽ちかけており、長い間誰も使っていないと思われた。
鍵と呼べるのかは分からないかんぬきが掛けてあるだけの簡単なそれを見つけた時、実里の頭がフル回転した。
(ここから出て、商店を見つける事ができたら⋯⋯芋が売れる。先立つ物は金! 食えん芋が売り物になったら自立の一歩になるじゃん!)
芽が出ずに腐っていく種芋を見つめ『もう止めようかなぁ』と心が折れそうになる度に、その扉の事とその先の未来を頭に浮かべて奮起してきた。
マーサが退職して1年が経ち、ミリーは4歳になった。
「じゃっがいも、じゃっがいも、うっれしいなあ🎵」
盗⋯⋯拾ったじゃがいもから大切に育てたじゃがいもがようやく収穫の時を迎えた今、実里のテンションはレベチ。
(いや~、食べ物を粗末にする調理人に感謝する日が来るとは思わんかったよ)
種芋を植えてからせっせとお世話を続け、『芽が出ろ~、ふん!』と呟きながらト◯ロダンスを踊り、花が咲いた時には奇声を上げて阿◇踊りを踊った。
葉が黄ばんで茎がだらりとしてきた時は『ありがとうございます! マジで、育ってくれるとは⋯⋯この下に、この土の中にお芋様が⋯⋯』と正座して頭を下げた。
何度も失敗した種芋作りで芋泥棒に変身した数は両手に余るが、今この時はあの苦労さえ素晴らしい思い出に感じてしまう。
「ではでは、ちょ~っと掘ってみようかなぁ」
ドンドンドン⋯⋯ドンドンドン⋯⋯
頑丈そうなドアは、3歳児のミリーが叩いても小さな音しかしないはずだが、何故か驚くほど大きな音がした。
(素手で叩いたくらいじゃ聞こえないと思ったから、石を持ってきたんだよね~。毎日腕立てやぶら下がり健康法をやってる3歳児⋯⋯趣味は畑を耕して柵に登る事! まだまだ叩けるから、覚悟しやがれ~)
両手で持った石でひたすらドアを叩き続けていると、あまりの煩さに業を煮やしたメイドがドアを開けた。
「今日は忙しいんです。こんなとこで遊んでないで、部屋で静かにしていて下さい!!」
「今日は食事が届いてないから、いつ届くのか聞きたくてドアをノックしていただけ」
「⋯⋯食事?」
「そう、あのカッチカチのパンとチーズ。鍵さえ掛かっていなければ自分で取りに行けるけど、そっちには行けないからドアを叩いたの。まあ、自分で取りに行った時はカッチカチじゃないパンを探すけど」
「と、届けるわよ! だから大人しくしてなさい」
「ちゃんと食事が届いた日には大人しくしてたわ。私が餓死したら⋯⋯あの陰険ジジイにあなた達は何をされるのかしら。ご希望なら先に御愁傷様って言っておくけど?
あ! もう少し真面な食事にして欲しくなったら、その時もドアを叩くかも」
それ以来、カッチカチだけど毎日食事が届けられている。
ミリーの生家であるミッドランド侯爵家は建国以来の長い歴史を持ち、常に国の中心で活躍し続けている高位貴族。
王都から馬車で2日の場所にある領地は広大な上に肥沃で、歴代の勤勉な家礼が侯爵家に富と権威を引き寄せ続けている。
宮廷や議会で辣腕を振るっては『王国にミッドランド侯爵家有り』と言われ、妖艶な婦人と可憐な令嬢が社交界やサロンで常に羨望の的となってきた。
難航していた他国との取り引きを見事に終結させ、長年の問題だった塩不足を解消したのは外交手腕に長けた三代前の当主。
隣国の王子を捨てて伯爵家の嫡男と『真実の愛』を貫き、駆け落ち同然に結ばれたのは『天使の降臨』とまで言われた50年ほど前の令嬢。
その他にもミッドランド侯爵家に関する多くの逸話が小説になり、劇場で演じられ⋯⋯今もなおモラヴィアス王国で大人気を博している。
それらの評判が嘘か真か⋯⋯虚構か現実かは定かではないが、侯爵家の者は『眉目秀麗』で『才気煥発』な者ばかりだと長い間賞賛され続けている。
貴族至上主義のこの国。この世の春を最も満喫している高位貴族は他を見下し高慢なのが当たり前で、よくある事と言うべきか残念な事に『温厚篤実』や『一視同仁』と言う言葉とは縁がない者の方が多い。
過去の逸話に対する真偽も含め、世間での評価が侯爵家の面々に当てはまるのかどうか⋯⋯ミリーへの待遇を思い出すと、少なくとも現当主夫妻が『性格も温厚で誠実』だと言われているのは、摩訶不思議と言わざるを得ない。
(ほぼ間違いなくお金の力だね~。それさえあれば情報操作なんて簡単だし、功績を買うのだって余裕っしょ)
火が使えないちびっ子ミリーは(生では)食べられないじゃがいもだが、土に埋めた種芋からは元気な葉が出て、すくすく成長している。食べられないじゃがいもを実里が張り切ってお世話している理由は⋯⋯。
「ふっふっふ。食えぬなら、売ってしまえお芋ちゃん⋯⋯。この牢獄から外に出られる通用門を既に見つけてあるんだ~。ドナドナされたいでしょ? されたいよね~。頑張って大きくなるんだよ~」
西側の庭の奥を探検していた時に見つけた扉は草に覆われて半分朽ちかけており、長い間誰も使っていないと思われた。
鍵と呼べるのかは分からないかんぬきが掛けてあるだけの簡単なそれを見つけた時、実里の頭がフル回転した。
(ここから出て、商店を見つける事ができたら⋯⋯芋が売れる。先立つ物は金! 食えん芋が売り物になったら自立の一歩になるじゃん!)
芽が出ずに腐っていく種芋を見つめ『もう止めようかなぁ』と心が折れそうになる度に、その扉の事とその先の未来を頭に浮かべて奮起してきた。
マーサが退職して1年が経ち、ミリーは4歳になった。
「じゃっがいも、じゃっがいも、うっれしいなあ🎵」
盗⋯⋯拾ったじゃがいもから大切に育てたじゃがいもがようやく収穫の時を迎えた今、実里のテンションはレベチ。
(いや~、食べ物を粗末にする調理人に感謝する日が来るとは思わんかったよ)
種芋を植えてからせっせとお世話を続け、『芽が出ろ~、ふん!』と呟きながらト◯ロダンスを踊り、花が咲いた時には奇声を上げて阿◇踊りを踊った。
葉が黄ばんで茎がだらりとしてきた時は『ありがとうございます! マジで、育ってくれるとは⋯⋯この下に、この土の中にお芋様が⋯⋯』と正座して頭を下げた。
何度も失敗した種芋作りで芋泥棒に変身した数は両手に余るが、今この時はあの苦労さえ素晴らしい思い出に感じてしまう。
「ではでは、ちょ~っと掘ってみようかなぁ」
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