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侯爵邸
十二月
ーーーーーー
19時過ぎ。ストックトン侯爵の屋敷前に馬車を停めた。馬車の中にソフィアを残して、アイラは1人で玄関に向かう。ウィルソンは毛布を被って、ソフィアの足元に蹲っている。
ドアのノッカーを力強く叩くと、暫くしてドアが開き男が出てきた。二言三言話した後、アイラは屋敷に入って行った。
「あんたがアイラ様に、こんなこと許したのが信じらんないわ」
「仕方ないだろう? いくら言っても聞きゃしない。1人でこっそり、抜け出しそうだったんだ」
「だったら縄でぐるぐる巻にして、クローゼットにでも閉じ込めれば良かったんだわ」
「覚えとくよ」
「アイラ様に何かあったら、タダじゃ置かないからね」
アイラは応接室に案内された。暖炉に火が入っていて暖かいが、照明が抑えられていて少し薄暗い。
「エジャートン伯爵様、マントをお預かりします」
「いえ、すぐお暇するからこのままで」
ガウン姿の、ストックトン侯爵が入ってきた。
「アイラ、こんな時間にどうしたんだい?」
「お加減が悪いと聞いて、心配しておりましたの。色々あって、中々お伺いできなかったものですから」
「ああ、まぁ大したことはないんだが、大事をとって休む事にしたんだ」
侯爵は、今回の訪問を訝しんでいるようで、表情が硬く歯切れが悪い。
「アルフレッド様のお屋敷では、ウィルソンがご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いや、彼の怪我は大丈夫だったかな?」
「はい、お義父様にご迷惑をおかけした事、きつく注意しておきました」
「・・迷惑と言うと?」
「あの時の男、ビクターと言うそうです。デイビッドと共謀して、お父様達の事故を起こした犯人だったんです」
「そうだったのか」
「はい、ずっと探していて。それでウィルソンは勇足をしてしまったんです。でも、お義父様もお気付きだったとは思いませんでした」
「・・?」
「お義父様が、あの男を誘き出してくださったのでしょう?」
「あ、ああ」
「ビクターはとうとう捕まったんです。まだ何も話してない様ですが、じきに全てが明らかになると思います。その事をお伝えして、お礼を申し上げようと」
「そうか、お父上達の」
「こんな時間に、申し訳ありませんでした。少し急ぎますのでお暇致しますね」
アイラは立ち上がり、礼をした後ドアに向かう。
「玄関まで送ろう」
執事がドアを開け、侯爵と2人並んで玄関へ向かう。従僕が玄関のドアを開き、アイラは一歩外へ踏み出した。
「お義父様、色々ありがとうございます。この後、グランディ教会とアルフレッド様の所へ行くので、失礼します」
ストックトン侯爵は、歩き出そうとするアイラの腕を掴み、
「今なんと?」
「教会で、離婚の手続きを済ませてから、アルフレッド様に後見人になって頂くようお願いに参りますの。
デイビッドはあの通りですし、やはり女1人では色々心許ないので」
「待ってくれ、それなら私が」
「離婚したら、あれこれ噂されたりしますでしょう。これ以上ご迷惑はおかけ出来ませんわ。もう委任状にサインも済ませたので、後はアルフレッド様のサインを頂くだけですの」
「今、持っているのかい?」
「はい、これです」
マントをから手を出して、書類を見せる。暗くて内容はよく見えないが、確かにアイラのサインがされている。
「弁護士にも確認してもらったので、問題ないと思います。お義父様、手を離して頂けませんか? 馬車で侍女が1人で待っていますの」
「ウィルソンや護衛は?」
「犯人は捕まったと言うのに、あれこれ煩くて。みんな置いてきました」
アイラは、悪戯に成功した子供の様な笑顔を浮かべた。
「とにかく中へ」
侯爵は強い力で、アイラを屋敷の中に引き込もうとした。
「アイラ様!」
馬車の窓からソフィアが顔を出し、大声で叫ぶ。近くを歩いていた紳士が何事かと振り返り、アイラ達を凝視している。
「もう、ソフィアったら」
小声で呟き、
「お義父様、人が見ています。手を離して下さい」
紳士は心配したのか、アイラ達の元へ歩きかけた。ストックトン侯爵が手を離した。アイラは紳士に会釈をして、馬車に乗り込んだ。
馬車が走り出した。ソフィアの顔は引き攣り、手が震えている。
「全く、生きた心地がしませんでした。二度とこんな事はごめんですよ」
「ありがとう、ソフィア。凄く良いタイミングだったわ。紳士役の方も」
ウィルソンが毛布から顔を出した。
「ソフィア、ったく。俺をサンドバッグ代わりにするのはやめてくれ。それでどうなりましたか?」
「多分上手く言ったと思う。屋敷の中では、当たり障りのない話だけして、肝心の話は玄関を出てからしたから。今回は危険も何もなかったわ」
アイラが得意満面でウィルソンを見る。
「お一人で侯爵に対峙するだけで、十分危険ですけど」
ソフィアが小言を言う。
「侯爵に何を見せていたんですか?」
「委任状よ」
ソフィアが内容を読み、呆然とした。
「アイラ様、これって・・」
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19時過ぎ。ストックトン侯爵の屋敷前に馬車を停めた。馬車の中にソフィアを残して、アイラは1人で玄関に向かう。ウィルソンは毛布を被って、ソフィアの足元に蹲っている。
ドアのノッカーを力強く叩くと、暫くしてドアが開き男が出てきた。二言三言話した後、アイラは屋敷に入って行った。
「あんたがアイラ様に、こんなこと許したのが信じらんないわ」
「仕方ないだろう? いくら言っても聞きゃしない。1人でこっそり、抜け出しそうだったんだ」
「だったら縄でぐるぐる巻にして、クローゼットにでも閉じ込めれば良かったんだわ」
「覚えとくよ」
「アイラ様に何かあったら、タダじゃ置かないからね」
アイラは応接室に案内された。暖炉に火が入っていて暖かいが、照明が抑えられていて少し薄暗い。
「エジャートン伯爵様、マントをお預かりします」
「いえ、すぐお暇するからこのままで」
ガウン姿の、ストックトン侯爵が入ってきた。
「アイラ、こんな時間にどうしたんだい?」
「お加減が悪いと聞いて、心配しておりましたの。色々あって、中々お伺いできなかったものですから」
「ああ、まぁ大したことはないんだが、大事をとって休む事にしたんだ」
侯爵は、今回の訪問を訝しんでいるようで、表情が硬く歯切れが悪い。
「アルフレッド様のお屋敷では、ウィルソンがご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「いや、彼の怪我は大丈夫だったかな?」
「はい、お義父様にご迷惑をおかけした事、きつく注意しておきました」
「・・迷惑と言うと?」
「あの時の男、ビクターと言うそうです。デイビッドと共謀して、お父様達の事故を起こした犯人だったんです」
「そうだったのか」
「はい、ずっと探していて。それでウィルソンは勇足をしてしまったんです。でも、お義父様もお気付きだったとは思いませんでした」
「・・?」
「お義父様が、あの男を誘き出してくださったのでしょう?」
「あ、ああ」
「ビクターはとうとう捕まったんです。まだ何も話してない様ですが、じきに全てが明らかになると思います。その事をお伝えして、お礼を申し上げようと」
「そうか、お父上達の」
「こんな時間に、申し訳ありませんでした。少し急ぎますのでお暇致しますね」
アイラは立ち上がり、礼をした後ドアに向かう。
「玄関まで送ろう」
執事がドアを開け、侯爵と2人並んで玄関へ向かう。従僕が玄関のドアを開き、アイラは一歩外へ踏み出した。
「お義父様、色々ありがとうございます。この後、グランディ教会とアルフレッド様の所へ行くので、失礼します」
ストックトン侯爵は、歩き出そうとするアイラの腕を掴み、
「今なんと?」
「教会で、離婚の手続きを済ませてから、アルフレッド様に後見人になって頂くようお願いに参りますの。
デイビッドはあの通りですし、やはり女1人では色々心許ないので」
「待ってくれ、それなら私が」
「離婚したら、あれこれ噂されたりしますでしょう。これ以上ご迷惑はおかけ出来ませんわ。もう委任状にサインも済ませたので、後はアルフレッド様のサインを頂くだけですの」
「今、持っているのかい?」
「はい、これです」
マントをから手を出して、書類を見せる。暗くて内容はよく見えないが、確かにアイラのサインがされている。
「弁護士にも確認してもらったので、問題ないと思います。お義父様、手を離して頂けませんか? 馬車で侍女が1人で待っていますの」
「ウィルソンや護衛は?」
「犯人は捕まったと言うのに、あれこれ煩くて。みんな置いてきました」
アイラは、悪戯に成功した子供の様な笑顔を浮かべた。
「とにかく中へ」
侯爵は強い力で、アイラを屋敷の中に引き込もうとした。
「アイラ様!」
馬車の窓からソフィアが顔を出し、大声で叫ぶ。近くを歩いていた紳士が何事かと振り返り、アイラ達を凝視している。
「もう、ソフィアったら」
小声で呟き、
「お義父様、人が見ています。手を離して下さい」
紳士は心配したのか、アイラ達の元へ歩きかけた。ストックトン侯爵が手を離した。アイラは紳士に会釈をして、馬車に乗り込んだ。
馬車が走り出した。ソフィアの顔は引き攣り、手が震えている。
「全く、生きた心地がしませんでした。二度とこんな事はごめんですよ」
「ありがとう、ソフィア。凄く良いタイミングだったわ。紳士役の方も」
ウィルソンが毛布から顔を出した。
「ソフィア、ったく。俺をサンドバッグ代わりにするのはやめてくれ。それでどうなりましたか?」
「多分上手く言ったと思う。屋敷の中では、当たり障りのない話だけして、肝心の話は玄関を出てからしたから。今回は危険も何もなかったわ」
アイラが得意満面でウィルソンを見る。
「お一人で侯爵に対峙するだけで、十分危険ですけど」
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