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55.王妃達の企み
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「今日はお招きありがとうございます」
王妃殿下からお茶会のお誘いを受けて王宮にやってきたセアラ。
案内されたヴィクトリアン様式のコンサバトリーは多角形で気品にあふれ、優雅な女性らしい家具が配置されている。
広々とした室内は天井が高く開放的で、ガラス張りの大きな窓から燦々と日が降り注いでいた。
「ここは王妃殿下のお気に入りの部屋なんだよ」
「ええ、このコンサバトリーにはお気に入りの家具と大好きな緑だけを自分の好きなように配置してるの。ここにいる時が一番リラックスできるから一緒にお茶をするならここしかないと思ったのよ」
王妃殿下の隣には一つ間を空けてアリエノールが座り、シルス王太子殿下、ミリセント、リチャード、セアラの順で並んでいる。
「後から陛下も参加したいなんて仰るから一応準備はしておいたの」
空席を見ながら話す王妃殿下とリチャードに挟まれたセアラは緊張でカップを持つ手が震えそうになっていた。
テーブルクロスのかけられた丸テーブルには中央に置かれたケーキスタンドと様々なお菓子や珍しい果物が並んでいる。使われている食器は全てロイヤルコペンハーゲン。
「マイセンもいいけれどこれは最近のわたくしのお気に入りなの」
「手描きの独特の絵柄と青がとても綺麗ですね」
「フローラダニカのコーヒーセットを手に入れたいと思って探しているのよ。あの草花の色遣いがとても気に入っていて」
「王妃様はそうやってお誕生日プレゼントを催促しておられるのよ。フラーラダニカにしてねって」
ミリセントがシルス王太子と顔を見合わせてクスリと笑った。二人は政略で決められた婚約だがとても仲睦まじく、春の終わりに挙式を上げる準備が進められている。
「あら、貴方達には頼んでいませんよ。陛下におねだりしてありますもの」
穏やかな話が弾む中でセアラを一番困らせているのはせっせと世話を焼こうとするリチャードの存在だった。お勧めのケーキを手ずから皿にとってくれたり果物の皮を剥いてくれようとしたり⋯⋯。
(もしかして変な癖でもついてしまわれたのかしら?)
美味しい紅茶を堪能しハーブティーの話で盛り上がっていた時、外の様子が少し騒がしくなった。
「様子を見てきてちょうだい」
王妃の指示で様子を見に行った侍女が帰ってきて王妃に耳打ちした。
「仕方ありませんね、通していいわ」
侍女が申し訳なさそうに頭を下げて出ていった。
「面倒なお客様がいらしたみたい」
サラサラと衣擦れの音を立てながらアメリアが部屋に入って来た。
「お久しぶりですわね、王妃様。皆様方お揃いでいらっしゃるなんて驚きですわ」
声をかけられてもいないのに王妃の隣の席に座ったアメリアはリチャードににっこりと微笑んだ。
「もう少ししたら陛下がお見えになられるの」
暗に、アメリアが座った席は陛下用に空けてあったのだと言ったアリエノールだがアメリアには伝わらなかった。
「陛下にもご挨拶できるなんてちょうど良かったですわ。先日リチャードとお話ししたお茶会の準備ができたのでご報告に参りましたの」
「あら、そうなの?」
「リチャードからごく内輪のお茶会が良いと言われたので、家族と親しい友人だけにしましたのよ。暖かい日差しと花に囲まれたお茶会でのサプライズでしたわね」
ふふっと楽しそうに笑うアメリアは見る人によってはとても可愛く見えるだろう。
「ん? ああ、先日の夜会の話かな」
「そうですわ、リチャードったらあまり呑気にしておられては困りますわ。最近は妙な寄り道で無駄な時間を過ごしてばかりでしょう? 流石のわたくしでも少し困っておりますのよ」
「二人はお話があるようね。中庭のクリスマスローズが新しい色の花をつけたの。見に行ってみたらどうかしら?」
「まあ、素敵! リチャード、是非連れていってくださいな」
「⋯⋯じゃあ、少し失礼するよ」
「ええ、お兄様がいらっしゃらない間に例のティアラのお話を王妃様からお聞かせ頂くわ」
「そう言う話はよく分からないから戻ってくるまでに終わらせてくれたら助かるよ」
席を立ちかけたリチャードがセアラをチラリと見やって苦笑いを浮かべた。
「ティアラって?」
話に食いついたアメリアが可愛らしく首を傾げた。
「ええ、宝物庫の奥に保管してあるティアラの事なの。剣技大会前の夜会でお貸しいただけるって」
嬉しそうなアリエノールが『ねっ』と言いながら王妃の顔を覗き込んだ。
「とても繊細な細工のティアラなんですって」
「本当はアリエノールの成人のお祝いにって思っていたのよ」
ティアラの話で盛り上がりかけたが、ふふんっと笑ったアメリアが立ち上がった。
「リチャード、早く行きましょう。そんなティアラなんかより今のわたくしはリチャードと二人きりでお花を見る方が気になるわ」
リチャードのエスコートでアメリアが出て行った。
「空気の入れ替えをお願い。紅茶も全て新しいものに淹れ替えましょう」
「さっきお話ししていたハーブティーはどうかしら?」
「吃驚したでしょう。王妃殿下のお茶会の話を流しておいたから、今日アメリアが来ることは想定済みだったの」
「お兄様がねアメリアからティアラの話を聞き出せるよう手伝って欲しいって仰ったから」
「アメリアはさっき話していたお茶会で婚約発表する気なの。すでに準備をはじめててドレスの注文も終わってるって言うから下手にティアラのことを聞くのはまずいかもって話になって。
だったらお茶会をして話に出せばいいんじゃないかって事になったのだけど」
「かなり強引なやり方になったね」
「仕方ないわ。だって何のお話もせずお茶会の話をして来たんですもの。あのままだと何を言い出すか」
「公の場にティアラをつけてこさせるのが一番の目標だもの。無理矢理だったのは仕方ないわ」
「アメリアは気づいていないようでしたから大丈夫なのではないでしょうか」
「すごく感じの悪い顔で笑ってたものね」
今月末に開かれる夜会がレトビア公爵家との戦いの場となる予定。もし失敗すれば王家は大打撃を受けるどころか存亡に関わる事態になるかもしれない。
夜会までの準備や手順、配置などはリチャードが帰って来てからだと入れ替えたハーブティーとお菓子を楽しんだ。
「お帰りなさい、どうでしたか?」
「何とかなったと思います。かなり対抗意識を燃やしていたのでティアラをつけてくるんじゃないかと。
それに使われている宝石はルビーとダイヤモンドでした」
よほど自慢したかったのか中庭に着くより先に情報を仕入れられた、中庭は不要だったとリチャードは不満を漏らした。
「それで随分と早く終わったのですね」
「ええ、陛下がお見えになるまでに帰らなくてはいけないからと言って無理矢理馬車に乗せました」
「ところでアメリアのお茶会には参加するのかい?」
シルス王太子がリチャードを揶揄った。
「今はそれどころじゃないってお茶を濁しておきました。剣技大会がいい口実になってくれて助かった」
「あら、別に婚約しても構いませんのよ。ウルリカはその方が確実に仕留められるって言ってたわ」
「いや、俺が無理。顔が引き攣るどころか婚約発表した途端気絶する」
「それでは予定通りにいきましょう」
王妃殿下からお茶会のお誘いを受けて王宮にやってきたセアラ。
案内されたヴィクトリアン様式のコンサバトリーは多角形で気品にあふれ、優雅な女性らしい家具が配置されている。
広々とした室内は天井が高く開放的で、ガラス張りの大きな窓から燦々と日が降り注いでいた。
「ここは王妃殿下のお気に入りの部屋なんだよ」
「ええ、このコンサバトリーにはお気に入りの家具と大好きな緑だけを自分の好きなように配置してるの。ここにいる時が一番リラックスできるから一緒にお茶をするならここしかないと思ったのよ」
王妃殿下の隣には一つ間を空けてアリエノールが座り、シルス王太子殿下、ミリセント、リチャード、セアラの順で並んでいる。
「後から陛下も参加したいなんて仰るから一応準備はしておいたの」
空席を見ながら話す王妃殿下とリチャードに挟まれたセアラは緊張でカップを持つ手が震えそうになっていた。
テーブルクロスのかけられた丸テーブルには中央に置かれたケーキスタンドと様々なお菓子や珍しい果物が並んでいる。使われている食器は全てロイヤルコペンハーゲン。
「マイセンもいいけれどこれは最近のわたくしのお気に入りなの」
「手描きの独特の絵柄と青がとても綺麗ですね」
「フローラダニカのコーヒーセットを手に入れたいと思って探しているのよ。あの草花の色遣いがとても気に入っていて」
「王妃様はそうやってお誕生日プレゼントを催促しておられるのよ。フラーラダニカにしてねって」
ミリセントがシルス王太子と顔を見合わせてクスリと笑った。二人は政略で決められた婚約だがとても仲睦まじく、春の終わりに挙式を上げる準備が進められている。
「あら、貴方達には頼んでいませんよ。陛下におねだりしてありますもの」
穏やかな話が弾む中でセアラを一番困らせているのはせっせと世話を焼こうとするリチャードの存在だった。お勧めのケーキを手ずから皿にとってくれたり果物の皮を剥いてくれようとしたり⋯⋯。
(もしかして変な癖でもついてしまわれたのかしら?)
美味しい紅茶を堪能しハーブティーの話で盛り上がっていた時、外の様子が少し騒がしくなった。
「様子を見てきてちょうだい」
王妃の指示で様子を見に行った侍女が帰ってきて王妃に耳打ちした。
「仕方ありませんね、通していいわ」
侍女が申し訳なさそうに頭を下げて出ていった。
「面倒なお客様がいらしたみたい」
サラサラと衣擦れの音を立てながらアメリアが部屋に入って来た。
「お久しぶりですわね、王妃様。皆様方お揃いでいらっしゃるなんて驚きですわ」
声をかけられてもいないのに王妃の隣の席に座ったアメリアはリチャードににっこりと微笑んだ。
「もう少ししたら陛下がお見えになられるの」
暗に、アメリアが座った席は陛下用に空けてあったのだと言ったアリエノールだがアメリアには伝わらなかった。
「陛下にもご挨拶できるなんてちょうど良かったですわ。先日リチャードとお話ししたお茶会の準備ができたのでご報告に参りましたの」
「あら、そうなの?」
「リチャードからごく内輪のお茶会が良いと言われたので、家族と親しい友人だけにしましたのよ。暖かい日差しと花に囲まれたお茶会でのサプライズでしたわね」
ふふっと楽しそうに笑うアメリアは見る人によってはとても可愛く見えるだろう。
「ん? ああ、先日の夜会の話かな」
「そうですわ、リチャードったらあまり呑気にしておられては困りますわ。最近は妙な寄り道で無駄な時間を過ごしてばかりでしょう? 流石のわたくしでも少し困っておりますのよ」
「二人はお話があるようね。中庭のクリスマスローズが新しい色の花をつけたの。見に行ってみたらどうかしら?」
「まあ、素敵! リチャード、是非連れていってくださいな」
「⋯⋯じゃあ、少し失礼するよ」
「ええ、お兄様がいらっしゃらない間に例のティアラのお話を王妃様からお聞かせ頂くわ」
「そう言う話はよく分からないから戻ってくるまでに終わらせてくれたら助かるよ」
席を立ちかけたリチャードがセアラをチラリと見やって苦笑いを浮かべた。
「ティアラって?」
話に食いついたアメリアが可愛らしく首を傾げた。
「ええ、宝物庫の奥に保管してあるティアラの事なの。剣技大会前の夜会でお貸しいただけるって」
嬉しそうなアリエノールが『ねっ』と言いながら王妃の顔を覗き込んだ。
「とても繊細な細工のティアラなんですって」
「本当はアリエノールの成人のお祝いにって思っていたのよ」
ティアラの話で盛り上がりかけたが、ふふんっと笑ったアメリアが立ち上がった。
「リチャード、早く行きましょう。そんなティアラなんかより今のわたくしはリチャードと二人きりでお花を見る方が気になるわ」
リチャードのエスコートでアメリアが出て行った。
「空気の入れ替えをお願い。紅茶も全て新しいものに淹れ替えましょう」
「さっきお話ししていたハーブティーはどうかしら?」
「吃驚したでしょう。王妃殿下のお茶会の話を流しておいたから、今日アメリアが来ることは想定済みだったの」
「お兄様がねアメリアからティアラの話を聞き出せるよう手伝って欲しいって仰ったから」
「アメリアはさっき話していたお茶会で婚約発表する気なの。すでに準備をはじめててドレスの注文も終わってるって言うから下手にティアラのことを聞くのはまずいかもって話になって。
だったらお茶会をして話に出せばいいんじゃないかって事になったのだけど」
「かなり強引なやり方になったね」
「仕方ないわ。だって何のお話もせずお茶会の話をして来たんですもの。あのままだと何を言い出すか」
「公の場にティアラをつけてこさせるのが一番の目標だもの。無理矢理だったのは仕方ないわ」
「アメリアは気づいていないようでしたから大丈夫なのではないでしょうか」
「すごく感じの悪い顔で笑ってたものね」
今月末に開かれる夜会がレトビア公爵家との戦いの場となる予定。もし失敗すれば王家は大打撃を受けるどころか存亡に関わる事態になるかもしれない。
夜会までの準備や手順、配置などはリチャードが帰って来てからだと入れ替えたハーブティーとお菓子を楽しんだ。
「お帰りなさい、どうでしたか?」
「何とかなったと思います。かなり対抗意識を燃やしていたのでティアラをつけてくるんじゃないかと。
それに使われている宝石はルビーとダイヤモンドでした」
よほど自慢したかったのか中庭に着くより先に情報を仕入れられた、中庭は不要だったとリチャードは不満を漏らした。
「それで随分と早く終わったのですね」
「ええ、陛下がお見えになるまでに帰らなくてはいけないからと言って無理矢理馬車に乗せました」
「ところでアメリアのお茶会には参加するのかい?」
シルス王太子がリチャードを揶揄った。
「今はそれどころじゃないってお茶を濁しておきました。剣技大会がいい口実になってくれて助かった」
「あら、別に婚約しても構いませんのよ。ウルリカはその方が確実に仕留められるって言ってたわ」
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