【完結】双子だからって都合よく使われて犯罪者にされたので、ざまあしようとしたら国をあげての大騒ぎになりました

との

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8. ディーン・ボルトレーンへの手紙

「それは⋯⋯」

「これが予算の限界だったと言うならそう言ってもらわなくては。次にご当主様にお会いすることがあれば話し合わせていただきます。
随分と上から目線で予算が取ってあると仰ってた割には錆びた鋏しか買えない程度なのかって」

「違います! エリー、あなたのした事は旦那様の名誉を傷つける事ですよ!」

(私の迷惑でもあるんだけど?)

「申し訳ありません」


「もういいわ。この屋敷では外出しようとすれば飛んでくる事は出来るけれど、用事を頼めば使用人はやってこない上に、用事を頼んだせいで人が足りなくなる程度にしか使用人がいないのでしたわね」

「そんな事は⋯⋯」

「あら、上から目線の予算は古着の端切でほんの僅かな仕事が増えただけで足りなくなる使用人。有名な伯爵家の内情も大変そうね」

「な! 当家を馬鹿にするなんて!!」

「わたくしは見たまま聞いたままを申しているだけ。
それから、あなたが執事ならご存知よね。このニヶ月の間にわたくしが出して欲しいと頼んだ宛のお手紙を返して下さいな。
尊大なご当主様が大切にしておられる使用人は人手不足みたいですもの、まだ出していないのでしょう?」

「お祖父様?」

「名前はディーン・ボルトレーン。住所も必要かしら? 数年前からお加減が悪くて寝込んでおられるのだけど、こちらから何通もお出ししているお手紙に返事がなくて心配してますの」

 青褪めたジョージが目を泳がせた。

「⋯⋯あ、あの」

「お祖父様がお返事が書けないくらい体調がお悪いのなら連絡をくれる真面な執事のデュークがいるからお返事が来ないなんて絶対にありえないの。
それとも手紙の隠蔽はご当主様の指示かしら?」

「⋯⋯す、直ぐにお持ちします」

 ジョージが真っ青な顔で部屋を出て行きしばらくして戻って来た手にはシャーロットが書いた手紙の束があった。

「今から新しく手紙を書きます。それの返事が来なければ訴えるから覚悟しておいてね。私文書の隠匿は法律違反よ。あなたの独断なのか雇い主の指示なのか知らないけれど、いずれにせよ使用人の責任を取るのは雇い主だわ。この事に関しては絶対に許さないから。
さっさと出て行って」

 ライティングデスクに向かうシャーロットの前に走り込んだジョージが頭を下げた。

「私の独断で行いました。大変申し訳ありません。どうか、どうかお許しを」


「身体の弱っている老人が待っているはずの手紙を隠し込んで謝って済むとでも? 出す気がないなら出さないと言えば済む事。それを何通も受け取っておきながらさも仕事をしたふりをして⋯⋯こんな卑劣で最低の行為を謝って許されると思うの?
しかも手紙は出したと何度も聞いているわ。
でも、あなた方の雇い主は使用人をとても大切だと仰っておいでだったから、きっと間違いなくどんな事をしてでも助けて下さるわ」

 引き出しから出したレターセットに手紙を書き青褪めて立ち尽くしていたジョージに手渡した。

「これを必ず届けて下さいね。返事が来なかった時点で手紙が破棄されたと理解しますから」




 夕食を食べる気にはなれなかったが料理人のムカつく顔を思い出し意地で夕食を食べに行った。

 焦げたパンと生焼けの肉、ゴミの浮いたスープが出て来たので執務室のジョージに届けてあげた。

「お腹が空いているでしょうからわたくしの食事を差し上げますわ。女子収容所でも見たことのないメニューだから楽しめると思いますわ」

 その日からシャーロットは何が出てきてもパンの真面な部分を少しと皮の剥いていない果物しか手をつけなくなった。勿論、飲み水は自分で井戸へ汲みにいった。


 休憩時間もろくにない収容所での楽しみと言えば食事くらいのもの。硬い黒パンとスープにチーズがあるくらいの粗末な食事で、内容や品数が少ない上に量も十分でない為取り合いになるのは日常茶飯事だったし、砂や汚水を混ぜるような虐めなども当たり前のようにあった。

(食事抜きなんて慣れっこだわ。茶腹も一時って言うのよね)




 ジョージに手紙を手渡してから1週間後、デュークが伯爵邸にやって来た。

「半月前でした」

「⋯⋯そんな!」

「お嬢様のことを心配しておられて⋯⋯出所したはずなのにと指折り数えておられました」

「⋯⋯⋯⋯教えてくれてありがとう。ここを出たら一番にお墓参りに行くわ。それまでお祖父様の事お願いね」

「はい、旦那様はお屋敷の他全ての物をお嬢様に残されました。お嬢様がお越しになられるまで何一つ変えず守っておりますから」

「ありがとう。それと、少し⋯⋯お願いしたいことがあるの」




 その日からシャーロットは部屋に篭り脇目も振らず刺繍とレース編みを作り続けた。

 ディーン・ボルトレーンは正式にはシャーロットの祖父ではなく大叔父にあたり、家族に不要な者扱いされていたシャーロットにとって唯一の家族と言える人だった。

(泣いたらダメ⋯⋯私には泣く資格なんてないわ。一通目の手紙に返事が来なかった時直ぐに行動していれば間に合った⋯⋯収容所であった時素直に手を取っていれば)


 デュークが手配してくれた食事が毎朝門のところまで届けられ、シャーロットがそれを受け取り部屋に籠る。食料以外に必要な物がある時はメモを渡しておけば翌日食料と共に届けられるようになった。



 前回ジェロームと会ってから二ヶ月、久々に伯爵邸に戻ってくると連絡があった。夕食の時間が来て食堂に足を踏み入れると、前回と同じ席にジェロームが座ってワイングラスを傾けていた。

 その近くに立っているジョージはシャーロットに暴露されるのを恐れているのか顔が青褪め手が少し震えている。

「お久しぶりです」

「あ、ああ。うん、仕事が忙しいから仕方ないだろう?」

「嫌味でもなんでもありませんのでどうぞご心配なく」

「あれから二ヶ月⋯⋯特に問題はないようだな」

「そうですか、それはようございました」

 シャーロットの返事に不穏な気配を感じたのかジェロームが眉を顰めた。

「何かあったのか?」

「さあ、どうでしょうか? 屋敷のことは執事からご当主様に報告が入っていると思いますが」

「ああ、そういうことか。君は16から学園に行ってないだろう? だから家政の切り盛りを任せるわけにはいかないんだ。大切な書類が沢山あるから、適当な事をされては困るからね。
もう少し落ち着いたら家庭教師を頼んで基本の勉強をしても良いとは思っているから、何か頼むとしたらそれの後になるだろう」

 ジェロームはもう少しシャーロットの噂が落ち着くのを待って家庭教師を頼むつもりでいた。

(退学前のシャーロットは学園で主席だったし、しっかりとした家庭教師について学べばある程度のことは任せられるだろう。わからないことがあったとしてもジョージもいることだしな)

「足りない知識を身につけたら少しずつ頼めることも出てくるからそれまではのんびりしていればいい」

「家政や屋敷のあれこれは特に気にしたことがありませんし、興味もないのでお気遣いされませんよう」


「⋯⋯今は君の妹が君の元婚約者と結婚したばかりでオマケのように君の噂が復活しているんだ。この状況では流石に真面な家庭教師は来てくれそうにないからね」

(テレーザは結婚したのね。なら、少しは大人しく⋯⋯ならないわよね。間違いなく)


 無表情で向かいに座るシャーロットを見ながら内心溜息をついたジェロームは結婚した事を少しばかり後悔していた。

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