【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね

との

文字の大きさ
79 / 93

79.狂信者の妄想

しおりを挟む
 小さく開いたドアの隙間からメアリーアンがルークと話す声が聞こえてきたが、メアリーアンの後ろ姿から緊張感が伝わってくる。

「セアラ様、大司教がお見えです。いかが致しましょうか」

「えっ? 仕方ないわね、お通ししてちょうだい」

 衣装部屋を指差してイリスに隠れるよう指示を出したセアラはソファの横に立ち胸を張った。

(思ったより早い動きだわ)


 大司教は謁見の間で見た時と同じ祭服のままでバクルス司教杖を手に持っている。

「長旅でお疲れのところ誠に申し訳ない。セアラ嬢にお会いできる日を指折り数えておりましたのでな、気の短い年寄りのわがままと寛大な気持ちでお許し下され」

 謁見の間とは違って異様に低姿勢な大司教に警戒心が高まった。

「わたくしのような者に態々会いに来られるなど恐れ多い事でございます。どのようなご用件かお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「おお、そのようにご謙遜なさらずとも⋯⋯此度の件で一番の功労者が誰か、この年寄りでも存じております」

「王家の方々や志を同じくする方達全員の努力の結果でございます。わたくしはそのお手伝いをほんの少しばかりさせて頂いただけでございます」

「その謙虚さ! それこそが今のイーバリス教会に最も必要とされる資質!
我が教会は強大になるに従い権力を求める者ばかりが力を持ち、聖女信仰よりも政治や軍事にかまける者達が幅を利かせるようになってしまいましたのじゃ。
ワシはそれを憂ております。セアラ嬢のような崇高な御方を頭に頂くことが出来れば、初心に立ち戻ることも出来るのではないかと考えております」

「申し訳ございませんが、仰っておられる事の意味が分かりかねます」

 聖女になれと言っているのは分かったがセアラは意味が分からないふりをして時間を稼ごうとした。

(どう言うつもりでそんな事を言い出したの?)

 マーシャル夫人の話から考えても目の前の大司教が真面な考えの人には思えない。教義の為ならなんでも出来る狂信者か、人の命をなんとも思っていない殺戮者。

「明日、旧神殿をご覧になればお分かりいただけるはず。あれは誠に素晴らしい神殿でありましたのじゃ。神と聖女を結び我々に叡智を与えるのは旧神殿でしか叶わぬ事でありました。
公にはされておりませんが、新しく建立された神殿では聖女に本物の神託が降りた事は一度もないのです。当然の事ではありますがな」

「そのような大切なお話をわたくしなどが聞いてはならないと思います。どうかお話はここまでにして頂けますでしょうか?」

(聖女に神託がある⋯⋯神の声が聞こえるなんてただの眉唾。新神殿であろうと旧神殿であろうと有り得ないわ)


「セアラ嬢にこそ聞いていただかねばなりませんのじゃ。明日の旧神殿の視察の時、わしの言葉を念頭においていて下されば全てがわかりましょうぞ。
わしは神の啓示を受けてここに⋯⋯セアラ嬢に会いに参りましたでな」

 大司教の目つきが阿るような探るようなものから狂信者のそれに変わっていった。

「皇太子は以前からアリエノール様を狙っておられましてな、皇帝もそれを了承しておられる。
そこで、この旅で儀式の失敗を理由にリチャード王子殿下を拘束し、開戦か全面降伏かを迫るおつもりじゃ。
皇帝は無駄な費用も手間もかけずに領土を広げられる。皇太子は王国の美姫を手に入れて思いのままに出来ると言う算段を立てておいでなのです」

「王国を属国とした後にリチャード殿下を解放し、アリエノール様を皇太子妃として体裁を整えると言う事ですか?」

「流石セアラ様じゃ、ご理解が早い。その下準備として兵の配備やその他の計画は既に終わっておりますのでな、今から王国に早馬を飛ばし準備をはじめたとしても間に合いますまい」

「イーバリス教会の発展は帝国の拡大と密接に繋がっているように思っておりました。大司教様のお話が真実なら、そのような大切な事を何故わたくしなどにお話になられるのでしょう?」

 暗に『イーバリス教会は帝国の犬の癖に⋯⋯』と嫌味を言うセアラ。

「確かに、イーバリス教会は帝国の歴代の皇帝達の意のままにされておりました。イーバリス教会の資本は帝国が拡大する為に利用され、聖女達は帝国の為になる神託を口にし信者達の思想を操作してきた。
聖女は皇帝の血縁者から選ばれるか血縁者と強制的に縁を結ばされる。
そのような事があってはならんのだ! 聖女はイーバリス教会の物! もう二度と帝国の広告塔にはさせん!!」

 興奮し真っ赤な顔になった大司教はテーブルに手を打ち付けて怒鳴っている。目の前にセアラがいる事もメアリーアン達が聞いている事も忘れて自分の世界に嵌まり込んでいた。

「今、だからこそのセアラ様じゃ。真の聖女であらせられるセアラ様が降臨なされたは神の啓示に他ならん! 帝国の支配から抜け出し、イーバリス教会の特異性を世に知らしめねば!! イーバリスは帝国の下僕ではござらん、帝国こそがイーバリスの下僕なのじゃ!!」

 目を血走らせ唾を飛ばしながら一人の世界で滔々と語っていた大司教がフッと我に返った。

「驚かせてしもうたようですな。じゃが、セアラ様が真の聖女であるとお告げをいただいてわしは全てを知ったのです。神はイーバリス教会を帝国から引き離せと申しておられるのだと」


 粘着く大司教の目が顔を引き攣らせたセアラを凝視した。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。

木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。 本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。 しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。 特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。 せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。 そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。 幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。 こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。 ※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)

婚約破棄された悪役令嬢、実は最強聖女でした〜辺境で拾った彼に一途に愛され、元婚約者が泣きついてきてももう遅い〜

usako
恋愛
王太子の婚約者でありながら「悪女」と呼ばれ婚約破棄された公爵令嬢リディア。 国外追放されたその日、命を救ってくれたのは無骨な騎士ルークだった。 彼に導かれた辺境の地で、本来の力――“聖女”としての奇跡が目覚める。 新たな人生を歩み始めた矢先、かつて自分を貶めた王太子が後悔とともに現れるが……。 もう遅い。彼女は真の愛を知ってしまったから――。 ざまぁと溺愛が交錯する、爽快逆転ラブファンタジー。

処理中です...