【完結】私なりのヒロイン頑張ってみます。ヒロインが儚げって大きな勘違いですわね

との

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86.はじまる茶番

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 儀式の間は晴れて欲しいと願っていた祈りが届いたのか、翌朝は眩しいほどの快晴で爽やかな風が吹いていた。

(良かった。これで儀式の成功に一歩近づいたかも)

 メイドが運んできた朝食の中から皮を剥いていないオレンジだけを貰う。

「ありがとう。初めて神聖な儀式に参加するでしょう? だから緊張でお腹が空いてないの。きっとお昼にはお腹がぺこぺこになってるわね」

 セアラはメイド服を身につけたイリスに軽口を言いながらオレンジの皮を剥いた。

「帝国は本当に豊かで素晴らしい国ね。これもイーバリス教を信奉する方が多いからかしら?」

「そうですね。国の殆どはイーバリス教会に所属しています。ですから今日の聖女の儀式に対する関心は凄いですよ」

 昨日まではどちらかと言うと無口だったメイドも今日は興奮しているのか、見るからに表情が明るい。

「もう神殿の周りに見学する信者が詰めかけているそうです」

「では、絶対に成功して貰わなくちゃね」

「しますとも! 聖女の宝物が戻ってきたんですから。最近は聖女様の体調が思わしくなくて上手くいかないことが多かったですけど、今日は成功間違いなしですから」

(大司教の話では長年神託なんて降りていなかったのに、上手くいかないのはここ最近だけなんだ⋯⋯神託が降りたかどうかなんて誰にもわからないものね)

 メイドの話だけでなく帝国に来るまでに集めた話でも、数年前まではかなりの確率で神託が降りていたと言われていた。

 ここ数年突然儀式が上手くいかないと言い出したのは宝物を取り戻せそうな目算ができたからではないかと予測していた。

(その方が宝物を守り戻した時のインパクトが大きいもの)

 だとすれば⋯⋯今日は絶対に神託が降りるはずだが、昨夜の大司教達の話からすると今の聖女では成功させないはず。

(どんな形にしろ失敗した後が問題よね)



 着替えを済ませて部屋で待機しているとルークがドアをノックした。

「出発だそうだ」

「今日はよろしくね」

「ああ、俺が別行動の間はイーサンから離れないでくれよ。リチャード様はアリエノール様についてるって言っておられたからな」

「今日は私もイリス様もセアラ様のお供をさせて頂きます」

「イリス、メアリーアンから絶対に離れないでよ。もし単独行動したら二度と口聞かないからね」

「分かってるって、まっかせて~」

 相変わらず呑気なイリスの口調にセアラがガックリと肩を落とした。

「メアリーアンに頼んだ方が良さそう。イリスの捕獲宜しくね」



 セアラはイリスやメアリーアンと一緒に昨日と同じ馬車に乗り込んで神殿に向かった。前後にはリチャードやアリエノール達の乗った馬車や何台もの馬車が連なり、重装備の護衛が騎馬で横を駆け抜けて行く。

「凄い厳重な警備って感じね。皇太子殿下とか大司教様がいらっしゃるからとかなら良いんだけど⋯⋯」

「それだけではない可能性が高いですね。王族の警護にしては装備も人数も大袈裟すぎます」

 メアリーアンが指摘した通り鎧兜の護衛達は大剣や槍を装備し、騎乗している馬にも馬鎧が装備されている。
 馬の頭を防護するシャフロン、胸の部分を防護するペイトラル、馬の首を防護するクリネット。

「完全に戦支度だわ」

(儀式が不調に終わったと同時に、リチャード殿下達全員を包囲し圧倒的武力を見せつけて降伏させるつもりとしか思えない)



「メイドの話ですがエディス様が参加されるそうです。まだ儀式はできなくとも将来の聖女として参加するべきだと仰られて、既に神殿に来られているそうです」

「責任感があって素晴らしい事だわ。今の聖女様にもう少しだけ頑張って頂いて、2年後には是非とも聖女になって頂きたいわ」

 神託が聞こえようと聞こえまいとイーバリス教会の教義にとって聖女と言う存在は神聖で必要なもののはず。

(アリエノール様や私の事は放っておいて欲しいけど)



 跳ね橋が近付くと民衆の歓声が聞こえてきた。このまま神殿までずっと大歓声が続いているのかと思うと一体どれだけの人が集まっているのか想像もつかない。

「イーバリス教会の宣伝も功を奏しているのでしょう。宝物が返り神聖な儀式が復活すると全ての教会で信者に繰り返し伝えられたそうですから」

 メアリーアンがいつもより冷ややかな目で街道で喜び騒ぐ信者達を見つめていた。

(呑気に喜んでいる信者達と違ってメアリーアン達は一族郎党で戦ってきたんだもの。複雑な気持ちなんだろうな)



 神殿前で馬車が停まり順に降りていく。皇太子が馬車から降り片手を上げると大喝采が贈られ、信者達の熱狂的な興奮が伝わってきた。

 その逆にリチャードやアリエノール達が馬車から降りると信者達から『泥棒や侵略者』などの罵声が飛び交った。

 王宮の衛兵が信者達の前に立ち作った道を神殿に向けて歩いて行くと正面の入り口前に白いローブ姿のエディスが現れた。

 昨夜の傍若無人な様子は鳴りを潜め、数人の神官を背後に従えて大人びた仕草でカーテシーをして皇太子を待っている。

「次期聖女として、本日の神聖な儀式へ参列するべく皇太子殿下の御成りをお待ち致しておりました」

「⋯⋯チャンター侯爵から聞いている。儀式の邪魔にならぬよう控えておるように。
あー、アリエノール。この者は次期聖女と言ってもまだ何の修行もしておりませんし、お気になさる事はありません」

「では今日の儀式への参加がその第一歩でしょうか? 素晴らしき日にお祝いをさせて下さいませ」

 当たり前のようにアリエノールが一歩下がるとエディスとジャクソン皇太子が並ぶ立ち姿に観衆の喝采が聞こえた。

 次期皇帝と次期皇帝妃の姿に喜ぶ彼らの前では皇太子が何を考えていようと並んで歩かざるを得ない。

「くそっ!」

 笑顔でエディスをエスコートしながら小さく毒づいた皇太子の声と気配にエディスが歩みを止めた。

「皇太子殿下⋯⋯私は皇太⋯⋯」

「煩い! 私のやる事に口を挟む資格があると思っているのか!? 全く忌々しい⋯⋯この儀式が終わったら覚悟しておくんだな」




「皇太子殿下⋯⋯何か粗相でもございましたでしょうか?」

 聖女神殿の前で待っていた神官が不機嫌そうな皇太子に恐る恐る声をかけた。離れたところから見ている観衆は気付いていないが、皇太子の眉間にはくっきりと皺が寄っていた。

「いや、心配ない。流石の私でも少し緊張してきたのかもしれん。今日の儀式の成功はイーバリス教会にとっても帝国にとっても非常に重要だと皇帝も注目しておられるのでな」


 
 神殿の入り口に立った大司教が勿体ぶった仕草で両手を広げ声を張り上げた。

「まさに皇太子殿下の申された通り! 今日の佳き日に真の聖女をお迎えし、イーバリス教の聖なる儀式が復活するのです!!」


 口角を吊り上げた狂信者がセアラを見つめて舌舐めずりをした。

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