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魔獣
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十月
ーーーーーー
「ジファール侯爵様のお話は、とても面白いですわ」
「そう言って頂けて恐縮です。若いお嬢様とは何を話して良いやら悩みます」
「まぁ、侯爵様ったら」
ポーレット公爵への挨拶が終わった後、ブリジットはアルフレッドの側で会話を楽しんでいる。話の途中で時々腕に触れたり、上目遣いで見上げたりとアルフレッドの事しか目に入っていないようだ。アルフレッドも会話を楽しんでいるようで、柔かな微笑みを絶やさない。
シンディはポーレット公爵夫人の側で、王立美術館で開催されている新進気鋭の画家について話している。公爵夫人は数人の新人画家のパトロンで、美術館へも多額の寄付をしている。
デイビッドはシンディの横に立ち、時々相槌を打ちながらシャンパンを口にしている。
アイラは名前を覚えていない(伯爵の誰か)とダンスをしながら、3人の様子を横目でチラチラと伺う。
(この状況がそのまま続けば良いのだけど)
均衡が崩れたのはその時。またしても入り口辺りが騒がしくなった。ダンスをしていた人達の足が止まり、人波が分かれていく。
(トマス様!)
柔かな微笑みを浮かべたトマスは、真っ直ぐポーレット公爵の下へ歩いていく。
「グラフトン公爵様だわ」
「いつ見ても素敵ね」
「今日いらっしゃるなんて」
周りの騒ぎを気にする事なく、ポーレット公爵と会話しているトマスは、時々広間の中を見回し誰かを探している。
止まっていたダンスが再開され、踊っていたアイラとトマスの目があう。トマスはポーレット公爵に一言二言話しかけた後、アイラに向かって歩いてきた。
「アイラ、次のダンスのお相手をお願い出来ますか?」
丁度曲の変わり目で、パートナーが入れ替わった。
「今日お越しとは存じませんでした」
「アイラが参加すると聞いたのでね、急遽参加する事にしたんだ。迷惑だったかな?」
「とんでもありません。お会いできて嬉しゅうございます」
「アイラは生真面目だね。もっと肩の力を抜く事を覚えるといいよ」
今日この日にグラフトン公爵まで参加するなんて、事態が手に負えなくなりそうな予感がする。案の定、ブリジットがこちらを睨みつけている。
「アルフレッドは随分と楽しそうだな。アルフレッドのあの顔は、何かを企んでる時なんだ。ミルクを前にした猫みたいだろう? アルフレッドだと、ライオンと生肉かな?」
「とットマス様」
「? 例えが不味かったかな。でもアルフレッドはまさにライオンだからね。彼はいつも半分うたた寝していて、獲物を見つけたら猛然と襲いかかる。がおーってね。どうやら間に合ったみたいだ」
「ジファール侯爵様、私もダンスがしたいですわ」
ブリジットがアルフレッドの腕にしなだれかかり、胸を押しつけてきた。
「ダンスなら、デイビッドがいるだろう?」
「私は是非、ジファール侯爵様とダンスしたいのです。お願いできませんか?」
ブリジットは自慢の睫毛を瞬かせて、アルフレッドを見上げる。アルフレッドはブリジットの腕をとても優雅な仕草で外し、
「すまないね、私はダンスの相手は自分で選ぶ事にしているんだ」
「!」
「さて、次のダンスの予定が詰まってしまう前に、声を掛けに行かなくては。失礼するよ」
アルフレッドがアイラの方へ歩いてくる。1人取り残されたブリジットは、拳を握りしめて真っ赤な顔でこちらを睨んでいる。
「トマス様、次は私と交代して頂けますか?」
「なんと私を魔獣の餌食にするつもりかい?」
「何のことですかな?」
アイラには意味の分からない会話が交わされ、ダンスのパートナーが入れ替わった。
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「ジファール侯爵様のお話は、とても面白いですわ」
「そう言って頂けて恐縮です。若いお嬢様とは何を話して良いやら悩みます」
「まぁ、侯爵様ったら」
ポーレット公爵への挨拶が終わった後、ブリジットはアルフレッドの側で会話を楽しんでいる。話の途中で時々腕に触れたり、上目遣いで見上げたりとアルフレッドの事しか目に入っていないようだ。アルフレッドも会話を楽しんでいるようで、柔かな微笑みを絶やさない。
シンディはポーレット公爵夫人の側で、王立美術館で開催されている新進気鋭の画家について話している。公爵夫人は数人の新人画家のパトロンで、美術館へも多額の寄付をしている。
デイビッドはシンディの横に立ち、時々相槌を打ちながらシャンパンを口にしている。
アイラは名前を覚えていない(伯爵の誰か)とダンスをしながら、3人の様子を横目でチラチラと伺う。
(この状況がそのまま続けば良いのだけど)
均衡が崩れたのはその時。またしても入り口辺りが騒がしくなった。ダンスをしていた人達の足が止まり、人波が分かれていく。
(トマス様!)
柔かな微笑みを浮かべたトマスは、真っ直ぐポーレット公爵の下へ歩いていく。
「グラフトン公爵様だわ」
「いつ見ても素敵ね」
「今日いらっしゃるなんて」
周りの騒ぎを気にする事なく、ポーレット公爵と会話しているトマスは、時々広間の中を見回し誰かを探している。
止まっていたダンスが再開され、踊っていたアイラとトマスの目があう。トマスはポーレット公爵に一言二言話しかけた後、アイラに向かって歩いてきた。
「アイラ、次のダンスのお相手をお願い出来ますか?」
丁度曲の変わり目で、パートナーが入れ替わった。
「今日お越しとは存じませんでした」
「アイラが参加すると聞いたのでね、急遽参加する事にしたんだ。迷惑だったかな?」
「とんでもありません。お会いできて嬉しゅうございます」
「アイラは生真面目だね。もっと肩の力を抜く事を覚えるといいよ」
今日この日にグラフトン公爵まで参加するなんて、事態が手に負えなくなりそうな予感がする。案の定、ブリジットがこちらを睨みつけている。
「アルフレッドは随分と楽しそうだな。アルフレッドのあの顔は、何かを企んでる時なんだ。ミルクを前にした猫みたいだろう? アルフレッドだと、ライオンと生肉かな?」
「とットマス様」
「? 例えが不味かったかな。でもアルフレッドはまさにライオンだからね。彼はいつも半分うたた寝していて、獲物を見つけたら猛然と襲いかかる。がおーってね。どうやら間に合ったみたいだ」
「ジファール侯爵様、私もダンスがしたいですわ」
ブリジットがアルフレッドの腕にしなだれかかり、胸を押しつけてきた。
「ダンスなら、デイビッドがいるだろう?」
「私は是非、ジファール侯爵様とダンスしたいのです。お願いできませんか?」
ブリジットは自慢の睫毛を瞬かせて、アルフレッドを見上げる。アルフレッドはブリジットの腕をとても優雅な仕草で外し、
「すまないね、私はダンスの相手は自分で選ぶ事にしているんだ」
「!」
「さて、次のダンスの予定が詰まってしまう前に、声を掛けに行かなくては。失礼するよ」
アルフレッドがアイラの方へ歩いてくる。1人取り残されたブリジットは、拳を握りしめて真っ赤な顔でこちらを睨んでいる。
「トマス様、次は私と交代して頂けますか?」
「なんと私を魔獣の餌食にするつもりかい?」
「何のことですかな?」
アイラには意味の分からない会話が交わされ、ダンスのパートナーが入れ替わった。
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