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尋問
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六月
ーーーーーー
ホットスパーでウォルターを連行した翌日、アイラは執務室で手紙の処理をしていた。
ウォルターの尋問の様子が気になって仕方ないアイラは、手にしている手紙の内容がどうしても頭に入ってこない。
「ソフィア、ちょっと席を外すわ。すぐ戻ってくるから」
席を立ちかけると、
「何処に行かれるのですか?」
と聞いてきた。
「ちょっと外の空気を吸ってこようかなって。今日はほらすごくいいお天気だし」
「ではお供いたします」
「いえ、1人で行きたいの。敷地内なら安全だしちょっと庭を散歩するだけだから」
アイラはこっそり、ギータ達が尋問する様子を覗きに行こうとしているので、ソフィアについて来られては都合が悪い。
「だめです。ウィルソンからアイラ様を絶対にお一人にしてはいけないと厳命されております」
「ソフィアの雇い主は私だわ」
「では、ギータ達の様子を見に行かないとお約束して頂けますか?」
ソフィアにはアイラの思惑がすっかりばれている。
「気になるのよ。ここにいても仕事にならないし」
「もうじきウィルソンとギータが報告に来てくれると思いますから。もう少しの辛抱ですよ」
アイラは説得を諦めて、もう一度手紙を手に取り読みはじめた。
ドアがノックされ、ウィルソンとギータが入ってきた。アイラは目を輝かせ、
「どうでしたか? 何か分かりましたか?」
と聞いたが、2人は渋い顔をしている。
「残念ながら、あまり有益なことは分かりませんでした」とギータ。
「身長は5フィートと少し。話し方から恐らく平民ではないかと。訛りとかそう言う具体的なものはありません。ただ、妙に楽しそうだったとか」
「楽しそう?」
「はい、まるでこの状況を楽しんでいるような、そんな感じがしたと言っていました。神妙そうに話しているけれど、時々ニヤついていて気持ち悪かったと」
ウィルソンが眉間に皺を寄せている。ギータは、
「これは私の憶測ですが、雪の中で屋敷を見張っていて、馬車に細工した奴と同じ男なのではないかという気がしています」
「私も同意見です。奴は自分の作戦がうまく行ったので、後は馬車を始末してしまえば証拠は残らない。かなり用意周到な奴です。ウォルターが金に困っている事を知っていたはずなので、バイオレットが住んでいたリューベックに人をやって、怪しい人物を見かけていないか調べさせます」
「ウォルターがこの事故の対応をするって、どうして分かったのかしら」
「貴族が関係する事故なら、リーダーかサブリーダーが担当するのは確実ですから、ウォルターに狙いをつけたのでしょう。リーダーのガストンには、付け入る隙がなかったと言うところだと思います」
ウィルソンの説明はとても理にかなっている気がした。
「ではホットスパーかリューベックで何か情報が得られる事を期待しましょう。十分注意するよう言ってくださいね」
執務室を後にした2人は、ウィルソンの私室へ向かった。ウィルソンがエールを入れたカップを持ってきた。一つをギータに渡しソファに腰掛けた。
ウィルソンは前屈みになってエールを一口飲んだ。
「ギータ、奴はもうリューベックにはいないと思う」
「間違いないな。もし奴がまだいるとしたら、危ない仕事になるが」
「デイビッドの方からは、中々情報が出てこないから、これはチャンスかも知れない。どっちにしろ、ウォルターを捕まえた事は奴に知られるはずだし」
「おいウィルソン、旦那様を呼び捨てにしてるぞ」
「あいつは様付けで呼ぶ価値なんかないさ。お前だってそう思ってるくせに」
「確かに、一度も主人らしかったことはないな」
「ああ、それどころかアイラ様に苦労をかけてばかりだ」
「何でアイラ様は離婚しないんだ? あれよりましな奴なら、いくらでもいるだろ?」
「それはアイラ様が決めることだ。俺たちが口を出せることじゃない」
ウィルソンは苦々しげに言った。
ギータはエールを飲みながら、
「ホットスパーの調査はヘンリーに行かせよう。雇ってる調査員は、今まで通り目立たないように調べさせる。ヘンリーの身辺警護も含めれば大丈夫だろう」
「問題はリューベックだな。トスティもいないし、あまりここから人を減らしたくない。リリアもウォルターもいるから、奴が何か仕掛けてくる可能性もあるし。本当なら護衛を増やしたいが、そいつが信用できるかどうか」
「そうだな。奴は随分と狡猾だから、用心した方が良さそうだ。ウォルターを教会の地下牢に移した方が良いかもしれん。アイラ様の事、しっかりと見張ってろよ。時々、とんでもない事をしでかすからな」
ギータは昨日のアイラの行動を思い出して、苦笑いをしている。
「全くだ、寿命が縮まったよ。あれがハッタリだったなんて、今思い出しても震えがくる」
ウィルソンは両手で顔を擦り、ため息をついた。
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ホットスパーでウォルターを連行した翌日、アイラは執務室で手紙の処理をしていた。
ウォルターの尋問の様子が気になって仕方ないアイラは、手にしている手紙の内容がどうしても頭に入ってこない。
「ソフィア、ちょっと席を外すわ。すぐ戻ってくるから」
席を立ちかけると、
「何処に行かれるのですか?」
と聞いてきた。
「ちょっと外の空気を吸ってこようかなって。今日はほらすごくいいお天気だし」
「ではお供いたします」
「いえ、1人で行きたいの。敷地内なら安全だしちょっと庭を散歩するだけだから」
アイラはこっそり、ギータ達が尋問する様子を覗きに行こうとしているので、ソフィアについて来られては都合が悪い。
「だめです。ウィルソンからアイラ様を絶対にお一人にしてはいけないと厳命されております」
「ソフィアの雇い主は私だわ」
「では、ギータ達の様子を見に行かないとお約束して頂けますか?」
ソフィアにはアイラの思惑がすっかりばれている。
「気になるのよ。ここにいても仕事にならないし」
「もうじきウィルソンとギータが報告に来てくれると思いますから。もう少しの辛抱ですよ」
アイラは説得を諦めて、もう一度手紙を手に取り読みはじめた。
ドアがノックされ、ウィルソンとギータが入ってきた。アイラは目を輝かせ、
「どうでしたか? 何か分かりましたか?」
と聞いたが、2人は渋い顔をしている。
「残念ながら、あまり有益なことは分かりませんでした」とギータ。
「身長は5フィートと少し。話し方から恐らく平民ではないかと。訛りとかそう言う具体的なものはありません。ただ、妙に楽しそうだったとか」
「楽しそう?」
「はい、まるでこの状況を楽しんでいるような、そんな感じがしたと言っていました。神妙そうに話しているけれど、時々ニヤついていて気持ち悪かったと」
ウィルソンが眉間に皺を寄せている。ギータは、
「これは私の憶測ですが、雪の中で屋敷を見張っていて、馬車に細工した奴と同じ男なのではないかという気がしています」
「私も同意見です。奴は自分の作戦がうまく行ったので、後は馬車を始末してしまえば証拠は残らない。かなり用意周到な奴です。ウォルターが金に困っている事を知っていたはずなので、バイオレットが住んでいたリューベックに人をやって、怪しい人物を見かけていないか調べさせます」
「ウォルターがこの事故の対応をするって、どうして分かったのかしら」
「貴族が関係する事故なら、リーダーかサブリーダーが担当するのは確実ですから、ウォルターに狙いをつけたのでしょう。リーダーのガストンには、付け入る隙がなかったと言うところだと思います」
ウィルソンの説明はとても理にかなっている気がした。
「ではホットスパーかリューベックで何か情報が得られる事を期待しましょう。十分注意するよう言ってくださいね」
執務室を後にした2人は、ウィルソンの私室へ向かった。ウィルソンがエールを入れたカップを持ってきた。一つをギータに渡しソファに腰掛けた。
ウィルソンは前屈みになってエールを一口飲んだ。
「ギータ、奴はもうリューベックにはいないと思う」
「間違いないな。もし奴がまだいるとしたら、危ない仕事になるが」
「デイビッドの方からは、中々情報が出てこないから、これはチャンスかも知れない。どっちにしろ、ウォルターを捕まえた事は奴に知られるはずだし」
「おいウィルソン、旦那様を呼び捨てにしてるぞ」
「あいつは様付けで呼ぶ価値なんかないさ。お前だってそう思ってるくせに」
「確かに、一度も主人らしかったことはないな」
「ああ、それどころかアイラ様に苦労をかけてばかりだ」
「何でアイラ様は離婚しないんだ? あれよりましな奴なら、いくらでもいるだろ?」
「それはアイラ様が決めることだ。俺たちが口を出せることじゃない」
ウィルソンは苦々しげに言った。
ギータはエールを飲みながら、
「ホットスパーの調査はヘンリーに行かせよう。雇ってる調査員は、今まで通り目立たないように調べさせる。ヘンリーの身辺警護も含めれば大丈夫だろう」
「問題はリューベックだな。トスティもいないし、あまりここから人を減らしたくない。リリアもウォルターもいるから、奴が何か仕掛けてくる可能性もあるし。本当なら護衛を増やしたいが、そいつが信用できるかどうか」
「そうだな。奴は随分と狡猾だから、用心した方が良さそうだ。ウォルターを教会の地下牢に移した方が良いかもしれん。アイラ様の事、しっかりと見張ってろよ。時々、とんでもない事をしでかすからな」
ギータは昨日のアイラの行動を思い出して、苦笑いをしている。
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ウィルソンは両手で顔を擦り、ため息をついた。
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