44 / 89
義父
九月
ーーーーーー
「やあ、よく来てくれた。お父上の葬儀には参列できず、申し訳なかったね。とても素晴らしい方達だったのに、馬車の事故で亡くなられるとは」
「ありがとうございます。生前からの両親の希望で、遠方の方々にはご連絡のみにさせて頂きましたので、どうかお気遣いなく」
ストックトン侯爵はアイラの腰に手を置き、大広間の中を抜けていく。夜会の参加者達の中には、前回の公爵邸で見かけた人もおり、アイラは小さく会釈をしながらついていった。
大広間の隣の部屋には、白いテーブルクロスを掛けた机の上に様々な料理が並んでいた。夜会は始まったばかりで、ほとんどの人は大広間にいる。
アイラはソファを勧められて腰掛けたが、隣に座ったストックトン侯爵の距離の近さに戸惑っていた。
「デイビッドは葬儀に間に合わなかったのだろう? 全く何をやっているんだか」
「デイビッドは葬儀の直ぐ後に駆けつけてくれましたから」
「結婚して2年以上経つというのに、いつまで経ってもふらふらとして。今日もまだ来ていないのだよ、全く何処で道草を食っているのやら」
「去年ご結婚されたとか、おめでとうございます。お祝いを申し上げるのが遅くなり申し訳ありません。今日は奥方様は?」
「ああ、あれは少し遅れているのでね。後で挨拶できるだろう」
「先日知って慌てたんだが、ブリジットがアイラの屋敷に長逗留していたんだね。母親に似てブリジットは酷い癇癪持ちだから、さぞかし迷惑をかけたのではないかと心配していたんだ」
「領地は田舎なので王都のような娯楽もなくて、ご不便をおかけしていたと思います」
「結婚前は2人ともしおらしくしていたんだが、日を追うごとに本性をあらわしてね。うちでも揉め事が絶えなくて、使用人達からの苦情で頭が痛いよ」
「不躾な質問なのですが、ブリジットさんには専属の侍女やメイドはおられないのでしょうか? うちの使用人では行き届かないことも多くて、ご不便をおかけしているようなので」
「あの2人に付けた者達は長続きしない、と言うかあいつらが直ぐクビにしてしまうんだ」
案の定ブリジットは、侯爵家でも何人もの使用人にクビを言い渡しているようだ。次にブリジットが領地にやってきたら、また今までと同じことが繰り返されるのは確実だろう。
「デイビッドがブリジットさんのメイドを、王都で手配すると言っていましたが?」
ストックトン侯爵は鼻で笑い、
「デイビッドに役に立つ仕事が出来るとは思えんよ。メイド探しなんていう簡単なことでもね。今までエジャートン伯爵家の仕事だって、アイラ一人でこなしているんだろう?」
アイラは思わず目を伏せたが、ブリジットの事はなんとかしなければと口を開いた。
「エジャートンの領地は本当に何もない所なので、ブリジットさんがまたお越しくださるかは分かりませんが、次の機会には侍女かメイドをお連れいただけたら」
「ブリジットには私から話しておくよ。アイラにこれ以上迷惑をかけたら、小遣いを減額すると。あれは贅沢な奴だからね、それが一番効果があるんだ」
取り敢えず、ブリジットの事はなんとかなりそうだとほっとした。
「去年は冷害でうちの領地も大変だったが、伯爵領はどうかな?」
「夏だけでなく、冬には大雪に見舞われましたし、少しずつ復興に向けて進んでいるところです」
「領地経営を始めたばかりだというのに、伯爵領の経営はとても順調だそうだね」
(デイビッドに見せた帳簿では、経営が上手くいっていないように見せかけていたのだけど? デイビッドは帳簿は読めないのかも)
「今年は畑も羊の育成も順調なので、少しずつでも回復していければと思っています」
「そう、デイビッドから聞いたが染織工房の新設計画があるとか」
やはり染織工房の事を聞いてきた。
「はい、生前お父様が始めた計画です。採算が取れるまでにはまだ時間がかかりそうですが、少しずつでも進めていければと」
「工房の成功は職人の腕次第だからね」
ストックトン侯爵がどこまで内情を知っているのか、出来るだけ話を聞き出したいアイラは、
「私はまだ勉強不足で、頼りにしていたお父様は亡くなってしまいましたし・・。お義父様は染織工房についてお詳しいのですか?」
と、聞いてみた。
「うちの領地でも工房を持とうと思った事があってね。その時色々調べたんだ。結局今のところ先送りにしているんだが。
何か困った事があれば、何時でも相談して欲しい。デイビッドが役に立たない代わりと言ってはなんだが、私で良ければ相談に乗りたいと思っている」
やはりストックトン侯爵が怪しいのかもしれない。侯爵家が染織工房の事業を先送りにしている理由はなんなのだろう。
ーーーーーー
「やあ、よく来てくれた。お父上の葬儀には参列できず、申し訳なかったね。とても素晴らしい方達だったのに、馬車の事故で亡くなられるとは」
「ありがとうございます。生前からの両親の希望で、遠方の方々にはご連絡のみにさせて頂きましたので、どうかお気遣いなく」
ストックトン侯爵はアイラの腰に手を置き、大広間の中を抜けていく。夜会の参加者達の中には、前回の公爵邸で見かけた人もおり、アイラは小さく会釈をしながらついていった。
大広間の隣の部屋には、白いテーブルクロスを掛けた机の上に様々な料理が並んでいた。夜会は始まったばかりで、ほとんどの人は大広間にいる。
アイラはソファを勧められて腰掛けたが、隣に座ったストックトン侯爵の距離の近さに戸惑っていた。
「デイビッドは葬儀に間に合わなかったのだろう? 全く何をやっているんだか」
「デイビッドは葬儀の直ぐ後に駆けつけてくれましたから」
「結婚して2年以上経つというのに、いつまで経ってもふらふらとして。今日もまだ来ていないのだよ、全く何処で道草を食っているのやら」
「去年ご結婚されたとか、おめでとうございます。お祝いを申し上げるのが遅くなり申し訳ありません。今日は奥方様は?」
「ああ、あれは少し遅れているのでね。後で挨拶できるだろう」
「先日知って慌てたんだが、ブリジットがアイラの屋敷に長逗留していたんだね。母親に似てブリジットは酷い癇癪持ちだから、さぞかし迷惑をかけたのではないかと心配していたんだ」
「領地は田舎なので王都のような娯楽もなくて、ご不便をおかけしていたと思います」
「結婚前は2人ともしおらしくしていたんだが、日を追うごとに本性をあらわしてね。うちでも揉め事が絶えなくて、使用人達からの苦情で頭が痛いよ」
「不躾な質問なのですが、ブリジットさんには専属の侍女やメイドはおられないのでしょうか? うちの使用人では行き届かないことも多くて、ご不便をおかけしているようなので」
「あの2人に付けた者達は長続きしない、と言うかあいつらが直ぐクビにしてしまうんだ」
案の定ブリジットは、侯爵家でも何人もの使用人にクビを言い渡しているようだ。次にブリジットが領地にやってきたら、また今までと同じことが繰り返されるのは確実だろう。
「デイビッドがブリジットさんのメイドを、王都で手配すると言っていましたが?」
ストックトン侯爵は鼻で笑い、
「デイビッドに役に立つ仕事が出来るとは思えんよ。メイド探しなんていう簡単なことでもね。今までエジャートン伯爵家の仕事だって、アイラ一人でこなしているんだろう?」
アイラは思わず目を伏せたが、ブリジットの事はなんとかしなければと口を開いた。
「エジャートンの領地は本当に何もない所なので、ブリジットさんがまたお越しくださるかは分かりませんが、次の機会には侍女かメイドをお連れいただけたら」
「ブリジットには私から話しておくよ。アイラにこれ以上迷惑をかけたら、小遣いを減額すると。あれは贅沢な奴だからね、それが一番効果があるんだ」
取り敢えず、ブリジットの事はなんとかなりそうだとほっとした。
「去年は冷害でうちの領地も大変だったが、伯爵領はどうかな?」
「夏だけでなく、冬には大雪に見舞われましたし、少しずつ復興に向けて進んでいるところです」
「領地経営を始めたばかりだというのに、伯爵領の経営はとても順調だそうだね」
(デイビッドに見せた帳簿では、経営が上手くいっていないように見せかけていたのだけど? デイビッドは帳簿は読めないのかも)
「今年は畑も羊の育成も順調なので、少しずつでも回復していければと思っています」
「そう、デイビッドから聞いたが染織工房の新設計画があるとか」
やはり染織工房の事を聞いてきた。
「はい、生前お父様が始めた計画です。採算が取れるまでにはまだ時間がかかりそうですが、少しずつでも進めていければと」
「工房の成功は職人の腕次第だからね」
ストックトン侯爵がどこまで内情を知っているのか、出来るだけ話を聞き出したいアイラは、
「私はまだ勉強不足で、頼りにしていたお父様は亡くなってしまいましたし・・。お義父様は染織工房についてお詳しいのですか?」
と、聞いてみた。
「うちの領地でも工房を持とうと思った事があってね。その時色々調べたんだ。結局今のところ先送りにしているんだが。
何か困った事があれば、何時でも相談して欲しい。デイビッドが役に立たない代わりと言ってはなんだが、私で良ければ相談に乗りたいと思っている」
やはりストックトン侯爵が怪しいのかもしれない。侯爵家が染織工房の事業を先送りにしている理由はなんなのだろう。
あなたにおすすめの小説
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
【完結】傷モノ令嬢は冷徹辺境伯に溺愛される
中山紡希
恋愛
父の再婚後、絶世の美女と名高きアイリーンは意地悪な継母と義妹に虐げられる日々を送っていた。
実は、彼女の目元にはある事件をキッカケに痛々しい傷ができてしまった。
それ以来「傷モノ」として扱われ、屋敷に軟禁されて過ごしてきた。
ある日、ひょんなことから仮面舞踏会に参加することに。
目元の傷を隠して参加するアイリーンだが、義妹のソニアによって仮面が剥がされてしまう。
すると、なぜか冷徹辺境伯と呼ばれているエドガーが跪まずき、アイリーンに「結婚してください」と求婚する。
抜群の容姿の良さで社交界で人気のあるエドガーだが、実はある重要な秘密を抱えていて……?
傷モノになったアイリーンが冷徹辺境伯のエドガーに
たっぷり愛され甘やかされるお話。
このお話は書き終えていますので、最後までお楽しみ頂けます。
修正をしながら順次更新していきます。
また、この作品は全年齢ですが、私の他の作品はRシーンありのものがあります。
もし御覧頂けた際にはご注意ください。
※注意※他サイトにも別名義で投稿しています。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。
その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。
婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。
孤独な結婚生活を送る中。
ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。
始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。
他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。
そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。
だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。
それから一年ほどたった冬の夜。
カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。
そこには彼の想いが書かれてあった。
月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。
カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。
※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。
※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。
稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。
【完結】あなたのいない世界、うふふ。
やまぐちこはる
恋愛
17歳のヨヌク子爵家令嬢アニエラは栗毛に栗色の瞳の穏やかな令嬢だった。近衛騎士で伯爵家三男、かつ騎士爵を賜るトーソルド・ロイリーと幼少から婚約しており、成人とともに政略的な結婚をした。
しかしトーソルドには恋人がおり、結婚式のあと、初夜を迎える前に出たまま戻ることもなく、一人ロイリー騎士爵家を切り盛りするはめになる。
とはいえ、アニエラにはさほどの不満はない。結婚前だって殆ど会うこともなかったのだから。
===========
感想は一件づつ個別のお返事ができなくなっておりますが、有り難く拝読しております。
4万文字ほどの作品で、最終話まで予約投稿済です。お楽しみいただけましたら幸いでございます。
とっていただく責任などありません
まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、
団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。
この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!?
ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。
責任を取らなければとセルフイスから、
追いかけられる羽目に。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
恋詠花
舘野寧依
恋愛
アイシャは大国トゥルティエールの王妹で可憐な姫君。だが兄王にただならぬ憎しみを向けられて、王宮で非常に肩身の狭い思いをしていた。
そんな折、兄王から小国ハーメイの王に嫁げと命じられたアイシャはおとなしくそれに従う。しかし、そんな彼女を待っていたのは、手つかずのお飾りの王妃という屈辱的な仕打ちだった。それは彼女の出自にも関係していて……?
──これは後の世で吟遊詩人に詠われる二人の王と一人の姫君の恋物語。
母と妹が出来て婚約者が義理の家族になった伯爵令嬢は・・
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
全てを失った伯爵令嬢の再生と逆転劇の物語
母を早くに亡くした19歳の美しく、心優しい伯爵令嬢スカーレットには2歳年上の婚約者がいた。2人は間もなく結婚するはずだったが、ある日突然単身赴任中だった父から再婚の知らせが届いた。やがて屋敷にやって来たのは義理の母と2歳年下の義理の妹。肝心の父は旅の途中で不慮の死を遂げていた。そして始まるスカーレットの受難の日々。持っているものを全て奪われ、ついには婚約者と屋敷まで奪われ、住む場所を失ったスカーレットの行く末は・・・?
※ カクヨム、小説家になろうにも投稿しています