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87.予想とは違う展開
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「この聖女神殿は旧神殿と全く同じ作りで建造されました。何度も改修・改築を重ねはしましたが壁画やモザイク画の細部に至るまで再現しております」
皇太子が再びアリエノールの腕を引き大司教がセアラを側において神殿の説明をはじめた。
「セアラ様は昨日も聖女神殿を見学に来られたそうですな。この場に引き寄せられでもしたのですかな?」
「帝国に参りました理由が宝物の返還を行われる王子殿下方の随行ですから、興味があるのは当然かと」
神殿の中央には白いローブを纏った聖女が既に立っていた。青褪めた顔と小刻みに震える手足で立つ痩せ衰えたその女性は、カサついた肌に深い皺を寄せておりとても40歳には見えなかった。
(まるで老婆のよう。今にも倒れそうで、杖を差し出したくなるわ)
「本日の聖なる儀式へのご参拝、ようおいでくださいました」
虚な目で宙を見ながらポツンと一人で立つ聖女の、見た目にそぐわない朗々たる声はどこか現実離れしているように聞こえた。
まるで別の世界から話しかけられているかのような独特な不気味さを感じた。
皇太子と聖女と大司教の3人が並び立ちその背後に神官が整列した。
対面にはリチャード王子と大臣達が並びアリエノール達3人が護衛達と後ろに並んだ。
エディスを含めた帝国貴族達は神殿の入り口に敷かれた絨毯の場所から見学させられることになった。
「私にここから見ていろだなんて⋯⋯きっとあの女の指示だわ。皇太子殿下はあの女の事を話しはじめてからおかしくなられたもの」
エディスの怒りがアリエノールに向かっていく。
リチャードの指示で美しい彫りで装飾された木箱が列の中央に立つ聖女の前に置かれた。何の反応も見せずぼうっと佇む聖女を押しのけるようにして、花畑を飛び回る天使と精霊らしき精巧な彫刻を愛しげに指でなぞった大司教が蓋を開けた。
ティアラとブレスレット、切れていた糸を修復したネックレスと磨かれて輝きを取り戻した指輪。
一本だけ黄色い液体が入ったガラス瓶が5本と、黒い種が入っている掌くらいの大きさの壺。
黄色い液体からはシロシベ・メキシカーナの成分が検出されている。シロシベ・メキシカーナはマジックマッシュルームの一種で幻覚作用を引き起こす。
黒い種は西洋アサガオの種で、シロシベ・メキシカーナの種と同じ効果がある。
聖女の宝物に目もくれず大司教が嬉しそうに箱から取り出したのは巨大なダイヤモンドがついたバクルス⋯⋯の頭の部分。金でできた杖の先端に飾られたダイヤモンドが鈍く光っている。
「おお、まさに真の聖女に相応しい輝きじゃ。神と女性しか身につける事は叶わぬこの貴石をバクルスにつけるなど⋯⋯神殿が襲撃の憂き目にあったのはこのダイヤモンドをバクルスなどに使ったからじゃ。その呪いに違いない。
これさえあれば世界はワシの手に!」
「大司教! 貴様、今何を言った!? 其方は帝国に叛逆の意があると言う事か!?」
皇太子が大司教の言葉に気色ばんだ。ダイヤモンドに頬擦りしそうなほど夢中になっていた大司教がハッと我に返った。
「おお、これは大変失礼を致しました。あまりの感動に言葉の選択を誤りましてございます。
この貴石にはとてつもない力が秘められているので聖女の宝物と共に扱えば最強の力を発揮する事でございましょう。
さあ、聖女の儀式をはじめようではありませんか」
大司教の言動を怪しみながらも儀式を中断する根拠にはならないと思った皇太子は、宝物を身につけるよう聖女に指示を出した。
神官がティアラを被せブレスレットを聖女の手に嵌める。修復されたネックレスや指輪をつける間も聖女はただ呆然と立ち尽くしている。
(まるでお人形のようだわ)
大司教が聖女の顔に手を近づけた後耳元で何事かを囁くと、機械仕掛けのように動きはじめた聖女が神殿奥の像に向かって膝をついて祈りはじめた。
「偉大にして慈悲深き神の御前にて申し上げ奉ります。イーバリス教会に永遠の恩寵を。イーバリス教信者に神の祝福を⋯⋯帝国に⋯⋯帝国に未来永⋯⋯ぐふっ、ゲホッ⋯⋯グウッ」
「きゃあー!」
「聖女さまが!!」
祝詞を唱えはじめた聖女が血を吐き倒れ伏した。
「落ち着け! 当代の聖女は神力に耐えられなんだのじゃ」
「だっ、大司教! どう言う意味だ!?」
「簡単な事でございます。聖女の宝物を身につけ神の御許に近付いた当代の聖女は、神の足元に侍る資格が足りなかった故に弾かれただけの事⋯⋯さあ、直ぐに聖女神殿を清めるのです。真なる聖女様をお迎えして儀式を続けねば!」
ガタガタと震えていた神官達が事切れた聖女を抱えて神殿裏に運んでいき、別の神官が慌てて床を磨き上げた。
「真なる聖女様⋯⋯エディス様の事?」
「他にはおられないよな」
神殿内が整えられ聖女が身につけていた宝物が運ばれてきた。
「いや、絶対に嫌! わた、私は聖女じゃないもの。訓練だってしてないし⋯⋯そうよね、お父様もお母様もそう思うわよね」
入り口で見学していたエディスの怯えた声が聞こえてきた。
「あ、あなた⋯⋯どうしましょう。まさか、あんな事があるなんて! エディスがもし神力に耐えられなかったら⋯⋯」
「しかし、当代の聖女はもうお年を召しておられたからかも⋯⋯」
娘は可愛いがここで次期聖女から降りれば皇太子妃の座も諦めなければならない。チャンター侯爵はどちらを選ぶべきか決め切れずにいた。
「いやよ!! し、死にたくない⋯⋯聖女なんか⋯⋯皇太子殿下は当代の聖女はあの女だって仰ってた。だから、私は用無しだって」
エディスはアリエノールを真っ直ぐに指差した。
「皇太子殿下ははっきりと仰ったのよ。次の聖女になるのはあのアリエノール王女だって! あの女が儀式をすれば良いのよ」
「エディス・チャンター侯爵令嬢でしたかな。神聖なる神殿で騒ぎを起こすのは不謹慎ですぞ」
「大司教様、皇太子殿下は次の聖女はアリエノール王女だと仰っておいででした。儀式はあの方で続けて下さい!」
「何と不敬な!! 其方が聖女候補である事にも疑義がありはしたが、次代の聖女を決定する資格があると思うておられるとは⋯⋯チャンター侯爵家はイーバリス教会にそれ程の影響力があると思っておられたか」
「め、滅相もございません。当家はそのようなことなど、混乱した娘の暴走でございます。とうか、お許しの程を」
「何にせよチャンター家の娘など当代聖女が現れるまでの繋ぎ、お飾り次期聖女じゃった。何処へなりと行かれるがよい!」
「おま、お待ち下さい大司教様。大司教様にそのように言われては当家は⋯⋯娘が次期聖女でなくなれば皇太子妃にもなれなくなってしまう」
「たかが一侯爵家の浮き沈みなど、ワシにもイーバリス教会にも関係ありませんな。新しい聖女はセアラ・ベネディクト侯爵令嬢じゃ」
「待て待て待て! 新聖女はアリエノール王女に決まっている。アリエノールこそ聖女であり我が妃となるのだ!」
大司教と皇太子が予想とは違って揉めはじめた。
「儀式の失敗を理由に開戦に持ち込む予定はどうなったのでしょうねえ」
冷静なウルリカの言葉にセアラは笑いを堪えるしかなかった。
「聖女の最終決定権は教会にあること、お忘れか!!」
「ご指名を受けてしまいましたからには、聖女の儀式を遂行致しますわ」
優雅なカーテシーでその場の騒ぎを抑え込んだのは⋯⋯。
皇太子が再びアリエノールの腕を引き大司教がセアラを側において神殿の説明をはじめた。
「セアラ様は昨日も聖女神殿を見学に来られたそうですな。この場に引き寄せられでもしたのですかな?」
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(まるで老婆のよう。今にも倒れそうで、杖を差し出したくなるわ)
「本日の聖なる儀式へのご参拝、ようおいでくださいました」
虚な目で宙を見ながらポツンと一人で立つ聖女の、見た目にそぐわない朗々たる声はどこか現実離れしているように聞こえた。
まるで別の世界から話しかけられているかのような独特な不気味さを感じた。
皇太子と聖女と大司教の3人が並び立ちその背後に神官が整列した。
対面にはリチャード王子と大臣達が並びアリエノール達3人が護衛達と後ろに並んだ。
エディスを含めた帝国貴族達は神殿の入り口に敷かれた絨毯の場所から見学させられることになった。
「私にここから見ていろだなんて⋯⋯きっとあの女の指示だわ。皇太子殿下はあの女の事を話しはじめてからおかしくなられたもの」
エディスの怒りがアリエノールに向かっていく。
リチャードの指示で美しい彫りで装飾された木箱が列の中央に立つ聖女の前に置かれた。何の反応も見せずぼうっと佇む聖女を押しのけるようにして、花畑を飛び回る天使と精霊らしき精巧な彫刻を愛しげに指でなぞった大司教が蓋を開けた。
ティアラとブレスレット、切れていた糸を修復したネックレスと磨かれて輝きを取り戻した指輪。
一本だけ黄色い液体が入ったガラス瓶が5本と、黒い種が入っている掌くらいの大きさの壺。
黄色い液体からはシロシベ・メキシカーナの成分が検出されている。シロシベ・メキシカーナはマジックマッシュルームの一種で幻覚作用を引き起こす。
黒い種は西洋アサガオの種で、シロシベ・メキシカーナの種と同じ効果がある。
聖女の宝物に目もくれず大司教が嬉しそうに箱から取り出したのは巨大なダイヤモンドがついたバクルス⋯⋯の頭の部分。金でできた杖の先端に飾られたダイヤモンドが鈍く光っている。
「おお、まさに真の聖女に相応しい輝きじゃ。神と女性しか身につける事は叶わぬこの貴石をバクルスにつけるなど⋯⋯神殿が襲撃の憂き目にあったのはこのダイヤモンドをバクルスなどに使ったからじゃ。その呪いに違いない。
これさえあれば世界はワシの手に!」
「大司教! 貴様、今何を言った!? 其方は帝国に叛逆の意があると言う事か!?」
皇太子が大司教の言葉に気色ばんだ。ダイヤモンドに頬擦りしそうなほど夢中になっていた大司教がハッと我に返った。
「おお、これは大変失礼を致しました。あまりの感動に言葉の選択を誤りましてございます。
この貴石にはとてつもない力が秘められているので聖女の宝物と共に扱えば最強の力を発揮する事でございましょう。
さあ、聖女の儀式をはじめようではありませんか」
大司教の言動を怪しみながらも儀式を中断する根拠にはならないと思った皇太子は、宝物を身につけるよう聖女に指示を出した。
神官がティアラを被せブレスレットを聖女の手に嵌める。修復されたネックレスや指輪をつける間も聖女はただ呆然と立ち尽くしている。
(まるでお人形のようだわ)
大司教が聖女の顔に手を近づけた後耳元で何事かを囁くと、機械仕掛けのように動きはじめた聖女が神殿奥の像に向かって膝をついて祈りはじめた。
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「きゃあー!」
「聖女さまが!!」
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娘は可愛いがここで次期聖女から降りれば皇太子妃の座も諦めなければならない。チャンター侯爵はどちらを選ぶべきか決め切れずにいた。
「いやよ!! し、死にたくない⋯⋯聖女なんか⋯⋯皇太子殿下は当代の聖女はあの女だって仰ってた。だから、私は用無しだって」
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