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31.アリシアから聞いた驚愕の話
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メイドがお茶の準備を済ませ退出すると覚悟を決めたアリシアが口を開いた。
「エリーに大切な話があるのだけどわたくし達の憶測が加味されているから正確だとは言えない話だと思って聞いて欲しいの」
いつも論理的な話し方をするアリシアが珍しく曖昧な言い回しで話しはじめた。
(お父様が何か・・もしかして家に帰らなきゃいけないとか?)
「バルサザール帝国で皇太子が決まったのは知ってるかしら?」
「えっ? はい、帝国では長い間皇太子問題で揉めていたのだけど第一皇子が立太子されたと学園で聞きました」
帝国は領土も広く多くの属国を従えている事もあり立太子問題は帝国だけではなく多くの国に影響があるからと広く告知された。
「エリーがマイケルから預かった指輪を以前見せてくれたのを覚えてるかしら? あの指輪はバルサザール帝国の王家の紋章入りの印章だったと思うの」
「えっとあの・・それじゃあ」
「指輪の紋章を詳しく調べないと断言はできないけれど・・多分」
アリシアが珍しく言い淀みマイラが慰めるようにエリーの肩を抱いたがエリーは予想外の話に驚きマイラの気遣いに気付く余裕をなくしていた。
「つっつまりマイケルはバルサザール帝国の王家の方と言う事ですか?」
「恐らくは今回立太子されたミゲル皇太子様がマイケルだと思うの。ミゲルを別の国の言葉にするとミカエルやマイケルになるわ」
「マイ、マイケル様からはお義母様との間に何かあるらしいとしかお聞きしていません。まさか・・皇子様だったなんて」
一番大事な情報を知らせる前にアリシアは冷めてしまった紅茶を飲みながらエリーの顔をこっそりと伺った。マイラが震えるエリーの左手をそっと握り一層強く抱きしめた。
「近々・・皇太子様の婚約者の選定がはじまるわ。帝国では立太子すると婚約者候補を選びはじめるのが一般的なの」
(マイケルは・・迎えに来てくれるって。ずっと一緒にいようって言ってくれたのに)
蒼白な顔色になったエリーはネックレスに通した指輪をドレスの上から押さえた。新調して貰ったばかりのドレスが皺になりマイラの手の中でエリーの左手がじっとりと汗をかいた。
「指輪・・送った方が良いんでしょうか? 大事な印章を私が持ってるなんてダメですよね」
俯いて呟いたエリーの声は小さくくぐもっていた。
「皇太子の婚約者候補の選定には時間がかかりますからね。何の連絡もないからと言って慌てて行動を起こす必要はないと思いますよ」
俯いていたエリーは顔を上げマイラが手渡してくれたハンカチで流れていた涙を拭った。
「もう長い間お手紙もきてないんです」
エリーがレバントを出立してから既に2年の月日が流れたがマイケルから届いた手紙は2通だけ。エリーが毎月送っている手紙がマイケルの元に届いているのかさえわからないでいる。
「わたくしの調べた情報では無事に立太子されたと言ってもまだ王宮は一枚板とは言い難い状況のようなの」
「どう言う意味でしょうか?」
「マイケルが皇太子様だと仮定して話を進めましょう。一つ目は、未だに連絡がないのは皇太子様はエリーとの約束を反故にするご予定だから。二つ目はまだ連絡出来ない状況だけどいずれ連絡を下さるお心積りでおられる。三つ目は約束を忘れておられる」
アリシアはエリーがゆっくりと言葉を咀嚼できるように話を止めた。
「もし、もし一つ目か三つ目だったら私から指輪を送らなくちゃですね」
「時間はたっぷりあるからゆっくり考えると良いわ。突然連絡が来るかもしれないしこないかもしれない。いつまで経っても連絡してこないような不人情でいい加減な人だって思ったらこっちから縁を切っても良いんだから」
マイラがエリーの顔を覗き込んでゆっくりと髪を撫でた。
「取り敢えず指輪の紋章の事を調べてみるとこからはじめたらどうかしら? 図書館に行くなら一緒に行くわよ」
「大事な事を教えて下さってありがとうございます。今はまだ何をどう考えたら良いのか・・図書館に行く時は叔母様にお願いしますね」
「話をするだけでも見えてくる景色が変わる事もあるから一人で悩まないでわたくしやマイラを頼ってね」
エリーは部屋に戻りベッドに倒れ込んだ。長い間連絡をくれないマイケルに対し不安な気持ちがあったのは事実で、11歳の時ほんの数日一緒に過ごしただけの関係は時間と共に淡い幻のようにも思えてしまう。
(マイケルが忘れてしまっても仕方ないのかもって思ったり覚えてますようにって願ったり)
(マイケルが本当に皇太子様だったら・・)
エリーはガバッと起き上がった。
「エリーに大切な話があるのだけどわたくし達の憶測が加味されているから正確だとは言えない話だと思って聞いて欲しいの」
いつも論理的な話し方をするアリシアが珍しく曖昧な言い回しで話しはじめた。
(お父様が何か・・もしかして家に帰らなきゃいけないとか?)
「バルサザール帝国で皇太子が決まったのは知ってるかしら?」
「えっ? はい、帝国では長い間皇太子問題で揉めていたのだけど第一皇子が立太子されたと学園で聞きました」
帝国は領土も広く多くの属国を従えている事もあり立太子問題は帝国だけではなく多くの国に影響があるからと広く告知された。
「エリーがマイケルから預かった指輪を以前見せてくれたのを覚えてるかしら? あの指輪はバルサザール帝国の王家の紋章入りの印章だったと思うの」
「えっとあの・・それじゃあ」
「指輪の紋章を詳しく調べないと断言はできないけれど・・多分」
アリシアが珍しく言い淀みマイラが慰めるようにエリーの肩を抱いたがエリーは予想外の話に驚きマイラの気遣いに気付く余裕をなくしていた。
「つっつまりマイケルはバルサザール帝国の王家の方と言う事ですか?」
「恐らくは今回立太子されたミゲル皇太子様がマイケルだと思うの。ミゲルを別の国の言葉にするとミカエルやマイケルになるわ」
「マイ、マイケル様からはお義母様との間に何かあるらしいとしかお聞きしていません。まさか・・皇子様だったなんて」
一番大事な情報を知らせる前にアリシアは冷めてしまった紅茶を飲みながらエリーの顔をこっそりと伺った。マイラが震えるエリーの左手をそっと握り一層強く抱きしめた。
「近々・・皇太子様の婚約者の選定がはじまるわ。帝国では立太子すると婚約者候補を選びはじめるのが一般的なの」
(マイケルは・・迎えに来てくれるって。ずっと一緒にいようって言ってくれたのに)
蒼白な顔色になったエリーはネックレスに通した指輪をドレスの上から押さえた。新調して貰ったばかりのドレスが皺になりマイラの手の中でエリーの左手がじっとりと汗をかいた。
「指輪・・送った方が良いんでしょうか? 大事な印章を私が持ってるなんてダメですよね」
俯いて呟いたエリーの声は小さくくぐもっていた。
「皇太子の婚約者候補の選定には時間がかかりますからね。何の連絡もないからと言って慌てて行動を起こす必要はないと思いますよ」
俯いていたエリーは顔を上げマイラが手渡してくれたハンカチで流れていた涙を拭った。
「もう長い間お手紙もきてないんです」
エリーがレバントを出立してから既に2年の月日が流れたがマイケルから届いた手紙は2通だけ。エリーが毎月送っている手紙がマイケルの元に届いているのかさえわからないでいる。
「わたくしの調べた情報では無事に立太子されたと言ってもまだ王宮は一枚板とは言い難い状況のようなの」
「どう言う意味でしょうか?」
「マイケルが皇太子様だと仮定して話を進めましょう。一つ目は、未だに連絡がないのは皇太子様はエリーとの約束を反故にするご予定だから。二つ目はまだ連絡出来ない状況だけどいずれ連絡を下さるお心積りでおられる。三つ目は約束を忘れておられる」
アリシアはエリーがゆっくりと言葉を咀嚼できるように話を止めた。
「もし、もし一つ目か三つ目だったら私から指輪を送らなくちゃですね」
「時間はたっぷりあるからゆっくり考えると良いわ。突然連絡が来るかもしれないしこないかもしれない。いつまで経っても連絡してこないような不人情でいい加減な人だって思ったらこっちから縁を切っても良いんだから」
マイラがエリーの顔を覗き込んでゆっくりと髪を撫でた。
「取り敢えず指輪の紋章の事を調べてみるとこからはじめたらどうかしら? 図書館に行くなら一緒に行くわよ」
「大事な事を教えて下さってありがとうございます。今はまだ何をどう考えたら良いのか・・図書館に行く時は叔母様にお願いしますね」
「話をするだけでも見えてくる景色が変わる事もあるから一人で悩まないでわたくしやマイラを頼ってね」
エリーは部屋に戻りベッドに倒れ込んだ。長い間連絡をくれないマイケルに対し不安な気持ちがあったのは事実で、11歳の時ほんの数日一緒に過ごしただけの関係は時間と共に淡い幻のようにも思えてしまう。
(マイケルが忘れてしまっても仕方ないのかもって思ったり覚えてますようにって願ったり)
(マイケルが本当に皇太子様だったら・・)
エリーはガバッと起き上がった。
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