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一回目 (過去)

38.慌てるケビンと喜ぶナスタリア神父

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「はい、宜しくお願いします」


「何もかも教会にお願いするのは申し訳ないのでせめてお昼を持たせようと準備致しましたの。ケビン、渡しておいてね」

「畏まりました」

 玄関先で昼食と飲み物の入ったバスケットを差し出したケビンが耳元で囁いた。

「カサンドラ様が召し上がるようにと仰せです。健康の為に捨てたり残したりしないようにと」

 手渡されたローザリアは顔を引き攣らせた。ニマニマと嫌な笑いを浮かべるケビンを見なくても何かが入っているのはわかる。

(具合が悪くなればよし、悪くならなければ食べなかったと言って折檻って事か)

 バスケットを持て余したまま俯いているローザリアこ後ろからぬっと手が伸びてきた。

「ほう、公爵家の昼食とは! トーマック公爵家の料理人は元王宮勤めで態々それを引き抜いて来られたと有名でしたなぁ。そのような美食家の昼食ならば非常に興味深い。ローザリア様、半分わけしませんか。勿論私の教会食もお分けしますぞ」

 バスケットを取り上げたナザエル枢機卿が薄ら笑いを浮かべふむふむと態とらしく頷いている。

「ああ、それは良い考えですね。明日は私が半分こさせていただきましょう。枢機卿と私で交代交替ということで。
公爵夫人にお伝え下さい。しておりますと」

 青褪めたケビンが慌ててバスケットに手を伸ばしたがナザエル枢機卿が一歩後ろに下がったので手が届かなかった。

「ナザエル枢機卿⋯⋯あの」

「ああ、分かってる」

 ジャスパーはナザエル枢機卿とナスタリア神父が公爵達の考えや使用人達の行動を全て知っているのだと気付いた。あの昼食の嫌がらせにもすぐに気がついていた。

 ローザリアには食事もなく下働きのように働かされ使用人に虐められていると教えずにローザリアの護衛を任された意味はなんだったのか。ジャスパーはナザエル枢機卿とナスタリア神父の茶番を見ながら考え込んでいた。


 顔を引き攣らせオロオロするケビンを無視してローザリアを馬車にエスコートしたナスタリア神父は大事そうにバスケットを抱えていた。
 ナザエル枢機卿と護衛が騎馬して隊列を整えるとあちこちから覗いていた使用人達が嬌声をあげた。


「ありがとうございました。助けて頂いてばかりで申し訳ありません」

 ナスタリア神父が抱えているバスケットを見ながらローザリアが頭を下げた。

「お気になさらず。私達も楽しませてもらいましたので。この中身を調べるのも楽しみの一つです。私は以前薬草の研究に嵌っていまして。戴いたのが光の加護であれば治療師になっていたと思います。ここだけの話ですが、火の加護を戴いた時は正直がっかりして精霊王様に毎日愚痴を言っていたのです。
ですから、これに使われているのが何なのか久しぶりのお楽しみを見つけたようでとても興味があるのです」

「そう言っていただけると助かります?」

 ナスタリア神父が毒草を口にしては人体実験をしていたのはあまり知られていない秘密の一つ。

「私は助けて頂くばかりで⋯⋯」



「ところで、何故あのタイミングだったのか気になりませんか? 8年前に神託の儀を受けなかったのは別にしても加護を持っておられる気配もなかった。
ところが突然精霊が大量に現れたのが何故あの時だったのか」

「はい、私も気になっています。それまで光の玉を見たことも声を聞いたことも一度もなくて突然だったんです。だから最初空耳かと思ったくらい」

「精霊王と精霊達がおられ、彼等は様々な力を持っています。私達人間はとても弱い生き物ですが大なり小なり魔力を持っています。
人が加護と言う形で精霊達の力を行使するには魔力が必要です。
7歳より前に光の玉を見たり気配を感じたりする者がいるので加護は生まれつき持っているのかもしれません」

「では、偶々あの時加護が発現したのではなく既に持っていたかもと言うことですか?」

「その可能性が高いと思います。だからこそ、何故あの時だったのか」

「少し前に公爵領で水不足を何とかしたいからって言うリリアーナ達に同行したんですがその時は何も見えませんでした」

「2つの違いは何だったのか。気持ちの強さなのか場所なのか」

「オーレアンでは確か、皆さんとても一生懸命頑張っておられたのにうまくいかなくて。みんなの努力が実って領地の人が助かりますようにって思っていました。
領地でも同じように考えていたように思います。でもすごく忙しかったからオーレアンほど見たり考えたりする暇はなかったかも。
その違いでしょうか?」

「水の公爵と呼ばれているトーマック公爵家は何代も前から水の精霊の力を行使できていない。それも関係しているのかも知れませんね。もしわかったら是非教えてください」

 だから公爵達はリリアーナをあれ程褒め称えるのか。



「ところで、ジャスパーはどうでしたか?」

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