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一回目 (過去)
8.貴族達の思惑
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「すみません。厨房はどこでしょうか?」
「やあ! えっと、初めましてだね」
「申し遅れました。リリアーナ様付きのメイド見習いでございます。急いでリリアーナ様のお茶をお願いしたくて厨房を探しております」
「ふーん⋯⋯付いておいでよ」
ジロジロと頭の先から足元まで見ていた従僕はローザリアを案内するつもりなのか、ズカズカと近付いてきて腕を掴み歩きはじめた。
突然知らない人に触られたせいか、叩かれた時のような衝撃を感じたローザリアが怯えると従僕があわてて手を離した。
「なにもしないから」
リリアーナの湯浴みは結構長いが、湯浴みから出てくる前にお茶の準備を済ませておかないと癇癪が⋯⋯と内心慌てているローザリアに気づいていないのか、屋敷の奥の細い廊下を進みながら従僕は呑気にローザリアに話しかけて来た。
「俺はその⋯⋯ルーク」
「⋯⋯」
「みんなが雨降らしに出かけたら暇になるだろ? えっと、その時にお茶でもどう?」
「あの、メイド見習いなのでそういう時間はとれないと思います」
「休憩時間とかは?」
「さあ、どうでしょうか。よくわかりません。あっ、メイドさんだわ!! すみません、リリアーナ様のお茶の準備がしたいのですがどなたにお願いしたら良いでしょうか!?」
廊下の先にリネンを抱えて小部屋から出て来たメイドを見つけたローザリアは、ルークにペコリと頭を下げてメイドの元に走って行った。
(危なかった。名前聞かれるとは思わなかった)
出発前日カサンドラに呼び出されたローザリアはいくつかの指示を与えられていた。
『お前の名前はいかにも貴族って感じだから向こうで誰にも名前を言わない事。出来る限り人と話さずにいなさい。
トーマック公爵家の娘だなんてバレたらタダじゃおかないから、その時は鞭打ちだけでは済まさないわ。
役立たずでもそれくらいは出来るわよね』
(ほんの数日⋯⋯2日か3日くらいだもの。頑張らなくちゃ。お母様の鞭は立てなくなるから怖い)
ギリギリでお茶の準備は間に合ったが疲れが溜まっているリリアーナの機嫌は最悪だった。『お茶菓子が好みじゃない』からはじまり『部屋が埃っぽい』『夕食の鴨が固かった』『貴族が一杯で面倒』
その都度リリアーナの八つ当たりを受けたローザリアは疲労困憊して夕食も食べず衣装部屋の床で眠りについた。
(早く終わるといいなあ。藁敷きでもベッドがある自分の部屋がいい)
翌日の午前中、ランブリー団長やサットン達一部の学園生達が状況の視察に出かけて行った。
午後から溜池と井戸へと水を補給する予定になっている為、視察に行かなかった学園生達は各々イメージトレーニングや休憩に時間を当てている。
待機していた王宮精霊師からの指導を受ける学園生達が真剣な顔で講義を受けていたり、持ってきた本を読んでいたり⋯⋯。
そんな中リリアーナは両親や視察に来ている貴族達と優雅にお茶会を楽しんでいた。
「随分と人が集まっておるようですな」
「ええ。旱魃は大なり小なり王国全土の問題となっている今、学園生の力を借りると言う初めての試みに国中が関心を寄せております」
「精霊の加護が弱まっていると言う者もおります。学園生はどうなのでしょうか?」
「原因もわからないまま、王宮精霊師達はただオロオロするばかりで情けないと思われませんか」
「今回はトーマック公爵令嬢がおられるのですから、問題の起こりようがありませんね」
「リリアーナ様のお陰でトーマック公爵領は問題ないと聞いております」
「雨は降らんのだが領地経営には問題ない程度になっておりますな」
得意満面なウォレスと優雅にお茶を飲むカサンドラ。自領を次の候補地にして欲しい者達が必死にご機嫌をとっていた。
「ここで成功すればリリアーナ様は王太子殿下との婚約もあるのではありませんか?」
「あら、成功すればなどと。まるで失敗する可能性があるような口ぶりですこと」
「いや、これは言い方を間違えてしまい大変申し訳ありません。成功の後と言うつもりで申しました。どうかお許しいただきたい」
「まあ、王太子妃に相応しいのが誰なのか⋯⋯そろそろ陛下もご理解されるやもしれませんな」
「リリアーナ様は美しさと血筋に加えて強い精霊の加護。これ以上の方はおられますまい。皆さんもそう思われますでしょう?」
皆が一斉に頷きあい可愛らしく微笑んだリリアーナは両手で頬を押さえた。
「皆さんにそのように仰られては恥ずかしいですわ。学園生の方達の様子を見て少しばかりお手伝いして参りますわね」
上品に立ち上がり別館に向けて歩き出したリリアーナは皆が見えないところまで来たのを確認して鼻を鳴らした。
「やあ! えっと、初めましてだね」
「申し遅れました。リリアーナ様付きのメイド見習いでございます。急いでリリアーナ様のお茶をお願いしたくて厨房を探しております」
「ふーん⋯⋯付いておいでよ」
ジロジロと頭の先から足元まで見ていた従僕はローザリアを案内するつもりなのか、ズカズカと近付いてきて腕を掴み歩きはじめた。
突然知らない人に触られたせいか、叩かれた時のような衝撃を感じたローザリアが怯えると従僕があわてて手を離した。
「なにもしないから」
リリアーナの湯浴みは結構長いが、湯浴みから出てくる前にお茶の準備を済ませておかないと癇癪が⋯⋯と内心慌てているローザリアに気づいていないのか、屋敷の奥の細い廊下を進みながら従僕は呑気にローザリアに話しかけて来た。
「俺はその⋯⋯ルーク」
「⋯⋯」
「みんなが雨降らしに出かけたら暇になるだろ? えっと、その時にお茶でもどう?」
「あの、メイド見習いなのでそういう時間はとれないと思います」
「休憩時間とかは?」
「さあ、どうでしょうか。よくわかりません。あっ、メイドさんだわ!! すみません、リリアーナ様のお茶の準備がしたいのですがどなたにお願いしたら良いでしょうか!?」
廊下の先にリネンを抱えて小部屋から出て来たメイドを見つけたローザリアは、ルークにペコリと頭を下げてメイドの元に走って行った。
(危なかった。名前聞かれるとは思わなかった)
出発前日カサンドラに呼び出されたローザリアはいくつかの指示を与えられていた。
『お前の名前はいかにも貴族って感じだから向こうで誰にも名前を言わない事。出来る限り人と話さずにいなさい。
トーマック公爵家の娘だなんてバレたらタダじゃおかないから、その時は鞭打ちだけでは済まさないわ。
役立たずでもそれくらいは出来るわよね』
(ほんの数日⋯⋯2日か3日くらいだもの。頑張らなくちゃ。お母様の鞭は立てなくなるから怖い)
ギリギリでお茶の準備は間に合ったが疲れが溜まっているリリアーナの機嫌は最悪だった。『お茶菓子が好みじゃない』からはじまり『部屋が埃っぽい』『夕食の鴨が固かった』『貴族が一杯で面倒』
その都度リリアーナの八つ当たりを受けたローザリアは疲労困憊して夕食も食べず衣装部屋の床で眠りについた。
(早く終わるといいなあ。藁敷きでもベッドがある自分の部屋がいい)
翌日の午前中、ランブリー団長やサットン達一部の学園生達が状況の視察に出かけて行った。
午後から溜池と井戸へと水を補給する予定になっている為、視察に行かなかった学園生達は各々イメージトレーニングや休憩に時間を当てている。
待機していた王宮精霊師からの指導を受ける学園生達が真剣な顔で講義を受けていたり、持ってきた本を読んでいたり⋯⋯。
そんな中リリアーナは両親や視察に来ている貴族達と優雅にお茶会を楽しんでいた。
「随分と人が集まっておるようですな」
「ええ。旱魃は大なり小なり王国全土の問題となっている今、学園生の力を借りると言う初めての試みに国中が関心を寄せております」
「精霊の加護が弱まっていると言う者もおります。学園生はどうなのでしょうか?」
「原因もわからないまま、王宮精霊師達はただオロオロするばかりで情けないと思われませんか」
「今回はトーマック公爵令嬢がおられるのですから、問題の起こりようがありませんね」
「リリアーナ様のお陰でトーマック公爵領は問題ないと聞いております」
「雨は降らんのだが領地経営には問題ない程度になっておりますな」
得意満面なウォレスと優雅にお茶を飲むカサンドラ。自領を次の候補地にして欲しい者達が必死にご機嫌をとっていた。
「ここで成功すればリリアーナ様は王太子殿下との婚約もあるのではありませんか?」
「あら、成功すればなどと。まるで失敗する可能性があるような口ぶりですこと」
「いや、これは言い方を間違えてしまい大変申し訳ありません。成功の後と言うつもりで申しました。どうかお許しいただきたい」
「まあ、王太子妃に相応しいのが誰なのか⋯⋯そろそろ陛下もご理解されるやもしれませんな」
「リリアーナ様は美しさと血筋に加えて強い精霊の加護。これ以上の方はおられますまい。皆さんもそう思われますでしょう?」
皆が一斉に頷きあい可愛らしく微笑んだリリアーナは両手で頬を押さえた。
「皆さんにそのように仰られては恥ずかしいですわ。学園生の方達の様子を見て少しばかりお手伝いして参りますわね」
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