【完結】何度出会ってもやっぱり超絶腹黒聖職者

との

文字の大きさ
1 / 191

1.二度目の事故 覚醒

しおりを挟む
(こんな終わりだなんて)

(やり直せたら⋯⋯伝えられるかな)






 聞き慣れている声のような、知らない人の声のような⋯⋯今のは誰の声だったんだろうと不思議に思いながら、ローザリアはいつものように気配を殺し下を向いていた。




 目の前で退屈そうに扇子を揺らしているのはローザリアの母カサンドラ。

 いつもなら馴染みの仕立て屋や宝石商を屋敷に呼びつけるカサンドラが何の気まぐれか急に店に行きたいと言い出したため、慌てて馬車を準備させて侍女や護衛を引き連れて出かけてきたのだが⋯⋯。

(急すぎたからかな、毒を飲まされてないし⋯⋯毒?)

 新しいドレスを作ってもらえるとご機嫌で馬車の中で飛び跳ねているのはローザリアの二つ年下の妹リリアーナ。

 カサンドラもリリアーナほどではないが普段に比べるとかなり機嫌が良さそうにしている。

(今日は叱られないかも)



 ガッ、ガガッガタン

 ごふっ! どん!



「「きゃあー!」」

 馬車が突然大きく傾ぎ前を向いて座っていたカサンドラとリリアーナが座席から投げ出された。その拍子にカサンドラが持っていた扇子が長女ローザリアの喉に突き刺さったが、カサンドラがローザリアを押しのけるように背を起こした。

「ぐぇっ、ゲッ、ゲホッゲホッ」

 カサンドラの隣に座っていたリリアーナはカサンドラにしがみついて泣き出した。

「お母様、怖いよー」

「煩いわね、おだまんなさい!!」


 カサンドラは天井を叩き御者に向けて金切り声を上げた。

「何やってるのよ!!」


「申し訳ございません、車輪が!」

 御者台から慌てた声が聞こえてきて、馬車の横を騎馬でついてきていた護衛が慌ただしく扉を開いた。

 馬車に乗っていたのはトーマック公爵夫人のカサンドラと長女のローザリアと次女のリリアーナ。



 少し斜めに傾いだ馬車からカサンドラ達3人が降りると2台目の馬車の方から侍女が慌てて駆けてきた。

「カサンドラ様、リリアーナ様。お怪我はございませんか!?」

「怪我があったらここにいる全員打首にしてるわよ!」


「申し訳ございません、あの⋯⋯車輪に異常があったのかも⋯⋯」

 ビクビク怯えながら御者が説明した。

「はぁ? だったらこんな街中で立ち往生って事!? 冗談じゃないわ!! 帰ったらただでは済ませないから覚えてらっしゃい」

「申し訳ございません、直ぐに調べて⋯⋯」

「馬車の整備も真面にできないなんて、少しでも怪我をしていたらお前の命なんかでは済まないってわかってるの!!」

 御者の言葉に重ねるように金切り声を上げたカサンドラの前で、真っ青になった御者が震えながら土下座しはじめた。



 癇癪を起こすカサンドラと傾いだ馬車を行き交う人達が遠巻きに見ていた。

「こえぇ、あのおばさんヤバくね?」

「あれだから貴族って」



「あっあのぉ⋯⋯カサンドラ様、あちらのお店でお待ちになられてはいかがでしょうか? 席が空いているか直ぐに聞いて参りますので」

 母の癇癪を逃れるためか侍女が恐る恐る話しかけた。

「席を探すならさっさとなさい! いつまでわたくしを立たせておくつもり!?」

「はっはい! 申し訳ございません」

 走り出した侍女の後ろ姿を横目にローザリアはカサンドラの扇子が突き刺さった喉を押さえ、まだ霞む目でぼうっとカサンドラ達のやりとりを見ていた。

(あれ? この後って⋯⋯)



「あっ、ねこちゃんだー!!」

 リリアーナの嬉しそうな声が聞こえた。


(これって⋯⋯そうだ、この後リリアーナが猫を追いかけて⋯⋯)


 ローザリアは慌てて周りを見回したがリリアーナの姿が見えない。

(走ってきた馬車に轢かれてリリアーナが怪我して、その責任を取れって言われて⋯⋯)


 ローザリアは傾いだ馬車を回り込んで馬車の後ろに回り、既に道の真ん中近くまで飛び出していたリリアーナを見つけ腕をガシッと捕まえた。

「はなしてよ!!」

「駄目よ、危ない!!」



 ピーーーピッピーー!



 危険を知らせる馬車の警笛が聞こえる。道に無遠慮に停まったトーマック家の大きな馬車を避けるように走ってきた豪奢な馬車は勢いを止められず、リリアーナ達に向けて走ってくる。

 大きく口を開けた御者の表情が見える程近い。

(そんな、もう間に合わない!!)

 暴れていたリリアーナを後ろに突き飛ばしたローザリアは、勢いを止められない馬に引き摺られて意識を失った。



(なんでこのタイミングかなあ⋯⋯)

しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

二周目聖女は恋愛小説家! ~探されてますが、前世で断罪されたのでもう名乗り出ません~

今川幸乃
恋愛
下級貴族令嬢のイリスは聖女として国のために祈りを捧げていたが、陰謀により婚約者でもあった王子アレクセイに偽聖女であると断罪されて死んだ。 こんなことなら聖女に名乗り出なければ良かった、と思ったイリスは突如、聖女に名乗り出る直前に巻き戻ってしまう。 「絶対に名乗り出ない」と思うイリスは部屋に籠り、怪しまれないよう恋愛小説を書いているという嘘をついてしまう。 が、嘘をごまかすために仕方なく書き始めた恋愛小説はなぜかどんどん人気になっていく。 「恥ずかしいからむしろ誰にも読まれないで欲しいんだけど……」 一方そのころ、本物の聖女が現れないため王子アレクセイらは必死で聖女を探していた。 ※序盤の断罪以外はギャグ寄り。だいぶ前に書いたもののリメイク版です

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら

影茸
恋愛
 公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。  あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。  けれど、断罪したもの達は知らない。  彼女は偽物であれ、無力ではなく。  ──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。 (書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です) (少しだけタイトル変えました)

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

処理中です...