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77. 皇帝ディラン・サルドニアとジャクソン皇太子
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肘掛けにもたれ悠然とした態度で玉座に座っているのはサルドニア帝国皇帝ディラン・サルドニア。濃いオレンジ色に輝く長髪を後ろに流し退屈そうに細めた目で睥睨する表情には明らかな侮蔑が含まれている。黄土色に小花とカルトゥーシュを織りだした紋織ベルベットのコートには凝った刺繍と宝石が散りばめられ複雑に結ばれたクラバットには巨大なエメラルドが飾られていた。
皇帝の左隣に立つジャクソン皇太子はくすんだ水色で派手な袖口飾りのアビ・ア・ラ・フランセーズ。つま先の尖った靴で気取ったポーズで立つ皇太子はリチャード王子と並んだアリエノールを無遠慮に眺め回していた。
玉座より一段下がった場所に立っている宰相は焦茶色のアビ・ア・ラ・フランセーズで、最近流行りの細身のコートと金糸で刺繍された派手な白いウエストコートを纏っている。
粘着くような視線と歪んだ口元で隣に立つ宰相に何事かを囁いているのは白地に金と赤の装飾の祭服を纏った大司教。金色に輝くミトラを被り先端が曲がったゼンマイのような形のバクルスを手にしている。
「遠路はるばるよう参られた」
「偉大なるサルドニア帝国皇帝陛下のご尊顔を拝し恐悦至極でございます。今日の良き日を迎えられたことが両国の行く末にとって幸多いものとなることを願っております」
「長年両国の間を隔てる事になった歴史は我が国にとっても国教であるイーバリス教会にとっても根本を揺るがす程の非常に悲しい出来事であった。
奪われた至宝が正しき者の手に戻ることを心から嬉しく思うておる」
強引な手腕と軍事力の強化で領土を広げ続けている皇帝は、実際に相対してみると想像以上の威圧感で歴代最強と言われるのももっともだと思える迫力だった。
「我が国の一部の貴族の凶行を正すことができた事、教会から奪われた宝物を発見出来た事を我らも喜ばしく思っております」
「神殿の襲撃から今日の日までに300年もかかるとはベルスペクト王国は随分とのんびりしておられる。イーバリス教会の苦境は気にならなんだようですなあ」
大司教がドンっとバクルスで床を叩き嫌味ったらしい口調でリチャード王子を睨め付けた。
「300年⋯⋯無能と言われても仕方ありませんな」
「王家は貴族の統括もできておらんのでは」
「イーバリス教を馬鹿にしておる」
「そのせいで儀式が!」
「よくも平然と立っていられるものだ!」
「恥を知れ!!」
大司教の言葉に続いて一斉に騒ぎ出した貴族達の声はどんどん大きくなり、広い謁見室に響き渡る罵声で収拾がつかなくなりつつあった。
「静まれ! 帝国の貴族は野蛮だと、余の前で礼節さえ守れぬ愚か者達だと思われたいか!!」
低く響いた皇帝の声に興奮していた貴族達が黙り込んだ。
「皇帝陛下、ここに臨席しておられる方々は皆我が教会が受けた辱めを憂い心を痛めておられたのです。聖女の儀式の重要性を承知しておられたが為に一日も早い解決を望んでおられた故、怒りの気持ちが抑えられぬのです」
貴族の罵声を聞いた大司教がニヤリと笑うのを見たセアラ達はこれが茶番だと気付いた。皇帝の言葉や大司教の台詞を受けて貴族達が騒ぎはじめたのはあらかじめ決められた流れだったのだろう。
(帝国と教会にとっての予定調和って事ね。
王国側に非がある事を騒ぎ立てて必要以上に追い詰める。この後の会議を有利に進めるためのお芝居みたいなものかしら)
「この場で何を申し上げたとしても言い訳にしか聞こえないでしょうが、我等もただ手をこまねいていたわけではないのです。
問題解決までに長い時間を要した事は事実ですし、問題を起こした貴族が我が国のものであった事も間違いない。
その事は深く謝罪したいと思っております」
「それについてはまた場を改めて話し合いましょう。我が教会としては以前通りに儀式が行われるようになるのであれば多くは望んでおりません」
「⋯⋯寛大なお言葉感謝いたします」
含みのある大司教の言葉にリチャード王子達はほぞを噛んだ。
教会の狙いはやはり『儀式の成功』
儀式が不首尾に終わった時、教会や帝国は一体何を言い出すのか。リチャード王子達は肩にかかる責任の重さに恐怖で肌が泡立つ思いをしていた。
「アリエノール第一王女殿下の評判は国交のない我が国にも届いていますが、こうして直にお会いしてみると噂以上にお美しい。
明日の晩餐会には参加して下さるのでしょう? 両国の架け橋となれるよう是非とも親交を深めたいものですね」
このような公の場で言い出すような内容ではないにも関わらず、騒ぎの中高慢な目つきで尊大に構えていたジャクソン皇太子が陰湿な笑いを浮かべアリエノールに向けて声をかけた。
「勿体ないお言葉痛み入ります。皇太子殿下より晩餐会へ招待していただき急遽使節団に参加させて頂く事になりましたが、この度の訪問で文化の違いなど知ることができればと楽しみにしております」
アリエノールが優雅な仕草で嫌味入りの挨拶をするとジャクソン皇太子が顔を引き攣らせた。
「急な誘いで申し訳なかったと⋯⋯」
「いえ、我が国との文化交流を望んでくださった皇太子殿下のお心遣いに感謝しております。自国に戻りました後にはこの国で見聞きした事を正しく伝えられるよう精進したいと思っております」
皇太子がどんな狙いでアリエノール達を強制参加させたのだとしても皇太子の目付きが示しているような下賎な扱いをされるつもりはない事をアリエノールは優雅で気品溢れる物腰で明確に示した。
「⋯⋯この国を知れば予定を変更したいと思われるかも知れませんしね」
「我が妹達は帰国した後の予定が詰まっておりますので、残念ながら予定を変更する事はできかねるかと」
謁見が終わり逗留する部屋に案内される事になった。リチャード王子とアリエノールの部屋は南棟の三階にある貴賓室でウルリカはその部屋から二つ離れた客室に案内された。
セアラの部屋は同じ南棟ではあったが一つ下の階の一番端の部屋でアリエノール達の部屋とは随分距離があった。
不安になりつつ案内された部屋の前にルークともう一人の護衛が既に立ちセアラの帰りを待っているのを見つけたセアラは宮殿について初めて肩の力が抜けた気がした。
皇帝の左隣に立つジャクソン皇太子はくすんだ水色で派手な袖口飾りのアビ・ア・ラ・フランセーズ。つま先の尖った靴で気取ったポーズで立つ皇太子はリチャード王子と並んだアリエノールを無遠慮に眺め回していた。
玉座より一段下がった場所に立っている宰相は焦茶色のアビ・ア・ラ・フランセーズで、最近流行りの細身のコートと金糸で刺繍された派手な白いウエストコートを纏っている。
粘着くような視線と歪んだ口元で隣に立つ宰相に何事かを囁いているのは白地に金と赤の装飾の祭服を纏った大司教。金色に輝くミトラを被り先端が曲がったゼンマイのような形のバクルスを手にしている。
「遠路はるばるよう参られた」
「偉大なるサルドニア帝国皇帝陛下のご尊顔を拝し恐悦至極でございます。今日の良き日を迎えられたことが両国の行く末にとって幸多いものとなることを願っております」
「長年両国の間を隔てる事になった歴史は我が国にとっても国教であるイーバリス教会にとっても根本を揺るがす程の非常に悲しい出来事であった。
奪われた至宝が正しき者の手に戻ることを心から嬉しく思うておる」
強引な手腕と軍事力の強化で領土を広げ続けている皇帝は、実際に相対してみると想像以上の威圧感で歴代最強と言われるのももっともだと思える迫力だった。
「我が国の一部の貴族の凶行を正すことができた事、教会から奪われた宝物を発見出来た事を我らも喜ばしく思っております」
「神殿の襲撃から今日の日までに300年もかかるとはベルスペクト王国は随分とのんびりしておられる。イーバリス教会の苦境は気にならなんだようですなあ」
大司教がドンっとバクルスで床を叩き嫌味ったらしい口調でリチャード王子を睨め付けた。
「300年⋯⋯無能と言われても仕方ありませんな」
「王家は貴族の統括もできておらんのでは」
「イーバリス教を馬鹿にしておる」
「そのせいで儀式が!」
「よくも平然と立っていられるものだ!」
「恥を知れ!!」
大司教の言葉に続いて一斉に騒ぎ出した貴族達の声はどんどん大きくなり、広い謁見室に響き渡る罵声で収拾がつかなくなりつつあった。
「静まれ! 帝国の貴族は野蛮だと、余の前で礼節さえ守れぬ愚か者達だと思われたいか!!」
低く響いた皇帝の声に興奮していた貴族達が黙り込んだ。
「皇帝陛下、ここに臨席しておられる方々は皆我が教会が受けた辱めを憂い心を痛めておられたのです。聖女の儀式の重要性を承知しておられたが為に一日も早い解決を望んでおられた故、怒りの気持ちが抑えられぬのです」
貴族の罵声を聞いた大司教がニヤリと笑うのを見たセアラ達はこれが茶番だと気付いた。皇帝の言葉や大司教の台詞を受けて貴族達が騒ぎはじめたのはあらかじめ決められた流れだったのだろう。
(帝国と教会にとっての予定調和って事ね。
王国側に非がある事を騒ぎ立てて必要以上に追い詰める。この後の会議を有利に進めるためのお芝居みたいなものかしら)
「この場で何を申し上げたとしても言い訳にしか聞こえないでしょうが、我等もただ手をこまねいていたわけではないのです。
問題解決までに長い時間を要した事は事実ですし、問題を起こした貴族が我が国のものであった事も間違いない。
その事は深く謝罪したいと思っております」
「それについてはまた場を改めて話し合いましょう。我が教会としては以前通りに儀式が行われるようになるのであれば多くは望んでおりません」
「⋯⋯寛大なお言葉感謝いたします」
含みのある大司教の言葉にリチャード王子達はほぞを噛んだ。
教会の狙いはやはり『儀式の成功』
儀式が不首尾に終わった時、教会や帝国は一体何を言い出すのか。リチャード王子達は肩にかかる責任の重さに恐怖で肌が泡立つ思いをしていた。
「アリエノール第一王女殿下の評判は国交のない我が国にも届いていますが、こうして直にお会いしてみると噂以上にお美しい。
明日の晩餐会には参加して下さるのでしょう? 両国の架け橋となれるよう是非とも親交を深めたいものですね」
このような公の場で言い出すような内容ではないにも関わらず、騒ぎの中高慢な目つきで尊大に構えていたジャクソン皇太子が陰湿な笑いを浮かべアリエノールに向けて声をかけた。
「勿体ないお言葉痛み入ります。皇太子殿下より晩餐会へ招待していただき急遽使節団に参加させて頂く事になりましたが、この度の訪問で文化の違いなど知ることができればと楽しみにしております」
アリエノールが優雅な仕草で嫌味入りの挨拶をするとジャクソン皇太子が顔を引き攣らせた。
「急な誘いで申し訳なかったと⋯⋯」
「いえ、我が国との文化交流を望んでくださった皇太子殿下のお心遣いに感謝しております。自国に戻りました後にはこの国で見聞きした事を正しく伝えられるよう精進したいと思っております」
皇太子がどんな狙いでアリエノール達を強制参加させたのだとしても皇太子の目付きが示しているような下賎な扱いをされるつもりはない事をアリエノールは優雅で気品溢れる物腰で明確に示した。
「⋯⋯この国を知れば予定を変更したいと思われるかも知れませんしね」
「我が妹達は帰国した後の予定が詰まっておりますので、残念ながら予定を変更する事はできかねるかと」
謁見が終わり逗留する部屋に案内される事になった。リチャード王子とアリエノールの部屋は南棟の三階にある貴賓室でウルリカはその部屋から二つ離れた客室に案内された。
セアラの部屋は同じ南棟ではあったが一つ下の階の一番端の部屋でアリエノール達の部屋とは随分距離があった。
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