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一回目 (過去)

37.怒りに燃えるジャスパー

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 ローザリアが下働きのように働かされていることも使用人から酷い扱いを受けていることも腹が立つが、言い返す暇を与えられないのも腹が立つ。
 ローザリアが公爵家長女として毅然とした態度を取れば少しは違うのではないかと思い、代わりに文句を言ってやろうとしたジャスパーは欲求不満でイライラしていた。
 護衛の仕事を逸脱している考えだと分かっていても、昨日見た精霊達の光を思い出すとローザリアが酷い扱いを受けているのが我慢ならない。

「ごめんなさい。私の護衛だなんて言ったら後が面倒になりそうで。この後はさっきのベンチで休憩してもらえたら助かります」

「はっきり言ってやってはいかがですか? あれ程の精霊の加護を持つ方がこのような理不尽な扱いをされているなど我慢できません!」

「今は何を言っても変わらないってわかっているから言わないんです」

「しかし、この国で加護を持つ者は大切に護られると国法で決められていますし、ローザリア様はこの公爵家の長女です。
使用人からあのような扱いをされるなど、不敬に問われて然るべきです」

「使用人は公爵様達の態度を見てあのような態度をとっています。だから使用人に文句を言っても変わらないんです。
不快な思いをさせてしまって申し訳ありません。本当に裏のベンチで休憩していて下さい。教会の方が来られるまでそんなに長くはかからないと思いますから」

「公爵閣下に相談されたことは?」

「⋯⋯仕事が残っているので失礼します。後、今日見たこととかあまり話さないでもらえたら助かります」

「ナザエル枢機卿やナスタリア神父に話すなと仰るのですか? 相談すればあの方々なら必ず助けて下さいます」

「ええ、助けてくださるのは知っています。でも⋯⋯恥ずかしいと言うか自分が情けないんです! 昨日思ってもいなかったほど助けていただきましたし、これからも助けてくださると仰っています。
だからこれ以上はもう、情けなくて。
たかが使用人の態度くらい大したことではありません。もうしばらくの辛抱だと思っていますしこの状況から抜け出すために頑張るつもりで⋯⋯漸く頑張りはじめられるようになったとこなんです」

 誰だってあんな状況を良しとしているはずがない。今までの経緯も分からず頭に血を登らせて護るべき相手に頭を下げさせてしまった事をジャスパーは後悔した。ナザエル枢機卿に『頼む』と言われたのに⋯⋯。教会に帰ったら懲罰房行きを願い出ようと心に決めたジャスパーだった。

「⋯⋯出過ぎた真似を致しました。どうかお許しください」

「いえ、私こそごめんなさい。このことは私が今まで何もしてこなかったのが原因なんです。私なんかには何もできないってずっと思っていて、我慢するしかできないんだって思ってました。捨てられるか死ぬまでこのまま我慢する以外ないって思い込んでいたんです。
今日も昨日の夜もジャスパーさんに嫌な思いをさせるってわかっていて何もしなかったんです。私に護衛だなんて断れば良かったのに⋯⋯。
なのになんの説明もなくジャスパーさんにあんなきついことを言ってしまってごめんなさい」

「頭をおあげ下さい。護衛対象の方に頭を下げさせるなど護衛失格です。申し訳ありませんでした」



 その後ローザリアは洗濯をはじめ、ジャスパーは使用人達の嫌味も話しかけてくる使用人も一切無視してローザリアに付き従った。

 洗濯物を干し終わった頃屋敷の表が騒がしくなり教会の馬車がやって来た。

 慌てて部屋に戻ったローザリアは昨日着ていたデイドレスに着替え階下に降りた。

(これしかないし⋯⋯)

 応接室の前で深呼吸しドアをノックした。

「ローザリアです」

 ドアが開きケビンが顔を覗かせた。部屋に入ると公爵夫妻が並んで座りナザエル枢機卿とナスタリア神父が向かいに座っていた。

「おはようございます」

「昨日はお疲れ様でした。あの後よく眠れましたか?」

「はい、お陰様でしっかりと休ませていただきました」

「ローザリア、今日から教会に行くのだからいつものように甘えていては駄目よ。あなたの行い次第でわたくし達が恥をかいてしまうのだから」

 相当機嫌が悪いようで横目で睨みつけるカサンドラは扇子を左手に打ち付けている。ウォレスにいたっては腕を組んだままそっぽを向いている始末。

「お互いのサインも済ませた事ですし出発しましょう。ローザリア様、構いませんか?」

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