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79.狂信者の妄想
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小さく開いたドアの隙間からメアリーアンがルークと話す声が聞こえてきたが、メアリーアンの後ろ姿から緊張感が伝わってくる。
「セアラ様、大司教がお見えです。いかが致しましょうか」
「えっ? 仕方ないわね、お通ししてちょうだい」
衣装部屋を指差してイリスに隠れるよう指示を出したセアラはソファの横に立ち胸を張った。
(思ったより早い動きだわ)
大司教は謁見の間で見た時と同じ祭服のままでバクルスを手に持っている。
「長旅でお疲れのところ誠に申し訳ない。セアラ嬢にお会いできる日を指折り数えておりましたのでな、気の短い年寄りのわがままと寛大な気持ちでお許し下され」
謁見の間とは違って異様に低姿勢な大司教に警戒心が高まった。
「わたくしのような者に態々会いに来られるなど恐れ多い事でございます。どのようなご用件かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「おお、そのようにご謙遜なさらずとも⋯⋯此度の件で一番の功労者が誰か、この年寄りでも存じております」
「王家の方々や志を同じくする方達全員の努力の結果でございます。わたくしはそのお手伝いをほんの少しばかりさせて頂いただけでございます」
「その謙虚さ! それこそが今のイーバリス教会に最も必要とされる資質!
我が教会は強大になるに従い権力を求める者ばかりが力を持ち、聖女信仰よりも政治や軍事にかまける者達が幅を利かせるようになってしまいましたのじゃ。
ワシはそれを憂ております。セアラ嬢のような崇高な御方を頭に頂くことが出来れば、初心に立ち戻ることも出来るのではないかと考えております」
「申し訳ございませんが、仰っておられる事の意味が分かりかねます」
聖女になれと言っているのは分かったがセアラは意味が分からないふりをして時間を稼ごうとした。
(どう言うつもりでそんな事を言い出したの?)
マーシャル夫人の話から考えても目の前の大司教が真面な考えの人には思えない。教義の為ならなんでも出来る狂信者か、人の命をなんとも思っていない殺戮者。
「明日、旧神殿をご覧になればお分かりいただけるはず。あれは誠に素晴らしい神殿でありましたのじゃ。神と聖女を結び我々に叡智を与えるのは旧神殿でしか叶わぬ事でありました。
公にはされておりませんが、新しく建立された神殿では聖女に本物の神託が降りた事は一度もないのです。当然の事ではありますがな」
「そのような大切なお話をわたくしなどが聞いてはならないと思います。どうかお話はここまでにして頂けますでしょうか?」
(聖女に神託がある⋯⋯神の声が聞こえるなんてただの眉唾。新神殿であろうと旧神殿であろうと有り得ないわ)
「セアラ嬢にこそ聞いていただかねばなりませんのじゃ。明日の旧神殿の視察の時、わしの言葉を念頭においていて下されば全てがわかりましょうぞ。
わしは神の啓示を受けてここに⋯⋯セアラ嬢に会いに参りましたでな」
大司教の目つきが阿るような探るようなものから狂信者のそれに変わっていった。
「皇太子は以前からアリエノール様を狙っておられましてな、皇帝もそれを了承しておられる。
そこで、この旅で儀式の失敗を理由にリチャード王子殿下を拘束し、開戦か全面降伏かを迫るおつもりじゃ。
皇帝は無駄な費用も手間もかけずに領土を広げられる。皇太子は王国の美姫を手に入れて思いのままに出来ると言う算段を立てておいでなのです」
「王国を属国とした後にリチャード殿下を解放し、アリエノール様を皇太子妃として体裁を整えると言う事ですか?」
「流石セアラ様じゃ、ご理解が早い。その下準備として兵の配備やその他の計画は既に終わっておりますのでな、今から王国に早馬を飛ばし準備をはじめたとしても間に合いますまい」
「イーバリス教会の発展は帝国の拡大と密接に繋がっているように思っておりました。大司教様のお話が真実なら、そのような大切な事を何故わたくしなどにお話になられるのでしょう?」
暗に『イーバリス教会は帝国の犬の癖に⋯⋯』と嫌味を言うセアラ。
「確かに、イーバリス教会は帝国の歴代の皇帝達の意のままにされておりました。イーバリス教会の資本は帝国が拡大する為に利用され、聖女達は帝国の為になる神託を口にし信者達の思想を操作してきた。
聖女は皇帝の血縁者から選ばれるか血縁者と強制的に縁を結ばされる。
そのような事があってはならんのだ! 聖女はイーバリス教会の物! もう二度と帝国の広告塔にはさせん!!」
興奮し真っ赤な顔になった大司教はテーブルに手を打ち付けて怒鳴っている。目の前にセアラがいる事もメアリーアン達が聞いている事も忘れて自分の世界に嵌まり込んでいた。
「今、だからこそのセアラ様じゃ。真の聖女であらせられるセアラ様が降臨なされたは神の啓示に他ならん! 帝国の支配から抜け出し、イーバリス教会の特異性を世に知らしめねば!! イーバリスは帝国の下僕ではござらん、帝国こそがイーバリスの下僕なのじゃ!!」
目を血走らせ唾を飛ばしながら一人の世界で滔々と語っていた大司教がフッと我に返った。
「驚かせてしもうたようですな。じゃが、セアラ様が真の聖女であるとお告げをいただいてわしは全てを知ったのです。神はイーバリス教会を帝国から引き離せと申しておられるのだと」
粘着く大司教の目が顔を引き攣らせたセアラを凝視した。
「セアラ様、大司教がお見えです。いかが致しましょうか」
「えっ? 仕方ないわね、お通ししてちょうだい」
衣装部屋を指差してイリスに隠れるよう指示を出したセアラはソファの横に立ち胸を張った。
(思ったより早い動きだわ)
大司教は謁見の間で見た時と同じ祭服のままでバクルスを手に持っている。
「長旅でお疲れのところ誠に申し訳ない。セアラ嬢にお会いできる日を指折り数えておりましたのでな、気の短い年寄りのわがままと寛大な気持ちでお許し下され」
謁見の間とは違って異様に低姿勢な大司教に警戒心が高まった。
「わたくしのような者に態々会いに来られるなど恐れ多い事でございます。どのようなご用件かお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「おお、そのようにご謙遜なさらずとも⋯⋯此度の件で一番の功労者が誰か、この年寄りでも存じております」
「王家の方々や志を同じくする方達全員の努力の結果でございます。わたくしはそのお手伝いをほんの少しばかりさせて頂いただけでございます」
「その謙虚さ! それこそが今のイーバリス教会に最も必要とされる資質!
我が教会は強大になるに従い権力を求める者ばかりが力を持ち、聖女信仰よりも政治や軍事にかまける者達が幅を利かせるようになってしまいましたのじゃ。
ワシはそれを憂ております。セアラ嬢のような崇高な御方を頭に頂くことが出来れば、初心に立ち戻ることも出来るのではないかと考えております」
「申し訳ございませんが、仰っておられる事の意味が分かりかねます」
聖女になれと言っているのは分かったがセアラは意味が分からないふりをして時間を稼ごうとした。
(どう言うつもりでそんな事を言い出したの?)
マーシャル夫人の話から考えても目の前の大司教が真面な考えの人には思えない。教義の為ならなんでも出来る狂信者か、人の命をなんとも思っていない殺戮者。
「明日、旧神殿をご覧になればお分かりいただけるはず。あれは誠に素晴らしい神殿でありましたのじゃ。神と聖女を結び我々に叡智を与えるのは旧神殿でしか叶わぬ事でありました。
公にはされておりませんが、新しく建立された神殿では聖女に本物の神託が降りた事は一度もないのです。当然の事ではありますがな」
「そのような大切なお話をわたくしなどが聞いてはならないと思います。どうかお話はここまでにして頂けますでしょうか?」
(聖女に神託がある⋯⋯神の声が聞こえるなんてただの眉唾。新神殿であろうと旧神殿であろうと有り得ないわ)
「セアラ嬢にこそ聞いていただかねばなりませんのじゃ。明日の旧神殿の視察の時、わしの言葉を念頭においていて下されば全てがわかりましょうぞ。
わしは神の啓示を受けてここに⋯⋯セアラ嬢に会いに参りましたでな」
大司教の目つきが阿るような探るようなものから狂信者のそれに変わっていった。
「皇太子は以前からアリエノール様を狙っておられましてな、皇帝もそれを了承しておられる。
そこで、この旅で儀式の失敗を理由にリチャード王子殿下を拘束し、開戦か全面降伏かを迫るおつもりじゃ。
皇帝は無駄な費用も手間もかけずに領土を広げられる。皇太子は王国の美姫を手に入れて思いのままに出来ると言う算段を立てておいでなのです」
「王国を属国とした後にリチャード殿下を解放し、アリエノール様を皇太子妃として体裁を整えると言う事ですか?」
「流石セアラ様じゃ、ご理解が早い。その下準備として兵の配備やその他の計画は既に終わっておりますのでな、今から王国に早馬を飛ばし準備をはじめたとしても間に合いますまい」
「イーバリス教会の発展は帝国の拡大と密接に繋がっているように思っておりました。大司教様のお話が真実なら、そのような大切な事を何故わたくしなどにお話になられるのでしょう?」
暗に『イーバリス教会は帝国の犬の癖に⋯⋯』と嫌味を言うセアラ。
「確かに、イーバリス教会は帝国の歴代の皇帝達の意のままにされておりました。イーバリス教会の資本は帝国が拡大する為に利用され、聖女達は帝国の為になる神託を口にし信者達の思想を操作してきた。
聖女は皇帝の血縁者から選ばれるか血縁者と強制的に縁を結ばされる。
そのような事があってはならんのだ! 聖女はイーバリス教会の物! もう二度と帝国の広告塔にはさせん!!」
興奮し真っ赤な顔になった大司教はテーブルに手を打ち付けて怒鳴っている。目の前にセアラがいる事もメアリーアン達が聞いている事も忘れて自分の世界に嵌まり込んでいた。
「今、だからこそのセアラ様じゃ。真の聖女であらせられるセアラ様が降臨なされたは神の啓示に他ならん! 帝国の支配から抜け出し、イーバリス教会の特異性を世に知らしめねば!! イーバリスは帝国の下僕ではござらん、帝国こそがイーバリスの下僕なのじゃ!!」
目を血走らせ唾を飛ばしながら一人の世界で滔々と語っていた大司教がフッと我に返った。
「驚かせてしもうたようですな。じゃが、セアラ様が真の聖女であるとお告げをいただいてわしは全てを知ったのです。神はイーバリス教会を帝国から引き離せと申しておられるのだと」
粘着く大司教の目が顔を引き攣らせたセアラを凝視した。
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