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84.新しい神殿を覗いてみた
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聖女と聖職者しか足を踏み入れることができない聖女聖堂は開かれた入り口に敷かれた絨毯の上から参拝する事しかできない。
天井のドームには神と天使のモザイク画がいくつも描かれており中央聖堂と同じように床を照らしている。聖堂の正面奥にはイーバリス教会が信奉する神の像が建立されている。
「ドーム下の中央に膝をついた聖女が祈ると手元から光が神の像に当たる。それを合図に神託が降りるのよね。どう思う?」
「ああ、聖女跪く位置は⋯⋯あれかな、床の星の中央?」
「多分そうだと思う。決まった位置があるとすれば他にはなさそうだもの」
「神託を聞く人たちはどこにいるのかしら?」
「あんまり近くだと拙いだろうからこの場所にいるんじゃないか?」
セアラとルークが立っている入り口からならば聖女と光ははっきりと見えるが声はくぐもってしか聞こえないだろう。
「後は明日だな。少し外を見てから帰ろう」
セアラがイリスと合流して中央聖堂のモザイク画を堪能しているとルークが戻ってきた。
「じゃあ、少し早いけど大通りに戻りましょう。イリスが気になってた絨毯を見に行けそうね」
「やったあ。あれ、絶対居間にピッタリだと思うんだ。セアラの部屋でも良いかも」
「え? 新居に私専用の部屋があるの?」
「当然でしょ?」
えっへんと胸を張ったイリスがライルと話している予定を説明しはじめた。
「次の長期のお休みにはまず最初にセアラの部屋に置く家具の相談をしようって言ってるの」
「え~、2人の愛の巣でしょ~。当分お邪魔はしたくないなぁ」
「ばっ、馬鹿言わないでよね」
イリスが真っ赤な顔でセアラをバシバシと叩いた。
大通りで時間を潰していると罰の悪そうな顔の監視役達がやって来た。
(結構早いなぁ⋯⋯上司に叱られたかな)
「ここにおられたんですね。少し早いんですが我々もご一緒して宜しいでしょうか?」
「勿論です。あちこち見て回って少し疲れたね、なんて言っていたところなんです。どこかいいお店があればお茶したいかなぁって思うんですけど⋯⋯」
「ああ、だったらセーライの店に行きましょう。ちょっと変わったコーヒーを出す店なんですよ」
「え? ターキッシュ・コーヒーではないんですか?」
「ええ、ドリップ式と言うそうです」
(煮出すのではなくブリキ職人が発明した濾してだすコーヒーだよね。作り方がわかれば王国でも作れるかな⋯⋯)
「帝国は珍しいものが多くて楽しみです。さっき見てた絨毯もすごく丁寧な仕上げで」
「もしかしてコーセルの作品かも。あれは⋯⋯」
セアラの関心を引きたいのか監視役は完全に親切な案内役と化していた。
「ここのところ手入れだの確認だのに時間がかかって街に繰り出す暇がなかったしなあ」
「ああ、帝国はいつもだけど今回の準備はちょっと時間がかかったから」
「そうなんですか、お仕事って大変ですね」
(やっぱり戦争の準備って事かな?)
「では、皆さんはまだ学生なんですね」
「ええ、まだ暫くは呑気な学生ですね」
その後は帝国と王国の学園生活の違いで盛り上がり、すっかり意気投合したルークと監視役達。時間があればいつか手合わせしようと固く握手しているのを見た時は笑いを堪えるのが大変だった。
「国同士は揉めていても人と人は変わらないのね。なんだかホッとしたわ」
イーバリス教会の信者はみんな王国の人を毛嫌いしていると思い込んでいた。
「うん、人それぞれなんだから『みんな』なんて一括りにしちゃいけないよね。ライルとあちこちいってた時もいい人も沢山いたもんね」
「戦争なんて起こらないよう頑張らなくちゃ」
王城に戻るとすぐにリチャード王子がアリエノールやウルリカと一緒にやって来た。
「王都は楽しめたかい?」
「ええ、多国籍の人たちが色々なお店を開いていてとても勉強になりました」
「そうか、それは良かった」
はぁっと溜息をついたリチャードは会議が思いのほか上手くいったようで表情が明るい。
「セアラの情報のお陰だよ。教会はなんとかケチをつけたいと思ってたみたいだけど、現状で問題なしになったんだ」
小さな傷や軽微な破損を教会側の担当者はついてきたそうだが、リチャード達はセアラ達が捏造した襲撃直後の資料を元に話を進めていった。
その結果古い傷については元々あったものなのか襲撃時についたものなのか判別できない上、経年劣化と見なしても良いとなった。折れたバクルスは当時のままだと認めさせることもできた。
「取り敢えず最初の山は乗り越えたって感じだけど、一番の問題は明日だよな」
「現在の聖女が儀式を行うのを見学するんでしたわね。どのような手順なのかお聞きになった?」
「いや、その辺は秘儀だからって⋯⋯勿体ぶってたよ。聖女の聖堂は立ち入り禁止だから入り口から見学しろってさ」
「あまり近くに来られては誤魔化しが効かないからではありませんか?」
「多分そうだと思う。何百年もの間一体どうやって誤魔化してきたのか想像もつかないが⋯⋯どうせ、宝物があっても儀式が上手くいかないって騒ぐつもりだろうし。
教会の奴等をどうやって納得させるかだよな」
「悪魔の証明ですから」
悪魔の証明⋯⋯証明することが不可能か非常に困難な事象を悪魔に例えたものをいうが、今回はまさにそのそれに当たる。
「聖女が『何も聞こえない』って言ったらアウト。その時の言い訳を考えてはいるんだが」
「どう考えてますの?」
「昔は聞こえてたと言うのを証明できるのかって議論しようと思ってる」
「まあ、それしか出来ませんわよね」
「宝物の真偽は今日、教会が確認したのですからあとの責任はこちらにはないと突っぱねるしか方法はないでしょう」
今日の夜は親睦を兼ねたパーティーが開かれる。その時聖女候補のエディスに会う事になる。
「皇太子殿下の態度から考えて、14歳と言うと微妙な年齢ですから十分に気をつけて下さい」
大人にはなりきれていないが聖女や皇太子妃と言う役柄の意味は理解できる年齢なので、ウルリカの言うようにエディスがアリエノールに敵対心を持っている可能性がある。
「この国では聖女に選ばれるのは皇太子妃になるのと同じくらい名誉な事のようですから、皇太子殿下が今朝のような言動をしておられるならかなり危険な状態だと思います」
「娘が聖女になると思っている侯爵家も要注意ですね」
全員の意見が一致し、今夜はエディスとその家族からアリエノールを守ることを最優先にすると決まった。
天井のドームには神と天使のモザイク画がいくつも描かれており中央聖堂と同じように床を照らしている。聖堂の正面奥にはイーバリス教会が信奉する神の像が建立されている。
「ドーム下の中央に膝をついた聖女が祈ると手元から光が神の像に当たる。それを合図に神託が降りるのよね。どう思う?」
「ああ、聖女跪く位置は⋯⋯あれかな、床の星の中央?」
「多分そうだと思う。決まった位置があるとすれば他にはなさそうだもの」
「神託を聞く人たちはどこにいるのかしら?」
「あんまり近くだと拙いだろうからこの場所にいるんじゃないか?」
セアラとルークが立っている入り口からならば聖女と光ははっきりと見えるが声はくぐもってしか聞こえないだろう。
「後は明日だな。少し外を見てから帰ろう」
セアラがイリスと合流して中央聖堂のモザイク画を堪能しているとルークが戻ってきた。
「じゃあ、少し早いけど大通りに戻りましょう。イリスが気になってた絨毯を見に行けそうね」
「やったあ。あれ、絶対居間にピッタリだと思うんだ。セアラの部屋でも良いかも」
「え? 新居に私専用の部屋があるの?」
「当然でしょ?」
えっへんと胸を張ったイリスがライルと話している予定を説明しはじめた。
「次の長期のお休みにはまず最初にセアラの部屋に置く家具の相談をしようって言ってるの」
「え~、2人の愛の巣でしょ~。当分お邪魔はしたくないなぁ」
「ばっ、馬鹿言わないでよね」
イリスが真っ赤な顔でセアラをバシバシと叩いた。
大通りで時間を潰していると罰の悪そうな顔の監視役達がやって来た。
(結構早いなぁ⋯⋯上司に叱られたかな)
「ここにおられたんですね。少し早いんですが我々もご一緒して宜しいでしょうか?」
「勿論です。あちこち見て回って少し疲れたね、なんて言っていたところなんです。どこかいいお店があればお茶したいかなぁって思うんですけど⋯⋯」
「ああ、だったらセーライの店に行きましょう。ちょっと変わったコーヒーを出す店なんですよ」
「え? ターキッシュ・コーヒーではないんですか?」
「ええ、ドリップ式と言うそうです」
(煮出すのではなくブリキ職人が発明した濾してだすコーヒーだよね。作り方がわかれば王国でも作れるかな⋯⋯)
「帝国は珍しいものが多くて楽しみです。さっき見てた絨毯もすごく丁寧な仕上げで」
「もしかしてコーセルの作品かも。あれは⋯⋯」
セアラの関心を引きたいのか監視役は完全に親切な案内役と化していた。
「ここのところ手入れだの確認だのに時間がかかって街に繰り出す暇がなかったしなあ」
「ああ、帝国はいつもだけど今回の準備はちょっと時間がかかったから」
「そうなんですか、お仕事って大変ですね」
(やっぱり戦争の準備って事かな?)
「では、皆さんはまだ学生なんですね」
「ええ、まだ暫くは呑気な学生ですね」
その後は帝国と王国の学園生活の違いで盛り上がり、すっかり意気投合したルークと監視役達。時間があればいつか手合わせしようと固く握手しているのを見た時は笑いを堪えるのが大変だった。
「国同士は揉めていても人と人は変わらないのね。なんだかホッとしたわ」
イーバリス教会の信者はみんな王国の人を毛嫌いしていると思い込んでいた。
「うん、人それぞれなんだから『みんな』なんて一括りにしちゃいけないよね。ライルとあちこちいってた時もいい人も沢山いたもんね」
「戦争なんて起こらないよう頑張らなくちゃ」
王城に戻るとすぐにリチャード王子がアリエノールやウルリカと一緒にやって来た。
「王都は楽しめたかい?」
「ええ、多国籍の人たちが色々なお店を開いていてとても勉強になりました」
「そうか、それは良かった」
はぁっと溜息をついたリチャードは会議が思いのほか上手くいったようで表情が明るい。
「セアラの情報のお陰だよ。教会はなんとかケチをつけたいと思ってたみたいだけど、現状で問題なしになったんだ」
小さな傷や軽微な破損を教会側の担当者はついてきたそうだが、リチャード達はセアラ達が捏造した襲撃直後の資料を元に話を進めていった。
その結果古い傷については元々あったものなのか襲撃時についたものなのか判別できない上、経年劣化と見なしても良いとなった。折れたバクルスは当時のままだと認めさせることもできた。
「取り敢えず最初の山は乗り越えたって感じだけど、一番の問題は明日だよな」
「現在の聖女が儀式を行うのを見学するんでしたわね。どのような手順なのかお聞きになった?」
「いや、その辺は秘儀だからって⋯⋯勿体ぶってたよ。聖女の聖堂は立ち入り禁止だから入り口から見学しろってさ」
「あまり近くに来られては誤魔化しが効かないからではありませんか?」
「多分そうだと思う。何百年もの間一体どうやって誤魔化してきたのか想像もつかないが⋯⋯どうせ、宝物があっても儀式が上手くいかないって騒ぐつもりだろうし。
教会の奴等をどうやって納得させるかだよな」
「悪魔の証明ですから」
悪魔の証明⋯⋯証明することが不可能か非常に困難な事象を悪魔に例えたものをいうが、今回はまさにそのそれに当たる。
「聖女が『何も聞こえない』って言ったらアウト。その時の言い訳を考えてはいるんだが」
「どう考えてますの?」
「昔は聞こえてたと言うのを証明できるのかって議論しようと思ってる」
「まあ、それしか出来ませんわよね」
「宝物の真偽は今日、教会が確認したのですからあとの責任はこちらにはないと突っぱねるしか方法はないでしょう」
今日の夜は親睦を兼ねたパーティーが開かれる。その時聖女候補のエディスに会う事になる。
「皇太子殿下の態度から考えて、14歳と言うと微妙な年齢ですから十分に気をつけて下さい」
大人にはなりきれていないが聖女や皇太子妃と言う役柄の意味は理解できる年齢なので、ウルリカの言うようにエディスがアリエノールに敵対心を持っている可能性がある。
「この国では聖女に選ばれるのは皇太子妃になるのと同じくらい名誉な事のようですから、皇太子殿下が今朝のような言動をしておられるならかなり危険な状態だと思います」
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