【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね

との

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76.サルドニア帝国へ

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 リチャード王子はまだ大臣達と打ち合わせがあるようで、セアラ達はアリエノールの部屋でウルリカと三人で食事することになった。

「夜までに着けて良かったけど、随分予定より遅くなったからテントを張るのは大変だったでしょうね」

「ローデンベール伯爵領は明日のお昼過ぎには抜けられるのですが、念の為明日の朝は少し早めの出発になると聞いています」

 給仕をしていたメアリーアンの言葉に『初日から』と内心げっそりしたアリエノール達だった。

「本当にレトビア派は碌でもないわね。派手な暮らしや権力闘争の前に領地経営をしっかりするべきだわ」



 食事の後でセアラ達がゆっくりと紅茶を飲みながら談笑しているとリチャード王子がやって来た。

「やあ、久しぶりだねセアラ」

 部屋に入って来たリチャード王子はソファに座っていたセアラの隣にいそいそと座り込み嬉しそうにセアラの手を⋯⋯握ろうとしてアリエノール叩かれた。

「お兄様、今はそれどころじゃありませんでしょう?」

 アリエノールとウルリカの冷たい視線を浴びたリチャード王子は『ちょっとくらい癒しが』と言いつつクラバットを外し大きな溜息をついた。

「はぁ、全く。ローデンベールがこれ程領地を放り出しているなんてなぁ⋯⋯。しかも、大臣の話では街道整備用の助成金を使い込んでいる可能性があると言ってたし⋯⋯折角三人には一番良い馬車を準備したのに、街道がアレでは」

「街中も予想より寂れてる気がしましたわ」

「ああ、予定より遅くなったとは言え人出も少なかったし歩いてる領民に活気がない⋯⋯。
それよりもだ。セアラ、今回は本当に申し訳ない」

 ソファの上で居住まいを正したリチャード王子がセアラに向けて頭を下げた。

「言い訳になるがギリギリまで交渉はしたんだけど、えらく頑なで⋯⋯皇太子の我儘と言うより何か狙いがあるとしか思えないんだがそれが何なのかさっぱりわからない⋯⋯そんな状態で同行させてしまって本当に申し訳ないと思ってる。絶対に無事に王国に帰すと約束するから」

「どうか私の事はお気遣いなく。私にできる事であれば何なりと仰ってください。お役に立てるかわかりませんが、皆様の足を引っ張らないように頑張ります」

 眉間に皺を寄せたリチャード王子の前にメアリーアンが紅茶を置くと『ありがとう』と言いながら手を伸ばした。

「本当に不思議ですわ。お兄様や大臣が立ち会えば、態々わたくし達が立ち会う必要なんてない筈ですのに」


 その後はスケジュールの確認や大臣達との打ち合わせ内容のすり合わせを行い、明日からの長旅に向けてそれぞれの部屋で休む事になった。
 セアラは割り当てられた部屋に戻り着替えを済ませてベッドに入ったがリチャードの言った言葉が気になって目が冴えてしまった。


『帝国はベルスペクト王国を属国にしようと狙っているかもしれない。今回の会議の主題の一つは帝国が我が国に戦争を仕掛ける腹積りがあるのかを調べる事なんだ』

 セアラは寝るのを諦めて枕元のランプをつけた。

 軍事大国としての基盤を支えてるのがイーバリス教会の資金なのは間違いない。帝国の軍事力を考えると戦争を仕掛けられればベルスペクト王国に勝ち目はないだろう。

(儀式の失敗は宣戦布告の理由になるかしら。それだけじゃ弱い気がするし⋯⋯想像もつかないわ)



 長い夜が明け調査団は帝国に向けて再び出発した。

 天候に恵まれたこともありローデンベール伯爵領を抜けた後は順調に旅を続けることができたので予定通りの日程で帝都に入った。

 街は碁盤の目のように綺麗に区画されており、東西南北にある関所に向かう道は大型の馬車が悠々とすれ違える程の広さが確保されている。道の両側には三階建てで煉瓦作りの建物が所狭しと並び大勢の買い物客で賑わっていた。
 使節団の一団が行き過ぎるのを待っているようで大型馬車や辻馬車が通りの脇に停まっている。歩道には使節団一行を完全に無視して買い物を続ける人達が多く、一部の見物人も一様に冷ややかな顔をしていた。

「はぁ、予想通りではあるのだけど⋯⋯ 歓迎されていないのがよくわかるわね」

 馬車の窓にかかるカーテンの隙間から外の様子を覗いたアリエノールが溜息混じりに愚痴をこぼした。

「帝国ではほぼ全員がイーバリス教信者だと言われていますから仕方ないでしょう。レトビア元公爵を連れてきて隊列の一番前を歩かせれば良かったかもしれません」

 長旅に辟易したのか常に冷静な判断をするウルリカが意外にも大胆発言をした。

「良い考えね。でもまあ、本当にそんな事をしたら暴動が起きそうよ。だって、今にも石を投げつけてきそうな顔をしている人が結構いるもの」

「新神殿は確か皇族の住む宮殿の東側にあるはずなのでもう少ししたら見えて来るかもしれませんね」

「明日見学するのは300年保存されている旧神殿よね」

「あちこち補修はされているそうですが、できる限り襲撃された当時のままの状態を保つようにしておられるとか」


 今回教会から届いた資料によると襲撃者達は破城槌や火矢も用いて暴虐の限りを尽くし、神殿の入り口から最奥の祭壇まで馬で乗り入れ神殿内の全てを破壊し尽くしたとされている。被害者は聖女や大司教を含め百二十八名となっており生存者はいない。

 リチャード王子達は教会幹部と共に被害状況を確認した上で賠償金について話し合うが、その当時の神殿内の状況が記されている資料は教会にしかないのが一番の問題になっている。
 王国には当時の神殿の様子を知る資料が全くと言っていいほどなく、王国側にあるのはレトビア公爵邸に残されていた襲撃者へ配分された金銀などの覚書のみ。そこが最大のネックになっている。

『レトビア達の独断だからと言うわけにはいかないが、なんでも奴らの言うままと言うわけにもいかないからね』

 足元を見られないように、それでいて禍根を残さないように⋯⋯。



 深い堀に囲まれた赤い煉瓦作りの宮殿は高い城壁に囲まれ宮殿というよりも要塞と評した方が似合う独特な作りをしていた。

 鈍い音をたてて降りた跳ね橋を通り馬小屋などの建物のある下城を抜け城の中核をなす中城に向かう。
 広い中庭を囲んで三方に棟が並ぶここには政務を執り行う為の部屋や騎士団総長や司令官の居住もある。

 一行が案内されたのはゴシック様式の見事な天井が目を引く謁見室で、部屋の奥に数段高くなっている玉座がしつらえてある事を除けば宮殿というよりも修道院のような雰囲気を醸し出していた。

 部屋の両脇には軍服姿の騎士が帯刀して等間隔に並び、好意的とはいえない目線の大勢の貴族達が正装でヒソヒソと話していた。

「あれが?」
「ベルスペ⋯⋯教会⋯⋯」
「神罰を下すべきは⋯⋯」


 突き刺さるような視線の中、リチャード王子を先頭に胸を張って玉座の前まで進んで行った。

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